あなたが幸せになるために

月山 歩

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4.いつも通りに

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 翌日、二日酔いで頭が痛く、感覚が鈍ったままだと感じていたが、ライナートはこのぐらいでちょうどいいと思っていた。

 その方が、オーレリアを想う時間を少しでも削れることができるだろう。

 彼女はきっと王子としての僕が倒れるのをよしとしない。
 いつだって正しい王子を彼女は求めていたし、そのために献身的に尽くしてくれていた。

 僕はここで歯を食い縛ってでも、あるべき王子を貫く。
 自分の心なんて今はいらない。

 もし、そんなものを考え出したら、僕はここに立っていられない。
 すぐに彼女の元へと飛び出して行ってしまうだろう。

 だから今は、ただただ彼女の理想である自分を貫く。
 それが、彼女のために僕ができる唯一のことだから。

 僕達には幼い頃から、望む未来があった。

 それを果たさなければ、身を引いた彼女の思いを無にしてしまう。

 だから僕は、一人でもここに立ち続ける。
 そう考えることだけが、今の僕の支えだった。




 一カ月も経つと、ヤンセンを中心とした側近など本当のライナート様を知る者達は、精力的に働き続ける彼を心配し始めた。

 元々真面目な王子であったが、今では痛々しさまで感じるほどに、朝から晩まで気を抜くことなく、王子然としていて隙がない。

 執務の間には、穏やかな優しさを見せていた王子なのに、いつも完璧な姿で、心が全く見えなくなった王子に、周りの者達はどこか危うさを感じずにはいられなかった。

「ライナート様、少しお休みになったらいかがですか?」

「いや、必要ない。」

「では、キアーラ様と庭園でお茶でも飲まれては?」

 ヤンセンは何とかして、ライナート様を少しは休ませたかった。

 もちろんヤンセンもライナート様の事情を知っていたし、それをとやかく言うつもりもない。

 けれども、このままでは、いつか彼の心が壊れて最悪な結末になる可能性があり、それだけは回避しなければならないと思っていた。

「そうだな。
 キアーラにも、こちらに来てから気を使わずに申し訳なかった。
 時間を調整しておいてくれ。」

 そう言って、表情を変えることなく、再びライナート様は休憩せずに執務を続ける。

 執務室には、いつでも望んだ時に、彼が休憩するためのお茶や菓子が準備されている。

 でも、それに手をつけた姿を最近では全く見ていない。

 ヤンセンは思う。
 キアーラ様といることは、ライナート様にとっては休息ではなく、執務と同じなんだと。

 婚約者の女性と過ごすことですら、彼を休ませることなどできないのだ。

 ライナート様の表情を見ても、彼が心の底から、少しも休もうとなんて思っていないことが読み取れる。

 婚約者と共に過ごす時間を増やすことは、ただ、この真面目な王子をさらに追い詰めているに過ぎない。





 王家の者が過ごす庭園で、咲き誇る薔薇を眺めながら、ライナートは向かいあってテーブルを囲むキアーラに、なかなか構えなかったことを謝る。

「すまない、キアーラ。
 あなたは王妃教育を受けているとしても、もう少し一緒に会話する時間を作るべきだった。」

「ライナート様、お気になさらず。
 私は私で、忙しくしてますのよ。」

 美しいキアーラは、微笑みを浮かべて、ライナートに答える。

 彼女もまた、頭の先から足の先まで、完璧に整えられ、立ち振る舞いも隙がない。

 そんな彼女を見てもライナートの心は少しも動くはずもなく、まるでお互い機械のようにお茶を飲む。

「それならば助かる。
 あなたが僕の落ち度に寛大な方で良かった。
 何かあれば、遠慮なくヤンセンに言ってくれ。
 ドレスでも、宝石でも必要なら買ってかまわないんだ。

 それに、気になることは周りの者に相談してくれ、すぐに対処する。」

「ありがとうございます。
 そうさせて、いただきます。」

「それでも、何か困ったことがあれば、言ってくれ。
 私は目が届いていないこともあるだろう。」

「わかりました。」

 そうして、二人のお茶の時間はあっけなく終わった。




 一日分の執務を終え、夜寝室のベッドに入り思う。
 オーレリア、僕はちゃんと君が望む王子でいられているかな。

 最近、何をしてもライナートの心は動かなくなっていた。
 それを自分でも自覚している。

 それでも、少しでも気を抜いて手を止めると、もうすべてを投げ出したくなる。

 その衝動を抑えることが今の僕には必要だ。

 だから、ただ機械のように心を閉じ込めて働く、そんな毎日だった。


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