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精霊の愛し子
(誰かっ、助けて!!)
シャイニーが心の中でそう叫んだ時、騎士が数人現れ男たちをねじ伏せた。
男たちの制圧が終わるとともに、大好きな人の声がした。
「危ないところだったね。でも何故君はこんなところを供もつけずに歩いているの?馬車は?」
そこに現れたのは、ディジットを従えたクライムだった。
「あ、ありがとうございます」
震える声でシャイニーがお礼を言うと、クライムは申し訳なさそうに言った。
「震える手を握って安心させてあげたいのは山々だけど、婚約者のいる身ではそれも難しい・・・。申し訳ないね。──ディジット、彼女を教会まで送ってあげて。騎士を二人ほど連れて行くといい」
「はっ」
クライムの言葉にディジットが短い返事を返す。
階段から落ちた時は抱きしめてくれたのに──シャイニーは震える指を握りしめた。
襲われそうになったシャイニーをクライムが助けたことは、教会派の手によって翌日には学園中が知ることになっていた。
シャイニーは相変わらずクライムへのアプローチを続けている。そんな中での前回の階段と今回の噂に、都合の良いことに、ついに王族派が動いた。
令嬢によるシャイニーに対する嫌がらせがはじまったのだ。
しかし気の強いシャイニーは全く動じなかった。
シャイニーは曲がったことを好まない。だから巷で流行っている物語にあるみたいに自作自演をする気はない。しかしされたことを無かったことにもしない。
シャイニーはその現場をクライムに目撃させるために、毎回呼び出される度に様々な方法を使ってその近くにクライムを誘導したのだ。優しく誠実な彼がシャイニーを無視することはない。必ず側近を引き連れその場にやってきてくれる。
結果、「シャイニーが嫌がらせを受ける度にその場に現れ救い出すクライム」の構図が出来上がった。
しかし令嬢たちを煽り、暴力でも振るわれたところをクライムに目撃させ、リリーへ疑いの目を向けさせるつもりだったシャイニーの目論見は外れた。
クライムが事が起こる前に現れるからだ。シャイニーを呼び出した令嬢たちは事を起こす前に注意されるため無罪放免になるのだ。
それにより、実は王族派の令嬢ひいてはリリーを守るためにクライムはシャイニーを助けているのではないかと言い出すものまで現れた。
こうして、真実はどうあれ噂は広まっていった。
ただ、王太子殿下は優しく誠実である。この評価だけは変わることはなかった。
*――*――*――*――*――*
「君の淹れてくれたお茶はやっぱりとても美味しいね。心が癒されるよ」
いつからだっただろうか。
婚約者同士のお茶会の席で人払いをし、リリーが手ずからお茶を淹れるようになったのは。
「──シャイニー嬢に君のことを話そうと思うんだ」
クライムがリリーに言った。
「これ以上君に心配をかけたくないからね」
クライムはリリーに近しい王族派の令嬢たちが動いていることで、シャイニーとのことで彼女に心労をかけているのだと考えていた。政略結婚とはいえ、リリーは自分を憎からず思ってくれているのだと信じていたから。
「シャイニー様は秘密を守れるでしょうか」
「でも早い内に王太子妃は諦めてもらわなければいけない。僕も君もあらぬ噂の渦中の人になっている。人の噂は怖いからね。そろそろこの騒ぎも終わらせないと、このまま放置していると取り返しのつかないことになりそうだ──」
「そうですわね。殿下の治世に影を落としかねませんもの」
「彼女をお茶に誘うよ。勿論君も同席してくれ。──人払いをするからお茶を頼むね。ふふ、君の淹れてくれたお茶を飲む機会が増えるなんて、シャイニー嬢に感謝かな」
「喜んで準備させていただきますわ」
相手が大聖女と言われている令嬢とはいえ、いや、だからこそ、ここしばらくの彼女の行動は看過できないところまできていた。
何があろうと誠実と謳われたクライムの評価が下がることはないだろう。何より彼の取り組んでいる素晴らしい政策も彼の評価を不動のものにしている一因なのだから。
しかしシャイニーは違う。このまま社交界に出るようなことがあれば、加護の力は変わらずともその言動で彼女の価値が落ちてしまうと、クライムは考えているのだろう。そう、リリーは思っていた。
これ以上王族派の人間が問題を起こし続け、万が一処分の対象になってしまえば、教会の力が強くなりクライムの治世に問題が生じる可能性だってある。
だからクライムはリリーが自身の婚約者でなければならない理由をシャイニーに話す機会を設けることにしたと思っていたのだ。
