私の平穏な日々

あきづきみなと

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1巻

1-3

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 きりっと姿勢を正したセフィロスくんはやっぱり美形だ。同い年だったら八歳だよね、これで可愛いというよりか美しいのってどうなんだ?
 確かにこれだけ美人さんだったら、トラブルは多そうだなー……私で虫除けになるかな? まあ仮にも公爵令嬢(笑)だし。

「ご迷惑をおかけするかもしれませんが、婚約をお願いしてもよろしいでしょうか」
「は、はい。……ご迷惑をおかけするのは、私の方だと思いますが……」

 その辺はお互い様。だけどそのこともきちんと理解してるようで安心しました。

「では今後とも、よろしくお願いいたします」

 座ったままでも礼をとると、彼も居住まいを正して礼を返してくれる。
 多分すごく真面目なのねー。まだ緊張もしてるっぽいけど、元からの性格とみた。

「それでは、セフィロス様。今後のことを考えて、いくつかご相談したいのですが」
「……なんでしょうか」
「まず婚約者ということになりますと、この先プレデビューの際などもエスコートをお願いすることになります。私もそれに相応ふさわしくあるよう努力いたしますので、セフィロス様もご協力ください」
「はい、もちろんです」
「それから、先々のことになりますが。……万が一、他に大切な方ができたらおっしゃってください。無理いして関係をゆがめることは本意ではありません」

 大事なことだよ。言わば政略的な婚約だし、人間の感情は理屈ではどうしようもないからね。他に好きな相手ができたら、そっちを選んだ方がいい。

「……それは、ミカエラ様もではありませんか? 他に想う相手がおられるのなら……」

 あ、そう来るか? 真面目な上に律儀りちぎなのね……

「『今は』いませんよ」

 にっこり。
 つまり『将来さきのことはわからないよね、お互いに』ということです。わかってくれたようで何より。


 お父様は公職にいたので、なかなか王都を離れられない。だけど家族は別だ。
 私達家族はしばらく王都と領地を半年ごとに行き来することになった。……参勤交代のようだ。社交と領地運営を両立させようと思うとこうなるらしい。領地にはお祖父様もいらっしゃるんだけどね。
 そしてもちろん、護衛兼婚約者のセフィロス様――改めセフィロスも一緒。

「セフィロス、オブライエン領は初めてでしょ」
「はい」
「うちはちょっと他とは違うから。きみは他の領地もあまり知らないと思うけど、うちを基準にしない方がいいよ」

 私の問いかけに頷いたセフィロスに、お兄様が真顔で付け加える。
 まあうちはちょっと特殊だね。まだ道なかばながら、無償で子どもに読み書きを教え、大人には低利で資金の貸付けをしたり、生産量が増えた農産物の加工産業をおこしたりと、働き口を増やしている。もちろん農業畜産を始めとする第一次産業従事者も増えた。
 そして領地の一番奥、最大の危険地帯である『深魔しんまの森』では、お母様が統率する警備隊が魔物の間引きに当たり、近在集落の人間もそれに加わるための訓練を始めている。報酬ほうしゅうも出すけど、一番の目的は、彼等が少しでも自分の力で自分達の家族や土地を守れるようになることだ。
 この世界には魔物という危険な生物がいる。大概は巨大な野生動物といった見た目だけど、狂暴で人喰いも珍しくない。体内に魔石という魔力の結晶を宿すものもいて、この魔石が、魔道具の動力源になる。ちなみに私もお母様と一緒に魔物討伐に加わってます。
 あとね、魔物の肉や皮って、素材としてとても有用。
 肉は食べると魔力が増える気がするし、何より美味おいしい。毛皮や牙・爪なんかも武具や防具に加工するといい品ができる。蜘蛛くもや、まゆを作るたぐいの虫系魔物の糸を織ったら、すごく綺麗かつ防刃ぼうじん性の高い布ができました。刃物を通さないのに着心地がいい、不思議な衣服一式を作ったり。
 あ、セフィロスの分も作ってもらえないかお母様に相談してみよう。私の護衛なんだから、防御は必要だよね。

