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56 バーンスタイン王国②
しおりを挟む遡ること数日、フェイとソラは王都を目指して馬で駆けていた。
スイーツを食べ歩くために寄り道した筈なのに、美味しかったスイーツの思い出が自分勝手な王子様にかき消されてしまった。そんな印象だ。
「そう言えば、フェイに聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「わたしが魔力を込めた魔石、アレ、何になったの?」
昨夜、フェイに頼まれたソラは二つの空の鉱石に魔力を込めた。
これまでも何度か頼まれたが、光魔法や空間魔法等、魔道具として『使えそう』だとソラが思えるものばかりだったためなんとも思わなかったが、昨日頼まれた魔法は何に使うのか皆目見当がつかなかった。
「魔道具的にはどうなのかな?って思うと気になって──」
そこまで考えてソラはハッとした。もしかして誰か意中の女の子へのプレゼントだったかもしれない。だったら悪いことを聞いてしまった──
「何を考えているか知らないけど、絶対違うから」
フェイが食い気味に答えた。
第一王子であるフォスターが宰相と渡り合おうとしている頃、小隊に運び込まれた箱の中でオベルトは泣いていた。
一つは兄が自分を殺そうとしたわけではなかったことに安心して。もう一つは、理由はどうあれ昔から知るフーガが自分とフォスターを意図的に引き離し、兄の名を語って自身を殺そうとしたという事実を受け止めきれなかったからだ。
ソラの言う通りだった。『暁の庇護者』を護衛にと派遣してくれたフォスターはオベルトの命など狙ってはいなかったのだ。
オベルトは、箱の中でただただ、泣いていた。
「宰相──あなたは何か勘違いしているようですね」
宰相に詰め寄られていたはずのフォスターが笑顔で答えた。宰相にはその笑顔が不気味に見えて、身震いをした。おかしい。普段の自分であれば国王ならともかく、こんな小僧に圧倒されることなどないはずだ。
「そのペンダントは確かに魔道具ですが宰相が思っているようなものではない。記憶操作や精神干渉の効果は無いのです。だからあなたが先ほど白状した内容を私の策略ということにしようとするには無理があるんです」
フォスターがこのペンダントが魔道具であることを認めた。フーガは心の中でほくそ笑んだ。
「何を仰っているのかわかりかねる。これは確かに闇属性の魔道具ではないですか」
「そのように言われるのは心外ですね・・・。そもそも宰相にはそのペンダントは何色に見えているのですか?」
フォスターにそう言われ宰相は自身の胸にあるペンダントに視線を落とし、そこに在る色に目を見開いた。
「っ!──橙色だと・・・?」
フーガにはその色に心当たりがなかった。
各属性魔法の魔石はその性質を示すような色をしている。例えば火属性の魔石は赤。水属性は青。風属性は緑。土属性は茶色だ。光属性の魔石は白色なのに七色の光を放っており、闇属性の魔石は言わずと知れた黒色だ。
「・・・属性魔法では無い?」
特殊魔法の魔石は存在するが、とても高価だ。しかも閉じ込められた希少なその魔法を生かすため、手に入れた者がそれを宝飾品にすることは滅多にない。錬金魔法や付与魔法の使い手に依頼し、加工して手元に置くからだ。
しかしフーガはこの国の宰相まで上り詰めた男だ。いくら宝飾品に興味がなくとも遥か昔、その色を学んだことがあるはずだ。それが知識として自分の頭の中に残っているはずなのだ。
先ほどまではスラスラと未来予想図が浮かんできていたはずなのに、知識を呼び起こそうとすると、途端頭が働かなくなる。
王太子の笑顔と、何も言わない国王の視線に足が震える。彼らは強者だ。頭を垂れ、何でも正直に話したくなる。
こんなこと、これまでに一度もなかった。
自分はこの二人を手玉に取り、影からこの国を動かす『影の王』なのだから。
小刻みに震えるフーガを一瞥し、フォスターは冷たく微笑むと口を開いた。
