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11 どういうおつもりですの!?
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「ロベリー様!」
ローズがロベリーに「私と踊ってください」と言い掛けたその時、重ねて彼に声を掛ける者がいた。
キャナリィだ。
キャナリィがシアンを伴って戻ってきたお陰で、勇気を出したローズの言葉が周囲の生徒の歓声で掻き消えてしまったのだ。
一度はローズをとらえたロベリーの視線すら、キャナリィに向かってしまった。
キャナリィの片手は変わらずシアンの手の中で。
ダンスの後だからなのか、ローズがロベリーに声を掛けるのを阻止するために急いで来たからなのか、キャナリィの肩は軽く上下していた。
キャナリィはロベリーと踊るつもりはないらしく、そのまま別テーブルにロベリーを連れて行ってしまった。
ロベリーもキャナリィを誘うことはなかったことに少し安心はしたが、そこまでしてキャナリィは二人を自分のものにしたいのか。
「キャナ様からカーマイン様の事は諦めるよう言われたはずです。それに──カーマイン様はあなたと踊ることはありません」
──勿論キャナ様とも。
いつの間にかローズの後ろに立っていたクラレットが彼女にそう、耳打ちした。
しかし頭に血が上ったローズは最後の一言が耳に届く前に、クラレットを退け睨み付けた。
「何故、たかが伯爵家の商人ごときに私がそのようなことを言われなければならないの?」
怒りで震えるローズはクラレットにのみ聞こえる声で言う。
まだ、公爵家の血統であると言う矜持がそうさせていた。
このような場で声を荒げるものではない。
一方クラレットは同じ伯爵家の令嬢から向けられた言葉に、一瞬何を言われているのか分からなかった。
「普通に考えて伯爵家第二子のあなたと伯爵家後継の私──そして、たとえあなたがこの先どこかに嫁いだとしても『夫人』止まりのあなたと、この国の商人を束ねる伯爵家当主となる私・・・どちらかといえば、『ごとき』はあなたではないでしょうか」
クラレットは決して傲っている訳ではない。
これまでは彼女にどんな思惑があろうとキャナリィに止められていたため手を出さなかったが、メイズ伯爵家を馬鹿にされてまで黙っていることは自身の矜持に反するし、単純にクラレットはローズの言葉に疑問を持ったというのもあった。
「なんですって!私はローズ・ピルスナー。オーキッド前公爵の孫にして現公爵の姪よ!
あなたとは根本的に血統が違うの」
あぁ。と、クラレットは得心がいった。
ロベリーだけならまだしも、キャナリィという文句のつけようのない婚約者のいるシアンにも執着している様に見えたのはそう言うことか。
「今時、とんだ選民思想の持ち主ですね。
いつぞやのエボニーと同じく、ただ恋に狂っているだけなのかと思いきや、自分に流れる血に相応しいのは公爵夫人だ・・・等と思っているのですか?しかも大恩あるキャナ様を差し置いて・・・なんと浅はかな──」
「私が平民と同じですって!?」
平民と同列に扱われたことに気付き、ローズは激昂した。しかもキャナリィに恩などある筈もない。
「私はウィスタリア侯爵令嬢がいかに公爵夫人として不適切な行為をしているのか、きちんと事実をお祖父様にお話し、しかるべき対応を・・・」
いたって冷静なクラレットに対して明らかに感情がコントロールできていないローズの声も次第に大きくなってくる。
ローズが前公爵に話したと言った件で日頃から無表情なクラレットの表情が動いた。
ローズはさすがのクラレットもオーキッド公爵の名に気後れしたかとほくそ笑む。しかし次にクラレットが言った言葉はローズが期待した反応とは違うものだった。
「諦めなさい。あなた『ごとき』公爵夫人の器ではありません」
諦めなさい──ローズはまたあの日の事を思い出していた。
「ロベリー様のことは、諦めなさい」
ローズは自分にそう言い放ったキャナリィを見た。
「前公爵にそんな話をしてしまっているのなら事態を重くみた前公爵か公爵が既に動いておられることでしょう」
シアンとロベリー──ふたりと共に優雅にお茶を飲み微笑むキャナリィの姿に気を取られているローズに、クラレットの言葉などもう届いてはいなかった。
足が勝手にロベリーの元へ向かう。
「折角キャナ様があなたに疵瑕がつかないように心を砕いてくださっていたと言うのに──」
ローズがどうなろうとそれは彼女の選んだ道。その事でクラレットの心が動くことはない。
クラレットも情報が命とも言っていい世界に身を置いている。
しかし、その情報には守秘義務や駆け引きが付きもの。たかが令嬢ひとりのためにおいそれと口にするわけにはいかない。
クラレットの表情が動いたのは再びキャナリィが憂い、心を痛めることにならなければ良いと、そう思ったからだ。
ローズの足はシアンとロベリーの元へと勝手に動いていた。
「ウィスタリア侯爵令嬢!あなた、どういうおつもりですの!?」
