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5 やはりヴェルト様は私のことを──
しかし、オリーブの思惑をよそに、皆がエボニーに対して冷たい態度を取ることはなかった。
「皆がエボニーのこと受け入れてくれてよかったわ。あんなことを聞いてしまった手前、皆がエボニーと距離をおいてしまっては責任を感じてしまうもの」
学園では『噂』の効果は絶大だった。しかも今回は噂ではなく本人の口から述べられた事実なのだ。
何故、皆はエボニーを遠巻きにしない?
何故、あの娘を居ないものとして扱わないのか?
「もう、オリーブったら優しいのね。あれはエボニーがみんなの輪に入りやすいようにと思って話題を振ったのでしょう?まさかあんな理由があったとは誰も想像できないから仕方が無いわよ。
それにエボニーがどんな子だろうとレィディアンス様が屋敷に受け入れると判断なさって辺境伯もお認めになったのよ。男爵家に入る予定みたいだし、レィディアンス様のことだもの、何か深い理由があるに決まっているわ。
主のことを信じるのもわたしたちの役目。だからエボニーにどんな過去があろうと、みんな気にしないわ。安心して頂戴」
オリーブが同僚に探りを入れるとそのような返答が返ってきた。
もちろん「噂」は社交界では武器になる。特に学園では皆噂に振り回されたり利用したりして色々学ぶのだ。
しかし、それは学生の間のみ。そしてそれを利用して生きていくのは嫡子やその伴侶のみだ。
卒後、貴族家へ侍女として仕える者たちは、決して噂になど左右されない。
情報として頭には入れるが、その噂を仕える主がどう受け止め利用するのか、その思惑に沿って業務を遂行することこそが求められるのだ。
噂を聞いても真実はどうあれ、主の意を汲み取りそれに沿うことが高位貴族に仕える者としての役割であり矜持なのだ。
(何てこと!あのような平民を仲間として受け入れるですって!そもそもレィディアンス様はあの娘を認めてはおられないわ)
あの話を聞いても主の思惑に気付かないとは!
全くうまくいかなかったエボニーの印象操作にオリーブは苛ついていた。
その後もオリーブはエボニーとの会話から追い出す策を見出そうと、事あるごとに優しく話しかけ続けた。
問題を起こした相手にも分け隔てなく話しかける私。
平民にも優しい私。
不慣れな生活を送る子を気にかけてあげる私──。
思い通りにいかない現状に耐え、そんな自分を演じ続けた。
「へぇ。あなた、本を読むのが好きなの?」
「はい。本、と言っても恋愛小説ですけど」
ある日、オリーブはエボニーの趣味が読書であることを知った。
エボニーは特に貴族社会をテーマにした恋愛物語が好きらしいが、そのせいか『貴族』に対して偏った知識がある。
例えば『貴族が名を呼ぶことを許可するのは”特別な相手”のみ』であることや、『不義や不貞を疑われる為貴族の男女が二人きりになってはいけない』などということだ。
家名ではなく名を呼び合えば恋人同士で、ほんの数分でも二人きりになれば令嬢はその人生が終わる──といった感じだ。
学園での恋も、好きな小説にあった『身分違いのお話』のように上手くいくのではないかと思ったらしい。
(馬鹿ね。貴族家への婿入り話があるのに平民と本気で恋などする訳ないじゃない)
エボニーの浅はかさにオリーブが腹の中で嗤っていたその時、信じられない言葉が耳に届いた。
「問題を起こした人が、高齢の貴族へ後妻として嫁ぐというのも良くある話なんですよね。あ~ぁ。あたし、どんな人と結婚するんだろう・・・」
「え・・・。あなた、まさか自分の相手を知らないなんてこと・・・」
「知らないですよ?迎えに来てくれたぐらいだから、ヴェルトの勤めている家だとは思うんですけど、誰も何も教えてくれなかったので・・・」
オリーブはすぐに言葉を返せなかった。
そう、エボニーは自身の相手を知らないのだ!自身が嫁入りする予定の男爵家の家名も、ヴェルトが何者かも知らない。
物語でよくあるように、罰として辺境の年老いた男爵家の当主の後妻に入るのだと本気で思い込んでいるのだ。
ヴェルトがエボニーを迎える気があるのならば、辺境への道中で十分その話をする機会はあったはずだ。
──ヴェルトはこの平民との婚約を望んでいない。
(あぁ、ヴェルト様はやはり私のことを──)
この事実にオリーブは安堵した。
レィディアンスは中央貴族から頼まれた手前、端から拒否するわけにはいかなかった。その為、取りあえずヴェルトに迎えに行かせたのだ。
しかし最初からクルール男爵家に嫁入りさせるつもりはないため、辺境伯邸で預かりヴェルトのみを男爵家に返した。
その証拠にエボニーが来てからヴェルトは辺境伯邸に姿を見せていない。エボニーを放置しているのだ。
エボニーが出て行けば、レィディアンスはヴェルトとオリーブの縁談を勧めてくれるに違いない──。
この数日後、ヴェルトとの未来を確信したオリーブに、好機が訪れることになる。
「皆がエボニーのこと受け入れてくれてよかったわ。あんなことを聞いてしまった手前、皆がエボニーと距離をおいてしまっては責任を感じてしまうもの」
学園では『噂』の効果は絶大だった。しかも今回は噂ではなく本人の口から述べられた事実なのだ。
何故、皆はエボニーを遠巻きにしない?
