5 / 36
不妊編
再婚と妊娠発覚
しおりを挟む
その後、私は現在の夫と遠距離恋愛をし、北海道から群馬県に嫁ぐことになりました。
結婚記念日は3月31日。
どうしてこの日かというと、退職や移転、扶養の手続き上、年度末なので一番都合が良かったのです。なんとまぁ、ロマンの欠片もない事務的な理由。
それに、忘れっぽい私でも、さすがに年度末だと、結婚記念日を忘れないだろうと思ったのでした。実際はやっぱり覚えていなくて、寝る間際になって「今日、結婚記念日だったんだけどわかってる?」と、夫に言われたりしています。数字に弱いドライな妻ですまない、夫よ。
さて、この夫は八歳年上の大の猫好きで、私は結婚するときに二匹の猫と一緒に群馬県にやってきました。
彼はアパートを用意してくれて、二人と二匹の生活が始まったわけです。
そして私は仕事を探し始め、六月十五日に里親会で三匹目の猫を家族として迎えました。
この頃の私は、産婦人科医に言われた『妊娠しにくい体質』という言葉がすっかり脳裏にこびりついていて、子どもをもつことを諦めていました。
卵巣皮様嚢腫の手術から数年たち、レーザーの効果もなくなっているだろうと思っていたのです。あの体験から得たのは、医療保険と検診は大事だという認識と、同じ病院で苦労したのがきっかけで仲良くなった友人、そして『どうせ子どもを授かることはないだろう』という思い込みです。
医師は『妊娠しにくい』とは言いましたが、『妊娠できない』と言ったわけではないのです。が、悩んだ時期が長すぎたのかもしれません。せめて、これから三匹の猫たちと賑やかに暮らしていこうという意識がどこかにあった気がします。
ところが、それからすぐ、股関節に激しい痛みを感じるようになりました。
起き上がるのも顔をしかめるほどで、筋肉痛に似た衝撃が走るのです。歩けばぎしぎしと軋むようでした。
けれど心当たりがまったくありません。夫がいないときは片道15分歩いて図書館に行ったり、スーパーに買い物に行く田舎暮らしではありましたが、さすがに運動不足の私でもそんな筋肉痛にはなりません。
おかしいなぁと思いながら、六月末に梅シロップを漬け込んでいたところ、ふと手を止めて気がつきました。
そういえば、生理がきていない。
もともと生理不順だったのでいつものことだと気にしていなかったのですが、慌てて検査してみることにしました。
まさかとは思いつつ、愛煙家なのでもし妊娠していたら大変ですし、わかるのは早いほうがいいと考えたのです。
薬局で妊娠検査薬をレジに持っていったとき、とても複雑な心境でした。以前は『もしかして、もしかするかも』と淡い期待を捨てきれず、こっそり洗面所の戸棚の奥に置いておいたものでした。結局、使用期限が来て捨ててしまいましたが、手にするのはそれ以来でした。
妊娠検査薬で陽性反応が出たのには驚きました。あれだけ願っていた反応が、目の前にある。大学に合格したときよりも、ずっと信じられなくて口をぽかんと開けていました。思わずもう一度検査してみたほどです。
そして、漬けたばかりの梅シロップに風味付けとしてラム酒を入れたことをちょっと後悔しました。あとで火にかけてアルコールを飛ばしましたけどね。
あの股関節痛は妊娠のせいだったのです。これは骨盤や子宮が広がって妊娠の準備をしているということらしく、初産だったからかもしれません。第二子の妊娠のときはありませんでした。
慌てて産婦人科へ行き、ハローワークで失業手当の期限を延ばす手続きをしました。
そのとき係員に「妊娠しても仕事探して働けばいいじゃない」と言われて驚きました。
これから妊娠・出産を控えている人を育休・産休前提に新規に雇ってくれる会社ってあるのかと疑問に思いましたし、慣れない土地で、慣れない仕事のストレスをマタニティ生活に感じたくありませんでした。
そういうことを係員に言ったら「うん、でもねぇ」となかなか納得しなかったくせに、「高齢出産なので用心したいのです」と言ったらあっさり「そうか」と納得されたのはちょっと複雑でしたけど。うん、確かに妊婦としては高齢だけどさ。そこで納得するのか!
