終末のSSR ―最強おじさんの戦闘アイドル育成プロジェクト―

白猫商工会

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第04章

第70話 魔法植物

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足の生えた巨大なキノコは、テクテクと森の奥へ進んでいく。

こちらとは常に一定の距離を保ちつつ、どこか誘うような動きだ。

来奈が調子に乗って捕まえようとすると、スルリとかわす。
そのくせ俺たちが歩みを止めれば、キノコはウロウロとその場を離れようとはしない。

――精霊の仕掛けたイベントは、すでに始まっていた。

精霊は人間に対して、ダンジョンの中で常に試練を与える。
凶悪なモンスター、過酷な環境……。

それでも人間は、いつの時代でもダンジョンに挑んだ。
精霊からもたらされるお宝と、超常の力が眠っているからだ。

精霊は、報酬に釣られてやって来る冒険者を見て楽しんでいるのか?

一体何のために。
そんなものは誰にも分からない。
分からないものを気にしても、意味はない。

ただ、一つだけ。
まことしやかに伝えられる“確かな法則”がある。

精霊は――
より楽しませてくれた冒険者に、“次”を用意する。

それはジンクスでも都市伝説でもない。

細々と素材を採取して生きる冒険者もいれば、誰も見たことのない道を求めて突き進む冒険者もいる。

どちらが上ということはない。
だが後者の方が、明らかに“イベント”の発生率が高い。

あの第三層のミスリルだってそうだ。

魔法使いになってわずか半年のSSR三人が、この快進撃。
これを黙って見ている精霊ではない。
第四層でも、何かしら仕掛けてくる――そう考えるのは、むしろ自然なことだった。

それがご褒美なのか、死へ転がる道なのか……。

頭の端へその可能性を置きながら、俺は慎重に地図を確認した。
追跡に夢中になって奥地へ踏み込み、帰還できなくなる――そんな罠だって十分あり得る。

「なあ、一つだけ言っておくが。
第四層の奥に入るようなら、イベントがあろうがなかろうがその時点で中断だ。
今のお前らじゃ、まだ訓練不足だからな」

梨々花はわずかに首を縦に振った。

「先生の指示にはもちろん従いますが……。
でも、気になりますよね?」

そう言って、俺の冒険心をさりげなくくすぐる。

……分かってるじゃないか。

由利衣は索敵を続けながらも、スマホをしきりに確認していた。

「視聴者さんからも、キノコに関する情報はないですねー。
“新規実装か?”って話題になっています」

第四層の妖精イベントについては、いくつか書き込みもある。
例えば――

“お菓子でできた家に誘われて、全部食べ尽くすまで帰れない”

……延べ床面積五十坪の家か。考えただけで胸やけする。
オーストラリアのSSR・リズなら喜びそうだが。

やがて、キノコは森の中で木々がわずかに途切れた場所へ辿り着き、そこでぴたりと動きを止めた。

由利衣がそっと近づき、恐る恐る手で触れてみる。
今度は逃げない。

――ここが目的地か?

しかし周囲を見渡しても、何もない。

「何もない、ですね」

梨々花がぽつり。その通りだ。
乾いた地面と低木以外に、特徴らしい特徴はない。

そのとき、政臣のスマホがブルッと震えた。
視聴者からのコメントだ。

『どこ見てんの、マンドラゴラ!! レア素材じゃん!!』

「……あれか」

目を凝らしてよく見ると、地面から葉っぱが何本か突き出ている。
およそ十本と少し。

「こいつは霊薬の素材だ。普通の薬草なんか目じゃない高値が付くんだが……」

梨々花が俺の言葉を継ぐ。

「無理に引き抜いたら、死ぬんでしたっけ?」

その瞬間、葉っぱをわし掴みにしようとしていた来奈の動きがピタリと止まる。

「……え? 誰が?」

焦る来奈の背に、梨々花の冷静な補足が被さる。

「少なくとも、ここにいる全員ね。それと視聴者さんもじゃないかしら」

マンドラゴラは人型の根を持ち、引き抜かれた途端に絶叫する。
それを聞けば、人間は死に至る。

しかも叫び声には魔力が乗っていて、耳を塞いでも意味がない。
配信越しの視聴者に影響があるかまでは正直わからない……。
ないかもしれないし、あるかもしれない。

「政臣、いちおう配信を切っておいてくれ」

俺が言うと、政臣はすぐにアナウンスを始めた。

「皆さんには、あとでダイジェスト版をお送りしますねー。
その間は、リリカの歌とダンスをお楽しみください。
曲は “戦闘狂と呼ばないで -魔眼の千年王国-”。それではどうぞー」

