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73 瑠璃色の魔石
しおりを挟む話し合いはいつどこでオベルトを『出す』のかという話に移行した。
例えアレであっても一国の王子であるからと、早めに『出す』ことも検討されたが満場一致で直ぐに却下された。
早々に『出す』とうるさいし面倒だし滞在費もかかるのだ。その為抗議文が完成するまで『出さない』ことに決まった。
友好国に抗議文を出すともなれば宰相や文官の耳に入れないわけにはいかないが、好都合なことに調べるとオベルトと騎士の入国の記録がないことが分かった。その為「カノンに再三断られたオベルトが諦めきれず一人の騎士を伴って密入国。オルフェウスと共に参加していた実戦訓練終了後すぐに、王都でどさくさに紛れてカノンを誘拐しようとしたところ、偶然冒険者であるソラが居合わせ、これまた偶然居合わせたオルフェウスの指示により、ソラがオベルトと騎士を空間魔法で捕縛した。
他国の王子を牢にいれるわけにもいかず(なんなら地下牢にいれても構わないと思っているが)、現在もその状態を維持している」ということにした。
多少無理があるが、実践訓練中の出来事にしてしまうとグリエール伯爵の責任問題になってしまうからだ。
しかし、隣国が絡んでいる案件だ。秘密裏に事を運ぶため、関係者も詳しいことは他言しないだろう。
抗議文が完成し、オベルトを追い返す当日となった。
王城の裏門に国王陛下と王太子ブライアン、そして宰相と王弟、その子息のオルフェウスという面々が顔を見せた。
しかし何故かオルフェウスの隣にはフード目深にかぶった冒険者然とした少女が立っていた。
国王の御前だ。オベルトの護衛という名の監視の役目を担う騎士たちは表情を崩さずに整列しながらも、王の御前で被り物とはなんと無礼な!と怒りにうち震えていた。そして彼女が何故王族と並び立っているのかと疑問にも思っていた。
その時、オルフェウスに促され、その少女が収納から馬車と馬を取り出したのだ。
「「「「「「!」」」」」」
その場にいた騎士たちが、騒然とする。収納魔法のサイズだけでも十分あり得ないのに、生き物が出てきたからだ。
そうか彼女は国王の秘蔵の魔法師に違いないと。もしかしたら宮廷魔法師に名を連ねているのかもしれない。その正体を隠すために、王の御前でフードを被ることが許されているのだと騎士たちは納得したが、次に出て来たモノを見て、その場にいる全員が絶句した。
次にソラは収納からオベルトを『出した』のだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
突然現れた『人間』の口から発せられる奇声。捕縛される前に何を見たのかその美しい顔が恐怖に歪んでいる。実際にブラックホールを目にしたことがあるブライアンは勿論、見たことのない者たちもオベルトの恐怖の形相を見て震え上がった。
「!っ!はっ!!ま、眩しいっ」
オベルト的には真夜中の街道から急に太陽の下に引きずり出されたのだ。咄嗟に腕で顔を隠し、肩で息をしながら目が慣れるのを待つと、少しずつ周囲を確認した。
一番に視界に入ったのはソラ。
「あっ!ソラっ!貴様、俺に何をしたっ!!!許されると思っているのか?相応の罰を与えてやるから覚悟しろよ!」
『出した』途端のこの怒声。収納魔法から動物だけでなく人まで出てきたことに驚いて放心していた騎士たちは、瞬時に現実へと引き戻された。
隣国バーンスタイン王国の第二王子だと聞いていた騎士たちは、その口の悪さに顔を歪める。
そして国王をはじめとする面々は、その発言で本当にオベルトがカノンを好いているわけではないのだと納得した。
「バーンスタイン王国オベルト第二王子よ」
国王が声をかける。
「貴様は誰だっ!」
ソラに対して怒り狂っているところに名を呼ばれ、勢いのまま何も考えずに反応する。そんなオベルトに対し、瞬間騎士たちは殺気を放った。
「ファランドール王国の国王様ですよ」
このままではいつまで経っても出発できない上に、オベルトが罪を重ね面倒だと思い、宰相であるゴルドベルグ侯爵が声をかけた。
「は?俺はさっきまでバーンスタイン王国に近い街道にいたのだ。そんなはずがないだろう!いい加減なことを言うな!このっ──!」
「そんなことがあろうとなかろうと、もうどうでもいいよ」
オルフェウスが、さっさと終わらせようとオベルトに声をかけた。オベルトが失言で罪を重ねるのは構わないが、とても聞き苦しい。
国王もこの短い会話でオベルトとは話す価値無しと判断した様で、後は任せたとばかりにオルフェウスにアイコンタクトを送った。
「貴様っ!フェイ!!あと少しでカノンを我が国に連れていけたというのに、やはりお前が邪魔をしたんだな!?そんなにカノンが俺に奪われるのが耐えられなかったのか!はっ!!いい気味だっ!」
「結果失敗しているんだから『いい気味』ではないと思うけど、そんなことはどうでもいいよ。
君は今回のことで我が国への入国が禁止されることになったから、もう会うこともないだろうしね」
「なんだとっ!?」
「今回のように密入国なんてしようものならこっちの国の法で裁かれることになるよ。来るなら死ぬ気で来ることだね」
オルフェウスはオベルトにそう言うと、騎士たちに連れていけと合図した。
「どう言うことだ!フェイ!答えろ!!」
「それ、止めてくれないか。何故君なんかに愛称で呼ばれないといけない?カノンの名もそうだ。家名で呼ぶように言ったよね?二度と会うことはないのだとしても止めてくれ。不快だ」
「なっ!」
なにかを言い返そうとするオベルトだったが怒りを露わにした騎士たちの力に敵うはずもなく、さっさと馬車に乗せられ外から鍵をかけられた。
「出せ」
宰相の言葉にこの騎士隊を率いる隊長が号令をかけ、静かに隊列は出立した。
しつこかったオベルトはもうこの国にやって来ることはない。そう思うと安心できるような気がしたが、アレがそんなに簡単に諦めるとも思えず、ソラには一抹の不安が残ったのだった。
ちなみにオベルトの騒ぎで忘れて──ではなく後回しになっていた男の身柄は、その後収納から城の牢に移された。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
オベルトと同じく『出された』途端に口から発せられた奇声に、本当に捕縛される前に何を見たのだと一同は思ったが、聞くのも恐ろしくそこには触れずに取り調べを行うことになった。
彼はまだ幼い頃に祖父に当たる人物が悪事を働き降爵された後に没落した一族で、色々あってバーンスタイン王国に流れ着いたのだと分かった。
貴族であった頃の記憶はないが、両親から「元貴族」として礼儀作法を教わり厳しく育てられた彼は、魔法が発現した時に属性魔法だけでなく特殊魔法を使えることに気付いた。
そこからは「上」を目指して貴族の私兵として職を転々とし、あの日偶然オベルトに出会ったのだ。
金払いがいいうえに成功すれば王宮で雇ってくれるというまたとないチャンス。令嬢の秘密を突き止め連れ出すことにも成功した。あと少しでバーンスタイン王国に入る。これで自分の未来は明るい。
そう、思ったのに。
その情報はガセで、男は今、暗い牢の中にいる。
オルフェウスより、グリエール伯爵領では男は大蛇に丸飲みにされ既に亡くなっていることになっていると報告されている。
ならば問題ないと、男は尋問後誰にも知られることなくファランドール王国の地下牢に収監された。
そのうちダンジョンでは契約魔法の魔石が採れるようになるだろう。
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