31 / 72
第02章
第30話 欧州SSRチーム
しおりを挟む
俺たちパーティは、迷いの森を慎重に進んでいた。
時折立ち止まり、方角と足跡を確認する。
由利衣のマッピングは順調。
山本先生が張った魔力ロープとの照合でも、位置のずれはほとんどない。
この精度なら、実戦投入もいけるな。
「これはいいな。
素材の採取エリアや罠の位置なんかも記録できたら、さらに攻略の役に立つんだが……」
軽い冗談のつもりだった。
だが由利衣は少し考え込み、唇に指をあてて「うーん……」と唸ったあと、
あっさりと答えた。
「そうですね。できるようにします」
まるで「明日から対応します」とでも言うような調子。
女教皇の魔眼能力は、回復と絶対防御――だったはず。
派生機能の方が、どんどん高性能になっている気がする。
そして、このエリアに足を踏み込む前、結界レーダーが人間の反応を捉えていた。
その数は四。
魔力の大きさから、由利衣の評価ではかなりの実力者だという。
それが、徐々に近づいている。
俺はすでに短刀・飛燕を抜いていた。
怪しい動きがあれば、即座に斬る──それだけの危険は想定しておかなくてはならない。
俺から立ち昇る魔力を見て、来奈は明らかにビビっていた。
もしこちらから仕掛ける状況なら、魔力を極限まで抑えて研ぎ澄ますところだ。
だが、今は威嚇の意図もある。
背後から由利衣の「来ます」の声。
と、同時に向こうから声がかかった。
「戦闘の意思はない! 武器をおさめられよ!」
あらわれたのは女性四人組。
先頭に立つのは金髪碧眼のキリリとした表情の美女。
西洋鎧に身を包み、ため息の出るようなブロンドヘアをなびかせている。
まるで絵画から飛び出してきたような女騎士だ。
その後ろには、若い騎士。
うちの三人と同世代くらい。肩までのオレンジがかった髪に水色の瞳。
いかにも元気満点。敵意がないことを示すようにニコニコしている。
向こうも、こちらの編成を見て安心しているようだ。
三人目は、小柄で大人しそうな少女。中学生くらいか。
銀髪のショートカットに水色の目、聖職者めいたローブ姿。
先頭の女騎士の背後に隠れるように、モジモジとしている。
最後は……俺をめちゃくちゃ睨んできている。
金髪で緑色の目。整った顔立ちだが目つきが鋭く、いかにもガラが悪い。
Tシャツにウインドブレーカー、下は短パンとスパッツ。そしてスニーカー。
近所に買い物にでも行くような出で立ち。
リーダーと思しき女騎士が、口を開く。
「我々は第二層攻略中の冒険者パーティ。所属は……欧州合同チームだ。
貴君らは?」
相手が名乗った以上、こちらも応じるのが礼儀だ。
俺は魔力を抑え、静かに答えた。
「俺たちは日本のパーティだ。同じく第二層攻略中。
こちらとしても戦闘の意思はないが、正体がわからない以上は警戒の必要があった」
その言葉に、女騎士は頷く。
そして、俺の後ろの三人を見てふと気づいたようだった。
「そうか……日本のSSR。ここで訓練中とは」
次の瞬間、後方の若い騎士が大声を上げた。
「あーー! 知ってる! 私もチャンネル登録してるんだよ。
いいなー。私たちも配信やろうって言ってるのに、クラリス先輩がダメだって」
「アリサ」
女騎士がじろりと厳しい目線を向ける。
「我々はいまはパーティだが、それぞれ所属は異なる。
四か国の意見をまとめるまでは軽々しく配信などできないのだ。
何度言ったら分かるんだか……」
言われたアリサは頬を膨らませた。
「ええー。私の国は別にいいじゃんって感じですよ。
リュシアンだって、ねえ?」
そういって銀髪に声をかける。
リュシアンと呼ばれた少女はこくりと頷くが、一言も発しない。
そこに、ガラの悪い金髪が割り込んできた。
「アリサ。お前はあいかわらず適当だな。
まあ、あたいも別に構わないんだけどさー。この脳筋が固いっていうかー」
八重歯をのぞかせながら、不敵に女騎士――クラリスを見やる。
「ですよねー。マルグリットさん。
じゃあ、多数決で配信やっちゃいましょう! ねっ!
