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4.お母様
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「お母様、お久しぶりでございます。」
「あら、よく来てくれたわ。
さぁ、座って、座って。」
今日は、私の生家にいるお母様を、尋ねて来ている。
私が結婚する年頃になると、お母様は愛するお父様を突然病で亡くし、財産は減る一方で、最終的にはこの生家すら奪われそうになっていた。
だから私は、スクワイア男爵に勧められるまま、ファルター様と結婚したのである。
結局最終まで、ファルター様に愛されなかったけれど、結婚したそのことには後悔などしていない。
私の結婚でお母様の生活を守れたことは、私の誇りなのだから。
「実はね、最近知り合った素敵な男性がいるの。
ソフィアにも、会って欲しいわ。」
「そう、素敵ね。
どんな方?」
「メルビン様って言う伯爵なんだけれど、その方も妻を亡くされたそうで、とっても気が合うのよ。
あなたにもぜひ紹介したいわ。」
「わかりました。
ぜひお会いしましょう。」
お母様はとても善人で、人を疑うことを知らない。
お父様が亡くなってから、男性と知り合っては、僅かばかりしかない財産を奪われ、その後しばらくは悲しみくれることが何度かある。
私はそのたびに心配していた。
だがその頃の私は、ファルター様の決めた病弱設定のせいで、なかなか外に出られなかった。
だからお母様が、悪い男に財産を奪われていくのを、ただじっと見守ることしかできなかった。
でも今は、イヴァン様が自由にさせてくれるお陰で、私は動くことができる。
今度こそ私は、お母様には内緒で、早めにその方が悪い男でないか、探ろうと思っている。
どうやって調べようか?
そう考えながら邸に戻ると、イヴァン様が呼んでいると、ホベルトが教えてくれた。
私は、とりあえずイヴァン様の執務室へ向かう。
「イヴァン様、お呼びと伺いましたが?」
「ああ、入ってくれ。」
イヴァン様の執務室に入るのは、結婚して以来だ。
もうすでに懐かしい。
「そこに、かけてくれ。」
「はい。」
私は勧められたソファに、イヴァン様と向かい合って座る。
「用件だが、僕達は一応夫婦だから、一緒に夜会に出なくてはならない。
差し当たって、取引先の人が開催する夜会に行くから。
覚えておいて欲しい。」
「はい。」
「まだ、僕達は揃いの夜会服も作ってなかったね。
急ぎで何着か作らせよう。」
「わかりました。
イヴァン様は、私を伴って夜会に行くのは平気ですの?」
「どう言う意味だ?」
「私と一緒にいるのは嫌なのかと、思いまして。
夜会などで、エスコートのために腕を組んだりするのは特に。」
「いや、今は以前より嫌じゃないよ。
僕が悪かったから、仕方がないけれども、僕は君との結婚を聞いた時は、とても嫌だと思った。
何とか回避したかったくらいだ。
けれども、今君を見ていると、当時感じていた嫌悪感が何故かない。
君が兄といる場面が、想像つかないと言うか、似合わないような気がするんだ。
本当に夫婦だったのか?と思うほどだ。
ソフィアは、兄のことをどう思っていた?」
「ファルター様は、…。
感謝しておりますけれども、特に申し上げることはありません。」
「そうか。
じゃあ、もう行っていいよ。」
「はい。」
ソフィアは、執務室を後にしながら、何と答えるべきだったのか分からなかった。
あなたのお兄さんは、勝手な人で、自分が恋人といる口実のために、私を邸に閉じ込めたのよと、言ってしまいたかった。
でも、たった二人の兄弟で、しかも亡くなっているのに、私の口から悪く言えるはずがない。
ましてやファルター様は、お母様の生活の費用を負担してくれていたのに。
それを納得して暮らしていたのは、自分自身だ。
いや、納得はしていない。
諦めていたのだ。
だがそれすらすべて、イヴァン様には言うべきではないのだろう。
ソフィアが席を立ち、執務室を出ると、僕は頭を抱えた。
ついに、彼女に兄とのことを聞いてしまった。
だが彼女は、辛そうなようすで言い淀み、結局何も言わなかった。
やはり彼女は、まだ兄のことを思っているのだろう。
僕と、兄のことを話せないほどに。
最近、笑顔で邸にいるソフィアを見るうちに、彼女に興味を持って来ているなんて、僕はどうかしてる。
彼女はまだ兄を思っているのに、僕のこのような気持ちは、彼女も迷惑だろう。
父からソフィアと結婚するように言われた時は、侯爵になるために、兄の妻だった人と結婚するなんて、なんて悪趣味なのかと、本当に吐き気がした。
だけど、彼女には兄の好きそうな媚びた笑みや、異常な服の露出、卑猥な言葉使いなど一切ないのだ。
僕に取り入ろうと、下品な下着姿で、寝室に現れ、しなだれかかって来ることもないし。
使用人達とは、仲良くしているようだが、誰か特定の男と、ベタベタしている様子がない。
そのようなことをしていたら、すぐにホベルトから、報告が上がるように手配している。
本当に彼女は、いかにも兄の妻と言うところが見受けられない。
最初は、兄の妻なら若い頃に散々されたように、パートナーがいても、他の男を誘うような女だろうと思って警戒していた。
だからこそ、最初に白い結婚にして、彼女とは関わりたくないと、はっきり言葉で示したのだ。
するとソフィアは、僕に嫌われているからと、同じ邸に本当にいるのかと思うほどに、気配を消した。
僕は、ソフィアについて何か、大きな勘違いをしているのかもしれない。
「あら、よく来てくれたわ。
さぁ、座って、座って。」
今日は、私の生家にいるお母様を、尋ねて来ている。
私が結婚する年頃になると、お母様は愛するお父様を突然病で亡くし、財産は減る一方で、最終的にはこの生家すら奪われそうになっていた。
だから私は、スクワイア男爵に勧められるまま、ファルター様と結婚したのである。
結局最終まで、ファルター様に愛されなかったけれど、結婚したそのことには後悔などしていない。
私の結婚でお母様の生活を守れたことは、私の誇りなのだから。
「実はね、最近知り合った素敵な男性がいるの。
ソフィアにも、会って欲しいわ。」
「そう、素敵ね。
どんな方?」
「メルビン様って言う伯爵なんだけれど、その方も妻を亡くされたそうで、とっても気が合うのよ。
あなたにもぜひ紹介したいわ。」
「わかりました。
ぜひお会いしましょう。」
お母様はとても善人で、人を疑うことを知らない。
お父様が亡くなってから、男性と知り合っては、僅かばかりしかない財産を奪われ、その後しばらくは悲しみくれることが何度かある。
私はそのたびに心配していた。
だがその頃の私は、ファルター様の決めた病弱設定のせいで、なかなか外に出られなかった。
だからお母様が、悪い男に財産を奪われていくのを、ただじっと見守ることしかできなかった。
でも今は、イヴァン様が自由にさせてくれるお陰で、私は動くことができる。
今度こそ私は、お母様には内緒で、早めにその方が悪い男でないか、探ろうと思っている。
どうやって調べようか?
