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第03章
第59話 第三層ボス攻略(1)
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ベアトリス大統領との会談は、思いがけない方向へ話が広がったものの、彼女の本音を垣間見られたことで、それまで抱いていた一種の“得体の知れなさ”は消えていた。
――だが。
外の世界へ戻る時間になったとき、ベアトリスは挑発的な視線を日本の魔法使いたちに投げかけた。
「魔法使いは、みんな私の子供のようなもの……とは言ったけど。
それはそれ、これはこれ。
私は大統領として、国益をゴリゴリに推し進めるの。
レイドも、深層攻略も。どこにも負けないわ」
そう言って、全員と握手を交わす。
どうやら、“魔導の探求”と“政治”は別腹らしい。
神秘と世俗――そのどちらもが、ベアトリス・リリエンタールという人間なのだろう。
そして、にこりと笑う。
「それにしても、冒険の配信だなんて――今どきの魔法使いは面白そうね。
私も、八百年ぶりに冒険してみようかしら」
……言っていることの、どこまでが冗談なのか、まったく分からなかった。
そして俺たちは――
一種、夢のような幻想のひとときを終え、外の世界へと戻ることになった。
リスティアとゼファスは、日本のマスコミを避けるため、しばらくこの空間に滞在するという。
またの再会を約束し、セルジュ大使の案内で現実へと帰還した。
***
首相官邸でのセレモニーを終え、学院の寮に帰ってきた俺は、芹那からもらったスーツをクローゼットに突っ込み、部屋着に着替えた。
――こんな高級品は、性に合わない。
そして、食堂でインスタント麺を作る。
華やかな立食パーティでは、何も口にしていなかったのだ。
湯気の立つどんぶりを前に腰を下ろすと、
まるでタイミングを計っていたかのように三人が現れた。
自然と話題は――
ベアトリスが語った“亜精霊化”のことになる。
正面に座る由利衣が、俺のどんぶりにラー油と唐辛子と胡椒を容赦なくぶち込みながら、伏し目がちに呟いた。
「……もし、わたしが亜精霊になったら、不老不死を選ぶのかなって、ずっと考えてたの。
どれだけの覚悟がいるんだろう」
来奈は腕を組み、「うーん」と唸りながら天井を見上げた。
「あたしはあれだなー。
ずっと冒険できるのは楽しそうだけどさ。
“死なない”って分かってると、スリルがないっていうか。
行くとこまで行っちゃうのも……考えもんだよね」
その声はどこか達観していた。
命を張ることに、“意味”を感じている。
――戦闘民族の発想だ。
一瞬の沈黙のあと、梨々花のきっぱりとした声が落ちた。
「私は行くわ」
来奈と由利衣の視線が集まる。
梨々花は、テーブルの上で両掌を組み、確かな声で続けた。
「まずはその地平に立たないと、選択すらできないもの。
ベアトリスさんの追求する魔導の果てに、不老不死以上の意味があるのなら……見てみたいわ」
それも、一つの意見だろう。
SSRの完凸形態――“亜精霊化”が、魔法使いの果てなのか。
ベアトリスがいまだに「生」に執着するのは、おそらくその先に何かがあるからだ。
だが、そんな話を最近、誰かとした気がする。
誰だったか……。
そして、俺の背中に冷や汗が落ちた。
第三層の洞窟で出会った、あの不気味な女の言葉が脳裏によみがえる。
――魔法使いの“その先”にいる佐伯さんは……
さらに先には行こうと思わないのかしら?
