38 / 89
第四節
シナモンは人を選ぶ(12)
しおりを挟む
「わかった、そのアーが来るのを待とう」
老父はそう言うと、四人席の長椅子に上体を横にした。
「今日は一段と体が怠い」
老父は横になったまま独り言を話す。
その独り言の声は、客の皆に聞こえるように大きい。
しばらくして、老婦は戻ってきた。
「誰か料理を運ぶのを手伝って欲しいわ」
老婦は言う。
「私が行きます」
妻は答えると立ち上がった。
私は厨房へ歩いていく妻の背を見る。
老婦と妻はお盆を両手で持ち、戻ってきた。
各席に、料理が運ばれていく。
私の分は妻から頂いた。
老婦と妻は全員分を運び終えると、席へ戻った。
「食材はほとんど無くて、野菜が少しあったから、ポトフにしてみたのよ、どうかしら」
私は一口啜る。
喉からすうっと温かなスープから胃へ運ばれていくのを感じる。
コンソメの味だろうか、薄く優しい味。
一口一口飲む度に、緊張した体がほぐれるのを感じる。
客の皆もポトフを頂いている。
その皆の表情もほっこりしている。
「かっは!」
突然、老父は、むせ返った。
「まあまあ、起き上がってすぐ食べるから」
老婦はそっと茶々を入れる。
「な、何なんだ一体、こんな味のポトフなんて食べた事ないぞ」
老父は目を丸くして老婦に言う。
確かに薄めの味だが、言う程ではない。
「皆、ごめんな。いつもはもっと美味い料理を作れるんだけどな」
老父は客の皆に言う。
客の皆は、返答に困った。
「いや、全然美味しいですよ」
妻は言う。
両手にはポトフの入る食器を持っている。
「皆、狂ったのか? 悪魔に侵されたんじゃないか?」
老父は顔を引き攣り上げて言う。
「まあ、皆も食べていますし、夕飯もこれ以外に無いのですから、文句を言わずに食べてください」
老婦は言う。
どことなく、微笑んでいるように見える。
その笑みは子供が悪戯したような不敵な笑みに思えた。
この後、食べる物が無いと悟った老父は、ポトフを一気に口へかき込む。
苦い物を食べるような表情で咀嚼する。
ごぐり。
飲み込む音が聞こえ、喉仏が大きく上下に動いた。
「じゃりじゃりするぞ、これ」
老父は舌を出し、吐き出そうとするも、何とか止める。
「人の前でも、私の料理を馬鹿にするのね」
老婦は、横目に言う。
「違う。こんなに不味いのはおかしいだろ?」
「皆と一緒の食事だわ」
老婦は言う。
老父は客の皆を見る。
客の皆は老父を怪訝そうに見る。
「おい、嘘だろ?」
老父は客の皆に動揺する。
「そんなに美味しくなかったなら、お口直しに、シナモンティーでも飲んでみたらどうかしら」
老父は言われるがまま、冷えたシナモンティーの入った自らのコップを手に取る。
違和感を飲み込むように、くっと飲み干した。
老父はそう言うと、四人席の長椅子に上体を横にした。
「今日は一段と体が怠い」
老父は横になったまま独り言を話す。
その独り言の声は、客の皆に聞こえるように大きい。
しばらくして、老婦は戻ってきた。
「誰か料理を運ぶのを手伝って欲しいわ」
老婦は言う。
「私が行きます」
妻は答えると立ち上がった。
私は厨房へ歩いていく妻の背を見る。
老婦と妻はお盆を両手で持ち、戻ってきた。
各席に、料理が運ばれていく。
私の分は妻から頂いた。
老婦と妻は全員分を運び終えると、席へ戻った。
「食材はほとんど無くて、野菜が少しあったから、ポトフにしてみたのよ、どうかしら」
私は一口啜る。
喉からすうっと温かなスープから胃へ運ばれていくのを感じる。
コンソメの味だろうか、薄く優しい味。
一口一口飲む度に、緊張した体がほぐれるのを感じる。
客の皆もポトフを頂いている。
その皆の表情もほっこりしている。
「かっは!」
突然、老父は、むせ返った。
「まあまあ、起き上がってすぐ食べるから」
老婦はそっと茶々を入れる。
「な、何なんだ一体、こんな味のポトフなんて食べた事ないぞ」
老父は目を丸くして老婦に言う。
確かに薄めの味だが、言う程ではない。
「皆、ごめんな。いつもはもっと美味い料理を作れるんだけどな」
老父は客の皆に言う。
客の皆は、返答に困った。
「いや、全然美味しいですよ」
妻は言う。
両手にはポトフの入る食器を持っている。
「皆、狂ったのか? 悪魔に侵されたんじゃないか?」
老父は顔を引き攣り上げて言う。
「まあ、皆も食べていますし、夕飯もこれ以外に無いのですから、文句を言わずに食べてください」
老婦は言う。
どことなく、微笑んでいるように見える。
その笑みは子供が悪戯したような不敵な笑みに思えた。
この後、食べる物が無いと悟った老父は、ポトフを一気に口へかき込む。
苦い物を食べるような表情で咀嚼する。
ごぐり。
飲み込む音が聞こえ、喉仏が大きく上下に動いた。
「じゃりじゃりするぞ、これ」
老父は舌を出し、吐き出そうとするも、何とか止める。
「人の前でも、私の料理を馬鹿にするのね」
老婦は、横目に言う。
「違う。こんなに不味いのはおかしいだろ?」
「皆と一緒の食事だわ」
老婦は言う。
老父は客の皆を見る。
客の皆は老父を怪訝そうに見る。
「おい、嘘だろ?」
老父は客の皆に動揺する。
「そんなに美味しくなかったなら、お口直しに、シナモンティーでも飲んでみたらどうかしら」
老父は言われるがまま、冷えたシナモンティーの入った自らのコップを手に取る。
違和感を飲み込むように、くっと飲み干した。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる