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6 わたし、それ使えます
しおりを挟む「ひィ!ばっ、化け物っ!」
「失礼ね。これは魔法よ」
この世界における貴族の義務は「力を持つものが力を持たない者を守ること」である。
力、即ち魔法を持つ者とはその殆どが貴族であるため、貴族は力を持たないもの──つまり国や国民を守るために魔法を行使しなければならない。
しかし、いつの時代にも貴族の中には悪癖を持つものが少なからずいるため、威力はかなり弱いが魔法を持つ平民も存在しない訳ではない。彼らは貴族の義務とは無関係であるため、守ることではなく奪うことに魔法を使っているのだ。
そんな彼らの魔法と比べるとカノンの魔法は未知の何かに見えるのかもしれない。
盗賊の頭領がいる建物に向かうカノンに、再び火球が飛んできた。
「四、防げ」
先ほど同様水球で消しても良かったが、色々な魔法を試してみたいカノンは次々と飛んでくる火球を土壁で防ぎ、相殺していった。ついでに可動性もつけてみる。
いくら転生者・ハイ状態とはいえ人を傷つけることに抵抗があるカノンは、そのまま土壁を動かして一か所に魔法師を押し集め、四方を囲んでしまった。あそこで魔法を撃てば被弾するのは自分たちだ。文字通り手も足も、ついでに魔法も出ないだろう。
「よ、四属性・・・」
同じ土属性を持つアッシャーが呟く。もう属性数などどうでもよくなってきた。
それなりに魔力は消費しそうだが素直に土壁にそういう使い方があったのかと感心をしてしまう自分がいた。
順当に盗賊の残党の意識を狩っていたエイシスたちだったが、途中でカノンが一軒の家を目指していることに気付いた。
「さっきの扉はノブと丁番を切り落として開けたから・・・今度は削って開けられるか試してみよう!あ、どうせなら・・・」
バリバリバリッ・・・
カノンは家の前に立つと、今度は先ほどから纏ったままにしている風魔法で扉を粉砕しながら入って行った。風通しが良くなった家の玄関に木くずが舞う──。
「おそらく盗賊の頭領の家だよね・・・加勢がいると思う?・・・っていうか、あの穴の形って、人・・・?なんで??」
何の意味があるのか(おそらく意味はない)、丁度カノンが歩いて通れるギリギリのサイズの人型にくり貫かれた玄関扉を見てフランツがいう。しかしそのつぶやきに答えることの出来る者はいない。
カノンが風魔法の効果を色々試しているとは思ってもみないエイシスたちは、何故手で扉を開けないのか疑問に思いつつも、辺りに響く木が粉砕される音を聞いていた。音に変化が見られることから、恐らく家の中でも色々試しているに違いない。
そしてしばらくすると、その音に紛れて頭領の悲鳴も聞こえてきたのだった。
今後のためにと、カレリアから土壁で閉じ込めていた魔法師たちを使って『水魔法で確実に人の意識を狩る方法』を教わった後、カノンは物珍しそうにカレリアの作業を見学していた。
「へぇ~生け捕りなんですね。コレ、どうやって王都まで運ぶんですか?」
カレリアは波打つ紫色の髪と金色の瞳の神秘的な印象の美人だ。てっきりアッシャー辺りの出番かと思いきや、盗賊の拘束はカレリアの担当だと聞きカノンは驚いた。
「生け捕り・・・って、淑女がそんな物騒なこと言うものではないわ。罪人は基本労働力だから王都まで連れて行くのよ。賞金首だった場合は賞金が上乗せされるし、そうでなくても報酬がもらえるの。
そして彼らを運ぶのは簡単よ。叩き起こして走らせればいいだけだもの」
カノンのことを物騒とか言いながら、彼女も中々なことを言っているような気がする。
カレリアは魔道具の収集家らしく、便利な魔道具を沢山持っていた。そしてマジックバックからコレクションの一つである集団拘束用魔道具を取り出すと、あっという間に気絶した盗賊たちを拘束してしまったのだ。
「あ、そういえば私が捕まっていた小屋って『宝物小屋』というらしいのですが、どうしますか?」
盗賊を王都に連れて行くのであれば盗品はどうなるのかと思い、カノンが聞いた。
盗賊から取り返した金品は一旦冒険者ギルド預かりとなり持ち主が希望すれば返却される。その礼金や持ち主の分からない品物は現金化され、その一部が盗賊を倒した冒険者に、その残りは遺族へと支払われることになっている。そのため持ち帰ることが出来るものは持ち帰るのが基本だ。
五人はカノンの脱出劇によって半壊した『宝物小屋』に足を踏み入れた。
「流石にこの量は僕たちのマジックバックに入りきらないな」
「馬車で運ぶにしても、ここから馬車まで運び出す必要がある」
盗賊の規模が大きかっただけあり、宝物小屋の中は大量の盗品で埋め尽くされており、簡単に持ち出せる量ではなかった。
エイシスたちが乗って来た幌馬車があるが、ここに来るまでの道はとても馬車が通れるような道幅ではなかったし、盗品を積めるスペースも限られる。
そんなことをエイシスとアッシャーが話していると、しばらく考えこんでいたカノンが口を開いた。
「マジックバックがあるということは──もしかしてこの世界に『収納魔法』ってありますか?」
「え、あぁ。空間魔法に収納があるにはあるが──」
「じゃぁ、わたし収納使えます」
「は?」
エイシスはさっきから自分が「え?」か「は?」しか口にしていないような気がした。
空間魔法の収納は、属性魔法ではなく特殊魔法に分類される。滅多に発現する者はおらず、とてもレアな魔法だ。
「やってみますね。──五、仕舞え」
カノンは言葉を失ったエイシスたちに構わず盗品に手をかざすと、短い詠唱をした。その瞬間、そこにあったすべての盗品が消えて無くなったのだ。
その後カノンは確認するように一つだけ盗品を手の中に出すと再び消し、「あれ?これは一回分にはならないんだ」と訳の分からないことを言っていた。
「うわっ。四属性に加えて空間魔法もかぁ~・・・」
フランツがボソッとつぶやいたが、応えるものはいなかった・・・。
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