日本の皆さんもチャンネル登録よろしくで!!」
クラリスは苦々しく、アリサを睨んだ。
俺たちは反応できず、ただやり取りを見守っていた。
その中で、梨々花が一歩前に出て切り込む。
「クラリスさんって……イギリス代表の?
レイド戦、世界ランク五位ですよね。どうしてこんな低層に?」
――そう。俺も気づいてはいた。
★4のランクSR。戦闘魔法使いとしての技量は、麗良を凌ぐ。
現在、世界最強と目される存在だ。
もっとも、レイド戦の順位は個人の力量ではなく、チーム全体の総合力で決まる。
クラリスがどれほど卓越していようと、イギリスはチームの層が薄い。
……そして日本は、そのさらに下。
クラリスは、言いづらそうに口元をゆがめた。
この手の話には政治が絡む。
個人が軽々しく口にしていい内容ではないだろう。
だが、向こうには、うちの来奈に匹敵する能天気がいた。
アリサが嬉しそうに声を上げる。
「クラリス先輩、欧州チームの強化に付き合ってもらってるんです! なにしろ私たち――」
「あーーーーーーーーーーーーー!!!」
その言葉を、クラリスの絶叫がかき消した。
場が一瞬、静まり返る。
クラリスはひとつ咳払いをしてから、政臣の方をチラリと見た。
「……すまないが、配信は遠慮してもらえないか。
これは大事な話なんだ。頼む」
俺は政臣に目で合図を送った。
政臣は即座に察し、適当なアナウンスを入れてカメラのスイッチを切る。
カメラのランプが落ちたのを確認すると、クラリスはわずかに表情を引き締め、俺の目を見据えた。
「貴君が指揮官か?
日本にもこれだけの魔法使いがいたとはな。なぜレイドに出てこないのか。
……まあ、それはいい」
腕を組み、数秒の思案。
小さく息を吐き、彼女は続けた。
「日本政府には、近く正式に通達する予定だ。それまでは内密に願いたい。
我々もSSRだ。ただし、一般公表する予定は今のところない」
淡々とした口調のまま、クラリスはパーティメンバーを紹介する。
クラリス・ヴィエール、イギリス代表。
アリサ・グランフィール、イタリア代表。
リュシアン・ベルナ、フランス代表。
マルグリット・エルンハルト、ドイツ代表。
そして、次に核心に踏み込んだ。
現在、欧州主要各国は連帯して魔法使いの強化育成に取り組んでいる。
その中で、SSRを集めたトップチームを編成し、世界に対抗できる戦力へと育て上げる――それが彼女たち“欧州合同チーム”の目的だ。
とはいえ、クラリス以外の三名は、まだ魔法使いとしての経験が浅い。
加えて、リュシアンとマルグリットの魔眼は戦闘向きではないという。
そこで、各国はイギリスに対し、クラリスの参加を要請した。
「一国の利益よりも地域全体の安定を」――その圧力に抗しきれず、イギリスは渋々承諾したらしい。
そこまでの極秘情報を、よくもここまで平然と口にするものだ――と思っていると、クラリスはさらに言葉を重ねた。
「日本にも、近く参加を持ちかける予定だ。
もっとも、サブパートナーとしての立場になるだろうが」
SSRの戦闘魔法使いがクラリスとアリサの二名のみだとすれば、
日本の三人の戦力は、確かにパワーバランスを保つために喉から手が出るほど欲しいカード――。
その狙いが透けて見えた。
そこへ、マルグリットがクラリスの言葉に茶々を入れてくる。
「そこの脳筋の能力だって、別に戦闘向けじゃないんだけどなー。
どうしてこう、クセの強いのが集まったんだか」
アリサも悪びれずに同意した。
「ですよねー。クラリス先輩、フィジカルお化けなんで、そもそも魔眼いらないんじゃないかって思いますけど。
あの知的な能力、あんまり似合ってないし。リュシアンもそう思うよね?」
振られたリュシアンは、困ったような顔でモジモジしている。
