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第四節
シナモンは人を選ぶ(3)
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不穏な空気が漂う。
篠生は徐にギターをギターケースへしまう。
ギターケースの蓋を閉じ、留め具に手をかける。
「もしよかったら、ギターを教えてください」
私は問いかけた。
「え?」
篠生は怪訝そうな面持ちで私を見る。
「実は学生時代にほんの少しだけギターを弾いていたんだ。教えてくれませんか?」
私は言う。
篠生は渋々、頷く。
実は、ギターを学びたい気持ちは全く無かった。
理由を付ける事で演奏が店内に広がる。
絶望感に満たされた店内を明るさせる事が出来る。
配達員の死。
私が安易に考えた結果、死んだ。
この事実を受け入れられない、私の脳。
何かをしていないと気が狂いそうだった。
だから、ギターを教えて欲しいと頼んだのだった。
私は、娘の居た席に篠生を手招きする。
篠生は、その席に座った。
私と篠生は、通路側の席に座る。
席と席の間にある仕切りを境に、通路側に身を傾ける。
篠生は何をしたら良いか戸惑っている。
「さっきの曲、妻も娘も好きで、私も弾けるようになりたい」
私は小声で言う。
「わかりました」
篠生は答えるとギターを私に渡した。
私はギターを受け取る。
「まずは、左手の人差し指がここで、中指がここで…」
篠生は弦を押さえる指の位置を丁寧に教えていく。
それを老婆は細い眼差しで見ている。
ギターの練習に向き合っていると不思議と時間を忘れてしまう。
「何だか、体が怠くて目眩がするな」
突然、老父がそう言いながら、席の背もたれに体を預ける。
その声は、先程の勢いは無くなり、元気を失っている。
「大丈夫ですか?」
老婦は、老父の顔を窺い、言う。
その老婦の表情は大きく深刻ではなかった。
「最近、多くてな」
老父は気力の無い声で言う。
「あ、そう言えば、お薬の時間ですよ。あなた」
老婦はそう言うと、カバンから粉薬を取り出す。
「まーた、そんなに持ち歩いて。日帰り旅行なんだから、三袋だけ持ち歩けば良くないか?」
老父は茶化す。
しかし、先程までの高圧的な言動は失い、角が丸い。
「病院から、何か月分も貰ってきて、そのまま持ってきているんですよ」
老婦は淑やかに答える。
「まあ、いいや。薬を早くくれ。こんなに怠いのは初めてだ」
老父は眉間にしわを寄せて言う。
そのしわに冷や汗が滲む。
老婦は薬の袋を破り、老父へ渡す。
老父は、ぱっと受け取ると、粉薬を勢い良く口へ入れる。
そして、シナモンティーを一気に流し込む。
「ふう、これで一安心だ。良かったよ、食前に飲む薬で。今は何も食べられないから、食後の薬だったら飲めなかった」
老父はそう言って、額の冷や汗を拭う。
篠生は徐にギターをギターケースへしまう。
ギターケースの蓋を閉じ、留め具に手をかける。
「もしよかったら、ギターを教えてください」
私は問いかけた。
「え?」
篠生は怪訝そうな面持ちで私を見る。
「実は学生時代にほんの少しだけギターを弾いていたんだ。教えてくれませんか?」
私は言う。
篠生は渋々、頷く。
実は、ギターを学びたい気持ちは全く無かった。
理由を付ける事で演奏が店内に広がる。
絶望感に満たされた店内を明るさせる事が出来る。
配達員の死。
私が安易に考えた結果、死んだ。
この事実を受け入れられない、私の脳。
何かをしていないと気が狂いそうだった。
だから、ギターを教えて欲しいと頼んだのだった。
私は、娘の居た席に篠生を手招きする。
篠生は、その席に座った。
私と篠生は、通路側の席に座る。
席と席の間にある仕切りを境に、通路側に身を傾ける。
篠生は何をしたら良いか戸惑っている。
「さっきの曲、妻も娘も好きで、私も弾けるようになりたい」
私は小声で言う。
「わかりました」
篠生は答えるとギターを私に渡した。
私はギターを受け取る。
「まずは、左手の人差し指がここで、中指がここで…」
篠生は弦を押さえる指の位置を丁寧に教えていく。
それを老婆は細い眼差しで見ている。
ギターの練習に向き合っていると不思議と時間を忘れてしまう。
「何だか、体が怠くて目眩がするな」
突然、老父がそう言いながら、席の背もたれに体を預ける。
その声は、先程の勢いは無くなり、元気を失っている。
「大丈夫ですか?」
老婦は、老父の顔を窺い、言う。
その老婦の表情は大きく深刻ではなかった。
「最近、多くてな」
老父は気力の無い声で言う。
「あ、そう言えば、お薬の時間ですよ。あなた」
老婦はそう言うと、カバンから粉薬を取り出す。
「まーた、そんなに持ち歩いて。日帰り旅行なんだから、三袋だけ持ち歩けば良くないか?」
老父は茶化す。
しかし、先程までの高圧的な言動は失い、角が丸い。
「病院から、何か月分も貰ってきて、そのまま持ってきているんですよ」
老婦は淑やかに答える。
「まあ、いいや。薬を早くくれ。こんなに怠いのは初めてだ」
老父は眉間にしわを寄せて言う。
そのしわに冷や汗が滲む。
老婦は薬の袋を破り、老父へ渡す。
老父は、ぱっと受け取ると、粉薬を勢い良く口へ入れる。
そして、シナモンティーを一気に流し込む。
「ふう、これで一安心だ。良かったよ、食前に飲む薬で。今は何も食べられないから、食後の薬だったら飲めなかった」
老父はそう言って、額の冷や汗を拭う。
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