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小さな少女
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「ねえ、ねえ。」
小さな女の子の声だけが私の耳に聞こえる。よく聞こえない。白い靄がかかっていて、少女の様子がこちらからは窺えない。その少女のことが、私は無性になぜか気になった。気が付けば私はその声が聞こえるほうへ歩いていた。私にこんな小さな知り合いなどはいない。しかし知っているような気がした。会って今すぐにでも確かめなくてはならないという、衝動にかられた。少しずつ視界が明るくなっていく。鮮明に。
誰だろうか。見たことのない女の子がそこにいる。まだやっと、小学校に上がったばかりのような年齢だろう。私に、その女の子は気が付いていないようだ。その、まだあどけない表情で少女は誰かに話しかけている。奥に体格の良い、身長はそこまで高くないが、まだ若い男が立っていた。きっと、あの少女の父親だろう。こちらに気が付いてもよさようだが、やはりその父親も私には気が付かない。こちらからは、はっきりと見えているのに向こうからは見えないなんて可笑しなことがあるだろうか。何か、壁でもあるのだろうか。向こう側には何か結界でも張ってあるのだろうか。もしかしたら、こちらのほうが次元か何かが高くて向こうが見えるが、向こうからしてみれば、もともとない概念であり、当然こちらは、ないものであるとかはどうだろうか。言っていて自分で半ばわからなってきた時、また少女の声が聞えた。
「あのね、お父さん。」
お父さんと言われたその男は、少女の声に気が付きこちらに振り返った。その男に当然ながら私は会ったことなど無かった。ただ、人の好さそうな男性だった。
「わたしは、今、夢を見ているの。」
そうか。一本取られたと思った。そうか、こんなことも分からなかったなんて自分がいかに愚かだということを思わされた。しかもまだ、こんなにも小さな少女に。そうか。私は夢を見ているのか。なるほど。確かに言われればそうだ。納得である。夢だとすれば、誰も私に気が付かないのも納得である。簡単な話ではないか。実に馬鹿だと思った。
「何言っているんだい?今、こうして、お父さんとお話ししているじゃないか。寝ぼけているのかな。」
この会話を聞いてなぜか可笑しくなってきた。笑いを抑えるのに必死で気を抜けば吹き出してしまいそうだ。なぜかだって。一番この状況を理解しているのは下手に年を取っただけの大人ではなく十歳にも満たない幼い女の子だからである。父親すらそんなことに気が付かず、むしろ、自分が正しいと思い娘を疑っているではないか。そんな会話が無性に聞いていて可笑しくなった。
「ううん。夢を見ているの。」
もう一回それを聞いて、今度は父親がわかったよ、折れたよ、お父さんの負けだとでも言うように少し肩をあげてから娘に笑いかけた。私にはわかる。それは本当の父親の笑顔だった。娘がこれでもかというくらい、娘が大好きな父親の顔だった。どんなことがあってもきっと、この人はこの子の父親なのだと思った。それくらい、その父親の笑顔には愛が溢れていた。
「お父さん、大好きだよ。」
目が覚めた少女の目には、涙が溜まっていた。
「父さん…」
彼女はそう呟いた。懐かしい父親の顔を忘れないように何度も何度も思い出しながら。
小さな女の子の声だけが私の耳に聞こえる。よく聞こえない。白い靄がかかっていて、少女の様子がこちらからは窺えない。その少女のことが、私は無性になぜか気になった。気が付けば私はその声が聞こえるほうへ歩いていた。私にこんな小さな知り合いなどはいない。しかし知っているような気がした。会って今すぐにでも確かめなくてはならないという、衝動にかられた。少しずつ視界が明るくなっていく。鮮明に。
誰だろうか。見たことのない女の子がそこにいる。まだやっと、小学校に上がったばかりのような年齢だろう。私に、その女の子は気が付いていないようだ。その、まだあどけない表情で少女は誰かに話しかけている。奥に体格の良い、身長はそこまで高くないが、まだ若い男が立っていた。きっと、あの少女の父親だろう。こちらに気が付いてもよさようだが、やはりその父親も私には気が付かない。こちらからは、はっきりと見えているのに向こうからは見えないなんて可笑しなことがあるだろうか。何か、壁でもあるのだろうか。向こう側には何か結界でも張ってあるのだろうか。もしかしたら、こちらのほうが次元か何かが高くて向こうが見えるが、向こうからしてみれば、もともとない概念であり、当然こちらは、ないものであるとかはどうだろうか。言っていて自分で半ばわからなってきた時、また少女の声が聞えた。
「あのね、お父さん。」
お父さんと言われたその男は、少女の声に気が付きこちらに振り返った。その男に当然ながら私は会ったことなど無かった。ただ、人の好さそうな男性だった。
「わたしは、今、夢を見ているの。」
そうか。一本取られたと思った。そうか、こんなことも分からなかったなんて自分がいかに愚かだということを思わされた。しかもまだ、こんなにも小さな少女に。そうか。私は夢を見ているのか。なるほど。確かに言われればそうだ。納得である。夢だとすれば、誰も私に気が付かないのも納得である。簡単な話ではないか。実に馬鹿だと思った。
「何言っているんだい?今、こうして、お父さんとお話ししているじゃないか。寝ぼけているのかな。」
この会話を聞いてなぜか可笑しくなってきた。笑いを抑えるのに必死で気を抜けば吹き出してしまいそうだ。なぜかだって。一番この状況を理解しているのは下手に年を取っただけの大人ではなく十歳にも満たない幼い女の子だからである。父親すらそんなことに気が付かず、むしろ、自分が正しいと思い娘を疑っているではないか。そんな会話が無性に聞いていて可笑しくなった。
「ううん。夢を見ているの。」
もう一回それを聞いて、今度は父親がわかったよ、折れたよ、お父さんの負けだとでも言うように少し肩をあげてから娘に笑いかけた。私にはわかる。それは本当の父親の笑顔だった。娘がこれでもかというくらい、娘が大好きな父親の顔だった。どんなことがあってもきっと、この人はこの子の父親なのだと思った。それくらい、その父親の笑顔には愛が溢れていた。
「お父さん、大好きだよ。」
目が覚めた少女の目には、涙が溜まっていた。
「父さん…」
彼女はそう呟いた。懐かしい父親の顔を忘れないように何度も何度も思い出しながら。
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