彼にも内緒の月の聖女様

月山 歩

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2.夜の聖女様

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「聖女様だ。」
「聖女様、どうかこの子を治してください。」
「聖女様、私の病気を治して。」

 夜の教会に聖女が現れると、治癒魔法を使って、病いや怪我を治してもらおうと、多くの人々が長い行列を作って待っている。

「皆さん、聖女様は一人一人を治療していきますので、時間はかかりますが治療を受けられます。
 自分の番が来るまで、静かにお待ちください。」

 神父様が説明すると、皆安堵の表情を浮かべ、頷く。

 治療院に行っても、薬草を煎じたお茶や軟膏ぐらいしか治療法がないこの王国では、治癒魔法を使う聖女の存在が、多くの人々を支えている。

 それに、治癒魔法を受けるにあたって、対価を求められることはないので、人々はすがるように聖女に助けを求める。

 シアナは神父様に支えられて、夜中じゅう、月が聖女に与える力を失うまで、多くの人々を治療していく。 

「ありがとうございます、聖女様。
 ずっと頭が痛くて、何もできなかったのに、今はすっきりしてまた働くことができそうです。」

「それは良かったですね…。」

 明け方近くになると、もう立ち上がることすらできないほど聖力は消耗し、衰弱するのだ。

 なので、月が沈み朝になると、シアナは教会の奥にある一室で、泥のように眠り、聖力の回復を待ってから自分の家に帰る。

 そして、聖女の姿の時は何故か、白金の髪に水色の瞳になり、肌も透きとって月のように輝く美しい女性になる。

 小さく整った顔立ちは人々の間で、「絶世の美女」と評されている。

 その姿は、昼の地味な自分とあまりにも掛け離れて、同じ人間とは思えず違和感を感じずにはいられない。

 そのため、治癒魔法を使っている自分がまるで別人のように感じるが、そのおかげで、今のところその秘密は誰にも知られていない。

 こうなったのは、ある夜に神父様と共に聖女様が、フードを目深く被り家にやって来てから始まった。

 彼女は私を見つめて、こう言った。

「私はまもなく、聖女の力を失います。
 これからは、聖女の役割をあなたに代わるようにと神から神託がありました。

 あなたは次の月の出る夜から、夜の間だけ聖女になります。
 私の代わりに聖女として、人々を癒してあげてください。

 夕暮れ時、月が出てしまう前に、ぜひこちらの神父様を頼りに教会においでください。

 どうか、人々のために、よろしくお願いします。」

 そう言って、神父様に支えられて、ふらつきながら聖女様は、そのまま姿を消した。

 突然、夜に訪れて告げられた話を、そのまま受け入れることなんてできない。

 私が夜だけ聖女?
 無理、無理。
 私は地味などこにでもいる普通の女なのだから。
 何かの間違いか、悪趣味なイタズラかはわからないけれど、気にしないでおこう。

 その後、しばらくは聖女様の話を聞かなかったことにし、普通の日常を過ごしていたある夜に、突然体が光に包まれ、鏡越しに顔を見ると、全くの別人の聖女様のような姿に変わっていた。

 突然の外見の変化に驚き、どうしたら良いのか分からず、聖女の姿に恐れを抱いた私は、フードを深く被り顔を隠して、なるべく人目を避けて言われていた教会まで行くと、神父様が入り口で待っていて、一室に案内された。

 「あなたが来てくださって良かった。前聖女様は力を失い、今は普通の民として、ひっそりと生活しています。

 これからは、あなたに聖女の役割をしていただきたいのです。
 お願いします。」

 神父様は、真剣な顔で私を説得しようとする。

 「でも、聖女の役割をするとは、具体的にどうすればいいのですか?」

「聖女様、こちらに手をかざしてください。」

 そう言って、神父様は自分の腕にナイフで傷をつけ、その赤い血が一筋腕を伝って流れた。

 神父様が私の前で、急に腕を切ったことにも、流れる血にもびっくりしたけれど、彼に言われた通り手を恐る恐る傷にかざしてみる。

 すると瞬く間に、神父様の腕の傷が癒え、傷あとすら残っていなかった。

「やはりあなたは月に選ばれた聖女様です。

 治癒魔法を使う際に、原因となる病気の箇所がかわからない場合には、その人の症状が改善するイメージを頭の中に描くと良いと伺っています。

 次の月の輝く夜に、聖女様に変化する前に早めに、こちらにおいでください。

 聖女様の姿になってからだと、治療を求める民に囲まれて、動くこともままならず大変なことになってしまうでしょう。

 もし、聖女様の姿になってしまい、こちらまで来るのが間に合わない場合は、家から一歩も出ずに、朝まで家に隠れていてください。

 世間にあなたが聖女様だと知られたら、今までのような日常生活は破綻し、教会にしかいられなくなります。

 それほどまでに、聖女様の力を欲しがる者たちがいるのです。

 聖女様の力欲しさに、悪党に攫われる可能性がありますし、教会に属さないと、聖女様を王族が取り込もうとして、妃にしたいと狙うことがあります。

 そうすれば、あなたの意思とは関係なく、王族の誰かと無理矢理婚姻を結ばされてしまう可能性があります。

 だから、決して聖女であることを誰にも言ってはいけないし、見られてもいけません。

 信頼できる人に思えても、聖女の力があると知れば、残念ながら人は裏切るものです。

 だからこそ、教会は聖女であるあなたを守ります。

 私の言ったことをよく考えて、この先の進むべき道をお決めください。

 もし、反対に王族と結婚したいのならば、教会の後ろ盾を得てから結婚されるとよいでしょう。

 そうすれば、むやみに聖女様としての力を搾取されることなく、新しい王族の一員として迎えられるでしょう。」

 初めて聖女になった日は、神父様の話を聞いた後から、考えすぎて眠れぬまま朝を迎え、元の姿に戻ったことに安堵してから、ひっそりと家に帰った。
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