何故、あの娘を居ないものとして扱わないのか?
「もう、オリーブったら優しいのね。あれはエボニーがみんなの輪に入りやすいようにと思って話題を振ったのでしょう?まさかあんな理由があったとは誰も想像できないから仕方が無いわよ。
それにエボニーがどんな子だろうとレィディアンス様が屋敷に受け入れると判断なさって辺境伯もお認めになったのよ。男爵家に入る予定みたいだし、レィディアンス様のことだもの、何か深い理由があるに決まっているわ。
主のことを信じるのもわたしたちの役目。だからエボニーにどんな過去があろうと、みんな気にしないわ。安心して頂戴」
オリーブが同僚に探りを入れるとそのような返答が返ってきた。
もちろん「噂」は社交界では武器になる。特に学園では皆噂に振り回されたり利用したりして色々学ぶのだ。
しかし、それは学生の間のみ。そしてそれを利用して生きていくのは嫡子やその伴侶のみだ。
卒後、貴族家へ侍女として仕える者たちは、決して噂になど左右されない。
情報として頭には入れるが、その噂を仕える主がどう受け止め利用するのか、その思惑に沿って業務を遂行することこそが求められるのだ。
噂を聞いても真実はどうあれ、主の意を汲み取りそれに沿うことが高位貴族に仕える者としての役割であり矜持なのだ。
(何てこと!あのような平民を仲間として受け入れるですって!そもそもレィディアンス様はあの娘を認めてはおられないわ)
あの話を聞いても主の思惑に気付かないとは!
全くうまくいかなかったエボニーの印象操作にオリーブは苛ついていた。
その後もオリーブはエボニーとの会話から追い出す策を見出そうと、事あるごとに優しく話しかけ続けた。
問題を起こした相手にも分け隔てなく話しかける私。
平民にも優しい私。
不慣れな生活を送る子を気にかけてあげる私──。
思い通りにいかない現状に耐え、そんな自分を演じ続けた。
「へぇ。あなた、本を読むのが好きなの?」
「はい。本、と言っても恋愛小説ですけど」
ある日、オリーブはエボニーの趣味が読書であることを知った。
エボニーは特に貴族社会をテーマにした恋愛物語が好きらしいが、そのせいか『貴族』に対して偏った知識がある。
例えば『貴族が名を呼ぶことを許可するのは”特別な相手”のみ』であることや、『不義や不貞を疑われる為貴族の男女が二人きりになってはいけない』などということだ。
家名ではなく名を呼び合えば恋人同士で、ほんの数分でも二人きりになれば令嬢はその人生が終わる──といった感じだ。
学園での恋も、好きな小説にあった『身分違いのお話』のように上手くいくのではないかと思ったらしい。
(馬鹿ね。貴族家への婿入り話があるのに平民と本気で恋などする訳ないじゃない)
エボニーの浅はかさにオリーブが腹の中で嗤っていたその時、信じられない言葉が耳に届いた。
「問題を起こした人が、高齢の貴族へ後妻として嫁ぐというのも良くある話なんですよね。あ~ぁ。あたし、どんな人と結婚するんだろう・・・」
「え・・・。あなた、まさか自分の相手を知らないなんてこと・・・」
「知らないですよ?迎えに来てくれたぐらいだから、ヴェルトの勤めている家だとは思うんですけど、誰も何も教えてくれなかったので・・・」
オリーブはすぐに言葉を返せなかった。
そう、エボニーは自身の相手を知らないのだ!自身が嫁入りする予定の男爵家の家名も、ヴェルトが何者かも知らない。
物語でよくあるように、罰として辺境の年老いた男爵家の当主の後妻に入るのだと本気で思い込んでいるのだ。
ヴェルトがエボニーを迎える気があるのならば、辺境への道中で十分その話をする機会はあったはずだ。
──ヴェルトはこの平民との婚約を望んでいない。
(あぁ、ヴェルト様はやはり私のことを──)
この事実にオリーブは安堵した。
レィディアンスは中央貴族から頼まれた手前、端から拒否するわけにはいかなかった。その為、取りあえずヴェルトに迎えに行かせたのだ。
しかし最初からクルール男爵家に嫁入りさせるつもりはないため、辺境伯邸で預かりヴェルトのみを男爵家に返した。
その証拠にエボニーが来てからヴェルトは辺境伯邸に姿を見せていない。エボニーを放置しているのだ。
エボニーが出て行けば、レィディアンスはヴェルトとオリーブの縁談を勧めてくれるに違いない──。
この数日後、ヴェルトとの未来を確信したオリーブに、好機が訪れることになる。
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