終末のSSR ―最強おじさんの戦闘アイドル育成プロジェクト―

白猫商工会

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第04章

第65話 星の焦燥

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季節はもう、秋から冬へと変わりつつあった。

最近は冷え込むようになってきたので、暖かいものを……ということで、学院長の発案で今週はラーメンフェア。

しかも、なぜか学院長の懐がやけに暖かいようで、学食予算に上乗せしてポケットマネーから食材費を出し、しかも学生への料金はタダ。
全国各地の味を日替わりで提供するとのことで、人気はまさにうなぎ登りだった。

身銭を切ってまで学生の腹を満たしてやろうとは。
篤志家とは、きっと彼のことを指すのだろう。

ちなみに、俺がミスリル探査時に借りた、トイチの利子付き三千万円は――
返済時には三千六百三十万円まで膨らんでいた。

良い子の魔法使いは、高利貸しには手を出すなと、三人には口を酸っぱくして説いたものだ。

それはともかく。
今週は、いつにも増してのハードワークだ。

俺の仕事は、寮の晩御飯の準備が終わった後から始まる。
スープの具材を仕込み、一晩かけて煮込むのだが、その火加減の番を拝命された。

そして翌朝は、寮の朝御飯の支度が終わるいなや学食へ出勤。
餃子をつくり、具材を切り、配膳をする。

昼になると、まさに戦場。
麺を茹で、スープを注ぐことだけを考えるマシーンとなっていた。

だが、学院長は学食メンバーにも配慮を忘れない。
直々に労いの金一封。
厚みのある封筒を渡され、みなホクホクの笑顔。

なお、俺が手渡された封筒には――
500円分のテレホンカードが、一枚だけ入っていた。

***

地獄のラーメンフェアの合間に、部活では訓練が続いた。

来奈が「今日トンコツ三杯いったよ~」と嬉しそうに声を上げるのを、複雑な表情で受け流しながら、俺は方針を伝える。

ここは第三層のレッドストーン採掘場だ。

「当面、部活動はここだ。
魔力制御を行いながら、武器解放のための素材採掘。
一石二鳥で行くぞ」

なにしろ、自分たちの武器なのだ。
視聴者さんからの寄付ばかりに頼るのも、いかがなものか。

その意図は充分に伝わっているようで、三人に異存はない。

政臣はマジックリュックから、スポーツドリンクや冷却ジェルを詰めたクーラーボックスを取り出した。

「みんな、無理しないでこまめに冷やしてねー」

そう言う本人は、由利衣の結界と梨々花の属性付与に守られている。
……まあ、こいつを鍛える必要はまったくないからな。

この先の過酷な環境のために、山本先生に頼んで芹那に政臣用の魔法付与のかかった服を仕立ててもらおうかと考えている。

あいつに頭を下げるのは御免こうむりたいが、致し方ない。

ただし、三人は戦闘魔法使いとして、自身の能力だけで厳しい環境でも活動できるようになってもらわないと困る。

そうでなければ、レイドや深層攻略など夢のまた夢なのだから。

さっそく、各々が配置につき採掘を開始した。

額から汗を流しながら採掘に挑む、来奈と梨々花。
一方の由利衣は――寝ながら採掘。

だが、もはや驚かない。
最近は「寝ながら授業を受けて、テストの成績上がったんですー」などと嬉しそうに言っていたくらいだ。

そして、風属性を纏う持続時間は、寝ている状態なら十五分は持つようになっている。
梨々花でさえ、まだ五分の維持も難しいというのに、だ。

隣で採掘する梨々花が、静かな闘志を燃やしていた。

「さすが由利衣だわ……」

SSRの中でもポテンシャル最強格の魔眼・魔術師。
そのプライドが、同時期に修行を始めた由利衣に後れを取ることを許さないのだ。

切磋琢磨できる仲間がいるってのは、いいものだ。
とくにうちの場合は、明確に役割が違う。
みな自分にしかないものに誇りを持ち、自分にないものを補ってくれる仲間を頼っている。

しかし、この中でもまだ開花できていないのは来奈だ。

星の魔眼能力は、基礎身体能力にも影響を与えている。
魔法使いになったばかりの頃は平凡だったが、いまでは単純な力と瞬発力はトップアスリート並み。

魔法使いは魔力を体に巡らせることで、常人を遥かに凌駕する身体能力を発揮する。
いわゆるステータスとは、魔力が乗ったときの値と考えていい。
しかし、言い換えれば、魔力がなければ常人並み。