あれは……。
精霊の特典が“ゴールではない”という意味なのか。
魔法使いの行き着く果て。
その“終末”とは、いったい何なのか。
そんな考えにとらわれたまま、俺は麺を一気に啜った。
……次の瞬間、盛大にむせる。
由利衣は防御結界を展開し、汁飛沫を見事に防いでいた。
「コーチ、落ち着いて食べてください」
心配そうな声が聞こえる。
なぜ、いつも俺の飯を辛くしようとするんだ。
水を口に含み、咳を落ち着かせると、三人に向かって言った。
「まあ……お前たちはまだ星1だ。そんな心配は当分先の話だろう。
でも、考えておくのは悪くない。――今日の会談は、そういう意味で意義があったな」
俺自身にも、だ。
完凸がゴールではないとしたら。
“その先”を、こいつらと一緒に見届けてみたい。
そう思える自分が、確かにそこにいた。
そんな考えが顔に出ていたのか――
梨々花が、ほんのりと目を細めて俺を見つめていた。
***
そして――第三層攻略は、いよいよ大詰めを迎える。
土曜日の冒険部は、防御結界の持続時間確認と戦術の最終調整にあてられた。
SSRの決戦は次週。
しかしその前に。
翌日はいよいよ、山本先生による第三層ボス討伐。
壁を打ち破る、記念すべき日となるか。まさに大一番だった。
俺たちがゲートをくぐると、スタートポイントには――
この世で一番会いたくない緑髪のメガネ女が、仁王立ちしていた。
ちなみに、二番目は学院長と九条の同率だ。
……大塚 芹那。
なぜ、ここに。
芹那は、俺の服装を見るなり、般若のように目を吊り上げた。
いつものスーツを着用していたのだ。
「修二ッ!!
あれだけ“きちんとした格好で冒険しなさい”って言ったでしょう!!
今すぐ脱ぎなさい!! 燃やしてやるわ!!」
次の瞬間、掌に火属性の魔力が集まりはじめる。
第七層のモンスターにも怯まなかった俺だが、あまりの気迫に一歩たじろいだ。
――そこに、柔らかな声が割って入る。
「まあまあ、芹那さん……そんなに興奮しないで」
見るからに“優男”。
こざっぱりした服装に、栗色のサラサラヘア。
整った顔立ちで、年の頃は二十代後半から三十代前半か。
……もちろん、誰だかまったく知らない。
そして、芹那をなだめながらも――明らかに腰が引けていた。
そこへ、山本先生がにこやかに声をかける。
「あらー、フレッド義兄さん。お久しぶりです」
呼びかけられた男は、ビクッと肩を震わせる。
芹那の旦那……か?
なぜ山本先生にもビビっているんだ?
……いや、まあ、分かる気もするが。
――大塚フレッド。魔法使いランクSR。
父は日本人、母はカナダ人。
ハイスクールまではカナダの学校に通っていたが、
優秀な魔法使いを求めていた日本政府の奨学金プログラムで来日。
そして――大学で芹那に見初められ、学生結婚。
父方の国の国籍を選んだ、らしい。
現在は、その語学力を活かして政府職員として勤務している。
……もっとも、これらの情報は後日聞かされたことで、現時点ではまったく知らなかった。
そもそも、こいつらの馴れ初めになど興味もない。
話を戻そう。
フレッドは山本先生に、口角を引きつらせながら声をかけた。
「あ……美鈴抽さん。
今日は第三層ボス、初チャレンジだよね。
これは応援しないと……って、芹那さんと。はは……」
長年、あの姉妹の“圧”にさらされてきた男の姿。――無理もない。
芹那は舌打ちし、再び俺へと鋭い視線を突き刺した。
「そう!! なのに修二ときたら!!