放課後、シャイニーがクライムに誘われ、喜んで向かった中庭の東屋にはリリーがいた。
(え、二人きりじゃないんだ)
内密の話があると人払いをされたそこには、上品なティーセットが準備されており、リリーが手ずから紅茶を淹れるようだった。
クライムは「私が好きなお茶でね。二人で過ごすときはいつもリリーに入れてもらっているのだ」とシャイニーに言った。
なるほど、良い香りが漂ってきた。
三客のカップがそれぞれの前に置かれ、クライムの隣の席にリリーが着いた。シャイニーの勧められた席はクライムの向かい側だった。
「リリーはね、『精霊の愛し子』なんだよ」
王太子の口から出た言葉を聞いたシャイニーは最初、意味がわからなかった。
「え?精霊の愛し子?」
そんなはずはない。リリーが精霊の愛し子であれば精霊の恩恵にあずかって魔法に長けているはずだ。シャイニーはリリーが魔法を使うといった話を聞いたことがなかった。
それに、リリーが精霊に無条件で愛されているのであれば、その精霊に力を借りて魔法を行使するシャイニーはリリーより『下』ということになる。
そんなの許されるはずがなかった。
「リリー様が精霊の愛し子であれば、魔法が碌に使えないのは何故ですか?」
「魔法については言いたいことがあるかもしれないけど、リリーが精霊の愛し子であることは事実なのだよ。この国は精霊の力無くしては成り立たない。だから私たちの結婚はこの国の将来のために成されなくてはならないものなのだ。君や教会が何をしようと無くならない」
「そんな・・・」
シャイニーがショックを受けていると、クライムが言った。
「せっかくリリーが淹れてくれたお茶が冷めてしまうよ。さぁ。リリーもシャイニー嬢も──」
クライムが2人にお茶を飲むように促し、自身もカップを口に運ぶ。
シャイニーはお茶を飲む気分ではなかったが、気持ちを落ち着かせるためにカップを手に取った。
そして、リリーとシャイニーが紅茶を一口飲んだその瞬間──
ガシャンッ!
リリーとシャイニーがテーブルに倒れ伏した。シャイニーの手にあったカップが冷たい石畳に落ちて割れる。
「はっ、がっ・・・」
(毒!何で!?まさかリリー様が!?あ、クライム様は無事なの!?)
苦しみながらもシャイニーはクライムのことを想った。クライムも毒に苦しんでいるのであればシャイニーの魔法で──
シャイニーが心の中でそう叫んだ時、騎士が数人現れ男たちをねじ伏せた。
男たちの制圧が終わるとともに、大好きな人の声がした。
「危ないところだったね。でも何故君はこんなところを供もつけずに歩いているの?馬車は?」
そこに現れたのは、ディジットを従えたクライムだった。
「あ、ありがとうございます」
震える声でシャイニーがお礼を言うと、クライムは申し訳なさそうに言った。
「震える手を握って安心させてあげたいのは山々だけど、婚約者のいる身ではそれも難しい・・・。申し訳ないね。──ディジット、彼女を教会まで送ってあげて。騎士を二人ほど連れて行くといい」
「はっ」
クライムの言葉にディジットが短い返事を返す。
階段から落ちた時は抱きしめてくれたのに──シャイニーは震える指を握りしめた。
襲われそうになったシャイニーをクライムが助けたことは、教会派の手によって翌日には学園中が知ることになっていた。
シャイニーは相変わらずクライムへのアプローチを続けている。そんな中での前回の階段と今回の噂に、都合の良いことに、ついに王族派が動いた。
令嬢によるシャイニーに対する嫌がらせがはじまったのだ。
しかし気の強いシャイニーは全く動じなかった。
シャイニーは曲がったことを好まない。だから巷で流行っている物語にあるみたいに自作自演をする気はない。しかしされたことを無かったことにもしない。
シャイニーはその現場をクライムに目撃させるために、毎回呼び出される度に様々な方法を使ってその近くにクライムを誘導したのだ。優しく誠実な彼がシャイニーを無視することはない。必ず側近を引き連れその場にやってきてくれる。
結果、「シャイニーが嫌がらせを受ける度にその場に現れ救い出すクライム」の構図が出来上がった。
しかし令嬢たちを煽り、暴力でも振るわれたところをクライムに目撃させ、リリーへ疑いの目を向けさせるつもりだったシャイニーの目論見は外れた。
クライムが事が起こる前に現れるからだ。シャイニーを呼び出した令嬢たちは事を起こす前に注意されるため無罪放免になるのだ。
それにより、実は王族派の令嬢ひいてはリリーを守るためにクライムはシャイニーを助けているのではないかと言い出すものまで現れた。
