親子誕生

くさなぎ秋良

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はじめての育児編

妖精誕生と馬の人参

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 初めての育児が始まったとき、育児というものはこんなに大変だったのかと驚き、同時に自分の両親を尊敬し直したものです。

 ミルクをあげるといっても、哺乳瓶はその都度消毒しなければならず、それが3時間か4時間おきからスタート。
 おむつを替えるのも、おしっこを引っかけられないように素早く、かつ拭き残しのないように。
 なかなか泣き止んでくれず途方に暮れて、腰も痛いし、自分も眠いし、洗濯物は増えるし、料理などの家事もしなけりゃいけないし。

 やらねばならぬことをこなすので、精一杯。そうするうちに自分のやりたいこと、今までできていたことが出来ずに落ち込んだり、息苦しくなったりします。
 身支度だって今までのようにお金や時間、手間をかけるのは難しいし、子どもがいればオシャレで静かな店にもなかなか行けなくなる。
 授乳が終わるまではアルコールや煙草ももちろん駄目だし、出産が終わっても好きなことがまたできるようになるとは限らない。
 人間一人分の重さと責任を常に背負い、始終気をつけて目をやり、健やかにいられるように何より先に手を差し出す。

 私の場合、二ヶ月ほどしたあたりで精神的に窒息しそうになりました。
 もともとこちらには家族も友人もいませんから、何かあればネットで調べたり、電話できくしかない。でも情報量が多すぎて不安は増すばかり。
 どこにも行けない。自分のしたいことが思うようにできない。そんな窮屈さと、子どもの命の重圧に押しつぶされそうだったのです。
 けれど、「母親のくせに」とか「母親なら当然」って声が怖くて何も言えない。

 そんなときでした。
 息子が「あぁ」とか「もげぇ」とか声を上げて笑うようになったのです。
 初めて赤ちゃんが笑うとき妖精が生まれると言ったのは誰だったでしょう。でも、私にはその笑顔から見えたのは妖精ではなく、人参でした。
 「もう無理」と投げ出しそうになるほど追い詰められてきた時期に、「お母さん、頑張って」と馬の鼻先に人参をぶらさげるようなタイミングで笑うんだなぁと面白く思ったものです。

 そのとき、たとえ一人でこの子と向き合わなければならなくても、頑張れる気がしました。それでも、閉塞感に苛々が募ることもあります。

 実は姑は諸事情あって育児をしたことがなく、面と向かって「1時間か2時間ならいいけど、それ以上は預かれない」と言われたことがあります。これは悪気があって言うのではなく、泣かれたりぐずられたりしたとき、本当に彼女自身もどうしていいかわからなかったのだと思います。それに嫁の産んだ子には遠慮があったのかもしれません。けれど、やはりちょっと突き放された気がしました。
 それだけに尚更、ここではたった一人なんだって気がして仕方ありませんでした。手続きなどの用事をちょっと済ませに行きたくても、今まではふらっと行けたものが身動きとれなくなるジレンマ。ほんの十五分で済むことでも出来なくなるんです。そして誰にも気軽に相談したり頼み事もできない孤独感が呼吸を止めます。
 夫は仕事の休みというのが不規則でしかも少ないし、夜勤もあるのでなにせ時間が合わせにくい。疲れているだろうし、赤ちゃんにどう接していいかわからず、怖かったようです。

 そんな中、耐えきれなくなったとき、素直に泣くことにしたのです。
 赤ちゃんが不思議そうに見ているけれど、猫が「どうしたの」と言いたげに寄り添ってくるけれど、年甲斐もなく声を上げて泣きます。
 そうすると、意外とすっきりするんです。泣けるうちはまだ大丈夫だなって思えるようになりました。

 泣き続ける赤ちゃんを抱いて途方に暮れながら、「母親なんだからしっかりしなきゃ」と自分を追い込む前に、「泣きたいのはこっちだって」と一緒に泣いてもいいんじゃないかと思うのでした。だって、赤ちゃんを産んだ瞬間は『母』という自分を産んだ瞬間でもあるんです。お母さんとしての年齢は赤ちゃんと一緒なんですから。
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