そう考えながら邸に戻ると、イヴァン様が呼んでいると、ホベルトが教えてくれた。
私は、とりあえずイヴァン様の執務室へ向かう。
「イヴァン様、お呼びと伺いましたが?」
「ああ、入ってくれ。」
イヴァン様の執務室に入るのは、結婚して以来だ。
もうすでに懐かしい。
「そこに、かけてくれ。」
「はい。」
私は勧められたソファに、イヴァン様と向かい合って座る。
「用件だが、僕達は一応夫婦だから、一緒に夜会に出なくてはならない。
差し当たって、取引先の人が開催する夜会に行くから。
覚えておいて欲しい。」
「はい。」
「まだ、僕達は揃いの夜会服も作ってなかったね。
急ぎで何着か作らせよう。」
「わかりました。
イヴァン様は、私を伴って夜会に行くのは平気ですの?」
「どう言う意味だ?」
「私と一緒にいるのは嫌なのかと、思いまして。
夜会などで、エスコートのために腕を組んだりするのは特に。」
「いや、今は以前より嫌じゃないよ。
僕が悪かったから、仕方がないけれども、僕は君との結婚を聞いた時は、とても嫌だと思った。
何とか回避したかったくらいだ。
けれども、今君を見ていると、当時感じていた嫌悪感が何故かない。
君が兄といる場面が、想像つかないと言うか、似合わないような気がするんだ。
本当に夫婦だったのか?と思うほどだ。
ソフィアは、兄のことをどう思っていた?」
「ファルター様は、…。
感謝しておりますけれども、特に申し上げることはありません。」
「そうか。
じゃあ、もう行っていいよ。」
「はい。」
ソフィアは、執務室を後にしながら、何と答えるべきだったのか分からなかった。
あなたのお兄さんは、勝手な人で、自分が恋人といる口実のために、私を邸に閉じ込めたのよと、言ってしまいたかった。
でも、たった二人の兄弟で、しかも亡くなっているのに、私の口から悪く言えるはずがない。
ましてやファルター様は、お母様の生活の費用を負担してくれていたのに。
それを納得して暮らしていたのは、自分自身だ。
いや、納得はしていない。
諦めていたのだ。
だがそれすらすべて、イヴァン様には言うべきではないのだろう。
ソフィアが席を立ち、執務室を出ると、僕は頭を抱えた。
ついに、彼女に兄とのことを聞いてしまった。
だが彼女は、辛そうなようすで言い淀み、結局何も言わなかった。
やはり彼女は、まだ兄のことを思っているのだろう。
僕と、兄のことを話せないほどに。
最近、笑顔で邸にいるソフィアを見るうちに、彼女に興味を持って来ているなんて、僕はどうかしてる。
彼女はまだ兄を思っているのに、僕のこのような気持ちは、彼女も迷惑だろう。
父からソフィアと結婚するように言われた時は、侯爵になるために、兄の妻だった人と結婚するなんて、なんて悪趣味なのかと、本当に吐き気がした。
だけど、彼女には兄の好きそうな媚びた笑みや、異常な服の露出、卑猥な言葉使いなど一切ないのだ。
僕に取り入ろうと、下品な下着姿で、寝室に現れ、しなだれかかって来ることもないし。
使用人達とは、仲良くしているようだが、誰か特定の男と、ベタベタしている様子がない。
そのようなことをしていたら、すぐにホベルトから、報告が上がるように手配している。
本当に彼女は、いかにも兄の妻と言うところが見受けられない。
最初は、兄の妻なら若い頃に散々されたように、パートナーがいても、他の男を誘うような女だろうと思って警戒していた。
だからこそ、最初に白い結婚にして、彼女とは関わりたくないと、はっきり言葉で示したのだ。
するとソフィアは、僕に嫌われているからと、同じ邸に本当にいるのかと思うほどに、気配を消した。
僕は、ソフィアについて何か、大きな勘違いをしているのかもしれない。
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