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《第二話》それは回帰にて
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咲耶お嬢様が八歳の時に新人として雇われ、別段何かを成し得たわけではないのですが、しでかしたわけでも有りませんので順調に出世しまして、お嬢様が十五歳になられました時、侍女頭に任命されました。
頭になると仕事増えます。なにせすべての侍女の仕事の指揮を担当するわけですし、新たな使用人の採用も私がいたします。使用人関連の事象はすべて任されます。よって、責任問題も最終的には私に回ってきます。関係のないことで頭を下げるなど日常茶飯事です。
そんな忙しい毎日を過ごし二年ほど経ちました頃、梅林家は突如として金銭的な問題に直面しました。名門の、それも商業の名門です、金銭面においては他の名門には類を見ないほどの潤沢さが梅林家の有名な部分でしたのに家庭内の散財といくつかの新しい事業の連続失敗、取引相手との関係の白紙化など様々な不運が功を奏し、あ、すみません口が滑りました、不運が重なり火の車状態でした。
一年ほど梅林家の方々は頑張られたご様子ですが回復することは叶わずそのまま名も権力も地位もなにもかも失い崩落いたしました。
回復を目指す過程で借金を背負ってしまった梅林家の方々は皆隠居生活を余儀なくされ方々に散りました。本来ここまで没落すれば使用人も離れていくのが当たり前です、が何を考えていたのかわかりませんが私はお嬢様にお仕えしているからと、お側を離れるわけにはいかないと思い、共に修羅の道を行きました。しかし、お嬢様は我々(他にも私に同意した使用人が同行したため)の忠言をお聞きになりませんでしたので普段通り表へお出になりました。自身が借金取りに追われているという自覚が微塵もないようです。普段からの態度が祟ったのでしょう、見事、取り立て屋に狙われました。抵抗したお嬢様を、どのような狂信的な心情が働いたのかわかりませんが、お守りしてしまいまして一緒に銃で撃ち抜かれて殺されました。
目を覚ましたところ十年前に戻って初めての回帰を経験した、
という感じです。
さて、私は自殺志願者ではありません。よって、毎度死なないように努力はしております。例えば二度目の人生では侍女頭に任命されないようにしてみたり、三度目では失敗を繰り返してみたり、四度目では死ぬ予定日の数日前から姿をくらましたり五度目では雇われないなどの選択をしました。
しかし、どのような因果があるのやらすべての回帰で私はお嬢様、あるいは梅林家関連の問題でそれはそれは非業な死を遂げました。先程ご説明したようにお嬢様と共に死んだり、二度目では一般使用人でしたから命は軽いと身代わりにされたり、三度目では失敗の多さで打首でしたし、四度目では姿をくらました先で見つかったり、最後の回帰では攫われて結局梅林家で働かされ家の火事に巻き込まれ、焼かれました。
毎回、回帰の始まりはお嬢様の侍女として配属されたその日。
大して楽しくもない人生を神は何故何度も経験させるのか分かりかねます。ああ、もちろん責務とやらのことは考えずにですが。それにしても今回こそ死にたくありません。もう一度回帰する保証はないのですから当然です。というか、毎度そう思っています。
皆様お忘れでしょうからもう一度はっきりさせておくと私は今しがたお嬢様に配属されたばかりです。昨日、と言っても感覚的にですが、私は火事に巻き込まれて死んだばかりです。あれは痛いですね。同じ経験はしたくないです。
もういっそ端から死んでやろうかと血迷った瞬間もありました。いろいろと面倒くさいので。しかしまぁ、繰り返すようです申し訳ありませんが私は死にたくありません。
今回も粘ることにいたします。しかし、関係を持たなければ、あ、男性ではないですよ、梅林家と、関係を持たなければ殺されないのではという考えは甘かったようです。なにせ、攫われましたので。
あのような経験はほとほと疲れました。ですので今回も別の方向から物事を運んでみようと思います。
いまさらと思うかもしれませんけれども、やはりそれは「責務」とやらを全うしてみる一択です。回帰の理由が責務に関連するのならばこれを解決するに限ると思い立ったのです。その責務ですが、もう勘づいている方もいるでしょう、それはすなわち「梅林家をお助けする」ことなのではと思います。毎度行動を変え、死に方も変わる私ですが梅林家の没落は変わらず起きています。
正直なところお嬢様や梅林家の方々の生死や家門の行末など屁ほどどうでも良いのですが、責務なのであれば致し方ありません。やるからには完璧に遂行します。これは侍女、いえ、使用人としての矜持というものです。
しかし、考えましたところこれまでの回帰で私は、女性ですので、侍女枠で採用されています、が、はて、執事枠で採用されたらどうなるのでしょうか。この場合性別を偽ることになるわけですがお嬢様の専属からは外れますし(梅林家は女性は女性の、男性は男性の元に仕える風習がありますので)、状況把握にうってつけの当主様近辺に寄ることが出来ますし、他にも物理的に家族と一線を引くことができるので(桜上凛は消滅するわけですから)一石三鳥なのではと思います。
ええ、この発想はとても良い気がします。使わない手は有りません。
