三年の想いは小瓶の中に

月山 歩

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11.レオニーのしたくないこと

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「アレシア様、あの女性はもう怒っていないんですね。
 ありがとうございました。
 さっきは、どうなることかと焦りました。」

 後片付けをしていたレオニーが、安心したようすで、振り向く。

「少しお話を聞かせてもらったの。
 そもそもドレスの色だけで女性を判断するような男性は、最初から内面を見ようという姿勢すらなかったのでしょうね。

 そんな理不尽な態度を受ければ、誰だって傷つくわ。

 その悔しさが、いつの間にかドレスそのものに向いてしまって、破局するドレスなんて呼ばれるようになったのかもしれない。

 だから、心の痛みを癒してあげられれば、きっと過去に囚われずに、新しい恋に目を向けられると思うの。

 そういう女性に丁寧にお話をしていけば、モナンジュに対する誤解も自然と消えていくはずよ。」

「アレシア様はいつも明るくて、前向きですね。
 私はどうしてもお客様の嫌な話を聞くのは苦手です。
 ただの愚痴なのは聞くまでもなく、わかっていますから。」

「そうね。
 レオニーは資金繰りのこともそうだけど、こういう対応をするのが嫌で、モナンジュを閉じようと思っていたんだったわね。」

「はい。
 そのドレスを選んだのはお客様で、私は押し付けたわけじゃないって、いつも言ってやりたくなるんです。」

「ふふ、そうね。」

「こっちは、悪趣味なドレスを作らされてるのに、わかってる?
 って揺さぶってやりたくなります。」

「確かに。
 お客様の望みのドレスがセンスを疑われるものでも、注文なら作らざるを得ないわね。」

「そうなんですよ。
 それをこちらのせいにして、文句を言って来る人のなんと多いことか。

 だから、最初から私達の作った完璧なドレスを黙って着なさいよって、言ってやりたくて、いつも爆発寸前で堪えているんです。」

「そうね。
 言ったらせいせいするでしょうね。」

「はい、一瞬で後悔すると思いますけど…。」

 レオニーは、しょんぼりと近くにある椅子に座る。

「大丈夫よ、今は私がいるわ。
 私がその人達の相手をするから。
 そのために私はここにいるのよ。
 レオニーはドレス作りに専念して。」

「アレシア様に嫌な役回りを押し付けて、気がひけます。」

「そんなことはないの。
 私にはドレスを作る技術もセンスもない。
 だから、私はできることをしているだけなの。

 お金を出すだけなら、私じゃなくてもできるわ。
 私は私じゃないとできない仕事をして、みんなに必要とされたいの。
 私は親切なだけじゃない。
 多分、相当歪んでいるわ。」

「そんな。
 アレシア様が歪んでいるだなんて。」

「ふふ、本当のことよ。」

「ここへ来た時、オフリー公爵様とうまくいっていないと言ってましたね。
 それで、彼に求められたいと思って過ごされていたんですね。」

「そうね。
 トラヴィス様だけにじゃないわ。
 きっと小さな頃から、お父様にもどこかでそう思っていたんだと思うわ。
 それは、もう無理だとわかっているけど。

 その代わり、私には優しいお兄様がいて、トラヴィス様に背を向けられても、何とかやって来れたんだと思うの。

 そして今は、トラヴィス様も私を少しは思ってくれていると感じるし、モナンジュもある。
 とても幸せだわ。」

「良かったです。
 でしたら私は、心置きなくアレシア様に甘えて、ドレス作りに専念しますね。」

「ええ、それぞれ得意なことをしましょう。」
 
「はい、愚痴を聞かなくていいなんて、気が楽です。」

「ふふ、私に任せて。」

 私が明るくそう言うと、レオニーは元気を取り戻し、ドレス作りの生地を選び始める。

「でも、アレシア様、それでも腹が立ってどうしようもない時は私に押し付けてもいいです。
 アレシア様にも限度ってものがありますよね?

 そんな時は最終的にカーライルを呼びますか?
 きっと、女性をメロメロにして、黙らせるはずです。」

「そうね、いつかお願いするかもしれないわ。
 でも、私はね、この人は数ある知り合いの中から私を選んで話しに来てくれたって思うようにしてるの。

 それは、きっと義姉の影響かもしれないわね。
 彼女とは貴族の仮面を被ることなく、本音で話し合って来たから。

 結局、わかりあうには、思っていることを伝わり易い言葉にして、伝えていくしかないと思っているの。

 散々言葉を尽くしても分かり合えないこともある。
 それでも、お互いどう思っているかだけは、知ることができるわ。

 それに、私が前向きでいられるのは、トラヴィス様に振り向いてもらうために、できることは全部やってみた時期があったから。

 何度もお出かけに誘ったり、二人きりで過ごす時間を作ったりあれこれ工夫したの。
 好きだから、どうしても諦められなくてね。

 でも、ある時ふともう私無理かもしれないって思って、離縁の覚悟を決めた。

 このまま一人で立ち止まっていても、もう前には進めない、そう思えたの。

 でも不思議なことに、自分が変わったら彼も変わって。

 別れないって言われた時は、本当に驚いたけど、後からじわじわと嬉しさが込み上げてきたのよ。

 ああ、私は彼にとって必要な存在だったのかもしれないって。」

「アレシア様良かったですね。
 でも、アレシア様は少しも立ち止まっていないですよ。
 常によくしようと動いている。

 モナンジュに来てくれてありがとうございます。
 今、ドレスを安心して作れるのは、アリシア様のおかげです。」

「ありがとう、レオニー。
 私もこうしてやりがいを感じられる毎日を過ごせることに感謝しているの。
 これからもよろしくね。」

「はい、これからも、女性を応援するドレスを一緒に作っていきましょう。」

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