どうして義姉さんを困らせるの!? 反抗期なの!?」
勘弁してくれ。こっちは四十前なんだ
フレッドが慌てて仲裁に入る。
「ま、まあまあまあ……。
佐伯さんには、佐伯さんの都合が――」
そこまで言いかけると、芹那の視線がギロリと向く。
「……かな~、なんて」
声は見事に尻すぼみになった。
俺は、フレッドのなけなしの男気を無駄にはできなかった。
「……なあ、ここにきて四の五の言っても仕方ないだろ。
今から第三層に潜ってボス戦だ。着替えに戻る時間だって惜しい」
「開き直る気なのね……!!」
芹那はギリギリと奥歯を噛みしめた。
だが、山本先生をちらりと見ると――やがて、大きく息を吐く。
「……そうね。こんなところで言い争っている暇なんてないわ」
ホッとしたのも束の間。
予想外の発言が飛び出した。
「でも!! 美鈴抽の晴れ舞台なのよ。
視聴者さんに“汚い絵面”を見せるわけにはいかないわ。……でしょ?」
……でしょ?と言われてもな。
芹那は眼鏡のブリッジを押さえ、堂々と言い放つ。
「そういうわけで、私も参戦します。
画面を中和――ううん、“美の力”で浄化するの。
そうと決まったら、グズグズしてないで行くわよっ」
……相変わらず、強引かつ言っていることが分からない。
にこにこと笑顔の山本先生を除けば、一同は完全に置き去りだった。
その隙に、芹那はさっさと転移陣へと消えていった。
フレッドが、そっと俺の隣に寄ってきて囁く。
「言い出したら聞かないんです。でも……そこが可愛いところなんですけどね」
そういうのは家でやってくれ。
俺が微妙な顔をしていると、彼はさらに爽やかな笑みで言い添えた。
「でも、佐伯さんなら分かってくれそうです。――連帯していきましょう、ね?」
……冗談じゃない。
そこに、ゲンさんから声がかかる。
「芹那ちゃんも相変わらずだねぇ。
それにしても、いつから修ちゃん世帯持ったんだい?」
俺は曖昧に笑ってやり過ごすと、重い足取りで転移陣へと向かった。
***
第三層に入ると、芹那は早速、現場ディレクターのようにテキパキと指示を飛ばした。
「黒澤さんは結界の維持。桐生院さんは訓練通りに。
高柳くん、カメラの準備は……よし、いいわね」
そして――配信が始まると、嘘のように声のトーンが上がる。
「全世界のみなさん、こんにちはー!
あなたのセリーナこと、大塚 芹那ですっ!」
……このノリはいったい。
芹那はわざとらしくカメラに横顔を見せ、手で聞き耳を立てるポーズ。
「え? どうして私がいるのか、ですって?
それは――な、なんと!」
そこで、ジャージ姿の山本先生にバッと手を伸ばし、片足を後ろに跳ね上げた。
「この私の可愛い妹、美鈴抽の第三層ボスチャレンジなんですー!
今日は、私もサポートしちゃいたいと思います!
あっ、それと! ボスのドロップ品は視聴者プレゼント予定で~す!
どしどしご応募お待ちしてまーす!」
芹那はそのまま、山本先生にインタビュー。
「美鈴抽、意気込みはどうかな!?」
「私、第三層ボスは初めてなので緊張してますけど……。
姉さんと、それに――私だけのナイトがいてくれるから、頑張ります!」
山本先生は、胸の前で両こぶしをグッと握り、フンスと鼻息。
すかさず、芹那とフレッドが拍手を送る。
そして芹那は、政臣へ手で合図を送った。
――カメラ停止のサイン。
俺の方に冷徹な目を向ける。
「修二、あなたは映らなくていいから。
あと、その村正使って一撃でボスをぶち殺すなんて空気読めない真似したら、義姉さん本気で怒るわよ」
念を押すように、芹那の圧が俺に放たれる。
「今日の主役は美鈴抽なの。分かった?」
こくり……と頷くと、芹那は満足そうに微笑んだ。
そして――自らの武装を解き放つ。
魔導ギア・水龍鞭。
鋼鉄をも切断する水圧を、ムチのように操る上位魔導具だ。
……これこそ、ボスの火竜を膾斬りにしそうな勢いなんだが。
「それじゃあ、ちゃっちゃと行くわよ!
黒澤、さっさと寝る! 入江はおぶって、桐生院は冷やす。うん、よし!
