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一章
12:東京都立第三病院
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朔斗がゴブリン・最下級ダンジョンの中で戦っている頃の東京都立第三病院。
香奈はベッドの横にある椅子に座り、パソコンの電源を立ち上げた。
パソコンの起動中に彼女が思い出すのは想い人のこと。
朔斗が三日間の休暇中、彼は再び見舞いにやってきていて、その際に次はひとりでダンジョンに挑む旨を幼馴染である彼女に告げていた。
最下級ダンジョンといえど、ソロで潜るのは危険過ぎると当然香奈は反対をしたが、自らの目的のためにもそれを聞き入れる朔斗ではなかった。
「パソコンで何をするのー?」
緊張感のない声が聞こえてきて、香奈は麻耶に返事を返す。
「うーん、特に決まっていないけど、落ち着かないからいろいろとね……」
「そっかぁ。さくっちが心配で落ち着かないよね。朝から上の空だし。かなっちの大事な人だもんね」
「もぉ、茶化さないでよ」
顔を赤くして唇を尖らせる香奈。
モバイルで小説を読んでいた麻耶は素直に謝罪する。
「ごめんごめん。ひとりでダンジョンだもん、心配のしすぎってことはないよね。私も気になるし。でも、さくっちなら大丈夫だと思うよ? 自信満々だったから」
「うん……わかってはいるんだけどね……」
麻耶と話しているうちにパソコンの起動が終わり、香奈はブラウザを立ち上げる。
その様子を見ていた麻耶は、自分も本の続きを読もうと視線をモバイルに戻す。
(何を見ようかな。ん? これを見よう)
香奈の目線の先にあったのは、『歴史~審判の日から現在(第一回)』というものだった。
『審判の日の考察』
世界中の誰もが知っていることだが、二〇二五年一月一日以前は世界の人口が九十億人を記録していた。
しかし、一月一日から七日までの間に破壊の限りを尽くしたモンスターによって、世界の人口は大きく減少してしまったのだ。
あらゆる場所のインフラが壊滅状態に陥り、人間社会の復旧に時間がかかったため、被害者総数の実態は未だに不明である。
世界各地に突然現れたモンスターの数々はどこから現れたのか? これに対して答えられる存在はいないだろう。
そしてなぜモンスターは人間を絶滅させず、突如として出現したダンジョンに身を隠したのか。
今のところ有力な説は、非科学的ではあるのだが神と呼ばれる存在が地球にモンスターを遣わし、さらにダンジョンやモノリスを創造したというものである。
他にもいろいろな説がある。
その中のひとつは、モンスターがどこかの惑星からやって来た侵略者であり、ダンジョンやモノリスも、モンスターを率いていた何者かが創ったというものだ。
しかし、もし侵略者であったのなら、人類を滅亡させなかった以上、なんらかのアクションを起こして人類に交渉を持ちかけてきていたはず。
それがなかった時点でこの説を支持する者は少ない。
そういうわけで神がモンスターを遣わせたというのが一番有力だ。
そして、もしそうであるのならば目的は何だろう?
これに対して筆者はこう考える。
――あの時代、地球は温暖化が深刻な社会問題と化していた。
地球の温暖化によって引き起こされる事態は、地球やそこに住む人類や動植物にとって大打撃を与えるものだったのだ。
海の水位が上がり陸地が減って、陸上で生活を営んでいた生命の活動地域が減ったり、寒い地域で生きていた生物が活動できなくなったり、伝染病が増加したり気候が変わってしまったり。
また気候に変化ができることで、自然災害によって作物がダメになることもあっただろう。
あの時代では、できる限り地球温暖化の対策をしていたのだろうが、それでもモンスターが現れずにいたのなら、いずれ地球から人類が死滅していた可能性は否定しきれないと筆者は思う。
さて、ここまで出てきた言葉――地球の温暖化という言葉を聞き慣れない読者は多いのでは? もしそうであっても恥ずかしがる必要はない。
なぜなら、これは小学校や中学校で習わないため当然なのだ。
あの頃の地球には魔素がなかったという。
今を生きる者であれば空気中に魔素が含まれているのは周知の事実。
そして空気中に漂う魔素が、地球温暖化の主な原因となっていた二酸化炭素やメタンなどのガスを丁度良く中和させているのだ。
これによって地球温暖化という現象は鳴りを潜め、現代社会において知っている人はあまりいない。
魔素は非常に優れたもので、空気中から抽出すればクリーンな燃料にもなるのだが、この話はここではしなくてもいいだろう。
さて、話は変わる。
審判の日以前の地球は十分な軍事力を有していたと聞く。
それなのになぜ人類は敗れたのか?