夫に妊娠を告げたとき、ぽかんと口を開けて突っ立っていました。私が妊娠しにくい体質だということを受け止めて結婚してくれた人なので、尚更驚いたようです。
もともと、その二日後に北海道への里帰りを予定していたので、早めに検査して良かったと思います。私はいつも酔い止めの医薬品を服用するのですが、妊娠がわかったので服用をやめました。
北海道の実家では、少しだけ出血がありました。これは結局問題なかったのですが、不安でした。かかりつけの病院は遠い群馬県だし、週末の夜中でしたから尚更です。救急病院に電話しても無意味でした。
のちに、夫が安定期に「温泉でも行ってゆっくりしようか」と提案してくれたことがあったのですが、このときの旅先でのトラブルの怖さを思い出して行くのを止めました。
北海道のうちの地元は特に産婦人科不足が問題になっている地域でもありました。
なので、家族と話し合った結果、里帰り出産ではなく、群馬県で産むことにしたのです。
それに出産予定日が二月二十四日。二月末の北海道はまだまだ雪深いし、ただでさえ毎年雪道で転んでいる私が妊娠中に転倒したら大変だという意見もありました。
第一、夫は大の飛行機嫌いなのです。出産後に群馬県に帰ろうと思っても、私一人で飛行機に乗らなくてはならないかもしれない。
そして決定打は母の言葉。
「こっちで産んだら、旦那さん迎え来れるかわからないし、居心地よくて『帰りたくない、こっちで子育てしたい』なんて思い始めてそのままお別れになりかねないから、向こうで産むのが一番よ」
確かにそのとおりです。今現在、北海道で子育てできたらどんなにいいだろうとホームシックになることがあるので、この言葉に従ってよかったなとしみじみ思うのでした。
結婚記念日は3月31日。
どうしてこの日かというと、退職や移転、扶養の手続き上、年度末なので一番都合が良かったのです。なんとまぁ、ロマンの欠片もない事務的な理由。
それに、忘れっぽい私でも、さすがに年度末だと、結婚記念日を忘れないだろうと思ったのでした。実際はやっぱり覚えていなくて、寝る間際になって「今日、結婚記念日だったんだけどわかってる?」と、夫に言われたりしています。数字に弱いドライな妻ですまない、夫よ。
さて、この夫は八歳年上の大の猫好きで、私は結婚するときに二匹の猫と一緒に群馬県にやってきました。
彼はアパートを用意してくれて、二人と二匹の生活が始まったわけです。
そして私は仕事を探し始め、六月十五日に里親会で三匹目の猫を家族として迎えました。
この頃の私は、産婦人科医に言われた『妊娠しにくい体質』という言葉がすっかり脳裏にこびりついていて、子どもをもつことを諦めていました。
卵巣皮様嚢腫の手術から数年たち、レーザーの効果もなくなっているだろうと思っていたのです。あの体験から得たのは、医療保険と検診は大事だという認識と、同じ病院で苦労したのがきっかけで仲良くなった友人、そして『どうせ子どもを授かることはないだろう』という思い込みです。
医師は『妊娠しにくい』とは言いましたが、『妊娠できない』と言ったわけではないのです。が、悩んだ時期が長すぎたのかもしれません。せめて、これから三匹の猫たちと賑やかに暮らしていこうという意識がどこかにあった気がします。
ところが、それからすぐ、股関節に激しい痛みを感じるようになりました。
起き上がるのも顔をしかめるほどで、筋肉痛に似た衝撃が走るのです。歩けばぎしぎしと軋むようでした。
けれど心当たりがまったくありません。夫がいないときは片道15分歩いて図書館に行ったり、スーパーに買い物に行く田舎暮らしではありましたが、さすがに運動不足の私でもそんな筋肉痛にはなりません。
おかしいなぁと思いながら、六月末に梅シロップを漬け込んでいたところ、ふと手を止めて気がつきました。
