終末のSSR ―最強おじさんの戦闘アイドル育成プロジェクト―

白猫商工会

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第03章

第61話 第三層ボス攻略(3)

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山本先生の第三層攻略の日。
芹那は言いたい放題まくし立て、夫のフレッドを従えて帰っていった。

フレッドはしきりに、
「佐伯さんとは美味しいお酒が飲めそうです。僕の話、聞いてもらっていいですか?」
と絡んできたが、巻き込まれたくないので曖昧な笑みだけを返した。

たぶん彼は、傷を舐め合う仲間 兼 芹那の弾除け ができたと思っているのだろう。
――だが、そうはいかない

それにしても。

「たまに様子を見に来る」みたいなことを言っていたが――まさか本気じゃないだろうな。

……いや、本気だ。
そういうやつだということは、嫌というほど分かっている。

幸い、ここから先の年末年始は海外の仕事が詰まっていると言っていた。
なら、当面は来ないかもしれない。

本当に、二度と会いたくなかった。

そして翌日。
俺宛に、大量のセリーナブランドの衣服が送りつけられてきた。
「次はこれを着ないと折檻だ」というメッセージを添えて。

だが、徹底的に無視することにした。

届いた服はすべて、視聴者オークションにかけた。
やつの性格は最悪だが、服は超一流の魔法装備だ。
またたく間に高値がつき、俺はめでたく学院長からミスリル探索時に借りていた金を返済することができた。

