僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩

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2.すれ違いの日常

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 結婚して、イヴァン様の邸に住み始めるとすぐに、私は食事は一人でとることにした。

「ニコラ、お食事は、イヴァン様の希望がない限りは、彼と時間をずらして食べるわ。

 厨房の方に伝えてもらえる?

 私のは、その代わりに冷めてしまっていてもいいからって伝えて。」

「どうしてですか?」

 ニコラは不思議そうに私に聞く。

「私、イヴァン様に嫌がられているの。
 だからせめて、あまり顔を見せない方が良いと思うの。」

「そんな…。」

「どうせ、ニコラには知られることだから伝えておくけれど、私とイヴァン様は、白い結婚なの。

 私が、イヴァン様のお兄様の元妻だから、私のことが気持ち悪いみたい。」

「えっ、そんなことを?」

「ええ、仕方ないわ。
 彼の兄の元妻と言うのは、本当のことだし。

 兄弟で次々とって考えたら、当然の反応よね。
 そう言うことだから、よろしくね。」

「わかりました。
 そのようにしますね。」


 その日から、イヴァン様が食事し終わった後、食堂からいなくなってから、食堂に行き、食事している。

 でもその時間には、この邸の使用人達も食事をしていて、始めは夫人である私と食事をすることに、気がひけているようであった。

 だがその時間は、元々使用人達が食事を食べる時間だそうで、結局私も混ぜてもらい、みんなでワイワイ食べている。

 貴族の食事ならば、静かに食べなければならないけれど、使用人達にとって、食堂は、憩いの場なのである。

「ソフィア様、今度カーテンの布地を探しに王都の中心街に、買い物に行きませんか?」

「嬉しいわ。
 私は商人の方が売りに来るのしか、経験したことがなくて。」

「王都の店に行って、店内に飾ってある布地を見て、選んだ方が色々見れて、楽しいですよ。」

「そうね。
 ぜひ、行ってみたいわ。」

「では、これから行きましょう。
 お揃いの小物なども、たくさん売っているんですよ。」

「そうなの?
 楽しみだわ。」

 私は、イヴァン様と過ごすことがないので、沢山の時間がある。

 邸の色々なことに興味を示すと、みんな親切に教えてくれたり、一緒に街へ連れて行ってくれる。

 イヴァン様と白い結婚ならば、子供ができないので、いつか彼の我慢の限界が来たら、この邸を追い出され、市井に下るかもしれないと言う思いがある。
 
 だから私は、あらかじめ民の暮らしの色々なことを知っておきたいのだ。

 私が、お母様の生活を支えれるようになれば、イヴァン様に迷惑がかからないように、離縁だってできるかもしれない。

 だから私は、買い物や家政など、どんどん一人で生きていくための知識を吸収している。




 執務室に行こうとして、食堂の前をたまたまイヴァンは通りがかった。

 すると、ソフィアを囲み、使用人達が楽しそうに食事をしているのが見える。

「ソフィアは、どうして使用人達と食事しているんだ?」

 イヴァンは、執事ホベルトに尋ねる。

「それは、イヴァン様と時間をずらして食べているからです。」

「何でそんなことを?」

「イヴァン様が、ソフィア様を嫌がるから、食事の時間をずらしてほしいとソフィア様から依頼されています。

 しかし、時間をずらすと、元々の使用人の食事の時間に重なってしまうので、結局、一緒に食べることになったようです。」

「そんなことを、ソフィアが?」

「はい、そう伺っています。」

 考えてみれば、ソファと結婚してからも、僕は自分の生活を何一つ変えることなく暮らしていて、そこに彼女の存在はなかった。

 結婚と言っても、書類にお互いサインしただけだから、全く実感も湧いてこない。

 よく考えたら、ソフィアと同じ邸にいても、まるで避けているかのように、会うことがなかった。

 それは、彼女の僕に対する配慮だったのか?

 僕が、ひとえにソフィアと結婚すると知ったら、吐き気がすると言ったから。

 ここまで気配を消して暮らしてもらうのは、ソフィアに負担を強要していることになるだろう。

 僕達は白い結婚と言っても、夫婦なのだから、そこまで僕に気を使うことはない。

 せめてソフィアに謝って、一緒に食事くらいはとるべきなのだろうか?

 だが、食事を一緒に取り始めると、急に勘違いしてまとわりついて来られても困る。

 兄の彼女達は皆、そう言う者達だったのだから、気を許すのは危険だ。

 今はまだ、ソフィアとの距離感をどうすべきかわからない。

 とりあえず僕は、彼女のすることは、知らないフリをして、このまま関わらないことにした。

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