ああ、なぜここで働くのかということに関して断っておくと、単純に支払いと与えられる部屋の質がとても良いのです。一応、働いているのは私のような分家筋の出ですので、待遇は保証されています。
うふふ。
頭になると仕事増えます。なにせすべての侍女の仕事の指揮を担当するわけですし、新たな使用人の採用も私がいたします。使用人関連の事象はすべて任されます。よって、責任問題も最終的には私に回ってきます。関係のないことで頭を下げるなど日常茶飯事です。
そんな忙しい毎日を過ごし二年ほど経ちました頃、梅林家は突如として金銭的な問題に直面しました。名門の、それも商業の名門です、金銭面においては他の名門には類を見ないほどの潤沢さが梅林家の有名な部分でしたのに家庭内の散財といくつかの新しい事業の連続失敗、取引相手との関係の白紙化など様々な不運が功を奏し、あ、すみません口が滑りました、不運が重なり火の車状態でした。
一年ほど梅林家の方々は頑張られたご様子ですが回復することは叶わずそのまま名も権力も地位もなにもかも失い崩落いたしました。
回復を目指す過程で借金を背負ってしまった梅林家の方々は皆隠居生活を余儀なくされ方々に散りました。本来ここまで没落すれば使用人も離れていくのが当たり前です、が何を考えていたのかわかりませんが私はお嬢様にお仕えしているからと、お側を離れるわけにはいかないと思い、共に修羅の道を行きました。しかし、お嬢様は我々(他にも私に同意した使用人が同行したため)の忠言をお聞きになりませんでしたので普段通り表へお出になりました。自身が借金取りに追われているという自覚が微塵もないようです。普段からの態度が祟ったのでしょう、見事、取り立て屋に狙われました。抵抗したお嬢様を、どのような狂信的な心情が働いたのかわかりませんが、お守りしてしまいまして一緒に銃で撃ち抜かれて殺されました。
目を覚ましたところ十年前に戻って初めての回帰を経験した、
という感じです。
さて、私は自殺志願者ではありません。よって、毎度死なないように努力はしております。例えば二度目の人生では侍女頭に任命されないようにしてみたり、三度目では失敗を繰り返してみたり、四度目では死ぬ予定日の数日前から姿をくらましたり五度目では雇われないなどの選択をしました。
しかし、どのような因果があるのやらすべての回帰で私はお嬢様、あるいは梅林家関連の問題でそれはそれは非業な死を遂げました。先程ご説明したようにお嬢様と共に死んだり、二度目では一般使用人でしたから命は軽いと身代わりにされたり、三度目では失敗の多さで打首でしたし、四度目では姿をくらました先で見つかったり、最後の回帰では攫われて結局梅林家で働かされ家の火事に巻き込まれ、焼かれました。
毎回、回帰の始まりはお嬢様の侍女として配属されたその日。
大して楽しくもない人生を神は何故何度も経験させるのか分かりかねます。ああ、もちろん責務とやらのことは考えずにですが。それにしても今回こそ死にたくありません。もう一度回帰する保証はないのですから当然です。というか、毎度そう思っています。
皆様お忘れでしょうからもう一度はっきりさせておくと私は今しがたお嬢様に配属されたばかりです。昨日、と言っても感覚的にですが、私は火事に巻き込まれて死んだばかりです。あれは痛いですね。同じ経験はしたくないです。
もういっそ端から死んでやろうかと血迷った瞬間もありました。いろいろと面倒くさいので。しかしまぁ、繰り返すようです申し訳ありませんが私は死にたくありません。
今回も粘ることにいたします。しかし、関係を持たなければ、あ、男性ではないですよ、梅林家と、関係を持たなければ殺されないのではという考えは甘かったようです。なにせ、攫われましたので。
あのような経験はほとほと疲れました。ですので今回も別の方向から物事を運んでみようと思います。
いまさらと思うかもしれませんけれども、やはりそれは「責務」とやらを全うしてみる一択です。回帰の理由が責務に関連するのならばこれを解決するに限ると思い立ったのです。その責務ですが、もう勘づいている方もいるでしょう、それはすなわち「梅林家をお助けする」ことなのではと思います。毎度行動を変え、死に方も変わる私ですが梅林家の没落は変わらず起きています。
正直なところお嬢様や梅林家の方々の生死や家門の行末など屁ほどどうでも良いのですが、責務なのであれば致し方ありません。やるからには完璧に遂行します。これは侍女、いえ、使用人としての矜持というものです。
しかし、考えましたところこれまでの回帰で私は、女性ですので、侍女枠で採用されています、が、はて、執事枠で採用されたらどうなるのでしょうか。この場合性別を偽ることになるわけですがお嬢様の専属からは外れますし(梅林家は女性は女性の、男性は男性の元に仕える風習がありますので)、状況把握にうってつけの当主様近辺に寄ることが出来ますし、他にも物理的に家族と一線を引くことができるので(桜上凛は消滅するわけですから)一石三鳥なのではと思います。
ええ、この発想はとても良い気がします。使わない手は有りません。
ああ、なぜここで働くのかということに関して断っておくと、単純に支払いと与えられる部屋の質がとても良いのです。一応、働いているのは私のような分家筋の出ですので、待遇は保証されています。
うふふ。
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