ボンボンは美鈴抽をメインに映すのよ。あとでチェックするから。
ダーリンと修二は雑魚が出てきたら瞬殺。ボスまで一直線――ゴー!」
芹那の指示のもと、第三層ボス攻略が始まろうとしていた。
――だが。
外の世界へ戻る時間になったとき、ベアトリスは挑発的な視線を日本の魔法使いたちに投げかけた。
「魔法使いは、みんな私の子供のようなもの……とは言ったけど。
それはそれ、これはこれ。
私は大統領として、国益をゴリゴリに推し進めるの。
レイドも、深層攻略も。どこにも負けないわ」
そう言って、全員と握手を交わす。
どうやら、“魔導の探求”と“政治”は別腹らしい。
神秘と世俗――そのどちらもが、ベアトリス・リリエンタールという人間なのだろう。
そして、にこりと笑う。
「それにしても、冒険の配信だなんて――今どきの魔法使いは面白そうね。
私も、八百年ぶりに冒険してみようかしら」
……言っていることの、どこまでが冗談なのか、まったく分からなかった。
そして俺たちは――
一種、夢のような幻想のひとときを終え、外の世界へと戻ることになった。
リスティアとゼファスは、日本のマスコミを避けるため、しばらくこの空間に滞在するという。
またの再会を約束し、セルジュ大使の案内で現実へと帰還した。
***
首相官邸でのセレモニーを終え、学院の寮に帰ってきた俺は、芹那からもらったスーツをクローゼットに突っ込み、部屋着に着替えた。
――こんな高級品は、性に合わない。
そして、食堂でインスタント麺を作る。
華やかな立食パーティでは、何も口にしていなかったのだ。
湯気の立つどんぶりを前に腰を下ろすと、
まるでタイミングを計っていたかのように三人が現れた。
自然と話題は――
ベアトリスが語った“亜精霊化”のことになる。
正面に座る由利衣が、俺のどんぶりにラー油と唐辛子と胡椒を容赦なくぶち込みながら、伏し目がちに呟いた。
「……もし、わたしが亜精霊になったら、不老不死を選ぶのかなって、ずっと考えてたの。
どれだけの覚悟がいるんだろう」
来奈は腕を組み、「うーん」と唸りながら天井を見上げた。
「あたしはあれだなー。
ずっと冒険できるのは楽しそうだけどさ。
“死なない”って分かってると、スリルがないっていうか。
行くとこまで行っちゃうのも……考えもんだよね」
その声はどこか達観していた。
命を張ることに、“意味”を感じている。
――戦闘民族の発想だ。
一瞬の沈黙のあと、梨々花のきっぱりとした声が落ちた。
「私は行くわ」
来奈と由利衣の視線が集まる。
梨々花は、テーブルの上で両掌を組み、確かな声で続けた。
「まずはその地平に立たないと、選択すらできないもの。
ベアトリスさんの追求する魔導の果てに、不老不死以上の意味があるのなら……見てみたいわ」
それも、一つの意見だろう。
SSRの完凸形態――“亜精霊化”が、魔法使いの果てなのか。
ベアトリスがいまだに「生」に執着するのは、おそらくその先に何かがあるからだ。
だが、そんな話を最近、誰かとした気がする。
誰だったか……。
そして、俺の背中に冷や汗が落ちた。
第三層の洞窟で出会った、あの不気味な女の言葉が脳裏によみがえる。
――魔法使いの“その先”にいる佐伯さんは……
さらに先には行こうと思わないのかしら?
