終末のSSR ―最強おじさんの戦闘アイドル育成プロジェクト―

白猫商工会

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第02章

第39話 第二層ボス攻略(5)

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第二層ボス。

それは、候補たちが凄惨な殺し合い――蠱毒の儀から始まる。
挑戦者はただ眺めるしかない。ここからもう、精神を削る戦いだ。

配信はすでに始まっている。
俺はカメラに向かって口を開いた。

「ボス候補は、冒険者おなじみのラインナップ。
イケメン揃いだな」

毒ムカデ
毒カエル
毒蛇
毒サソリ
毒蜘蛛
毒蜂
毒蛾
毒モグラ
毒G

横で政臣がスマホを差し出した。ちらりと視線だけ流す。
やはり視聴者の推しは――毒モグラか。

見た目的に、まだスナック片手に観戦できる。

いや、意外とムカデも……。
あれだけ巨大だと、もはやファンタジー。
リアリティがないのかもしれない。

当初の予定では、ボスエリアに石を投げ込み蠱毒開始。
その間は、遠くで森林浴でもしながら精神を落ち着ける……という段取りだった。

しかし、昨日アリサたちの戦いを目の当たりにし、いまはその本人が見守っている。

さすがに、後ろ向きな態度は憚られる。
結果――全員がその場に残り、蠱毒を見届ける覚悟を決めたようだった。

バトルメンバーがボスエリアに踏み込む。

――いよいよ、ボス戦開始。

クラリスが、さっそく解説を始めた。

「毒蜂の動きは悪くない。
あの針は何度でも瞬時に再生するからな。しかも、あいつは寄生蜂だ。
卵を相手に産み付けて、戦闘中に羽化する。……腹を食い破られたやつを、私は何度も見てきた。
――お、毒蛾の鱗粉だな。呼吸器が数秒でドロドロに腐るぞ。
……勝負、あったか?」

俺も負けじと合いの手を入れる。

「なんの。毒カエルのド根性を見ろよ。
あのヌメヌメに触れると皮膚が一瞬でズル剥けになるんだぜ!
ほら、天敵のヘビを逆に溶かしてるじゃないか。今回はあいつだな。あの目は修羅の目だ」

