親子誕生

くさなぎ秋良

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はじめての出産編

陣痛室にて

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 夫が夜勤明けでほぼ丸一日不眠のまま駆けつけたのは、陣痛室に入って数時間後のことでした。 
 最初は陣痛も弱く、かけつけた夫と呑気な会話をしていたのですが、いつまでたっても様子は変わらない。産まれそうにないまま、25日の「にゃんこの日」は終わってしまいました。

「こうなったら2・26事件の日か……」

「なんか物騒だなぁ」

 などと話していたのですが、次第に痛みが増していき、夜の1時を過ぎた頃から、どうしようもない強さになってきました。痛いといきみたくなるのですが、この段階ではその衝動を逃がさなければなりません。男性にわかりやすく説明するならば……便秘でいきみたい衝動を切れ痔を恐れて逃がしているようなものかしら?

 夫はそのまま仮眠をとり、ベッドの脇にある長いすで休んでいたのですが、痛みに苦しんでいる妻の隣で爆睡されると、頭では『夜勤明けだ』とわかっていても「私だってすやすや寝たいんじゃい」と恨めしくもあり。
 おまけに足が臭い。どうにも臭い。無機質な病院にいるせいか、それとも元々嗅覚が敏感なせいか、ものすごく臭いが目立つ。
 我慢できず、彼をたたき起こし、言葉を選んでこう言いました。

「お願いだから、いったん帰ってお風呂に入ってきてください。足が臭います」

 言葉、選び切れてないですね。おまけに……私、怒ると敬語になるのです。
 気を悪くするかなぁと思ったのですが、あっさり「わかった」とお風呂に入りにいった夫。
 実はこのとき、嬉しかったんだそうです。何故かというと、彼の憧れの父親像の一つが『クレヨンしんちゃん』のお父さん、野原ひろし。
 彼は足が臭いという設定なんですね。なんだかこのとき、野原ひろしに近づけたようで嬉しかったんだそうです。うん、でもそこは近づかなくていい。

 そして夫は家で休んでから、翌日にまた病院に戻ってきました。でも、はっきり言って、腰をさするようにお願いしても携帯電話片手にやる気がなかったり、まだ眠そうにしていたり、気持ちはわかるけど殺気立っている妻としては腹が立つ。

 翌朝になって、看護師さんと医師が子宮口を見てくれたのですが、まだ4cmしか開いてないと言われて愕然としました。赤ちゃんが出てくるには狭すぎます。
 丸一日苦しんで1cmしか開かないなんてと、絶望しました。

 途中、姑が来てくれたので、ペットボトルを渡して「これで腰をぐりぐり思いっきりさすってください」とお願いしました。
 陣痛の痛みは、腰を強く擦ると、少しはやわらぎます。
 姑は帝王切開でしか出産していないので、陣痛の辛さがわからないと言って戸惑っていました。ボトルで擦るのも、さわさわさわ……と、こわごわ、おそるおそるなので、「親の敵だと思って、思いっきり」と激励を繰り返しました。

 お昼前になるともう、シーツやベッドの隅を握りしめてのたうちまわる痛みの波が襲ってきます。でも、破水はしませんでした。
 立つのも歩くのもやっと、という状況なのに、問答無用で歩かされて内診を受けると、いつの間にか子宮口は7cmにまで広がっていました。随分一気に広がったもんですが、まだまだです。
 そこで医師が人工的に破水させることになりました。赤ちゃんを守っている膜を切って破り、出産を促すのです。流れ出る生ぬるい感覚が伝わったとき、こんなものが胎内にあったんだと驚いたのを覚えています。
 ドラマでは「破水した」なんて慌てている場面もありますが、こんなパターンもあるんですね。

 さて、そこから子宮口が全開するまで一番厳しい痛みが襲ってきます。やっと分娩室に入るのを許されたのは午後2時でした。
 あまりの痛さに歩くのも一歩ずつ足を引きずるようにして、まるで瀕死の兵隊のようなのに、最後にまたトイレに無理矢理行かされました。「出ない」っていうのに! と苛立ちながら、トイレの中で排泄物ではなく叫び声を出しておりました。

 さて、そこからすぐ隣の分娩室に入り、いよいよ出産もクライマックスになります。
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