「うーん、深魔の森への同行はしばらく落ち着いてからでもいいんじゃない? とりあえず領地で慣れてから」

 つい先走ってしまう私をお兄様が笑顔でたしなめる。

「えっと、一度お母様とお話しした方がいいかしら」
「そうだね。……セフィロスは、お母様とは話した?」
「公爵夫人には、ご挨拶はさせていただきました」

 お兄様の問いにセフィロスは固い表情で頷いた。
 ……口数が少ないんだよね、多分元から。話しかけられれば答えるけど、自分からは口を開かない。その応答も、必要最小限というところだ。
 お兄様とも、同じ男の子だし歳も近いし、もうちょっと仲良くなるかなーと思ってたんだけど。まだ微妙に距離がある感じ。
 まあいきなり連れてこられたセフィロスにしても迎えた側のお兄様にしても、その距離を測りかねてるのかな。
 こういう問題は昔から得意じゃない。自覚もあるので、お母様に相談してみました。

「……二人がどう、というよりは、まだセフィロスが環境の変化に慣れていないのかもしれなくてよ?」
「……『環境の変化』……なるほどー」

 さすがお母様。すごく納得いく答えだ。

「それよりも、あの子はどれくらい使えるのか、確認しておきたいわ」

 ん?

「なんと言っても、セドリック殿の息子ですから。彼が自分の子をきたえていないとは思えないですし」

 ……お母様、にこやかにおっしゃってますが、なんというか……わくわくしてる? 楽しみ?

「どれだけの腕を見せてくれるか、本当に楽しみ」

 ……ヤバいスイッチ入った気がする……ごめん、セフィロス……


 そういう次第で、お母様とセフィロスと三人で、深魔の森にて討伐を行うことになりました。私自身はお母様と一緒、もしくは深魔の森に常駐する部隊も交えての実践はこなしていたけれど。

「セフィロス、危険地帯ではあるけど大丈夫よ。とりあえずの慣らしだし、あなたは私が守るから」
「え……」

 笑いかけたらすごく微妙な顔された。そして彼が何か言うより早く、お母様から突っ込みが入る。

「ミカエラ、安易に『守る』などと言ってはいけません」
「お母様……でも」
「あなたとセフィロスが危機におちいったら、私はあなたを守らなくてはならないわ。その時、あなたが無理にセフィロスを守ろうとするなら、どちらも守り切れなくなるかもしれない。……そして、万が一にでもセフィロスを守ったあなたが怪我したりしたら、それはどういうことになるかわかりますか?」

 ……とてもマズいことになるのはわかります。私一人で責任取り切れない、ということよね……

「……わかりました、お母様。ごめんね、セフィロス」
「いえ、謝らないでください、ミカエラ。私はミカエラの護衛になるんだから、その相手に守られては、護衛として失格だと思います」

 セフィロスは口数が多くない。だけど、言うべきことはきちんと言おうとしてくれる。……本人は話すことは苦手だと言うけど、それこそ話さなきゃ上達しない。いくらでも話して、と頼んでいる。それでも普段はまだ遠慮があるんだけど、こんな風に、きちんと言おうとしてくれるその心意気が嬉しい。

「良い子ね。……ですがセフィロス、あなたもまだ不慣れ。とりあえず今回は、森の雰囲気に慣れることを心がけなさい」
「はい、ありがとうございます」

 ところでお母様、私の時は初回から魔物の弱点だの攻撃の回避手段だの、お教えいただいた気がするんですが。え、自分一人で小さい魔物狩りしてた人が何言ってんだって話?
 さて、深魔の森は、オブライエン公爵領のみならず、王国内でも有数の危険地帯だ。濃い魔力によって魔物が多く生息するこの地は、過去にはあふれる魔物で公爵領を壊滅させかけた歴史がある。
 何度か討伐隊が組織され、今のところは落ち着いている。その安寧あんねいには、お母様の力が寄与きよしていた。
 なんと言っても王宮魔法師だったのだ。その能力は高い。もちろんそんな母を親に持つ私も、年齢の割には使えるつもりだよ。でなきゃ、お母様が同行させるはずがないでしょう。
 バキバキと樹木をへし折りながら暴れているのは、巨大な蛇だ。毒はなくただ狂暴で力が強いだけ……とは言うが、それだけでもただ者ではない。

「ちょ、ミカエラ! 危ない!!」
「行って、セフィロス! 弱点は喉元!」

 さすがに魔物討伐が初体験のセフィロスは慌てて声をかけてくるけど、逆に私から大声で指示を出してやる。
 セフィロスは、伯爵に郷里の騎士団に放り込まれて鍛練たんれんしてきたという。大人とも渡り合えるほどの剣の腕だが、基本的に対人想定の戦い方しか学んでないようだ。魔物に対するのが初めてということもあって、戸惑いが大きいみたい。
 だったら大事なのは慣れと経験だよ! というわけで魔物をおびき寄せては魔法で迎撃し、セフィロスにも攻撃させる。もっとも、最初セフィロスはまったく動けなかった。