これについても、芹那は烈火の如く怒ったらしい。
山本先生からそう聞いたが、知ったことではない。

もらったものをどうしようが、俺の勝手だ。

そして、ミスリル探索が終わったことで――俺には、日常が戻った。

朝晩は寮夫。昼は学食。そして、放課後は冒険部。

どうしてだろう……。
いつの間にか、この環境を“居心地がいい”と感じている自分に、戦慄を覚える。

朝から晩まで働いて、土曜も日曜もない生活なのに、だ。

人は、どんな環境にも適応できる――のかもしれない。
だが、それはきっと間違っている。

……そう、思いたかった。

***

次の土曜日はいよいよ、冒険部の第三層ボスチャレンジ。
山本先生の戦いを観戦することで、何かを掴んだはずだ。

そして今――俺たちは部室でミーティング中。

「教官! あの水龍鞭ってすごかったじゃん。
ああいうの、あたしもやってみたいんだけど」

来奈は、他人の武器を羨ましがるへきがある。
正直、芹那のことは思い出したくなかったが……。

「そうだな。水圧の鞭――。
あの武器“だけ”は、実にたいしたものだ。
風属性と水属性を組み合わせれば、似たようなことはできなくもないが……」

単に水をぶつけるだけでは足りない。
水龍鞭に匹敵する切断性能を求めるなら、高圧の風魔法に、水魔法を“乗せる”必要がある。

「俺が使っている、礫を風で打ち出す技があるだろ。
あれは礫形成と風のインパクトを、高速で切り替えているんだが……それよりもさらに高度な魔法の制御が必要になる」

梨々花が頷く。
あれだって簡単な技ではないのだ。

「風の圧力を常時展開しながら水を打ち出すとなると、単属性の切り替えじゃなくて、二属性の“同時展開”が必要だな」

俺がそう言うと、来奈が梨々花に視線を向けた。

「ねえ、二属性の付与って、できないの?」

多属性の付与は、熟練した術師でも難しい技だ。
まだ星1の魔法使いに可能とは思えない。

だが、梨々花は「そうね……」と考え込み、やがて俺の目をまっすぐに見つめて言った。

「先生。協力していただけませんか?」

……何を始めようというのか。

校庭に出ると、さっそく梨々花が俺に向かって仮説を展開した。

「私の魔眼の力なら、二属性同時は行けるんです」

そう言うと、うっすらと瞳が金色に輝いた。
右手に風の魔力、左手に水の魔力が満ちていく。

確かに――第一層のボス戦で見せた合体魔法。
あれには、非常に高度な多属性制御が必要だった。

「問題は、これを来奈の魔力に同調させて付与することなんですけど……。
いまの実力では、正直厳しいです」

そこまで言って、梨々花は俺から視線を外し、来奈を見た。

「だから、来奈のほうから合わせてほしいのよ」

なるほど。
これまでは梨々花のほうが、来奈の魔力波長に合わせていた。

つまり、梨々花は二属性の制御に専念し、来奈が“自分から迎えに行く”形に変えるというわけか。

来奈の顔には、はっきりと「?」が浮かんでいた。
今まで、そんなことを考えたこともなかったのだろう。

梨々花は分かっているようで、来奈に難しいことは求めなかった。

「先生。来奈の魔力を補正してあげることはできますか?」

俺が外から介入して、来奈の魔力を梨々花に合わせるよう誘導する――ということか。
やったことはないが……。

「そうだな。ものは試しだ」

そう言って、俺は梨々花と来奈を向かい合わせに立たせ、二人の肩に手を置いた。

梨々花の魔力の波長を読み取り、それを来奈に伝える。
いや、“伝える”というよりも――。
来奈の魔力の波長に重ね、梨々花と同じものを“作り出す”。

その波長を、来奈に感覚として覚えてもらうのだ。

来奈は眉を寄せ、「うーん」と唸った。

「入江。最初は何もしなくていい。感覚を覚えることだけに集中だ」

声をかけると、わずかに肩の力が抜けたようだった。
俺は梨々花のものに近づけるよう、来奈の肩から魔力を送り込む。

――こいつは、意外と難しい。
だが、こちとら魔力制御の修行を始めて四半世紀のキャリアだ。
“できない”などとは、弟子の前では口が裂けても言えない。

すると――

「なんか、ちょっときた?……かも?」

来奈が嬉しそうな声を上げた。

俺はすかさず土魔法で、成人大の人形を作り出す。

「やってみろ」

声をかけると、来奈はブンッと拳を振った。
圧縮された空気に乗って、水のカッターが飛び出す。

スパンッ、と軽快な音を立てて、人形は真っ二つ。
断面は風の単属性の斬撃よりも鋭利で、まるで鏡のようだった。

「おおっ。じゃあ、こいつはどうかな?」

土属性の上位――鋼。

ちなみに、上位属性のラインナップはこうだ。

火 → 爆
水 → 氷
風 → 雷
土 → 鋼

上位属性は中位魔法。これを扱えるRランク魔法使いは、そう多くない。
少なくとも学院では俺ぐらいのものだろう。

SRランクなら使い手はざらにいるため、自慢にはならないが。
だが、それだけRにとって習得が難しいのだ。

俺は鋼の人形を作り出す。
さきほどの土人形とは比べものにならない硬度。

来奈の放った水圧カッターは、その胴体を半分ほど切り裂いた。
単なる風の斬撃なら、弾かれるだけだっただろう。

たいした威力だ。
おそらく、魔力の練度が上がれば――鋼人形すら切断できるだろう。

来奈は調子に乗って、もう一度拳を振るう。
だが、何も出てこずにスカすだけだった。

「あれー? もう終わり?」

「まあ、初回はこんなもんだろう……。
というか、初回からできるだけでも大したもんだ。
いまの魔力の感覚を、入江自身が再現できるようになればいいんだがな」

俺が再び来奈の肩に手を置こうとした、そのとき。
練習風景を撮影していた政臣から声が飛ぶ。

「佐伯さーん、視聴者さんから“セクハラで通報する”ってコメントが入ってます」

失礼な。
しかし、おじさんが女子高生にボディタッチは事案なのかもしれない。

そうなると――困ったな。
誰か、魔力制御に長けた魔法使いがいればいいんだが。

すると、由利衣の声がかかる。

「コーチ。私、できるかもしれません」

寝ている状態、ポテンシャル解放モードなら――いけるか?

由利衣は、向かい合わせに立つ梨々花と来奈の肩に手を置くと――眠りについた。

立ったまま。
……いつの間に、こんなことまで。

おかしな方向に進化しすぎじゃないのか?

すると、来奈の弾んだ声が上がる。

「おっ! また来た! 由利衣がいれば怖いものなしじゃん!!」

いや、お前が自分でできるようになるための補助輪なんだ。頼るんじゃない。

そう注意すると、来奈はバツが悪そうに笑った。

「土曜日まで、まだあるからな。そこそこ使えるようになるかどうか……。
特訓も、悪くないんじゃないか?」

多属性付与を、星1の魔法使いが。
SSRだからってわけじゃない。三人のチームワークだ。
誰一人欠けても、強くはなれない。

個の力では、アメリカや中国のSSRにまだ及ばない。
だが――日本には日本の戦い方がある。

次は何を見せてくれるのか。
俺には、楽しみしかなかった。

***

そして、土曜日。

結局、来奈は自分から梨々花の魔力に合わせにいくことはできなかった。

「もうちょっとで掴めるんだけどなー」

と、ぼやいていた。

こういうのは、一度できるようになればあっさり進むのだが――最初の一歩が難しい。
焦る必要はないと慰めておいたが、第三層ボス戦で視聴者にいいところを見せようと張り切っていただけに、不満そうだった。

ボスエリアに到着すると、そこには意外な顔があった。

「あー、やっときた。ヒヨコちゃんたち」

ヘラヘラと気だるそうな笑い。
赤とオレンジのショートカットヘアに、ギャル風のいでたち。
目つきはどこか小馬鹿にしたようで――それでいて憎めない愛嬌もある。

中国のSSR魔法使い、李 美亜ミア

ミアは政臣のカメラに向かって、ヒラヒラと手を振った。

俺はとっさに身構える。
……こいつは九条の教え子。
なら、あいつもどこかに――?

