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61 お前にプレゼントがあるんだ
しおりを挟む四日目の朝。普通科の特別聴講生が魔法科の授業を聴講させろと騒いでいたようだ。教師に恫喝まがいのことをした彼は、その後学園長室に連行され、現在は大人しく普通科の授業を聴講しているのだという。
──なので授業中だけは平和だ。
「カノン!一緒に食事を摂らないか?」
しかしそれ以外の時間はとても穏やかとは言えない時間を過ごしている。
「イヤです。昼食は友人と食べるので。それにマナーのなっていない人とは無理です」
「食事のマナーなら任せろ!俺は完璧だ」
「君、王族のくせに察する力が皆無だなんて致命的だね。許可なく令嬢の名を呼ぶマナーの無さが不快だと言われているんだよ。
しかも自分が王族であり、彼女が面と向かって断れないのを良いことに公衆の面前で食事に誘うことも配慮に欠けている」
(断れないって・・・きっぱり断りましたけど・・・駄目だった?)
それに無理とは言ったが不快とは言っていない。若干オルフェウスの主観が入っているようだが、口にしていないだけで確かに名を呼ばれることは大概不愉快に思っていたためカノンは何も言わなかった。
結局ランチの後も付き纏われ、放課後も女子寮の中に入ってきそうな勢いで付き纏われた。
ミレイユやオルフェウスがいなかったらカノンはオベルトにキレて暴言を吐いていただろう。何発か魔法もお見舞いしていたかもしれない。
因みにオルフェウスが都合よく居合わせるのは、他国の王族に対抗できるのは彼しかいないという理由で、カノンではなくオベルトの方に(距離を保ちつつ)張り付いているからである。
(もう、強制送還で良くない?)
オベルトに再会して二日しか経ってないというのに、カノンはヘトヘトだった。
オベルトが特別聴講生としてやってきて五日目。明日と明後日は週末であるため学園は休みだ。この頃になると、流石にオベルトがヤバいヤツだと理解できたのか、遠巻きに見ている令嬢はいなくなっていた。
今日を乗り切れば『カノン』はオベルトから解放される!
その”今日”も半分過ぎた昼休憩中、カノンの前に現れたオベルトは何やら小さな箱を持っていた。
「カノン!喜べ!お前にプレゼントがあるんだ!!」
(だから名前・・・)
カノンが呆れたように視線を向けると、そう言ってオベルトがこちらに箱の中身を見せて来た。
そこには火属性の魔石の指輪が入っていた。
「キモイ!」
「え?」
「・・・いえ、もらう理由がないので要らないです」
「俺がプレゼントしたいと思った。それが理由だ」
「そもそもわたし、アクセサリーに興味ないので」
カノンは前世で異世界の王族に見初められる物語も読んだことがあるため、「王子様」に憧れたことがないとは言わないけれど、オベルトだけは遠慮したい。
それにアクセサリーに興味が無いとはいえ、カノンにだって男性から初めてもらう指輪には夢がある。その貴重な初めてをオベルトで潰したくはないのだ(若干ケチが付いたような気がしないでもないが・・・)。
そもそもオベルトはソラを探しに来たのではなかったか。何故人違いだと言っているのにカノンに絡むのかが理解できない。
「最低限のアクセサリーなら両親に揃えてもらっていますので不要です」
「ならば俺からの指輪も受け取ってくれてもいいじゃないか!」
何が「ならば」なのか理解に苦しむ。親と同等だとでも?
「知らない人から物を受け取ってはいけないと幼いころより教育されています」
「それは幼い子供に教えるポピュラーな誘拐を回避する策だろう」
──それと同程度しかあなたのことを知らないので受け取らないと言っているのだが。
「ここまで言われても分からないなんて、逆に気の毒になってきたよ。はっきり言うけど、君は彼女に嫌われているんだよ」
いつの間にかカノンの後ろに来ていたオルフェウスがオベルトに言った。確かにしつこそうなためはっきり断って諦めてもらわないと、この調子では特別聴講生の期間が終わっても居残りそうだ。学園の敷地内には入っては来られないだろうが、カノンも三百六十五日を学園と寮で過ごしているわけではない。
「大体お前は何なんだ!いちいちしゃしゃり出てきやがって!この国の王族は暇なのか!?」
「君ほどではないよ」
その時だった。
オルフェウスを憎々し気に睨みつけていたオベルトが『視えたっ』と叫び、勝ち誇ったような顔で彼を見た。
(あ、なんかコレ見たことがある光景だ)
そう思ったカノンがオルフェウスの顔をチラッと見ると、彼も頷いていた。
やはり『真実の瞳』──スキル発動!ってやつらしい。
「オルフェウスとか言ったな!男のフリをしているがお前実はは『フェイ』だな!!」
「「え、そうだけど?」」
フリってなんだ?フリって。
カノンとオルフェウス、二人の言葉がハモった。
「なっ!」
オベルトははじめから「カノン=ソラ」だと予測していたし、美少女冒険者「フェイ」のことも男だと知っていたはずだ。
しかもオベルトはフェイをソラの護衛騎士だと思っていたのだ。いつもオベルトからカノンを守るように現れる「オルフェウス」のことを一体なんだと思っていたのか。
「と言うことはやはりカノンが『ソラ』なんだな!」
しまった。オルフェウスはともかく、カノンが『オルフェウス=フェイ』を認めてはいけなかった。
「──違います」
なんだか急に面倒臭くなってカノンはそう答えた。オベルトならこんな見え透いた嘘にも引っかかりそうな気がしたからだ。
「あぁ、そうだ。そもそもその『ソラ』という方の魔法属性は何なのですか?」
カノンは不意に閃き、オベルトに質問をした。オルフェウスもその質問の意図に気付いたらしく、口を挟まずにオベルトの返答を待った。
「光と水、風と空間魔法だ」
よし!カノンは心の中でガッツポーズをした。
「クライスラー子爵令嬢の属性は風と水、そして火だよ。そもそも四属性ではない」
オルフェウスの言葉にカノンが頷く。
「そ、そんな・・・」
「嘘だと思うなら他の生徒に確認してみればいいよ」
「これで分かっていただけましたか?とりあえずソレ、本当に興味ないので要りません。そもそもわたしはソラさんではないので、もらう理由もありません。国に帰って婚約者でも作ってその方に渡してください」
流石に面倒くさいので「ソラに渡せ」とは言えない。カノンはオベルトにはっきりそう言うと、オルフェウスと共にその場を後にした。
信じられないことに、あれだけ言ったのにオベルトは放課後も指輪を持ってカノンの前に現れた。しかしミレイユに「これ以上付き纏うのなら学園長室でお話ししましょう」と言われ、そそくさと去っていった。
学園長は、オベルトに一体何したんだろう・・・。
翌日。オベルトの帰国まであと二日──いよいよソラの姿で再会である。
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