21代目の剣聖〜魔法の国生まれの魔力0の少年、国を追われ剣聖になる。〜

ぽいづん

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第5章 魔法の国のスピカ

第98話 影

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 ――リゲルの死、その直後のノーマン邸。

「これは……」
 天を貫くように建てられた塔の最上部。天井はガラス張りで、天には星が瞬いている。その星々を見るために望遠鏡や水晶玉が置かれその間を縫うように3人の白衣の男が忙しくなく動いている。そして望遠鏡で星を見ていた男が呟き慌てた様子でどこかに行こうとしている。

「どうした何が合った?」
 同僚の一人が声をかける。
「アビゲイル様に報告をせねばならぬことが……」

 塔の階下はお屋敷になっており、男は慌てた様子で、ドアをノックする。
 中からアビゲイルの声がする。
「どうした?こんな夜更けに」
 男はドアを開けただ一言、言い放った。

「巨星墜つです」

 それを聞いたアビゲイルは口角を上げ笑っているように見える。
「分かった。このことは時が来るまで伏せておけ」
 アビゲイルはその男に言うと分かりましたと部屋を後にした。男が出ていったの見計らってアビゲイルは水晶玉を取り出しどこかに連絡をつけている。

 その水晶玉に映されたのはいつぞやの目つきの悪い男。

「クロエ、巨星墜つだ」
「早かったな。では始祖会議を招集するのか?」
「いや、私に考えがある」
「ふむ。では任せておく」
「ああ、任せてくれ」

 アビゲイルは着替え終えると、屋敷の木人形に命じ馬車に乗り出かける。行き先はアルタイル邸。

 真夜中のアルタイル邸の門は固く閉ざされ中の様子は伺い知れない。アビゲイルが門に触れると門番役の木人形が現れる。

 それでもお構いなしにアビゲイルは門を開け家の中に入ろうとする。木偶人形はアビゲイルを制止しようとするが、アビゲイルの体に触れようとするとその活動を停止させる。

 そしてそのまま真っすぐに屋敷の中に入っていき、アビゲイルは勝手知ったる我が家のようにリゲルの寝室に向かう。

 リゲルの寝室の扉を開くと、冷たくなったリゲルに寄り添うかのように悲嘆に暮れるスピカの姿。

 アビゲイルはまたして口角が上り笑顔になりそうなその口元を左手で隠し、一息つき自らの感情の統制が取れるようになるとスピカの肩を叩いた。

「お父さんを葬ってあげないと……」
 スピカは力なく頷いた後。ボソッと呟く。

「なんで貴方が……」
「ノーマン家は天文学と占星術が専門です。リゲル様ほどの方が亡くなられたら星の動きに影響があります」
「……そうですか……」

 アビゲイルは諭すようにスピカに話しかける。
「お父様を亡くされて、悲しいとは思います……が今だからこそ私は貴方に言うことがある」
「…………」
 うつむいて黙って話を聞くスピカ。

「私を……いや私達国民を導いて欲しい……貴方は導く者だ」
「……そんな、父の亡骸を前にして……それに私はそんなことできません!」
 スピカは赤く腫らした目で敵意を剥き出しにアビゲイルに食って掛かる。

「いや、死文病で両親を亡くされた貴方だからこそ。そして亡くされた直後だからこそ! 死文病の原因は龍脈だ。今まで我々を庇護していた龍脈が乱れ私達の魔力が魔素のせいで死文病になる! このペンタグラムを捨て新たなる世界へ行けば死文病で苦しむことは無くなる!」

 スピカは少し落ちついたようで睨みつけてるようにみていたアビゲイルから視線を反らし続ける。

「だったら……なんで私が導く者になる必要があるの?」

「多くの国民は今、死文病に恐れています。そしてリゲル様も死文病で失った。国民が求めているのは安心感。伝承の導く者が現れ、国を導く。これだけで国は一丸となって国難を乗り越えることができるというもの」
「……おとう……父が死んだばかりなのでまだ考えがまとまりません……」

「すみません……どうしても国のことを考えてしまって先走ってしまった。今回の件、忘れてください。それじゃ私は葬儀の準備に取り掛かります」

 アビゲイルはアルタイル邸を後にし馬車に戻ると中に一人の男がいる。水晶玉で話をしていたクロエという目つきの悪い男。
「嬉しそうだな。上手くいったか」
「ああ、スピカはもうすぐ落ちる。彼女が導く者になれば計画は順調だ」
「それじゃ俺も忙しくなりそうだ」
「そうだな。頼むよ」
 クロエは馬車から降りると街の闇に消えていった。

 ――葬儀の前日

 宮殿の前には悲しみに暮れる国民達がリゲルに祈りを捧げている。宮殿のエントランスからスピカがそれを眺めている。

「こんな所にいましたか……国民の誰もが尊敬しているお方でした」
 スピカの姿を見つけたアビゲイルが話しかける。
「ちょっと夜風に当たりたくて……私もそんな父の背中を見て育ちました……」
「立派なお方でした」

 スピカは真っ直ぐにアビゲイルを見つめ意を決したように話しかける。
「……私に……この方達を導く力が本当にあるんでしょうか?」
「ノーマン家は天文学、占星術が専門です。貴方は導く者の星として生まれた。これは間違いない。私達が何が合っても貴方を守り補助します」

 スピカは目を閉じ何かを少し考えるよう素振りをみせた後、ゆっくりと口を開いた。
「……分かりました……私は導く者として立ち上がります」

「お父様を亡くされ大変つらい決断だと思います……ですがこれでこの国難を乗り越えることができます!」
 スピカに一礼をしアビゲイルはその場を後にする。

 宮殿の執務室に戻るとクロエという男が執務室の椅子に座っておりアビゲイルは彼に話しかける。
「宰相の椅子の座り心地はどうだ?」
「あんまり良くねぇぇな。座面が固い」
「まあ、その椅子の座り心地もこれから良くなる。スピカが落ちた」

 細い目を丸くさせたクロエは椅子から立ち上がり話を続ける。

「少女を手篭めにするとは、サイテーな男だなお前」
「ふふ、いい趣味してるだろ?……サクラを頼む。明日の葬儀の後にお披露目を行う」
 クロエと代わるように椅子に座るアビゲイル。

「分かった紛れ込ましておく」
 クロエはそう言うと宰相の執務室を後にした。

 執務室に一人になったアビゲイルはボソッと一人呟く。
「明日、この国は大きな転換点を迎える」


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