三人の座るテーブルの前に立ちはだかるとローズはそう、言い放った。
ローズがロベリーに「私と踊ってください」と言い掛けたその時、重ねて彼に声を掛ける者がいた。
キャナリィだ。
キャナリィがシアンを伴って戻ってきたお陰で、勇気を出したローズの言葉が周囲の生徒の歓声で掻き消えてしまったのだ。
一度はローズをとらえたロベリーの視線すら、キャナリィに向かってしまった。
キャナリィの片手は変わらずシアンの手の中で。
ダンスの後だからなのか、ローズがロベリーに声を掛けるのを阻止するために急いで来たからなのか、キャナリィの肩は軽く上下していた。
キャナリィはロベリーと踊るつもりはないらしく、そのまま別テーブルにロベリーを連れて行ってしまった。
ロベリーもキャナリィを誘うことはなかったことに少し安心はしたが、そこまでしてキャナリィは二人を自分のものにしたいのか。
「キャナ様からカーマイン様の事は諦めるよう言われたはずです。それに──カーマイン様はあなたと踊ることはありません」
──勿論キャナ様とも。
いつの間にかローズの後ろに立っていたクラレットが彼女にそう、耳打ちした。
しかし頭に血が上ったローズは最後の一言が耳に届く前に、クラレットを退け睨み付けた。
「何故、たかが伯爵家の商人ごときに私がそのようなことを言われなければならないの?」
怒りで震えるローズはクラレットにのみ聞こえる声で言う。
まだ、公爵家の血統であると言う矜持がそうさせていた。
このような場で声を荒げるものではない。
一方クラレットは同じ伯爵家の令嬢から向けられた言葉に、一瞬何を言われているのか分からなかった。
「普通に考えて伯爵家第二子のあなたと伯爵家後継の私──そして、たとえあなたがこの先どこかに嫁いだとしても『夫人』止まりのあなたと、この国の商人を束ねる伯爵家当主となる私・・・どちらかといえば、『ごとき』はあなたではないでしょうか」
クラレットは決して傲っている訳ではない。
これまでは彼女にどんな思惑があろうとキャナリィに止められていたため手を出さなかったが、メイズ伯爵家を馬鹿にされてまで黙っていることは自身の矜持に反するし、単純にクラレットはローズの言葉に疑問を持ったというのもあった。
「なんですって!私はローズ・ピルスナー。オーキッド前公爵の孫にして現公爵の姪よ!
あなたとは根本的に血統が違うの」
あぁ。と、クラレットは得心がいった。
ロベリーだけならまだしも、キャナリィという文句のつけようのない婚約者のいるシアンにも執着している様に見えたのはそう言うことか。
「今時、とんだ選民思想の持ち主ですね。
いつぞやのエボニーと同じく、ただ恋に狂っているだけなのかと思いきや、自分に流れる血に相応しいのは公爵夫人だ・・・等と思っているのですか?しかも大恩あるキャナ様を差し置いて・・・なんと浅はかな──」
「私が平民と同じですって!?」
平民と同列に扱われたことに気付き、ローズは激昂した。しかもキャナリィに恩などある筈もない。
「私はウィスタリア侯爵令嬢がいかに公爵夫人として不適切な行為をしているのか、きちんと事実をお祖父様にお話し、しかるべき対応を・・・」
いたって冷静なクラレットに対して明らかに感情がコントロールできていないローズの声も次第に大きくなってくる。
ローズが前公爵に話したと言った件で日頃から無表情なクラレットの表情が動いた。
ローズはさすがのクラレットもオーキッド公爵の名に気後れしたかとほくそ笑む。しかし次にクラレットが言った言葉はローズが期待した反応とは違うものだった。
「諦めなさい。あなた『ごとき』公爵夫人の器ではありません」
諦めなさい──ローズはまたあの日の事を思い出していた。
「ロベリー様のことは、諦めなさい」
ローズは自分にそう言い放ったキャナリィを見た。
「前公爵にそんな話をしてしまっているのなら事態を重くみた前公爵か公爵が既に動いておられることでしょう」
シアンとロベリー──ふたりと共に優雅にお茶を飲み微笑むキャナリィの姿に気を取られているローズに、クラレットの言葉などもう届いてはいなかった。
足が勝手にロベリーの元へ向かう。
「折角キャナ様があなたに疵瑕がつかないように心を砕いてくださっていたと言うのに──」
ローズがどうなろうとそれは彼女の選んだ道。その事でクラレットの心が動くことはない。
クラレットも情報が命とも言っていい世界に身を置いている。
しかし、その情報には守秘義務や駆け引きが付きもの。たかが令嬢ひとりのためにおいそれと口にするわけにはいかない。
クラレットの表情が動いたのは再びキャナリィが憂い、心を痛めることにならなければ良いと、そう思ったからだ。
ローズの足はシアンとロベリーの元へと勝手に動いていた。
「ウィスタリア侯爵令嬢!あなた、どういうおつもりですの!?」
三人の座るテーブルの前に立ちはだかるとローズはそう、言い放った。
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