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第一節

追憶の汗(8)

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ほんの少ししか、呼吸ができないけど、まだ、戦える。

ノキルは、アレスの攻撃を受けながら、反撃の時を見計った。

アレスとノキルの周りには、観衆が集まっていた。

発熱した実戦練習を見に来た、練習生や教官だ。

毎回の事だ。

今日の練習時間も過ぎて、余暇を楽しむ練習生や教官の一つの催しのようになっていた。

「今日は、いつにも増して、ノキル、ぼろぼろだな」

練習生の一人が言う。

「今日も、木刀を飛ばされて負けんだろ」

もう一人の練習生が答える。

その練習生は、そう言うと腕を組み、勝敗がどちらに傾くか、わくわくした表情で見ている。

教官が、その練習生の横に立った。

「いや、よく見ろ。今日のノキルはいつもと違う。あいつ、守るべき者をはっきりとさせたか」

教官は、ノキルに熱心な眼差しを向けながら言う。

ノキルは、アレスの攻撃に圧されて、練習場の真ん中まで、追い込まれる。

ざわざわとした声で練習場が賑わう。

太陽は傾き、真っ赤な夕陽が、ノキルとアレスを横から照らす。

影が何倍もの大きさに伸びている。

影も同様に、アレスの攻撃を耐え凌いでいた。

どうする。

どうしたら、反撃ができる。

考えた。

ノキルは、もう数分も、もたない事を理解していた。

全身が疲弊に叫び、筋肉も緊張して、思うように動かない。

どうする。

その時だった。
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