クラリスはこめかみをぴくりと動かしたが、後ろの会話をあえてスルーする。
来奈が、興味津々といった様子で乗ってきた。
「へぇー、どんなやつなの? あたしたちのは知ってると思うけど。
他の魔眼なんて、ワクワクするじゃん!」
アリサが「それがね――」と口を開きかけた瞬間、クラリスが低い声で制した。
「……それは、追々。申し訳ないが」
それは当然だ。
日本と正式に合意してからでなければ、明かせるはずがない。
そのとき、由利衣の声が静かに響いた。
「……います。二百メートル先に。これは狼ですね。十五体」
山本先生の肩がピクリと震えた。
先日の記憶が蘇ったのかもしれない。
アリサが感嘆の声を漏らす。
「動画で見たけど、本当に分かるんだ。すごーい」
俺の目から見ても、クラリス以外の三人は確かにまだ発展途上。
この森の巨大生物に対抗できるほどの実力は、いまのところ感じられない。
事実、リュシアンはアリサの袖を不安そうに掴み、離そうとしなかった。
アリサはニコッと笑いかけ、軽く肩を叩く。
「大丈夫だって。みんなで戦えば平気。男の子でしょ?」
……どう見ても美少女なんだが。
男だったのか。
そう思っていると、クラリスが静かに腰の大剣を抜き放った。
世界で最も有名な剣――。
――魔導ギア・聖剣エクスカリバー。
第二層のモンスター相手には、オーバーキルもいいところだ。
だが率いる三名の戦力に不安がある以上、クラリスが全力で叩くしかない。
パワーレベリングでアリサたちのステータスを底上げしていく、そういう作戦だろう。
他国の方針に、あれこれ口を挟む気はない。事情も異なるのだから。
ただ、俺はうちの三人には地道に実戦を積ませていく――そういう泥臭い派、というだけだ。
そんな思考にとらわれていたところ、ふいにアリサを中心に熱風が吹いた。
心臓がドンッと力強い音をたて、瞳が大きく揺れた。
クラリスは「必要ない」と静かに言うが、アリサは意に介さない。
「そりゃあそうでしょうけどー。パーティの仲間じゃないですか!」
……なんだこれは。
心の奥底から湧き上がる、この鼓動の高まり。
魂に火が付いたように揺さぶられる。
見ると、さっきまで能天気に笑っていた少女から、圧倒的な魔力のオーラが立ち上っていた。
「なに!? なにこれっ!? 力が湧いてくる!
茜ちゃんのバフよりも、ぜんっぜん強烈なんだけど!!」
来奈が驚愕の声を上げると、マルグリットがニヤリと笑う。
「まーな。こいつ、これだけはすげーんだ。
アリサの気合い注入後に競馬行くと調子よくてさー。
あたい、日本のパチンコも行ってみたいんだよな」
俺は懐の冒険者カードを取り出して、ちらりと見る。
【佐伯 修司 ★★★★★】
ランク:R
レベル:99
体力 :B 9,999
攻撃力:A 9,999
魔力 :C 8,496
耐久力:C 8,835
魔防 :D 4,557
敏捷 :B 9,999
幸運 :C 6,582
特典 :A
一番低い魔防値の元が1,519だから――単純にステータス三倍。
でたらめなバフだ。
アリサ個人の技量はまだこれからだとしても、パーティ全体の戦力を底上げする、極めて貴重な存在。
……これは、欧州勢もあなどれないな。
アリサはニコニコと俺たちに笑いかけてくる。
「私の魔眼は“力”(The Strength)。
日本のSSRとも仲良くしたいんだー。でしょ、クラリス先輩?」
「……勝手にしろ。私の能力は明かさないからな」
苦虫を噛み潰したようなクラリスの顔。
あっちもあっちで大変だな……。
俺はクラリスの心労を思い、思わず口角が引きつっていた。
時折立ち止まり、方角と足跡を確認する。
由利衣のマッピングは順調。
山本先生が張った魔力ロープとの照合でも、位置のずれはほとんどない。