「セフィロス、一旦退いて動きをよく見なさい」

 お母様もついてるから、大丈夫だよ。

「大丈夫、セフィロスならできるよ! 目がいいし、体も動いてるから!」

 動けない人は本当に動けないの、たとえ歴戦の騎士でも魔物討伐に向かない人はいる。
 冒険者ならまた別の話だけど。彼らは、魔物を討伐してその報奨金ほうしょうきんをもらったり素材を売りさばいたりするのが仕事の人達だ。場合によっては貴族とか商人の護衛をして盗賊退治とかもするそうな。
 しばらくそうして経験を積んで、深魔の森やそこにみつく魔物に慣れる。回数をこなせば、確実に経験値が上がる。
 ゲームのようにレベルが目に見えるわけではないけれど、それでも数をこなすことが上達の近道なのはこの世界でも同じだ。特に魔物討伐では、同じ魔物を続けて討ってると、同種あるいは近似種を倒しやすくなる気がする。
 セフィロスは最初から腰が引けることがなかった。驚いてはいたけどびびってはいない。ぎこちなくても必死でついてきてくれて、すごく上達が早い。……まあそれだけ引っ張り回してるからなあ。
 おかげでセフィロスの戦闘力もどんどん上がり、二人だけでの深魔の森への討伐が認められるほどになった。




   間章 少年騎士の憂鬱ゆううつ


 セフィロス・フォル・セラフィアータにとって、ミカエラ・フォル・オブライエンは言わば彼の人生を照らす光だ。
 行くべきみちを見出せず、このまま流されていてはダメだとわかっているのにそれに抗するすべもなかった。新たに父の妻となった女性は、彼を裕福な家に売り飛ばすつもりで、それを隠しもしない。父や領地の騎士達はなんとかしようとしていたがなかなか上手くいかず。
 焦りと諦念ていねんに閉ざされていた彼の世界に差した光、その未来を照らし出すもの。
 もちろん父達大人の判断だったこともわかっている。それでも、彼女が自分を受け入れてくれたからこそ、選べたみちであるのも確かなのだ。

「セフィロス、孤児院行くから一緒に行こう」

 セフィロスは、ミカエラの護衛として彼女の行くところにはどこへでもついていっている。王都の屋敷から公爵家の領地に帰ってもそれは変わらない。
 彼女の家族は一癖も二癖もある人達だ。
 父親のフェルナンドはいつも笑顔ながらなかなか容赦ようしゃない人物で、父とは互いに認め合う友人だとか。母親のガブリエラ夫人は、セフィロスの身の上を同情するより励ましてくれる、たくましく苛烈かれつな女性である。
 そしてもう一人の家族も、一筋縄ではいかない。

「ミカエラ、ぼくも一緒に行くよ」
「お兄様が一緒だと、みんな驚きますね」

 声をかけてきたフェリクスは、父親と同じようにいつも笑顔だ。だがまだセフィロスのことを警戒している。大事な妹を預けるに足るかを見極めているのだろう。
 ミカエラが領地の孤児院に行くのは、慰問いもんとしてというより遊びのようだ。孤児達も、ミカエラを領主のお嬢様ではなく、毛色の違う友達として受け入れている。

「あ、ミカエラ様だー」
「ミカエラ様こんにちはー」
「フェリクス様もいるー」
「……あれ、そっちの子は?」

 ミカエラを見つけて子ども達が群がってきた。その子達が、見知らぬセフィロスに気づいて首をかしげている。そこへフェリクスが微笑みながら告げた。

「彼はセフィロス、ミカエラの護衛だよ」

 その言葉に顔を見合わせた子ども達が声をそろえて言う。

「ミカエラ様に護衛なんかいるの!?」
「!?」

 一応公爵令嬢のミカエラには、常時大人の護衛がついている。にもかかわらずこう言われる辺りが、ミカエラらしさだった。そのことを否応なしにセフィロスも思い知る。


 魔物討伐が許可される頃になると、フェリクスや領地の子ども達も、セフィロスを認めて受け入れてくれた。

「正確に言えば、きみならミカエラのおりを任せて大丈夫かなって」
「……フェリクス様」

 複雑な顔をするセフィロスに、フェリクスが微笑む。いつもの張りついたような笑顔ではなく、共犯者に対して向けるものだ。

「ミカエラは、武力じゃ国内でも随一だよ。だけど戦い方は魔法に大幅にかたよってるから。セフィロスは剣を、あの子に捧げてくれる?」
「言われるまでもありません。……ただミカエラ自身は、そういうことを望まないのでは?」
「まあね。ただいろいろな意味で、あの子には重石おもしが必要だ」

