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58 オベルトからの手紙
しおりを挟む「はぁ!???」
カノンが眉間に皺を寄せて本当に嫌そうにそういうと、「フェイと全く同じ反応だね」と楽しそうに笑った。
「王太子殿下はフェイをご存じなのですか?」
「もちろん知っているよ」
王太子は即答だった。そう言えばカノン同様フェイも学園生なのに冒険者をしているのだ。カノンと同じく『特例』に決まっている。国王と王太子殿下、王弟である学園長には情報共有されているのは当たり前だった。
「ちょっと第二王子との仲を勘ぐったのだけど、その様子だと全く興味はなさそうだね。君に隣国に行かれると色々困ることになるなぁと思っていたから安心したよ」
「え?あぁ、そうですねぇ。興味がないどころか存在自体忘れていましたね」
嘘ではない。本当に忘れていたし、出会いから別れまで気分を害する出来事ばかりだったため、できれば思い出したくはなかった。
「──にしても婚約なんて気持ち悪いですね。何を企んでいるんでしょうか」
「そうなんだ。その手紙も国王の署名もなければ玉璽もない。どうやら第二王子が勝手に出したもののようなんだ。知っての通り最近あちらの国は色々あったからね。
ちょっと考えられないけど、そのどさくさに紛れて送られてきたのではないかな?──ほんと、考えられないけど」
余程ひどい内容だったのか、ブライアンが遠い目をして言った。
「そうだ。バーンスタイン王国は友好国ではあるんだが二人の王子にはお会いしたことがなくてね。どんな人なのか聞いていい?フェイにも聞いたのだけど、凄く嫌な顔をして答えてくれなかったんだよ」
「第一王子は知りませんけど、第二王子なら我儘で自分のことしか考えてない自己中、横柄で尊大、世間知らずで、何も出来ないくせに言うことも聞かずに威張り散らして怒鳴り散らす、ちょっと自分の気に入らないことを言う人かいたらすぐに首をはねろと命令する人ですよ」
誰も言うこと聞きませんけどね。あ、あとブラコンです──そうカノンが補足したが、その時にはブライアンの笑顔はピシりと凍り付いていた。
「フェイとは物凄く相性が悪そうだったので、今後話は振らない方が良いかと思いますよ。ちなみにわたしも関わりたくありません」
ブライアンに届いているかは分からないが、大切なので言っておく。
「・・・では、ソラが王女でフェイが護衛騎士になっていることに心当たりは?」
持ち直したブライアンにそう聞かれたが、そのように名乗った覚えは全くない。きっと何かの拍子に勝手に脳内変換したのだろう。こっちが不敬と言われそうだから本当にやめて欲しい。
カノンがそう伝えると、ブライアンは少し考えてカノンに言った。
「第二王子の前で魔法は使った?」
「えぇっと、光魔法と風魔法、空間魔法と水魔法を使いましたね。複合魔法の漆黒の穴──は見てなかったと思います。見ていたとしても馬鹿なんでカレリアさんの魔法だと思っているはずです」
「でもそんなに単純な人物なら『三属性以上使っている=王女に違いない。一緒に行動しているフェイは護衛だな』なんて考えそうかな?どう?」
「あ~、短絡的だったので、その可能性は十分あり得ますね。それにフェイがかなり苦言を呈していたので、『不敬』とか言いそうです」
ブライアンは凄い言われようだなと思ったが、何となくあの手紙の意味が理解できた。
「最後に複合魔法の『漆黒の穴』ってどんな魔法か聞いていいかい?」
魔法回数制限があるだろうから口頭説明でいいよと言われたが、百聞は一見にしかず。今日は寮から出る予定はないためミレイユがお茶の準備でこちらを見ていないことを確認してから、親指と人差し指の二本を立て、本日七回目の魔法で人の頭一つ分ほどの漆黒の穴を出して見せた。
「バーンスタイン王国の騎士を脅すのに使ったんですよ。現物は私の身長くらいの大きさです。
複合魔法と言っていいか分からないのですが、闇魔法で黒い部分を作ってから風魔法でゆっくり回転させて、更に重力操作で物を中に吸い込むようにしています。行き先はインベントリなのですが、『暁の庇護者』のカレリアさんが真顔で『これはね、漆黒の穴と言うのよ。一度中に入ればそこは『無』の世界。自力では出ることは叶わないわ。一生虚無の空間を漂い、独り永遠の時を生きることになるのよ──』なんて言うもので、バーンスタイン王国の騎士たちも震えあがって簡単に情報漏洩していましたよ」
ちょっとモノマネも入れてそう説明したカノンは、手のひらに葉っぱを一枚乗せると漆黒の穴に近付けた。すると葉はズルズルとブラックホールに向かって動き出し、最後は黒い渦に巻き込まれ、回転しながら吸い込まれていった。説明を終えるとカノンは収納から葉を出し漆黒の穴を消したが、ブライアンは再び凍り付いてしまっていた。
「あ、ミレイユ様!夏期休暇中に美味しいスイーツを手に入れたんで、一緒に食べませんか?」
「え?美味しいスイーツ?」
そんなブライアンを放置してカノンはお茶を淹れ終わったミレイユに声を掛けると、収納から『フローティ』を出した。
「まぁ!これは噂の『フローティ』ではなくって?」とミレイユが目を輝かせた。流石公爵令嬢。情報が早い。
「王太子殿下もいかがですか~?」
カノンがそう声を掛けると、まだ立ち直れないらしいブライアンは「あ、そうだね。い、頂こう・・・」と、珍しくどもっていた。
「これはですね。この『スプーン付きストロー』を使って食べるんです」
そう言ってフェイに錬金魔法で作ってもらった『フローティ』専用のカトラリーを出した。カノンも錬金魔法は使えるためチャレンジはしたのだが、技術が伴わないと良いものは出来ないらしく結局フェイに作り直してもらったのだ。
ブライアンにも同じカトラリーを渡したところで、以前ここで毒を盛られたことを思い出した。
「あ、殿下は毒見とかないとダメな感じですか?」とカノンが慌てて尋ねると、笑顔のミレイユがブライアンの代わりに「大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます」と答えた。
夏期休暇明けとはいえまだまだ暑い。話題は最低だったが、東屋で食べるフローティは最高だった。
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