この精度なら、実戦投入もいけるな。
「これはいいな。
素材の採取エリアや罠の位置なんかも記録できたら、さらに攻略の役に立つんだが……」
軽い冗談のつもりだった。
だが由利衣は少し考え込み、唇に指をあてて「うーん……」と唸ったあと、
あっさりと答えた。
「そうですね。できるようにします」
まるで「明日から対応します」とでも言うような調子。
女教皇の魔眼能力は、回復と絶対防御――だったはず。
派生機能の方が、どんどん高性能になっている気がする。
そして、このエリアに足を踏み込む前、結界レーダーが人間の反応を捉えていた。
その数は四。
魔力の大きさから、由利衣の評価ではかなりの実力者だという。
それが、徐々に近づいている。
俺はすでに短刀・飛燕を抜いていた。
怪しい動きがあれば、即座に斬る──それだけの危険は想定しておかなくてはならない。
俺から立ち昇る魔力を見て、来奈は明らかにビビっていた。
もしこちらから仕掛ける状況なら、魔力を極限まで抑えて研ぎ澄ますところだ。
だが、今は威嚇の意図もある。
背後から由利衣の「来ます」の声。
と、同時に向こうから声がかかった。
「戦闘の意思はない! 武器をおさめられよ!」
あらわれたのは女性四人組。
先頭に立つのは金髪碧眼のキリリとした表情の美女。
西洋鎧に身を包み、ため息の出るようなブロンドヘアをなびかせている。
まるで絵画から飛び出してきたような女騎士だ。
その後ろには、若い騎士。
うちの三人と同世代くらい。肩までのオレンジがかった髪に水色の瞳。
いかにも元気満点。敵意がないことを示すようにニコニコしている。
向こうも、こちらの編成を見て安心しているようだ。
三人目は、小柄で大人しそうな少女。中学生くらいか。
銀髪のショートカットに水色の目、聖職者めいたローブ姿。
先頭の女騎士の背後に隠れるように、モジモジとしている。
最後は……俺をめちゃくちゃ睨んできている。
金髪で緑色の目。整った顔立ちだが目つきが鋭く、いかにもガラが悪い。
Tシャツにウインドブレーカー、下は短パンとスパッツ。そしてスニーカー。
近所に買い物にでも行くような出で立ち。
リーダーと思しき女騎士が、口を開く。
「我々は第二層攻略中の冒険者パーティ。所属は……欧州合同チームだ。
貴君らは?」
相手が名乗った以上、こちらも応じるのが礼儀だ。
俺は魔力を抑え、静かに答えた。
「俺たちは日本のパーティだ。同じく第二層攻略中。
こちらとしても戦闘の意思はないが、正体がわからない以上は警戒の必要があった」
その言葉に、女騎士は頷く。
そして、俺の後ろの三人を見てふと気づいたようだった。
「そうか……日本のSSR。ここで訓練中とは」
次の瞬間、後方の若い騎士が大声を上げた。
「あーー! 知ってる! 私もチャンネル登録してるんだよ。
いいなー。私たちも配信やろうって言ってるのに、クラリス先輩がダメだって」
「アリサ」
女騎士がじろりと厳しい目線を向ける。
「我々はいまはパーティだが、それぞれ所属は異なる。
四か国の意見をまとめるまでは軽々しく配信などできないのだ。
何度言ったら分かるんだか……」
言われたアリサは頬を膨らませた。
「ええー。私の国は別にいいじゃんって感じですよ。
リュシアンだって、ねえ?」
そういって銀髪に声をかける。
リュシアンと呼ばれた少女はこくりと頷くが、一言も発しない。
そこに、ガラの悪い金髪が割り込んできた。
「アリサ。お前はあいかわらず適当だな。
まあ、あたいも別に構わないんだけどさー。この脳筋が固いっていうかー」
八重歯をのぞかせながら、不敵に女騎士――クラリスを見やる。
「ですよねー。マルグリットさん。
じゃあ、多数決で配信やっちゃいましょう! ねっ!