あれは……。
精霊の特典が“ゴールではない”という意味なのか。
魔法使いの行き着く果て。
その“終末”とは、いったい何なのか。
そんな考えにとらわれたまま、俺は麺を一気に啜った。
……次の瞬間、盛大にむせる。
由利衣は防御結界を展開し、汁飛沫を見事に防いでいた。
「コーチ、落ち着いて食べてください」
心配そうな声が聞こえる。
なぜ、いつも俺の飯を辛くしようとするんだ。
水を口に含み、咳を落ち着かせると、三人に向かって言った。
「まあ……お前たちはまだ星1だ。そんな心配は当分先の話だろう。
でも、考えておくのは悪くない。――今日の会談は、そういう意味で意義があったな」
俺自身にも、だ。
完凸がゴールではないとしたら。
“その先”を、こいつらと一緒に見届けてみたい。
そう思える自分が、確かにそこにいた。
そんな考えが顔に出ていたのか――
梨々花が、ほんのりと目を細めて俺を見つめていた。
***
そして――第三層攻略は、いよいよ大詰めを迎える。
土曜日の冒険部は、防御結界の持続時間確認と戦術の最終調整にあてられた。
SSRの決戦は次週。
しかしその前に。
翌日はいよいよ、山本先生による第三層ボス討伐。
壁を打ち破る、記念すべき日となるか。まさに大一番だった。
俺たちがゲートをくぐると、スタートポイントには――
この世で一番会いたくない緑髪のメガネ女が、仁王立ちしていた。
ちなみに、二番目は学院長と九条の同率だ。
……大塚 芹那。
なぜ、ここに。
芹那は、俺の服装を見るなり、般若のように目を吊り上げた。
いつものスーツを着用していたのだ。
「修二ッ!!
あれだけ“きちんとした格好で冒険しなさい”って言ったでしょう!!
今すぐ脱ぎなさい!! 燃やしてやるわ!!」
次の瞬間、掌に火属性の魔力が集まりはじめる。
第七層のモンスターにも怯まなかった俺だが、あまりの気迫に一歩たじろいだ。
――そこに、柔らかな声が割って入る。
「まあまあ、芹那さん……そんなに興奮しないで」
見るからに“優男”。
こざっぱりした服装に、栗色のサラサラヘア。
整った顔立ちで、年の頃は二十代後半から三十代前半か。
……もちろん、誰だかまったく知らない。
そして、芹那をなだめながらも――明らかに腰が引けていた。
そこへ、山本先生がにこやかに声をかける。
「あらー、フレッド義兄さん。お久しぶりです」
呼びかけられた男は、ビクッと肩を震わせる。
芹那の旦那……か?
なぜ山本先生にもビビっているんだ?
……いや、まあ、分かる気もするが。
――大塚フレッド。魔法使いランクSR。
父は日本人、母はカナダ人。
ハイスクールまではカナダの学校に通っていたが、
優秀な魔法使いを求めていた日本政府の奨学金プログラムで来日。
そして――大学で芹那に見初められ、学生結婚。
父方の国の国籍を選んだ、らしい。
現在は、その語学力を活かして政府職員として勤務している。
……もっとも、これらの情報は後日聞かされたことで、現時点ではまったく知らなかった。
そもそも、こいつらの馴れ初めになど興味もない。
話を戻そう。
フレッドは山本先生に、口角を引きつらせながら声をかけた。
「あ……美鈴抽さん。
今日は第三層ボス、初チャレンジだよね。
これは応援しないと……って、芹那さんと。はは……」
長年、あの姉妹の“圧”にさらされてきた男の姿。――無理もない。
芹那は舌打ちし、再び俺へと鋭い視線を突き刺した。
「そう!! なのに修二ときたら!!