地球を誰も住めなくなるような死の惑星にする危険性があったため、核兵器と呼ばれていた物は使用しなかったらしいが、それ以外の最新兵器を惜しみなく投入しても、モンスターには傷ひとつ負わせられなかったと言われている。
あの頃の地球には魔力がなく、そのため当然ながら武器にも魔力が一切なかった。
現代においては、すべての武器には魔力が込められているので、今を生きる私たちには理解できないことなのだが、製造過程で魔力を注入しなかった物はモンスターには通用しないのだ。
これは過去に実験を行っていたらしいので事実である。
しかし先述のとおり、今の武器はすべて魔力があるので、このことは知っていても意味のない事実と化していると言ってもいいだろう。
ダンジョンとともに現れたモノリス。
これは学校で習う事柄であるため、ほとんどの人は知っていると思うが記載しておく。
今は十歳になったと同時にほとんどの人がモノリスを触って、ジョブを得られるようになっているが、モノリスが出現したばかりの頃はそういったことがなく、当初は起動さえしなかった。
人類はモノリスがなんのために存在するのか、最初は理解できていなかったが、審判の日から十年以上経ってからその謎が解き明かされた。
審判の日以降、地球に発生したと言われる魔素、それを呼吸や肌から吸引しながら十年過ごすことがモノリスを起動させたり、ジョブを発現させたりするキーとなっていたのだ。
この続きは近日公開予定の『歴史~審判の日から現在(第二回)』を読んでほしい。
そこまで読んだ香奈は他にもいくつかの記事に目を通していく。
それはダンジョンやモンスターの情報、さまざまな物を売っているネットオークション、有名な探索者による動画配信やブログなどなど。
「ふぅ」
瞳を閉じて少し目の休憩をした香奈が一息つく。
麻耶はまだ読書をしているのかな? と気になった彼女は椅子から立ち上って様子を窺う。
すると、麻耶は香奈に見られていることに気づかず、真剣な表情でモバイルに視線を落としていた。
と、その時。
ノックが聞こえてきた。
「はい」
香奈は返事をしつつ、誰だろう? と内心思う。
(サクは今ダンジョンのはずだし……)
「私、恵梨香だよー」
「ああ、エリちゃん。入って」
そう答えた香奈は時計を見る。
(もう夕方か。ネットに集中していて気がつかなかった)
香奈はベッドに乗り、端っこに枕を立ててそこに背中を預ける。
室内に入ってきた恵梨香が香奈や麻耶と挨拶を交わす。
「はぁ、まださく兄が戻って来ないから暇でさぁ」
恵梨香は香奈と麻耶のベッドの間にあった椅子に座りつつそう言った。
それに答えるのは麻耶。
「暇って言っても学校に行けるだけいいじゃーん!」
「あ、ごめんね……」
目を伏せて謝罪した恵梨香に対し、明るい声を出す麻耶。
「冗談だからあぁ! ごめんごめん、気にしないで!」
「うぅ、そう言ってくれてありがと。でもごめんね?」
「うん、大丈夫だよ」
「ところで話は変わるんだけど、俊彦さんたちって最近お見舞いに来たの?」
恵梨香の疑問に香奈は答える。
「んーん。しばらく来てないかなぁ」
「それってどれくらい?」
「うーん、正確にはわからないけど、一年近くは来てないかも」
「そんなになんだ……」
「うん。いくら仲が良かったって言っても、毎日のように遊んでいたのは小学校の頃だけで、中学校に入ってからはそれが数日に一回になったし、途中からは私が入院しちゃったからね……」
「むぅ」
唇を尖らせた恵梨香が不満そうに言う。
「薄情だよねぇ。まあ、そんな人たちだからこそ、さく兄をパーティーから追い出したのかなぁ」
「友達だと思っていたし、実害を与えられたわけじゃないから、まだ友達なのかもしれないけど、サクを追放したのは……私、許せない」
「だね。でも、私にとっては結果的に嬉しいことだったけど♪」
「ああ、そうだよね。念願叶ってサクとパーティーを組めるんだ、恵梨香ちゃんは……」
香奈は複雑な感情に心を支配されてしまう。
そんな彼女を見て、恵梨香が言った。
