21代目の剣聖〜魔法の国生まれの魔力0の少年、国を追われ剣聖になる。〜

ぽいづん

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第3章 鴉

第75話 マザハケオ

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 稲光と雷鳴が轟く中、俺達は北部平原の少し北にある、マザハケオに辿り着く。この地は俺が鴉になってウィンタールに赴くときに盗賊達に襲われた場所で細い山道が続く場所である。

 ここを行軍するということは隊列が細くなるということだ。

 リリカは山道に入らず、山を登れと俺達に言い出す。
 そして1500名の騎士たちは大雨の山中を泥にまみれながら山を登り崖を下る。
 中腹に辺りにたどり着き山道が見えるところに陣を構える。といってもテント貼ったりするわけではなく。雨の中、ひたすら座ってその時を待つ。

 革製の雨具のおかげで体はそれほど濡れておらず、体温を奪われることはない。

 リリカが俺の近くにやって来る。
「お前に頼みがある」
「頼みですか?」
「ああ…イゴソをお前にはイゴソを討ってもらいたい」
「それは副長が…」
「私はロレンツォを生け捕る」
「生け捕る…」
「ああ、あいつには借りがあるからな」
 そう言ったリリカの顔は恐ろしいほど冷淡でその顔をみた俺は心底ゾッとした。

「来た! 祖人だ!!」
 見張りをしていた鴉の一人が叫ぶ。

 全員に一気に緊張が走る。

「合図は私が出す。いいなそれまでは身を屈めて姿を隠せ」
 リリカは眼下を通り過ぎる祖人を眺めている。

 俺がイゴソを討つ…大役だな…失敗すれば十王国は滅びかねない…

 体がブルッと震える。
 今までの戦いにこれほどの命運が掛かったことは初めてだ…

 ダメダメ!

 ブンブンと首を振る。

 絶対に討つ!!俺が討ってこの戦にケリをつける!

 気が付くとリリカが俺の方を一瞬みて祖人の隊列に目を落として呟く。
「フフ。いい顔になったな。檄を入れてやろうと思ったがな」
「ありがとうございます」

 30分ほどが経ちリリカの顔色が変わる。
「いた…イゴソとロレンツォだ…」
 俺もリリカの隣で確認する。

 ロレンツォの作戦なのか普通の祖人達に紛れるような格好をしているが間違いなく、イゴソとロレツンォだった。そうあの祖人の地で俺たちの前にいた2人だ。
「間違いないですね…」
「うむ」

 リリカが立ちあがり、革製の雨具を脱ぎ捨て右手を上げる。
 1500名の騎士全員が立ち上がり、雨具を脱ぐ。

「総員突撃!!!!」

 雷鳴が轟く中、リリカの声がマザハケオに響いた。

 おおおおおおおおお!!!!

 山を転がるように駆け下りる。

 連中もある程度想定していたのか、慌てた様子はなく武器を構える。

 俺は先頭を走る。一人の祖人がこちらを向いて武器を構える。跳び上がり右肩から袈裟斬り。
 そうして戦端は開かれ両軍入り乱れての混戦始まる。

 至るところで首を撥ね飛ばしたり、剣を胸でついたりという光景が広がる。

 俺はイゴソを探しながら、目の前の祖人を斬り伏せる。

 俯瞰的にみえるわけではないが、ここまで戦況が優位に動くとは思わなかった。目に見えて我々の方の損耗は少なくそして明らかに敵の動きは悪い。

 『奴らは雨での戦いを知らない』
 リリカの言葉が蘇る。

 奴らは体が濡れて戦うということをしたことない。寒いところで戦っているから寒さには強いはず。しかしそれは防寒具をまとっての戦い。
 奴らはこの雨の中、服を濡らし体を冷やして戦うということは初めての経験。そして連中は行軍中に雨具を着ていない。
 濡れた衣類は体温を奪う、体が冷えると動きは悪くなる。

 そこに奇襲をしかけることができた。この雷雨で音は紛れ、匂いは届かない。全てが俺達に味方をした。
 今考えるとこの奇襲が成功するのはもはや必然だった。後世の歴史家たちは必ずこの戦いを振り返ることになるだろう。そして兵法書にも奇襲の模範として載るであろう。

 しかし、いくらそれでも必ず限界がやってくる。敵は100倍の兵力。倒しても倒しても次から次へとやってくるそして俺達も疲弊しはじめる。

 イゴソだ!イゴソを討たなければ、俺達の勝利はない!

 あいつは必ずここに残って戦っているはずだ。乱戦の中辺りを見回しながら戦い続ける。

 いた!!

 4,5人の騎士が取り囲んでいるひときわ大きな祖人が目に入った。

 騎士の一人が斬りかかる。その剣を斧でへし折る。剣の持ち主はその瞬間に頭を潰される。
 それをみた周囲の騎士たちは後退りをする。

目の前の祖人を斬ると、後退りしてきた騎士に声を掛ける。
「あいつは俺がやる。あんたらはあっちを頼む」
そういうと一瞬ホッとしたような顔を見せた騎士達はその場を離れる。

イゴソも俺に気がついたのかニヤリと口角を上げる。
そして俺に鎖のようなものを投げつける。

その片方はイゴソの左手の手錠につながっており、俺の方に投げた来た方にも手錠が付いている。
そういことか…お互い逃げないように戦おうと…

俺はその手錠を左手につけ、イゴソと対峙した。





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