【完結】訳あって『王都の影』、やっています

Debby

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11 願わくば、

 その時だった。
 焦るあまり気付かなかったが、数騎の馬が現れたのだ。

(敵?それとも味方!?)

 木の陰からその様子を確認したシエルは驚いた。

「シラソル男爵令嬢っ!モディアス・リドラーンが助けに来たぞ!!」

 何と文字通り白馬に乗った第一王子だったのだ!

(敵のアジトに乗り込むのに白馬って・・・)

 他の騎士の馬や制服が闇に紛れる仕様なのに、白馬と第一王子の名乗りがすべてを台無しにしていた。
 前々から思ってはいたが、第一王子殿下はおそらく勉強以外ダメな方なのだろう。
 この国の将来が不安でしかない。

「よ。騎士が来たから俺たちの役目は終わりだ」

 いつの間にか『王族の影』が戻ってきていた。

「ごめんなさい。私の仕事が甘かったせいで、あなたたちを危険な目に・・・」

 謝るシエルに『王族の影』は言った。

「こんな時に貴族も平民もないかもしれないが、貴族令嬢がそこまで気を回せなくても誰も責めないさ。
 そもそも『影』と言ってもあんたは非戦闘員だし、普通はこのような場に居合わせることもないだろう。悪党の意識を狩るときの力の入れ具合もその後に草陰に隠すなんてことも知っている方がおかしい。
 『影』と一言で言っても、スキルの性質上、戦闘要員と非戦闘要員がいるのは普通のことなんだよ。
 気にするな。但し、今度からはこんな無理もするな」

 そう言って『王族の影』はシエルの頭をポンポンと軽く叩いた。

「『王族の影』さん・・・」

 どうやら彼はシエルを慰めてくれているらしい。

「グレイ」
「え?」
「俺の名前。『王族の影さん』なんて呼ばれたくないから」

 それもそうか。シエルも『王都の影さん』なんて呼ばれたら嫌だ。
 見ると、誘拐された被害者が騎士たちに連れられて出て来たようだ。誘拐犯たちも拘束されたうえで引っ張り出されてきた。
 ラフィーも元気そうだ。

(よかった・・・あれ?)

「っ!」

 シエルはその光景を見て、なにか違和感を覚えた。しかし、その瞬間、身体の力が抜け崩れ落ちてしまったのだ。幸いグレイが抱き止めてくれたので地面に倒れこむことはなかったが、婚約者でもない男性との距離に焦り、感じた違和感も吹き飛んでしまった。

「申し訳ありません」

 そう言って一人で立ち上がろうとしたがどうやっても無理だった。
 それもそのはず、いつもならうに眠っている時間帯だ。その上慣れない戦闘をした上にラフィーの姿を見て安心した。要は気が抜けてしまったのだ。

「・・・」

 グレイは何も言わずにシエルを横抱きにすると、そのまま駆け出したのだ。

「家まで送るよ」
(えええええっ!)

 シエルは驚いたが、いつまでもあそこに留まるわけにもいかず、かといって自身の足で立ち上がることも出来ない状態では家に帰ることも出来ない。
 大人しくグレイの腕に収まることにした。
 流石『王族の影』だけあってシエルの家も知っているらしい。

「申し訳ありません・・・重いでしょう?」
「え?逆に軽くて驚いているよ」

『スキル』とはいえ人を一人抱えた状態であるにも関わらず軽快な走り、頼れるこの安心感・・・。
 きっとこれが『吊り橋効果』というものに違いない。
 会ったばかりで顔すら分からないこの人に、少しとはいえ好意を持ってしまうなんて・・・。
 シエルはそんなことを考えながらそのまま寝落ちしてしまったらしく、翌朝目が覚めたらベッドの中だった。





 翌日、ラフィーは学園を休んだがその次の日には元気な姿を見せてくれた。
 シエルは自分のせいで申し訳ないと謝りたかったが、そうするためには自身がスキルを持っていることを告白しなければならない。
 それに誘拐事件後、過剰に心配した第一王子たちが可能な限りラフィーをそばに置くようになったため、話をする機会が全くないのだ。
 そのままラフィーと話せないまま冬期休暇を迎えてしまった。



 いつも通り、たまに紅茶店を覗きながら(誘拐事件のことを聞いたらしいエッセにラフィー友達のためとはいえ無茶のし過ぎだと沢山怒られた)、のんびりと過ごす予定だったのだが、シエルの身にそうも言っていられない人生を揺るがす事態が起こったのだ。

「こ、婚約、ですか!?」
「そんなに驚くことかい?お前も17才。なにも不思議はないだろう」

 フルーガ子爵の執務室に呼ばれたシエルは、なんの脈絡もなくそんなことを告げられた。
 確かに不思議ではないが、伴侶に対しても『影』であるという秘密を持ち続けなければならないため、結婚はせずに就職してもよいかなと最近思い始めていたのだ。
 貴族たるもの、夫婦とはいえ言えないことの一つや二つあってもおかしくはないのだろうが──

「それに子爵家は兄であるルイスが継ぐわけだし、早めに嫁入り先を決めておかないと。あちらから来た話だし、望まれて嫁ぐ方がお前もいいのではないか?それにのんびり構えていたらお前が寄こしたリストの令息しか残っていない──なんて事態になるぞ」

 フルーガ子爵は冗談めかしてそんなことを言うけれど、それだけは本当に冗談ではない。
 望まれて──子爵令嬢ながらAクラスに在籍しているので話が来ること自体はあるだろうと思っていた。成績を理由に望まれることが幸せにつながるかは甚だ疑問だが、ここは当主の決定。シエルは腹をくくるしかなかった。

「わかりました」

 フルーガ子爵が「一応釣書に目を通しておきなさい。年内にあちらの家に挨拶に伺う」と告げたところで話は終わった。

 自室に戻りテーブルの上に釣書を置く。
 開こうと手を伸ばしたところで、グレイのことを思い出した。
 全身黒ずくめで瞳しか出ておらず、その瞳も深夜だったため色の判別すら出来なかった。きっと街であってもシエルは気付けないだろう。
 この釣書の中の方がグレイである可能性は・・・そんなことを考えて、シエルは自分で自分を笑ってしまった。

(ふふ。馬鹿みたい)

 グレイのことでわかることと言えば、名前──これはおそらく偽名だろう。
 声?しかしマスクをしておりくぐもって聞こえた。実際の声とは異なるだろう。
 ならば身長か・・・ほとんどしゃがんだ状態で会話をしたためわからない。
 きっとスキル不所持として生活しているはず──は、ほとんどの人がそうだ。
 あとは横抱きにされたときの安心感と──。

 そこまで考えてシエルはハッとした。
 貴族かどうかも分からない人だし、この気持ちはきっと吊り橋効果なのだ。時が経てば消える。
 それに相手など関係ない。自分は子爵令嬢として、貴族の義務を全うしなくてはならない。

(願わくば、好きになれそうな方でありますように)

 シエルはそう思いながら釣書を開いた。
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