「かなちゃんが私を羨ましがる気持ちはわかるよ。でも、私もさく兄と一緒でかなちゃんのためにエリクサーを手に入れるために頑張るから! あ、もちろん麻耶ちゃんの分もね。絶対とは言えないけど……」
今まで朔斗は香奈の分だけエリクサーを求めていた。
入手が困難である以上、一個入手するのもきついため、いくら香奈と同室で仲良くなったとはいえ、それだけで麻耶の分まで用意するなんてことは口が裂けても言えなかった。
しかし、現在は恵梨香がいる。
彼女のジョブは大道具師であり、スキルに【獲得報酬個数アップ】がある。
もしもダンジョンの報酬箱からエリクサーが入手できたのなら、そのときの個数は二個以上になるのが確実だ。
余ったエリクサーを売却すれば、今後朔斗や恵梨香がお金に困ることはないだろう。
しかし、それでお金を増やすより、常日頃から香奈を励ましたり一緒に過ごしたりしている麻耶の魔力過多症も治したいと、ふたりきりの兄妹は考えた。
とはいえ、もしも報酬箱からエリクサーを手に入れられず、他のさまざまな物を売ったお金でエリクサーを購入できるというケースも考えられるため、さすがに二本買うとまで大口を叩けない。
そういった理由から、もしも報酬箱の中にエリクサーがあれば麻耶にもと、先日朔斗が来たときに彼女には説明していたのだ。
その後、恵梨香の学校の話や朔斗に関することなどで盛り上がった三人は、笑顔を絶やさずにいたのだった。
香奈はベッドの横にある椅子に座り、パソコンの電源を立ち上げた。
パソコンの起動中に彼女が思い出すのは想い人のこと。
朔斗が三日間の休暇中、彼は再び見舞いにやってきていて、その際に次はひとりでダンジョンに挑む旨を幼馴染である彼女に告げていた。
最下級ダンジョンといえど、ソロで潜るのは危険過ぎると当然香奈は反対をしたが、自らの目的のためにもそれを聞き入れる朔斗ではなかった。
「パソコンで何をするのー?」
緊張感のない声が聞こえてきて、香奈は麻耶に返事を返す。
「うーん、特に決まっていないけど、落ち着かないからいろいろとね……」
「そっかぁ。さくっちが心配で落ち着かないよね。朝から上の空だし。かなっちの大事な人だもんね」
「もぉ、茶化さないでよ」
顔を赤くして唇を尖らせる香奈。
モバイルで小説を読んでいた麻耶は素直に謝罪する。
「ごめんごめん。ひとりでダンジョンだもん、心配のしすぎってことはないよね。私も気になるし。でも、さくっちなら大丈夫だと思うよ? 自信満々だったから」
「うん……わかってはいるんだけどね……」
麻耶と話しているうちにパソコンの起動が終わり、香奈はブラウザを立ち上げる。
その様子を見ていた麻耶は、自分も本の続きを読もうと視線をモバイルに戻す。
(何を見ようかな。ん? これを見よう)
香奈の目線の先にあったのは、『歴史~審判の日から現在(第一回)』というものだった。
『審判の日の考察』
世界中の誰もが知っていることだが、二〇二五年一月一日以前は世界の人口が九十億人を記録していた。
しかし、一月一日から七日までの間に破壊の限りを尽くしたモンスターによって、世界の人口は大きく減少してしまったのだ。
あらゆる場所のインフラが壊滅状態に陥り、人間社会の復旧に時間がかかったため、被害者総数の実態は未だに不明である。
世界各地に突然現れたモンスターの数々はどこから現れたのか? これに対して答えられる存在はいないだろう。
そしてなぜモンスターは人間を絶滅させず、突如として出現したダンジョンに身を隠したのか。
今のところ有力な説は、非科学的ではあるのだが神と呼ばれる存在が地球にモンスターを遣わし、さらにダンジョンやモノリスを創造したというものである。
他にもいろいろな説がある。
その中のひとつは、モンスターがどこかの惑星からやって来た侵略者であり、ダンジョンやモノリスも、モンスターを率いていた何者かが創ったというものだ。
しかし、もし侵略者であったのなら、人類を滅亡させなかった以上、なんらかのアクションを起こして人類に交渉を持ちかけてきていたはず。
それがなかった時点でこの説を支持する者は少ない。
そういうわけで神がモンスターを遣わせたというのが一番有力だ。
そして、もしそうであるのならば目的は何だろう?