やんやと実況していると、政臣からボスが選出されるまで解説は不要の声が飛んだ。

「視聴者数が減ってるんで。
“しばらくお待ちください”の画面に切り替えますねー」

俺とクラリスは、顔を見合わせる。

――なぜだ。
このイベントがハイライトだろう。

ふと視線を向けると――
見物のアリサとリュシアンは、そっぽを向いていた。
バトルメンバーに至っては、耳栓をして、完全に目線を逸らしている。

そして、選出されたのは――

お待ちかねの毒モグラだった。

デッキチェアで寝ていたマルグリットが、むくりと起き上がる。
八重歯をのぞかせ、上機嫌で笑った。

「おー、良かったな。
でも、お前ら変わってんなー。あたいの推しは毒蛾だったんだけどさ。
どうしてもって言われちゃあ、仕方ねえよな」

ボスエリアに立つ四人は、一斉にマルグリットへ親指を立てる。

あいつら、運命の輪の魔眼能力で……。

そして、マルグリットの爆弾発言。

「でさー。この出目の運の次に不運が来るんだけど。
それ、オッサンにつけるってことでいいんだな?」

俺は思わず、バッとボスエリアに顔を向ける。

だが四人は――
こちらへ振り向きもせず、戦闘態勢を整えていた。

「おい……」 

声をかけると、梨々花がそれをかき消す大声を張り上げた。

「みんな、気合い入れていくわよ!!
この一戦、私たちのために身を呈してくれた先生のために!!」

その言葉に、由利衣の瞳の輝きが増した。

「そう。コーチもわたしたちと一緒に戦ってくれているの。この想いを力に……」

祈るように両手を合わせると、来奈と山本先生は、力強く頷く。

隣でクラリスがボソリと呟く。

「よくわからんが、良いチームじゃないか」

俺は、うんうんと感心しているクラリスの声を、ただ無言で聞いていた

***

日本チーム対、第二層ボス・毒モグラの戦いが始まった。

「毒モグラ……個人的にはあまりお勧めはしないんだがな。
あの地中からの攻撃はなかなか厄介だぞ」

その言葉にクラリスは反応する。

「そうだな……やつの毒爪。
あれが攻略のカギとなるだろうな。斬り落としてしまえば脅威はなくなる……が、鋼鉄よりも硬い。
岩盤すら砕くからな」

見ているうちに、毒モグラは地中に潜り出す。

「一見、簡単そうな攻略法は――あの穴に火炎をぶち込むことなんだが……」

俺は苦い記憶を思い出していた。
作戦会議で梨々花から提案が出たとき、すぐに頭をよぎったのだ。

「……高校一年の春だったか。
似たようなことをやったが、地中の巨大アリの巣に当たってな。
命からがらダンジョン入口まで逃げ帰ったもんだ」

クラリスが渋い顔をする。
どうやら、似たような経験があるらしい。

視線を向けると、由利衣がすでに結界レーダーを展開していた。

「みんな、わたしを中心に動いて。
出てきた瞬間、叩くよ!」

姿の見えない敵に対しては、由利衣が司令塔。
残り三人はそれぞれ持ち場につき、どこから出ても対応できる陣形を取る。

来奈のグローブには、すでに梨々花による風属性付与が完了していた。
青白い風が拳を包み、軽く拳を振るたびに空気が唸る。

「なかなか動きが早いな……。うちのチームとは大違いだ」

クラリスが小さく呟いた。

そのとき、由利衣の銃が放たれる。
何もない地面に魔力弾が当たり、土埃が上がった。

「……ああやって出現位置をマーキングするんだ。
黒澤のアイデアだな。
戦闘センスはうちでも一番かもしれん」

言葉が終わるより早く、地面がボコッと盛り上がる。
鋭い爪がのぞいた。

巨大モグラ――地中モンスターの中でも厄介な相手だ。

「もらったー!」

来奈が突進。風を裂くような速度で距離を詰める――
が、その拳がボスに届く前に地面が大きく陥没した。
ズボッと嫌な音を立てて、腰まで埋まる。

「あれっ!? ちょ、足が――!」

上半身だけ突き出した来奈の頭上に、毒爪が振り下ろされる。

――そこに、矢が唸りを上げて飛んだ。
山本先生の一射がモグラの胴を貫く。二射、三射。連射のリズムが正確無比。

痛みに吠えたモグラは、来奈への攻撃を断念し、再び地中へと逃げ込んだ。

すかさず山本先生が駆け寄る。
矢筒を背に、手を差し伸べながら来奈を引き上げた。

「入江さん……無闇に突っ込まないように言いましたよね?」

穴から救い上げつつ、ため息まじりに言葉を落とす。

来奈は苦笑いを浮かべ、頭をかく。
「ごめーん、全然穴があるなんて分かんなくてさー!」

そして、すぐに戦闘態勢を整えた。

見ていたクラリスは、鼻からフーと息を吐いた。

「あえて姿を見せて誘う……初見では見抜きにくいのは確かだが。
だが、星の魔眼はもう少し慎重に動くべきだな。直線的すぎる」

的確なコメント。
だが、すかさずアリサの声が飛ぶ。

「それをクラリス先輩に言われたくないよねー。
こないだ巨大猿追いかけて罠にかかってたし。
猿に知恵比べで負けるなんて、どうなんだろうなーって。
リュシアンもそう思うでしょ?」

リュシアンは何も言わず、サンドイッチを頬張っていた。

クラリスは小さく咳払いをして、言葉を続ける。

「……とにかく、真っ向は危険。日本はどう出る?」

梨々花は由利衣のそばで、静かにタイミングを測っていた。

「……由利衣、どう?」

由利衣は目を閉じたまま集中していたが――次の瞬間、スッと目を開き、銃を構える。
閃光のような弾丸が地表を貫き、一撃のマーキング。

すぐさま梨々花が攻撃魔法の態勢に入る。

モグラの巨体が姿をあらわすと同時に、炎弾が飛んだ。
だが、それもモグラの爪で弾かれる。
ボンッ、と火炎が地面を焼き、消失。

「速いわね……でも」

立て続けに炎弾を浴びせかける。
正面からの攻撃は弾くが、上からの炎弾には対応できず、直撃したモグラの巨体が大きく傾いた。

「来奈! 右!」

由利衣の鋭い指示。
即座に風の斬撃を叩き込む来奈。

毒の血が噴き出す――が、梨々花の風魔法がすかさず吹き飛ばした。

「由利衣、山本先生!」

梨々花は即座に二人の武器に属性付与。

風が巻き起こり、魔力弾と矢が着弾すると炸裂し、巨体を抉る。

「魔術師と女教皇……戦況に冷静に対応できているな。
弓使いもなかなかの腕前だ」

クラリスが感心したように呟く。

後衛三人が砲台となってモグラのライフを削り、来奈は牽制と攪乱に回る。
作戦としては悪くない。

――だが、クラリスがフラグを立てた。

「しかし、アレがそろそろ来るんじゃないか。
毒モグラの必殺のアレだ。なあ?」
ワクワクした顔。

そして、毒モグラの体がぷくりと膨らむと――

猛烈な火炎ブレス。
毒ガスを体内で着火させているのだ。

毒プラス炎の相乗効果。

来奈は真正面から浴びるが、炎は由利衣の防御結界が防いでいた。
しかし――。

「あー! 指輪一個壊れた!!」

毒ガス成分には防御結界が無力。
来奈の状態異常を身代わりする指輪が砕け散った。
残り、あとひとつ。

毒モグラは続けて梨々花たち三人にも毒火炎を吐きかける。
来奈と同じく火炎は防がれたが、梨々花と由利衣の指輪も砕けた。
山本先生だけ運が良い。

いや、あの指輪は壊れる確率は三割もない。
うちのSSRたちは運ステータスに関わらず、こういった引きが弱いんじゃないかと思える。

そして毒モグラはダメ押し。

突如空中に飛び上がると、ドンッと着地。
その途端にボスエリアの地面が揺れた。

衝撃波を受け、バトルメンバー四人の態勢が大きく揺らぐ。

「出たな、モグラクエイク!!
スタン効果付きだぞ。
あの火炎で怯んでいると、まともに食らうんだ。
いや、してやられたな!!」

なぜか嬉しそうなクラリスの解説が森に響き渡る。

そして、毒モグラは再び地中に。

スタン効果は約一分。
次の地中からの攻撃で、仕留める気だ。

……まずいな。
クラリスのテンションとは裏腹に、状況は笑えない。
このままでは誰かがやられる。

由利衣は痺れる指をなんとか動かし、銃弾でマーキング。

その位置は、三人の真正面。

少し離れた位置にいる来奈も、まだ動けずにいる。

そして、地中から脅威が迫っていた。
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