 ミカエラの有するものが物理的な力なら、フェリクスは政治力を父から受け継いだ。妹より一足早く王立学院に入学した彼は、あちこちに知己ちきを得て、人脈を広げてますますその力をつけているらしい。
 他の子ども達も、彼女に対する信頼はあつく、その分案じてもいる。その無茶に巻き込まれがちなセフィロスには同情的かつ信を置く者も増え、おかげで同年代の友達ができた。
 ミカエラは前向きな努力家で、弱者に対しては優しい。だが彼女にとって領地の子ども達は弱者でなく、共に成長すべき存在のようだ。
 読み書き計算に始まり剣の使い方や針仕事に料理と、将来役に立ちそうな諸々を、自身と一緒にやらせたがる。やる前から逃げることだけは許さない。なかなか厳しいところもあり、いかにもあの母の娘だと感じたのだった。



   第3章 学院生活のその前に


 ミカエラ・フォル・オブライエン、十五歳になりました。もうすぐ学院に入ります。
 王国の基礎教育機関としては最大規模、レベルも最高峰と言われる『王立リビンガート学院』です。
 座学のみならず教養(芸術および文化的流行その他)を高め、他国の言語や慣習を学ぶことも可能。貴族子女が多いですが、裕福な市民階級の子どもや、才能を見出された奨学生もいます。
 そしてこの世界だからこその、特筆すべき点は魔法教育ですね! 庶民の奨学生は、魔法が使える子がほとんど。騎士になる教育を受ける子もいるけど。
 私も小さい頃から魔法に一番力を入れてきたからね! 専門家であるお兄様の魔法の先生に何度となく特攻をかまし、魔法オタクの彼にドン引きされたのも今となってはいい思い出です。
 領地でサトウキビ始めいろいろ栽培したり加工したりしてたら、飢える子どもが減ったのは良かったけど、逆に人口が増えた。余力があるうちにと、お父様お祖父様達も巻き込んで領地の生産力の底上げを図りました。
 最低限の教育は生きていく力になると、まず孤児院の子ども達に文字を学ばせ計算を教え、ってやってたら、生活が安定したおかげか食べ物が良かったのか、その中に魔法を使える子が出てきた。しまいには魔物討伐の助けになる子まで。あれこれ試行錯誤の果てに、専門家も巻き込んで一般庶民の子ども達にも初級の魔法教育を施し始めてます。
 できるだけ多くの子が魔物を倒せるように、頑張ってみんなをきたえました。私やお兄様も、そしてもちろんセフィロスも、魔物討伐はずいぶん数をこなした。……その肉を孤児院や貧困家庭への援助として食用に回してたら、余計に魔法使える子が増えたんだよね。
 セフィロスは魔法は使えないけど、剣がすごい。領地の護衛騎士と渡り合う腕前。伊達だてに小さいうちから騎士団できたえてきたわけじゃない。セラフィアータ伯爵家にはあれきり戻らず、ずっと我が家やオブライエン公爵領で過ごしている。
 セラフィアータ伯爵家は王宮から監査が入って大変だったらしい。お父様経由の伝聞なんで詳しくは知らないけど、伯爵夫人……というかその実家が、セラフィアータ伯爵家を食い物にしようとしてたよう。
 夫人は離縁、実家に賠償ばいしょうきん請求だの前伯爵(セドリックおじ様のお兄さんね)も出奔しゅっぽんではなく、そちらの関係者に害された疑いがある、だの。
 すでに一族郎党犯罪者として裁かれる予定。
 うわー貴族社会って怖い!