これに対して筆者はこう考える。
――あの時代、地球は温暖化が深刻な社会問題と化していた。
地球の温暖化によって引き起こされる事態は、地球やそこに住む人類や動植物にとって大打撃を与えるものだったのだ。
海の水位が上がり陸地が減って、陸上で生活を営んでいた生命の活動地域が減ったり、寒い地域で生きていた生物が活動できなくなったり、伝染病が増加したり気候が変わってしまったり。
また気候に変化ができることで、自然災害によって作物がダメになることもあっただろう。
あの時代では、できる限り地球温暖化の対策をしていたのだろうが、それでもモンスターが現れずにいたのなら、いずれ地球から人類が死滅していた可能性は否定しきれないと筆者は思う。
さて、ここまで出てきた言葉――地球の温暖化という言葉を聞き慣れない読者は多いのでは? もしそうであっても恥ずかしがる必要はない。
なぜなら、これは小学校や中学校で習わないため当然なのだ。
あの頃の地球には魔素がなかったという。
今を生きる者であれば空気中に魔素が含まれているのは周知の事実。
そして空気中に漂う魔素が、地球温暖化の主な原因となっていた二酸化炭素やメタンなどのガスを丁度良く中和させているのだ。
これによって地球温暖化という現象は鳴りを潜め、現代社会において知っている人はあまりいない。
魔素は非常に優れたもので、空気中から抽出すればクリーンな燃料にもなるのだが、この話はここではしなくてもいいだろう。
さて、話は変わる。
審判の日以前の地球は十分な軍事力を有していたと聞く。
それなのになぜ人類は敗れたのか?
地球を誰も住めなくなるような死の惑星にする危険性があったため、核兵器と呼ばれていた物は使用しなかったらしいが、それ以外の最新兵器を惜しみなく投入しても、モンスターには傷ひとつ負わせられなかったと言われている。
あの頃の地球には魔力がなく、そのため当然ながら武器にも魔力が一切なかった。
現代においては、すべての武器には魔力が込められているので、今を生きる私たちには理解できないことなのだが、製造過程で魔力を注入しなかった物はモンスターには通用しないのだ。
これは過去に実験を行っていたらしいので事実である。
しかし先述のとおり、今の武器はすべて魔力があるので、このことは知っていても意味のない事実と化していると言ってもいいだろう。
ダンジョンとともに現れたモノリス。
これは学校で習う事柄であるため、ほとんどの人は知っていると思うが記載しておく。
今は十歳になったと同時にほとんどの人がモノリスを触って、ジョブを得られるようになっているが、モノリスが出現したばかりの頃はそういったことがなく、当初は起動さえしなかった。
人類はモノリスがなんのために存在するのか、最初は理解できていなかったが、審判の日から十年以上経ってからその謎が解き明かされた。
審判の日以降、地球に発生したと言われる魔素、それを呼吸や肌から吸引しながら十年過ごすことがモノリスを起動させたり、ジョブを発現させたりするキーとなっていたのだ。
この続きは近日公開予定の『歴史~審判の日から現在(第二回)』を読んでほしい。
そこまで読んだ香奈は他にもいくつかの記事に目を通していく。
それはダンジョンやモンスターの情報、さまざまな物を売っているネットオークション、有名な探索者による動画配信やブログなどなど。
「ふぅ」
瞳を閉じて少し目の休憩をした香奈が一息つく。
麻耶はまだ読書をしているのかな? と気になった彼女は椅子から立ち上って様子を窺う。
すると、麻耶は香奈に見られていることに気づかず、真剣な表情でモバイルに視線を落としていた。
