初恋は永遠に

夜桜 春

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第1章 再会

(1)大人になった自分

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 「コラッ!柿沢!先月頼んだ企画書まだ出来てないぞ!一体どうなっているんだ――」

 今日も上司に愚痴を言われている。

 何となく高校から大学に進学し滑り込みで今の会社に入社して約5年。

 何となく真面目に仕事をこなして来たつもりだったが最近は全く仕事に身が入らなくなっていた。

 「お前はどうしてこうなんだ――これなら新人の――」


 もう上司のハゲの目には新人の方が有能らしい。

 俺は上司の愚痴を聞くのも飽きてきていた。

 こうやって愚痴を聞き毎日ペコペコと謝り続け、行き帰りは満員電車に乗り、押しくら饅頭をする日々だ。

 これが社会人。

 お金を稼いでも保険料や色んなもので差し引かれて、手取りは結局少なくなっている。

 これが社会人。

 夢も希望もなく俺には将来もない。

 
 「あぁ子供は良いよな」

 昼休みに公園のベンチに座り元気良く駆け回る、子供の姿を見て呟く俺。

 「先輩、なに黄昏れているんですか?」

 新入社員の中本なかもとが声を掛けてきた。

 そう。さっき上司が気に入っていた新人くんだ。

 「企画書出さなかったぐらいであのキツイ言い方ないっすよね?俺一生懸命やっている先輩に対してあの人の態度厳しすぎると思うんですよ」

 「あぁ。そうだよな、ありがとう」

 コイツはこう言う憎めない後輩だ。

 素直に良い後輩だと思いたいが、仕事が出来ると言うだけで余裕ぶっているように感じるのは俺だけか。
 
 「でも俺が先輩みたいな立場ならすぐに辞めてますね。先輩は辞めようとか思ったことないんですか?」

 「…いや。そりゃ長くやっていると1度や2度はね…」

 「そうっすよね。やっぱり先輩でもさすがにありますよね…あっ、そう言えばこれ知ってます?最近流行ってるんですよ!テレビのCMとか広告動画でもよく流れてきますし」

 そう言いながらスマホを出す後輩から見せられたものは――「退職代行?」

 「そうっす。その名の通り退職の代行を行ってくれるんですって。俺もいきなり辞めづらいですし何かあったら使ってみようかなって思って気になってるんですよ」

 「ふーんこんなのがあるんだ」

 今時の若者はこう言うのを使って辞めるんだと入れてはいけない知識を入れてしまった俺だった。

 「って先輩辞めないで下さいね――」

 本当に良い後輩なんだよなぁ…。
 
 

 「(退職代行……)」

 徐々に人間不信に陥っている自分の現状を考えると環境を変えないといけないと頭によぎっていたある日…。
 退職代行についてスマホで調べていた時だった。
 
 うん?これって…。

 【星空雪菜全日本選手権優勝!オリンピック出場決定】

 


 星空さんオリンピックに出るんだ…。

 そう。それは俺の《初恋》相手である星空雪菜がオリンピックに出場すると言うネットニュースだった。

 
 そのニュースを見た瞬間、俺の中で何かが吹っ切れるような気持ちに陥った。

 俺が好きだった彼女は氷上の上でこんなにもキラキラと輝いている。

 だかしかし、俺はどうだ。
 こんなところで立ち止まってて良いのか?

 そう思って居ても立っても居られなくなった俺が起こした行動は退職代行を利用することだった。

 
 ――それからあっという間に時が経ち…。

 「おっ、やっとレベルがあがった」

 俺はあれから退職代行を利用しすぐに退職したものの、いわゆる燃え付き症候群のような状態になり、実家に転がりこんで勉強のない学生のような生活を送ってしまっていた。



 「拓哉~ゲームばっかりしてないでちょっと買い物行ってきて」


 実家でそう親から指名を受けた俺は重い足を引きずりリビングへと出てきた。


 「見事オリンピック金メダルを獲得した星空雪菜選手の緊急会見です」

 リビングのテレビでは全日本選手権の後のオリンピックでも金メダルに輝いた彼女の会見の模様が映されていた。

 「(やっぱり優勝したんだ。本当にすごいなぁ)」


 俺は心の中で最大の賛辞を送った。

 実は大会期間中、彼女の姿を見ることは出来なかった。

 自身の情けない姿と比較してしまうと眩しすぎて直視出来ないから。

 彼女は白を基調としたスーツ姿で会見場に姿を現していた。

 俺はそんな眩しい彼女の姿を尻目に親に頼まれた買い物へ向かおうとしたその時だった。

 「私…星空雪菜は結婚するとともに引退します」

 
 ――えっ。

 
 《引退》という言葉よりも《結婚》という言葉の方が俺の心には響いた。

 俺の初恋の相手が遂に結婚する。

 今まで何年も関わってきていない相手だ。
 
 何なら元カノよりも深い関係でない相手の結婚宣言である。

 そんな彼女の発表により俺の中の心のざわめきがより一層増していき、不思議な運命の歯車が加速していくのだった。
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