 学院入学のちょっと前に顔合わせとして、よその令息令嬢と一緒に、側妃様のお茶会にご招待されました。お母様が付き添い。
 それまであまりよそのおうちについては知らなかったので、良い経験にはなりました。プレデビューはしたものの、子ども同士の社交は極力避けてたんで。
 どうも、同世代の子どもがあまりにも子どもっぽくて付き合うのに疲れてしまってたの。前世の記憶なんかあるせいで、妙に子どもらしくない自分が異端だという自覚もあるけど。さすがに、学院に入る年になれば全員でなくてもそこそこしっかりしてくるだろうし、入学してしまえば接触は避けられない。慣れるにはいい機会だと思ってね。
 女の子は、数は少ないけどそれぞれ小さな淑女というか、きちんとした振る舞いのできる子ばかり。対して、男の子は……ちゃんとした礼儀をわきまえてる子ももちろんいたけど、一番態度が悪くて不躾ぶしつけな子が一番身分が高い、というのは救えないなーと思った。
 側妃様の一人息子で第二王子のパトリックは、態度でかいわ意味もなく偉そうだわ、ついでに他の子に我儘わがままを押しつけて威張っている、かなりの悪ガキだった。
 ……本来なら、この国で学院に入ろうという年の貴族子女に許される態度じゃない。王族だかられ物に触るような扱いをされてるし、近寄らない方がいい、というか近寄りたくないと思っていたんだけど。

「おまえがオブライエン公爵の娘か! まあ見られんことはないな、どうしてもと言うならめかけにしてやらんこともないぞ!」

 などといきなり言われてドン引きしかできなかったよ。呆れ返った私より早く、青筋立てたお母様が「この子にはすでに婚約者がおりますので」と割って入ってくれた。いやここでお母様入らなかったら絶対自分で罵倒ばとうしてた自信がある。
 しまいには同じくお茶会に出席していたロシナンス公爵夫人が、「うちのアンジェリカではご不満でして?」と参戦し、慌てて側妃様のご実家がとりなしに入ったり。
 私もあとで、ロシナンス家のご令嬢、第二王子の婚約者であるアンジェリカに声をかけてみた。

「ご迷惑になったようで申し訳ございませんでした」

 にこやかに応じてくれたアンジェリカいわく、殿下は自分の相手は自分で決めたいそう。要は政略に基づいて決められた婚約に納得がいかず、それ以外ならなんでもいい状態らしい。

「あれで、王族としての矜持きょうじはお持ちですのよ。……ただ、心意気の高さにまだ実体が追いつかないご様子です」

 こっそりささやくアンジェリカは、明るいペパーミントグリーンの髪とそれよりは少し濃いみどりの瞳のおとなしそうな美少女だ。私が政略結婚だのの責務からとっとと逃げちゃったおかげで負担をかけて申し訳ないと思ったが、当人は納得しているらしい。

「私は公爵令嬢として、政略結婚に嫌悪感はありませんの。他にやりたいこともございませんし……あの方も、これから教育を受けてしっかりなさるのではないかしら」

 この子おっとりしてはいるけど、あのかん気そうなお子ちゃまは上手く手綱握られて尻に敷かれるんじゃないか、と思ったのは内緒だ。だって最終的に結婚したら、所謂いわゆる臣籍降下、ロシナンス領の一部と隣接する王家直轄ちょっかつ領を分割した土地を治める予定だそうで……それって実質婿入りだよね。

「ねえミカエラ様、今日はあなたのお兄様はいらっしゃらないの?」

 声をかけてきたのはルシアナ・ディグリー。ディグリー侯爵家の令嬢で、鮮やかな真紅の髪とちょっとつり目がちのだいだいの瞳を持つ、私同様きつい感じの美少女だ。そしてどうやら、お兄様のファンらしい。

「兄はすでに学院入学済みですもの、今日は参りませんわ。兄がどうかしましたか?」
「……在学中でいらっしゃるなら、詳しいお話を伺えないかと思いましたの」

 きつめの美少女がつん、と答えるのなんて、その手の趣味の人にはたまらない絵だと思う。よく知らんけど。

「簡単な話は聞いていますが、実際に自分で体験するのが一番だとかおっしゃって、あんまり教えてくださらないのよ」

 お兄様のケチ。というか、まあ本気でそう思ってる気配はあるな。自分は入学前、お父様やその側仕えやらから色々情報収集してたくせにね。それはつまり、前情報と実情とで意外にずれがあったということなのかもしれない。
 その後はお兄様の話で盛り上がっちゃって、放置されたパトリック殿下とオルレアン侯爵家のアンドリューくんとやらがねていたらしい。


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