「答え合わせをしよう。その魔石に込められている魔法はね──
──支援魔法だよ」
「支援魔法?」
「そうだ。支援魔法は戦いにだけ特化した魔法ではない。対象を弱体化させるためのモノがある。
例えばあなたが陥ったように、威圧的に詰め寄られれば恐怖のあまり正直にすべてを話してしまいたくなったり、本来なら難なく躱せる質問に答えることが出来なかったり、あるはずの知識が引き出せなかったり──」
記憶操作でも、精神干渉でもない・・・あの黒い色は自分をミスリードするための罠。
「どのみちあなたには逃げ道はありませんでした。小隊は既に全てを白状し、大隊長とは私が面談して既に捕らえられているのだから。そして──」
フォスターは宰相が『棺』だと言った『箱』に視線を投げた。宰相もつられてそちらを見る。
小隊の騎士が二人がかりで『箱』のふたを開けると、そこから泣きはらした目のオベルトが現れた。
「オベルトは生きている」
宰相はその場で膝をついた。
冒険者が謁見の間に現れては宰相が警戒するからと、『暁の庇護者』の面々はその魔道具をフォスターに渡し、自分たちは一部始終を物陰から見ていた。
実はエイシスと第一王子は同い年で、学園ではクラスメイトであった。
オベルトが『スキル』を使って暗殺を指摘した時の宰相の反応から、フォスターはずっと彼を怪しんでいた。
しかし当時フォスターは十才。母とは会えず、父に会う時はいつも誰かがそばにいたため、誰にも相談が出来なかったのだ。
十六才の時、フォスターも『特殊スキル』に目覚めた。フォスターのスキルは『契約』。本来なら国家間や証人と契約をする際に偽装を防いだりするスキルであるが、目覚めたばかりの不安定な状態だったためかスキルが本来とは違う作用をしてしまい、何故か一匹の大きな鳥と『契約』してしまったのだ。
流石にこの時期になると自身が偏った教育しか受けていないことに気付いていた。
しかし宰相をはじめ、誰が敵で誰が味方なのか分からないため変わらず相談相手もいなかったし、精神的に不安定な状況が良くないのか『スキル』は一向に安定しなかった。
それからまた数年──フォスターはオベルトが隣国へ公務に向かうと聞いた。しかも帯同者は侍女や侍従は別として護衛騎士のルクスと一個小隊のみ。第二王子の護衛としては少なすぎる人数だ。
胸がざわついた。
ふと窓の外を見ると、いつも窓辺に止まり見守ってくれている鳥が何か言いたげにこちらを見ていた。
当然スキルのことは誰にも言っていないため、フォスターが一匹の鳥と『契約』していることなど誰も気づかない。フォスターはここではじめて何とかして外部と連絡が取れないだろうかと考えた。
「いきなり鳥が僕めがけて飛んできた時は驚いたよ」
一瞬逃げようかと思ったと、エイシスが冗談交じりに言った。
逃げなかったからここにいるわけなのだが、バーンスタイン王国からファランドール王国までエイシスを探して飛びつつけた大型の鳥が「やっと見つけた!」と言わんばかりにエイシスの懐めがけて飛び込んできたのだ。殺気を感じなかったとはいえ、もう少しで手が出るところだった。
「でも彼はあの若さで宰相にまで上り詰めただけあって相当頭の切れる男だったんだ。最初の色が黒色だったから『闇魔法と支援魔法の両方の作用のある魔道具だ』とバレないかとかなりヒヤヒヤしたよ」
「それに気付かないのも支援魔法だし、支援魔法と分かってもネックレスと取ることまで考えが及ばないのも支援魔法なんだ」
そう、フェイが言っていた。
「デバフの効果で精神干渉されたことすら気のせいだと思わせる・・・恐ろしい魔道具だな。こんな貴重なものを使わせてしまって・・・申し訳ない。
それにしても一回使いきりで良かったよ」
今、牢に入っているフーガの胸にあるのは空の魔石のペンダントだ。
フォスターの言葉に、「本当に・・・」と答え、エイシスは苦笑した。
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