来奈はベースに圧倒的なフィジカルを持ち、そこにステータスが加わるのだ。
これがどれだけの優位性を持つか。

しかし、ステータスの値どおりのパフォーマンスが出せるかは、魔力制御の練度次第。

例えるなら、いまの来奈はモンスター級のエンジンを搭載したバイクに乗りながらも、その操縦技術が未熟なのだ。

おそらく、ステータス値の半分も発揮できているかどうか。

それを身体能力で補って第三層ボスと健闘したのだから、すでに並の魔法使いではない。

だが、近接戦闘最強への道には、越えるべき壁が高そうだった。

そのことは、すでに本人にも伝えている。

だからこそ来奈は、地道な訓練にも文句ひとつ言わない。
すべては――自分の能力がいつか開眼する、と信じているからだ。

だが、梨々花と由利衣にできることが自分にはできない。

焦るなというのも、無理な相談だろう。

俺はそんなことを思いながら、三人を眺めていた。

そこに、顔中を汗で濡らした来奈の声が、ぽつりと聞こえた。

「……ん。一分、できた」

どうやら、山本先生から言われた“一分間の集中”を繰り返しているようだ。

そして、政臣のカメラに向かって照れたような笑顔。

「あたしだって、やればできんだからね」

そう言ってツルハシを振るいながら、また集中を始めた。

世間では誤解が多いが。
魔法使いになった瞬間から、強力な魔法を駆使してモンスターを薙ぎ払う――
そんなものは幻想だ。

SSRといえども、積み重ねが必要。

チート能力を授かって、努力もなしに成り上がり?
とんでもない。

未来の魔法使いたちのためにも、こうして泥臭い姿を配信する意味はあると、俺は思っている。

政臣が俺にぼそりと呟く。

「一度、視聴者さんのファン投票やったとき、ライナは女性ファン多かったんですよねー」

なるほど。
なんとなく、わからなくもない。

「で、ユリィは満遍なく。
リリカは男性の属性ドMからの支持が、圧倒的に尖ってたわけなんですけど……」

それも、わかる。

俺はしばらく訓練を続けさせた後、三人を呼んだ。

採掘場を離れ、開けた場所に出る。

「今日の魔力制御訓練はこれくらいにしておこうか。
黒澤、桐生院。結界を張ってくれ」

断熱の結界が広がり、三人の汗がみるみる引いていく。

「教官! あたし、もっとやってきたいんだけどー」

不満げな来奈に向かって、俺は短刀・飛燕の柄に手をかけた。

「まあまあ……。
お前たちがやっている訓練の意味を実感するのも大切だろう。
いまから実戦形式だ。――入江、かかってこい」

来奈はきょとんとした顔をしたが、すぐに挑戦的な目に変わる。
戦闘用グローブをはめ、拳を軽く合わせた。

「本気でいいんだよね?」

返事の代わりに、俺は飛燕をすっと構えた。
そろそろ素手で受けるのは厳しくなってきたからな……。

来奈がぐっと踏み込む。
やはり、速い。拳も正確に顎を狙っている。

俺の防御力なら直撃しても死にはしないが……遠慮のないやつだ。

右拳を飛燕の背で弾き、続く左をかわす。
すぐに膝が飛んでくるが、それもギリギリ引き付けて避けた。

こちらも蹴りを返すと、来奈は目で見るより先に、魔力の流れを読んで動いていた。

――魔力を感知して動け。
訓練初日から言い続けてきたことを、確かに体現している。

打ち合いが続くうちに、来奈の速度が徐々に上がっていった。
魔眼は使っていない。

「どうだ? なにか違うところはないか?」

攻撃を捌きながら、問いかける。

「んー、なんだろ。
教官、いつもはもっと速かった気がするけどなあ。
手加減してくれてるのは分かるけどさー」

確かに手加減はしているが……。

「そうか。じゃあ、もう少し上げても大丈夫そうだな」

「うわっ、ちょっ!」

瞬く間に防戦一方になり、飛燕の背を喉元にそっと当てて終了。

「んー。まだあたしダメだなー」

来奈は目線を落とし、頭をかく。

しかし、その背後で梨々花が呆然と立ち尽くしていた。

「来奈……今のなに? 全然分からなかったんだけど」

「梨々花も? わたしも見えなかったよ」

由利衣も同じ反応だ。

来奈は「へ? またまたー」と手をヒラヒラさせるだけ。

「それは視聴者さんに聞いたほうがいいんじゃないか?」

政臣からスマホを受け取り、来奈に見せる。
そこには――


『火竜の時より、動き断然上がってるじゃん』

『魔力制御あと一年やったら化けるって、絶対』

『良い戦闘民族に育ってるな』


「どういうこと?」と首をかしげる来奈に、俺は笑った。

「前から言ってるだろう。ステータスの数字だけじゃ戦えないって。
魔力制御の訓練の成果だ。さっきのあれ、たぶん本来のパフォーマンスの半分以上は出せてたぞ」

「あれで全力じゃないなんて……」

梨々花が、信じられないという声を漏らす。

俺は頷いた。

「それは桐生院と黒澤にも言えることだ。
魔力制御、明日からも頑張っていこうな」

梨々花と由利衣は顔を見合わせ、嬉しそうな笑みを浮かべる。

来奈は目をぎゅっと閉じ、拳を強く握りしめた。

「あたし、強くなれる……。
信じていいんだ……」

数秒の沈黙。

そして、ぱっと顔を輝かせる。

「教官~!! やっぱ、もう少し訓練してこうよー!
いやいや、一晩中だって頑張っちゃうよ!!」

勘弁してくれ。
こっちはスープの仕込みがあるんだ。

だが、満面の笑みを浮かべる来奈を見ていると――
やっぱり、こいつはこうでなくてはならない。

そんな温かい感情が、胸の奥をじんわりと満たしていった。
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