そんな気配を察したのか、ミアはおかしそうに笑った。

「私ひとりだって。
おじさんのくせに、あいつが怖いんだ?」

俺は渋い顔をした。
怖い、か。
まあ、確かに。あいつの戦闘能力はSR魔法使いの中でも最上位だ。

だが、理由はそこじゃない。

ミアは肩をすくめ、軽くため息をついた。

「まあまあ。
おじさん同士の因縁なんて、ホントどーでもいいの、私は。
勝手にやってれば?
今日は日本SSRを観に来ただけ。ここなら会えるでしょ?」

すると来奈が、いつもの能天気スマイルで元気よく声を張り上げる。

「ミアさん!!
こないだの日本との試合、観てました!
そりゃー麗良さんと尾形先生を応援してましたけど……。
でも、あの火尖鎗と炎の魔法! カッコ良かったなー!
あたしも、ああいうふうにドカンと盛り上げるバトル、やりたいんですよ!!」

ミアは一瞬きょとんとしたあと、満更でもなさそうな表情になった。

「分かってるじゃん。見どころあるねー。
そう。魔法使いの戦いなんだから――魅せなきゃウソってわけ」

そう言うと、今度は梨々花に視線を向ける。

「第二層のボス戦で使った、あの技……。
私のパクリとは、いい度胸してるね?」

挑発的な目線。
それを受けた梨々花の目尻が、キュッと吊り上がった。

一瞬、空気が張りつめる――が。

ミアはすぐに破顔した。

「あんた、まだまだだけどさー。
でも、あれの良さを分かってるなんて、ちょー嬉しいじゃん。
日本SSRとの勝負、私の爆炎でねじ伏せるのが楽しみだなー」

どうやら、相当な自信家ではあるが、悪意はなさそうだ。

梨々花は、にこりと微笑む。

「ありがとうございます。
でも、最初はみんな模倣から始まって、そこからオリジナルを超えるものを生みだすのでしょう?
ミアさんをリスペクトするからには――さらに上を目指しますから」

こっちも負けていない。
ミアは楽しそうに爆笑した。

「いいねー。強気は大歓迎。
魔法使いってのは、こうじゃなきゃ面白くないわ。
あー、私も配信したいなー。セラが頭堅くってさ」

ちらりとカメラを見る。

こういうときに機会を逃さない男。
政臣は、すかさずミアへ交渉を始めた。

「じゃあ本日の特別ゲストは……。
新進気鋭のSSR魔法使い、ミアさんにぜひ!」

ミアの目が輝く。

――目立つのは大好きなのだ。

「えー? どうしよっかなー。
まあ、どうしてもって言うなら……仕方ないなぁ、もう」

声が完全にウキウキである。

その瞬間、雷のような怒声が響いた。

「ミアさん!!」

振り返ると――セラだ。
腰まである艶やかな黒髪。
見る者をひれ伏させるような、力のこもった切れ長の瞳。
凛とした美貌が場の空気を一瞬で制圧する。

梨々花の上位互換……と言ったら、本人に殴られそうだが。

セラはツカツカと歩み寄り、俺に一礼した。
こちらもつられて、思わず頭を下げる。

そして――即、ミアへの説教が始まった。

「あなた。訓練を抜け出して、こんなところに来るなんて。
しかも日本チームの配信に勝手に参加して……。
国の威信を背負っている自覚があるんですか?」

ミアは両掌を耳に当てて、

「あー、もう!!」

と、うんざり顔になった。

「いいじゃん、ちょっとくらいさー。
それに――いま世界中に見られてるんだけど?」

ミアはそう言って、カメラに視線を送る。

セラの顔色が、みるみる変わった。

軽く咳払いし、声量をぐっと抑える。

「……とにかく。
配信に映るなんて、いけません。
あなたは何を言い出すか分からないんだから」

苦労してるんだな。
パートナーというよりも、お母さんだ。

するとミアが、へらへらと軽い調子で言葉を投げた。

「そんなに心配なら、セラも参加したら?
ねえ、日本のプロデューサーさん?」

政臣の眼鏡が、強い光を帯びた。

「では、セラさんもどうぞ!!
視聴者のみなさーん! 本日はなんとビッグゲスト!
最強のSSRコンビ、セラさんとミアさんです!!」

日本の三人は、にこやかに拍手で盛り上げる。

セラは唇をわずかに歪めたまま、突っ立っていた。

……威圧感はあるのに、案外押しに弱いんだな。

こうして第三層ボス戦は、ノリノリのミアと――
急にトーンダウンしたセラを巻き込みながら始まるのであった。
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