そういえば、生理がきていない。
もともと生理不順だったのでいつものことだと気にしていなかったのですが、慌てて検査してみることにしました。
まさかとは思いつつ、愛煙家なのでもし妊娠していたら大変ですし、わかるのは早いほうがいいと考えたのです。
薬局で妊娠検査薬をレジに持っていったとき、とても複雑な心境でした。以前は『もしかして、もしかするかも』と淡い期待を捨てきれず、こっそり洗面所の戸棚の奥に置いておいたものでした。結局、使用期限が来て捨ててしまいましたが、手にするのはそれ以来でした。
妊娠検査薬で陽性反応が出たのには驚きました。あれだけ願っていた反応が、目の前にある。大学に合格したときよりも、ずっと信じられなくて口をぽかんと開けていました。思わずもう一度検査してみたほどです。
そして、漬けたばかりの梅シロップに風味付けとしてラム酒を入れたことをちょっと後悔しました。あとで火にかけてアルコールを飛ばしましたけどね。
あの股関節痛は妊娠のせいだったのです。これは骨盤や子宮が広がって妊娠の準備をしているということらしく、初産だったからかもしれません。第二子の妊娠のときはありませんでした。
慌てて産婦人科へ行き、ハローワークで失業手当の期限を延ばす手続きをしました。
そのとき係員に「妊娠しても仕事探して働けばいいじゃない」と言われて驚きました。
これから妊娠・出産を控えている人を育休・産休前提に新規に雇ってくれる会社ってあるのかと疑問に思いましたし、慣れない土地で、慣れない仕事のストレスをマタニティ生活に感じたくありませんでした。
そういうことを係員に言ったら「うん、でもねぇ」となかなか納得しなかったくせに、「高齢出産なので用心したいのです」と言ったらあっさり「そうか」と納得されたのはちょっと複雑でしたけど。うん、確かに妊婦としては高齢だけどさ。そこで納得するのか!
夫に妊娠を告げたとき、ぽかんと口を開けて突っ立っていました。私が妊娠しにくい体質だということを受け止めて結婚してくれた人なので、尚更驚いたようです。
もともと、その二日後に北海道への里帰りを予定していたので、早めに検査して良かったと思います。私はいつも酔い止めの医薬品を服用するのですが、妊娠がわかったので服用をやめました。
北海道の実家では、少しだけ出血がありました。これは結局問題なかったのですが、不安でした。かかりつけの病院は遠い群馬県だし、週末の夜中でしたから尚更です。救急病院に電話しても無意味でした。
のちに、夫が安定期に「温泉でも行ってゆっくりしようか」と提案してくれたことがあったのですが、このときの旅先でのトラブルの怖さを思い出して行くのを止めました。
北海道のうちの地元は特に産婦人科不足が問題になっている地域でもありました。
なので、家族と話し合った結果、里帰り出産ではなく、群馬県で産むことにしたのです。
それに出産予定日が二月二十四日。二月末の北海道はまだまだ雪深いし、ただでさえ毎年雪道で転んでいる私が妊娠中に転倒したら大変だという意見もありました。
第一、夫は大の飛行機嫌いなのです。出産後に群馬県に帰ろうと思っても、私一人で飛行機に乗らなくてはならないかもしれない。
そして決定打は母の言葉。
「こっちで産んだら、旦那さん迎え来れるかわからないし、居心地よくて『帰りたくない、こっちで子育てしたい』なんて思い始めてそのままお別れになりかねないから、向こうで産むのが一番よ」
確かにそのとおりです。今現在、北海道で子育てできたらどんなにいいだろうとホームシックになることがあるので、この言葉に従ってよかったなとしみじみ思うのでした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる