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第一節

追憶の汗(10)

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ノキルを視界に捉えた時には、すでにアレスの間合いの内側に入っていた。

アレスは、速やかに反撃の態勢を構える。

しかし、この距離では間に合わない。

ノキルの突きが、もの凄い勢いで差し迫る。

その木刀の先端は、全くぶれない。

身命をかえりみない意志が先端まで通っていた。

それを見て、アレスは、攻撃を受けると確信した。

アレスは、左足を一歩下げ、左足の膝を曲げて、重心を乗せる。

ノキルの突きが、小手をかすめて、間合いの深部へ入り込む。

アレスは、上体を後方へ傾けて、すれすれで身をひねる。

しかし、ノキルの木刀の先端が、微かに、アレスの鎧に触れた。

その触れた感覚が、ノキルの木刀の先端から、しのぎを通って、ノキルの手に伝わる。

当たった!

ノキルは、死地を越えて生還したかのような不思議な高揚感が溢れる。

「おお!」

観衆から感嘆した声が上がる。

それも束の間、ノキルは、勢いを制御できずによろけて、どさっと倒れた。

砂埃が立つ。

ノキルは、体の右側を地面につけた状態で倒れたまま、動けない。

もう体が反応してくれなかった。

指先の感覚も無い。

木刀を握っているのかすら、わからない。

これで、今日もまた負けた。

ノキルは、昏倒する中、そう思った。
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