どうして義姉さんを困らせるの!? 反抗期なの!?」
勘弁してくれ。こっちは四十前なんだ
フレッドが慌てて仲裁に入る。
「ま、まあまあまあ……。
佐伯さんには、佐伯さんの都合が――」
そこまで言いかけると、芹那の視線がギロリと向く。
「……かな~、なんて」
声は見事に尻すぼみになった。
俺は、フレッドのなけなしの男気を無駄にはできなかった。
「……なあ、ここにきて四の五の言っても仕方ないだろ。
今から第三層に潜ってボス戦だ。着替えに戻る時間だって惜しい」
「開き直る気なのね……!!」
芹那はギリギリと奥歯を噛みしめた。
だが、山本先生をちらりと見ると――やがて、大きく息を吐く。
「……そうね。こんなところで言い争っている暇なんてないわ」
ホッとしたのも束の間。
予想外の発言が飛び出した。
「でも!! 美鈴抽の晴れ舞台なのよ。
視聴者さんに“汚い絵面”を見せるわけにはいかないわ。……でしょ?」
……でしょ?と言われてもな。
芹那は眼鏡のブリッジを押さえ、堂々と言い放つ。
「そういうわけで、私も参戦します。
画面を中和――ううん、“美の力”で浄化するの。
そうと決まったら、グズグズしてないで行くわよっ」
……相変わらず、強引かつ言っていることが分からない。
にこにこと笑顔の山本先生を除けば、一同は完全に置き去りだった。
その隙に、芹那はさっさと転移陣へと消えていった。
フレッドが、そっと俺の隣に寄ってきて囁く。
「言い出したら聞かないんです。でも……そこが可愛いところなんですけどね」
そういうのは家でやってくれ。
俺が微妙な顔をしていると、彼はさらに爽やかな笑みで言い添えた。
「でも、佐伯さんなら分かってくれそうです。――連帯していきましょう、ね?」
……冗談じゃない。
そこに、ゲンさんから声がかかる。
「芹那ちゃんも相変わらずだねぇ。
それにしても、いつから修ちゃん世帯持ったんだい?」
俺は曖昧に笑ってやり過ごすと、重い足取りで転移陣へと向かった。
***
第三層に入ると、芹那は早速、現場ディレクターのようにテキパキと指示を飛ばした。
「黒澤さんは結界の維持。桐生院さんは訓練通りに。
高柳くん、カメラの準備は……よし、いいわね」
そして――配信が始まると、嘘のように声のトーンが上がる。
「全世界のみなさん、こんにちはー!
あなたのセリーナこと、大塚 芹那ですっ!」
……このノリはいったい。
芹那はわざとらしくカメラに横顔を見せ、手で聞き耳を立てるポーズ。
「え? どうして私がいるのか、ですって?
それは――な、なんと!」
そこで、ジャージ姿の山本先生にバッと手を伸ばし、片足を後ろに跳ね上げた。
「この私の可愛い妹、美鈴抽の第三層ボスチャレンジなんですー!
今日は、私もサポートしちゃいたいと思います!
あっ、それと! ボスのドロップ品は視聴者プレゼント予定で~す!
どしどしご応募お待ちしてまーす!」
芹那はそのまま、山本先生にインタビュー。
「美鈴抽、意気込みはどうかな!?」
「私、第三層ボスは初めてなので緊張してますけど……。
姉さんと、それに――私だけのナイトがいてくれるから、頑張ります!」
山本先生は、胸の前で両こぶしをグッと握り、フンスと鼻息。
すかさず、芹那とフレッドが拍手を送る。
そして芹那は、政臣へ手で合図を送った。
――カメラ停止のサイン。
俺の方に冷徹な目を向ける。
「修二、あなたは映らなくていいから。
あと、その村正使って一撃でボスをぶち殺すなんて空気読めない真似したら、義姉さん本気で怒るわよ」
念を押すように、芹那の圧が俺に放たれる。
「今日の主役は美鈴抽なの。分かった?」
こくり……と頷くと、芹那は満足そうに微笑んだ。
そして――自らの武装を解き放つ。
魔導ギア・水龍鞭。
鋼鉄をも切断する水圧を、ムチのように操る上位魔導具だ。
……これこそ、ボスの火竜を膾斬りにしそうな勢いなんだが。
「それじゃあ、ちゃっちゃと行くわよ!
黒澤、さっさと寝る! 入江はおぶって、桐生院は冷やす。うん、よし!
ボンボンは美鈴抽をメインに映すのよ。あとでチェックするから。
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そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~
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ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。
ガチャ好きすぎて書いてしまった。
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