と、その時。
ノックが聞こえてきた。
「はい」
香奈は返事をしつつ、誰だろう? と内心思う。
(サクは今ダンジョンのはずだし……)
「私、恵梨香だよー」
「ああ、エリちゃん。入って」
そう答えた香奈は時計を見る。
(もう夕方か。ネットに集中していて気がつかなかった)
香奈はベッドに乗り、端っこに枕を立ててそこに背中を預ける。
室内に入ってきた恵梨香が香奈や麻耶と挨拶を交わす。
「はぁ、まださく兄が戻って来ないから暇でさぁ」
恵梨香は香奈と麻耶のベッドの間にあった椅子に座りつつそう言った。
それに答えるのは麻耶。
「暇って言っても学校に行けるだけいいじゃーん!」
「あ、ごめんね……」
目を伏せて謝罪した恵梨香に対し、明るい声を出す麻耶。
「冗談だからあぁ! ごめんごめん、気にしないで!」
「うぅ、そう言ってくれてありがと。でもごめんね?」
「うん、大丈夫だよ」
「ところで話は変わるんだけど、俊彦さんたちって最近お見舞いに来たの?」
恵梨香の疑問に香奈は答える。
「んーん。しばらく来てないかなぁ」
「それってどれくらい?」
「うーん、正確にはわからないけど、一年近くは来てないかも」
「そんなになんだ……」
「うん。いくら仲が良かったって言っても、毎日のように遊んでいたのは小学校の頃だけで、中学校に入ってからはそれが数日に一回になったし、途中からは私が入院しちゃったからね……」
「むぅ」
唇を尖らせた恵梨香が不満そうに言う。
「薄情だよねぇ。まあ、そんな人たちだからこそ、さく兄をパーティーから追い出したのかなぁ」
「友達だと思っていたし、実害を与えられたわけじゃないから、まだ友達なのかもしれないけど、サクを追放したのは……私、許せない」
「だね。でも、私にとっては結果的に嬉しいことだったけど♪」
「ああ、そうだよね。念願叶ってサクとパーティーを組めるんだ、恵梨香ちゃんは……」
香奈は複雑な感情に心を支配されてしまう。
そんな彼女を見て、恵梨香が言った。
「かなちゃんが私を羨ましがる気持ちはわかるよ。でも、私もさく兄と一緒でかなちゃんのためにエリクサーを手に入れるために頑張るから! あ、もちろん麻耶ちゃんの分もね。絶対とは言えないけど……」
今まで朔斗は香奈の分だけエリクサーを求めていた。
入手が困難である以上、一個入手するのもきついため、いくら香奈と同室で仲良くなったとはいえ、それだけで麻耶の分まで用意するなんてことは口が裂けても言えなかった。
しかし、現在は恵梨香がいる。
彼女のジョブは大道具師であり、スキルに【獲得報酬個数アップ】がある。
もしもダンジョンの報酬箱からエリクサーが入手できたのなら、そのときの個数は二個以上になるのが確実だ。
余ったエリクサーを売却すれば、今後朔斗や恵梨香がお金に困ることはないだろう。
しかし、それでお金を増やすより、常日頃から香奈を励ましたり一緒に過ごしたりしている麻耶の魔力過多症も治したいと、ふたりきりの兄妹は考えた。
とはいえ、もしも報酬箱からエリクサーを手に入れられず、他のさまざまな物を売ったお金でエリクサーを購入できるというケースも考えられるため、さすがに二本買うとまで大口を叩けない。
そういった理由から、もしも報酬箱の中にエリクサーがあれば麻耶にもと、先日朔斗が来たときに彼女には説明していたのだ。
その後、恵梨香の学校の話や朔斗に関することなどで盛り上がった三人は、笑顔を絶やさずにいたのだった。
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