そして、ライブ配信を切った。

……いつの間に代替コンテンツまで用意していたのか。
大魔法使いはいろいろと抜け目ない。

梨々花が懐をゴソゴソ探る。

「問題は、どうやって採掘するか……。来奈。これを」

そして取り出したのは、イヤホン。

「音楽を大音量で流しながら引っこ抜くのよ。私たちは遠くにいるから。
あなたなら大丈夫。信じてるわ」

いやいや、魔法植物はそんな甘いもんじゃない。

来奈がイヤホンを受け取ろうとした瞬間、俺は止める。

「やめておいた方がいい。そんなもんじゃ防ぎきれないだろう」

「えぇ! ダメじゃんっ!」

来奈は慌てて手を引っ込める。

「そんな、目の前にお宝があるのに諦めるんですか?
私はすべてを掴んでいきたいんです」

と言いつつ、自分でやろうとしないあたりは、いかにも梨々花だ。

俺はマンドラゴラの葉にちらりと視線を送り、ため息をつく。
……とりあえず作戦会議だ。

***

伝統的なマンドラゴラの採取方法は、“自分以外の何かに引っ張らせる”こと。

「ここに熊耳がいればな。
魔力で作ったドローンに紐を付けて、遠隔から引っ張るなんて芸当もできるんだが……」

由利衣が小さく手を上げた。

「来奈の体に紐を結び付けて、高速移動というのはどうでしょうか」

……音を置き去りにする星の魔眼の速度。
不可能ではないが。

「あたし、絶対いやなんだけど! 死んじゃうかもしれないじゃん!」

来奈が頬を膨らませて抗議し、俺を指さす。

「じゃあ教官が引っ張ればいいじゃん! ダンジョンで死んでも生き返るんだし!」

冗談じゃない。
こっちだって、そんな間抜けな死に様はごめんだ。

しかし、現実的な解決となると……。

手持ちロープはせいぜい三十メートル。
引っこ抜いたとしても、叫び声が余裕で届く距離だ。

なら、モンスターを利用するか?

「桐生院の杖でモンスターを眠らせて、マンドラゴラとロープでつなぐ。
で、モンスターの目の前に餌を置く。
モンスターが起きたら、餌に突っ込む勢いでロープが引かれる……これでどうだ?」

梨々花が、ほぅっと感心したように眼を細めた。

「さすが先生だわ……。それでいきましょう」

作戦は決まった。

***

はぐれの双頭蛇――あれがターゲットだ。

梨々花が距離を取りつつ杖を振ると、カクッと二つの頭が同時に垂れた。

「……なあ、言い出しっぺは俺だが。でかくないか?」

五メートルはある。どうやって運べというのか。

「来奈の力なら問題ないわ。あなたなら、できる」

そう言って、胸の前で両拳をギュッと握りしめる梨々花。

「ええー。蛇なんて触りたくないんだけどっ! ヌルヌルじゃん!」

再び揉め出す二人。

ふと見ると、いつの間にかあのキノコが足元にいた。
……採取ポイントから離れると付いてくる仕様なのか?

「とりあえず、引きずっていくしかないか」

俺は蛇の尾を掴み、ずるずるとマンドラゴラの場所へと運ぶ。

途中で何度か起きかけたが、その度に梨々花が眠らせる。
そうして、どうにかこうにか運びきった。

蛇とマンドラゴラをロープで結ぶ。
蛇の目の前には、キャンプ用の生肉の塊。

「餌はけっこう奮発しているからな。頼むぞ……。
よし、遠くまで撤退だ」

叫び声が届かない距離まで下がり、タブレットの魔力反応を確認する。
反応が消えたとき、マンドラゴラが引き抜かれているはず――

――だが。

「コーチ、高速の反応です。蛇の方に……」

由利衣が言い終わるより先に、巨大な鳥が飛来。

数秒後。遠く森の上空に、双頭の蛇をわし掴みにした鳥の姿が見えた。

と思った瞬間――
蛇も鳥も、パァァッと光の粒になって四散。

マンドラゴラが引き抜かれたのだ。

そして、別の鳥が降下してくる。
そいつはロープを器用にくわえ、去っていった。

梨々花は深くため息をつく。

「やはり、こんな浅知恵では……。
いいんです。信じた私が愚かだったというだけのことですから」

おい。

ツッコミを入れようとしたそのとき――
目の前を、ひょこひょことキノコが歩いてきた。

…………。

梨々花と俺は顔を見合わせ、同時に満面の笑顔。

俺たちは急いで蔦を刈り取り、繊維を編み、即席ロープを作成。
すべてのマンドラゴラとキノコを一本につないで、猛ダッシュでその場を離れた。

「遅いな。そろそろやって来てもいい頃なんだが」

あまりに戻ってこないので、俺が代表して現場へ向かうと――

そこには、十二本の引き抜かれたマンドラゴラ。
そして、地面にうつ伏せに倒れ、光となって消えていくキノコの姿があった。

思わず手を合わせる。

こうして、第四層の死と隣り合わせのイベントを乗り切った俺たちは、高額素材を抱えて、ウハウハの帰還を果たすのだった。
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