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4 天界地球支部日本派出所転生課第百六十三番窓口
しおりを挟む「こっち、こっちでーす」
右を見ても左を見ても白い世界。ここはドコだろう。
遠いのか近いのかよく分からない場所で、白い服を着た銀髪の男の人が手招きをしている。なんだかそこだけが役所の窓口みたいになっている。周りには誰もいないし、わたしを呼んでいるのだろうか。
「そうですよ~、あなたです。こちらにお越しください」
男の人がわたしの心を読んだようにそう言った。
いや、こういうのを流行りの小説で読んだことがある。きっと彼はわたしの心が読めるのだろう。
──やっぱり、わたしは死・・・
「はい、残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
あ~、やっぱりそうですか・・・。では、あなたは神様ですか?
「いえいえ、自分はこの度あなたの転生を担当させていただきます、天界地球支部日本派出所転生課第百六十三番窓口担当の『クスノセ』と申します。短い間ですがよろしくお願いいたします」
クスノセさんがぺこりと頭を下げながら椅子を勧めてくれたので、わたしも腰掛けながら会釈する。──っていうか、え?ひゃくろくじゅう??多っ!
「それはそうですよ~。あなた、存命中は何かを信仰していましたか?輪廻転生って聞いたことあります?」
え、まぁ・・・軽くですが・・・。でも宗教っていうより、物語を読んで知っているって言った方が良いかもしれません。
「あ~、あの『特別な人だけが』転生が出来るという類の読み物ですね。よくそう言って異世界転生を望まれる方がいるのですが、異世界に転生できる方なんてほんの一握りなんですよ。
実際には亡くなった方は余程の悪行を重ねた方以外は皆転生出来るんです。だから窓口も十や二十では足りないのです。
基本皆さんは地球の輪廻の中におられますから、まず異世界転生は無理です。何に生まれ変わるかは生前の善行や悪行によって変わるので魂に選択肢は無いのですよ。次の生も人間かもしれないし、もしかするとヤドカリかもしれない。
普通はこの転生同意書にサインをした後は神のみぞ知るなのですが──おめでとうございます!あなたはその一握りの方なのです」
パンパカパーン!と言いながら、クスノセさんがカウンターの引き出しからタブレットみたいな道具を出してわたしに見せた。
「こちらを見ながら説明しますね。あなたはまず転生先が選べます」
え?わたし異世界転生が出来るんですか?
「そうですね。
でも地球上が良ければ好きな国に好きな形で転生できますよ。時代を遡って転生も出来ますので歴史が好きな方はこれを選ばれますね。
もう一つが先ほど言われていた、いわゆる異世界転生というやつです。これは界渡りをすることになるので再び地球の輪廻に戻るにはそちらの世界で再び一握りに入る必要があります。
選択肢はわかり易いように地球を基準にしてお話しますと大まかに『地球とは比べ物にならない程、科学の発展した世界』、『宇宙船で生活し、宇宙をまたにかける世界』、『中世ヨーロッパに似た世界』、『魔法の使える世界』、あと・・・」
魔法の使える世界がいいです!
「まだ途中ですけど・・・でもまぁ、正直最近そちらを選ばれる方が一番多いです。──といっても一握りなので数人ですけど」
そう言ってクスノセさんは『魔法の使える世界』をタップしてチェックを入れた。ラノベで呼んだことがある『異世界転生』が出来るなんて!なんだかワクワクする。
「次は種族ですね。人族やそれに匹敵する種族、獣人、エルフなど好きなものも選べますし、『指定しない』にしていただけると、他の条件を鑑みて一番適した種族がチョイスされます。もちろん『指定しない』を選んでもヤドカリに転生することはありませんからご安心ください」
またヤドカリ──クスノセさんはヤドカリが好きなのですか?
「いえ、あなたの一つ前に担当した人がヤドカリに転生したものでつい・・・」
なるほど。
クスノセさんは手際よく入力し手続きを進めると顔を上げて言った。
「あと、異世界転生では界渡り特典として一つだけ希望が通ることになっていますが、何にされます? ちなみにこれまでの方は「全属性魔法」「魔力無制限」「勇者や聖女になりたい」、「傾国の美女になりたい」「運命の出会いをしたい」「金持ちになりたい」・・・あと、「ヒロインや悪役令嬢になりたい」。これはそうなりうる環境を整えることは出来ますが、実際にそうなれるかどうかは本人の努力次第ですね──で、どうされますか? こちらの都合で申し訳ないのですが、後がつかえていてあまり時間をかけて悩むことが出来ないんですよ」
そうなんですか?じゃあ、『どんな魔法でも好きなだけ使える』がいいかな。
「うーん、それでは『全属性魔法』の上に『魔力無制限』で更に『魔法創造』が出来るということになりますね・・・」
あ、バレましたか?
「いや、自分、あなたの考えていることが分かるので──そうですね。では『その世界に存在する魔法なら一日十回まで使用可能』ということなら許可しますがどうされます?」
分かりました、それでお願いします。
クスノセさんが慣れた様子でタブレットにその旨を打ち込むと、画面をこちらに向けた。
「それでは確認して頂いて、よろしければ最終決定ボタンを押してください」
画面を確認したわたしは、心を無にして最終決定ボタンを押した。
その瞬間、目の前に白い扉が出現した。
「あ、因みにですが、過去の記憶自体は魂には刻まれているのですが、基本引き継がれませんのでご了承ください。まぁ、お約束の条件を満たせば思い出すこともあるようですが」
え。記憶は引き継がれないの?それなら転生の意味がないのでは──?
わたしはそう思いながら扉に手をかけた。
「それでは楽しんで来てくださいね」
クスノセさんはそう言ってニコニコ笑いながらわたしに手を振ると、手元のタブレットに視線を落とした。
「っ!あぁぁぁぁぁ!!!!!」
わたしは白い扉に吸い込まれた。そして扉が閉まると同時にクスノセさんの悲鳴が扉の向こうに消え、わたしの意識も落ちたのだった──。
そして死線をさまよったカノンは無事、前世の記憶の一部と、自分が特典の魔法を使えることを思い出したのだ。
そしてカノンは今、縛られた上で盗賊に担がれ彼らのアジトに向かっていた。
盗賊を追って森に入ったカノンは、今まさに物語でよくある『敢えて捕まって、アジトに案内してもらおう大作戦』を実行中なのである。
何故カノンが危険を顧みずこんな非常識な行動を取ったのか。
それは今のカノンの状態に原因があった。
物語の転生者にありがちな現象だ。
それは対象の魂の一つ前の生。いわゆる『前世』の人格や嗜好、興味に今世の人格が引き擦られるというアレ。
そう、カノン・クライスラーは今、「転生者・ハイ」なのである。
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