日本の皆さんもチャンネル登録よろしくで!!」
クラリスは苦々しく、アリサを睨んだ。
俺たちは反応できず、ただやり取りを見守っていた。
その中で、梨々花が一歩前に出て切り込む。
「クラリスさんって……イギリス代表の?
レイド戦、世界ランク五位ですよね。どうしてこんな低層に?」
――そう。俺も気づいてはいた。
★4のランクSR。戦闘魔法使いとしての技量は、麗良を凌ぐ。
現在、世界最強と目される存在だ。
もっとも、レイド戦の順位は個人の力量ではなく、チーム全体の総合力で決まる。
クラリスがどれほど卓越していようと、イギリスはチームの層が薄い。
……そして日本は、そのさらに下。
クラリスは、言いづらそうに口元をゆがめた。
この手の話には政治が絡む。
個人が軽々しく口にしていい内容ではないだろう。
だが、向こうには、うちの来奈に匹敵する能天気がいた。
アリサが嬉しそうに声を上げる。
「クラリス先輩、欧州チームの強化に付き合ってもらってるんです! なにしろ私たち――」
「あーーーーーーーーーーーーー!!!」
その言葉を、クラリスの絶叫がかき消した。
場が一瞬、静まり返る。
クラリスはひとつ咳払いをしてから、政臣の方をチラリと見た。
「……すまないが、配信は遠慮してもらえないか。
これは大事な話なんだ。頼む」
俺は政臣に目で合図を送った。
政臣は即座に察し、適当なアナウンスを入れてカメラのスイッチを切る。
カメラのランプが落ちたのを確認すると、クラリスはわずかに表情を引き締め、俺の目を見据えた。
「貴君が指揮官か?
日本にもこれだけの魔法使いがいたとはな。なぜレイドに出てこないのか。
……まあ、それはいい」
腕を組み、数秒の思案。
小さく息を吐き、彼女は続けた。
「日本政府には、近く正式に通達する予定だ。それまでは内密に願いたい。
我々もSSRだ。ただし、一般公表する予定は今のところない」
淡々とした口調のまま、クラリスはパーティメンバーを紹介する。
クラリス・ヴィエール、イギリス代表。
アリサ・グランフィール、イタリア代表。
リュシアン・ベルナ、フランス代表。
マルグリット・エルンハルト、ドイツ代表。
そして、次に核心に踏み込んだ。
現在、欧州主要各国は連帯して魔法使いの強化育成に取り組んでいる。
その中で、SSRを集めたトップチームを編成し、世界に対抗できる戦力へと育て上げる――それが彼女たち“欧州合同チーム”の目的だ。
とはいえ、クラリス以外の三名は、まだ魔法使いとしての経験が浅い。
加えて、リュシアンとマルグリットの魔眼は戦闘向きではないという。
そこで、各国はイギリスに対し、クラリスの参加を要請した。
「一国の利益よりも地域全体の安定を」――その圧力に抗しきれず、イギリスは渋々承諾したらしい。
そこまでの極秘情報を、よくもここまで平然と口にするものだ――と思っていると、クラリスはさらに言葉を重ねた。
「日本にも、近く参加を持ちかける予定だ。
もっとも、サブパートナーとしての立場になるだろうが」
SSRの戦闘魔法使いがクラリスとアリサの二名のみだとすれば、
日本の三人の戦力は、確かにパワーバランスを保つために喉から手が出るほど欲しいカード――。
その狙いが透けて見えた。
そこへ、マルグリットがクラリスの言葉に茶々を入れてくる。
「そこの脳筋の能力だって、別に戦闘向けじゃないんだけどなー。
どうしてこう、クセの強いのが集まったんだか」
アリサも悪びれずに同意した。
「ですよねー。クラリス先輩、フィジカルお化けなんで、そもそも魔眼いらないんじゃないかって思いますけど。
あの知的な能力、あんまり似合ってないし。リュシアンもそう思うよね?」
振られたリュシアンは、困ったような顔でモジモジしている。
クラリスはこめかみをぴくりと動かしたが、後ろの会話をあえてスルーする。
来奈が、興味津々といった様子で乗ってきた。
「へぇー、どんなやつなの? あたしたちのは知ってると思うけど。