こうして、真実はどうあれ噂は広まっていった。
ただ、王太子殿下は優しく誠実である。この評価だけは変わることはなかった。
*――*――*――*――*――*
「君の淹れてくれたお茶はやっぱりとても美味しいね。心が癒されるよ」
いつからだっただろうか。
婚約者同士のお茶会の席で人払いをし、リリーが手ずからお茶を淹れるようになったのは。
「──シャイニー嬢に君のことを話そうと思うんだ」
クライムがリリーに言った。
「これ以上君に心配をかけたくないからね」
クライムはリリーに近しい王族派の令嬢たちが動いていることで、シャイニーとのことで彼女に心労をかけているのだと考えていた。政略結婚とはいえ、リリーは自分を憎からず思ってくれているのだと信じていたから。
「シャイニー様は秘密を守れるでしょうか」
「でも早い内に王太子妃は諦めてもらわなければいけない。僕も君もあらぬ噂の渦中の人になっている。人の噂は怖いからね。そろそろこの騒ぎも終わらせないと、このまま放置していると取り返しのつかないことになりそうだ──」
「そうですわね。殿下の治世に影を落としかねませんもの」
「彼女をお茶に誘うよ。勿論君も同席してくれ。──人払いをするからお茶を頼むね。ふふ、君の淹れてくれたお茶を飲む機会が増えるなんて、シャイニー嬢に感謝かな」
「喜んで準備させていただきますわ」
相手が大聖女と言われている令嬢とはいえ、いや、だからこそ、ここしばらくの彼女の行動は看過できないところまできていた。
何があろうと誠実と謳われたクライムの評価が下がることはないだろう。何より彼の取り組んでいる素晴らしい政策も彼の評価を不動のものにしている一因なのだから。
しかしシャイニーは違う。このまま社交界に出るようなことがあれば、加護の力は変わらずともその言動で彼女の価値が落ちてしまうと、クライムは考えているのだろう。そう、リリーは思っていた。
これ以上王族派の人間が問題を起こし続け、万が一処分の対象になってしまえば、教会の力が強くなりクライムの治世に問題が生じる可能性だってある。
だからクライムはリリーが自身の婚約者でなければならない理由をシャイニーに話す機会を設けることにしたと思っていたのだ。
放課後、シャイニーがクライムに誘われ、喜んで向かった中庭の東屋にはリリーがいた。
(え、二人きりじゃないんだ)
内密の話があると人払いをされたそこには、上品なティーセットが準備されており、リリーが手ずから紅茶を淹れるようだった。
クライムは「私が好きなお茶でね。二人で過ごすときはいつもリリーに入れてもらっているのだ」とシャイニーに言った。
なるほど、良い香りが漂ってきた。
三客のカップがそれぞれの前に置かれ、クライムの隣の席にリリーが着いた。シャイニーの勧められた席はクライムの向かい側だった。
「リリーはね、『精霊の愛し子』なんだよ」
王太子の口から出た言葉を聞いたシャイニーは最初、意味がわからなかった。
「え?精霊の愛し子?」
そんなはずはない。リリーが精霊の愛し子であれば精霊の恩恵にあずかって魔法に長けているはずだ。シャイニーはリリーが魔法を使うといった話を聞いたことがなかった。
それに、リリーが精霊に無条件で愛されているのであれば、その精霊に力を借りて魔法を行使するシャイニーはリリーより『下』ということになる。
そんなの許されるはずがなかった。
「リリー様が精霊の愛し子であれば、魔法が碌に使えないのは何故ですか?」
「魔法については言いたいことがあるかもしれないけど、リリーが精霊の愛し子であることは事実なのだよ。この国は精霊の力無くしては成り立たない。だから私たちの結婚はこの国の将来のために成されなくてはならないものなのだ。君や教会が何をしようと無くならない」
「そんな・・・」
シャイニーがショックを受けていると、クライムが言った。
「せっかくリリーが淹れてくれたお茶が冷めてしまうよ。さぁ。リリーもシャイニー嬢も──」
クライムが2人にお茶を飲むように促し、自身もカップを口に運ぶ。
シャイニーはお茶を飲む気分ではなかったが、気持ちを落ち着かせるためにカップを手に取った。
そして、リリーとシャイニーが紅茶を一口飲んだその瞬間──
ガシャンッ!
リリーとシャイニーがテーブルに倒れ伏した。シャイニーの手にあったカップが冷たい石畳に落ちて割れる。
「はっ、がっ・・・」
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