他の魔眼なんて、ワクワクするじゃん!」
アリサが「それがね――」と口を開きかけた瞬間、クラリスが低い声で制した。
「……それは、追々。申し訳ないが」
それは当然だ。
日本と正式に合意してからでなければ、明かせるはずがない。
そのとき、由利衣の声が静かに響いた。
「……います。二百メートル先に。これは狼ですね。十五体」
山本先生の肩がピクリと震えた。
先日の記憶が蘇ったのかもしれない。
アリサが感嘆の声を漏らす。
「動画で見たけど、本当に分かるんだ。すごーい」
俺の目から見ても、クラリス以外の三人は確かにまだ発展途上。
この森の巨大生物に対抗できるほどの実力は、いまのところ感じられない。
事実、リュシアンはアリサの袖を不安そうに掴み、離そうとしなかった。
アリサはニコッと笑いかけ、軽く肩を叩く。
「大丈夫だって。みんなで戦えば平気。男の子でしょ?」
……どう見ても美少女なんだが。
男だったのか。
そう思っていると、クラリスが静かに腰の大剣を抜き放った。
世界で最も有名な剣――。
――魔導ギア・聖剣エクスカリバー。
第二層のモンスター相手には、オーバーキルもいいところだ。
だが率いる三名の戦力に不安がある以上、クラリスが全力で叩くしかない。
パワーレベリングでアリサたちのステータスを底上げしていく、そういう作戦だろう。
他国の方針に、あれこれ口を挟む気はない。事情も異なるのだから。
ただ、俺はうちの三人には地道に実戦を積ませていく――そういう泥臭い派、というだけだ。
そんな思考にとらわれていたところ、ふいにアリサを中心に熱風が吹いた。
心臓がドンッと力強い音をたて、瞳が大きく揺れた。
クラリスは「必要ない」と静かに言うが、アリサは意に介さない。
「そりゃあそうでしょうけどー。パーティの仲間じゃないですか!」
……なんだこれは。
心の奥底から湧き上がる、この鼓動の高まり。
魂に火が付いたように揺さぶられる。
見ると、さっきまで能天気に笑っていた少女から、圧倒的な魔力のオーラが立ち上っていた。
「なに!? なにこれっ!? 力が湧いてくる!
茜ちゃんのバフよりも、ぜんっぜん強烈なんだけど!!」
来奈が驚愕の声を上げると、マルグリットがニヤリと笑う。
「まーな。こいつ、これだけはすげーんだ。
アリサの気合い注入後に競馬行くと調子よくてさー。
あたい、日本のパチンコも行ってみたいんだよな」
俺は懐の冒険者カードを取り出して、ちらりと見る。
【佐伯 修司 ★★★★★】
ランク:R
レベル:99
体力 :B 9,999
攻撃力:A 9,999
魔力 :C 8,496
耐久力:C 8,835
魔防 :D 4,557
敏捷 :B 9,999
幸運 :C 6,582
特典 :A
一番低い魔防値の元が1,519だから――単純にステータス三倍。
でたらめなバフだ。
アリサ個人の技量はまだこれからだとしても、パーティ全体の戦力を底上げする、極めて貴重な存在。
……これは、欧州勢もあなどれないな。
アリサはニコニコと俺たちに笑いかけてくる。
「私の魔眼は“力”(The Strength)。
日本のSSRとも仲良くしたいんだー。でしょ、クラリス先輩?」
「……勝手にしろ。私の能力は明かさないからな」
苦虫を噛み潰したようなクラリスの顔。
あっちもあっちで大変だな……。
俺はクラリスの心労を思い、思わず口角が引きつっていた。
0
あなたにおすすめの小説
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~
仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。
ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。
ガチャ好きすぎて書いてしまった。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる