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18 不適格
「不適格・・・(そんな・・・)」
レィディアンスの言葉に立っていられず、膝をついてしまったオリーブに、父であるマルーン伯爵が言う。
「オリーブ・・・モーブ男爵はお前の考えなど最初から見抜いておられたよ。
中央貴族とのことまでは知り得ていなくとも、辺境伯邸で新しく迎えられた行儀見習いのことなど貴族家の当主であればとうの昔に把握している。貴族でなければ受け入れることのない辺境伯邸に、行儀見習いで入っている平民などそれなりの理由があるに決まっているではないか。
彼はお前の企みを知るために敢えてエボニー嬢と話をしたのだ。
彼女の口から王都の公爵家の名が出た時は肝が冷えたと言っていたよ。まさか既にレィディアンス様が関わっている縁談を阻止するために自分を利用するつもりだったとは思わなかったらしい。
婚約前に本性を見せてくれたお前に感謝しているそうだ。婚約解消は女性だけでなく男性にも瑕疵になるからな」
なんと、モーブ男爵はエボニーと二人きりにならぬよう、敢えて庭の東屋で話をしたのだ。
それに男爵が言っていた『感謝』──あれはそう意味だったのか・・・。
俯くオリーブに更にマルーン伯爵が告げる。
「お前は文家の娘の癖に文家の貴族を舐めているな。──お前には貴族夫人など無理だということがよくわかった。私は今後、お前に婚姻を勧めることはない。好きに生きるがいい。
だが、クルール男爵令息のことは諦めろ」
ヴェルトを諦める?
例え相手が公爵令息であろうとも、ヴェルトとオリーブの間に横やりを入れてきたのはあちらではないか。
コネを利用し早い段階でレィディアンスの耳に話を入れ、ヴェルトとオリーブを引き離す。──高位貴族であれば、友人であれば、辺境に住む貴族の”伴侶を選ぶ自由”を踏みにじっても良いというのだろうか。
オリーブは伏せていた顔を上げた。
「待ってくださいっ!!私はあの娘が裏庭で見知らぬ男性と二人きりで過ごしているところを何度か見ています!裏庭や剣の訓練場で過度な触れ合いもしておりました。──そうです、一度は朝から馬車で出掛け、夕方に戻ってきたこともありましたわっ。これこそ立派な不義の行為ではないですかっ!あの娘こそ、不適格です!」
オリーブの訴えに、レィディアンスは呆れたように答えた。
「そう言えば前にもそんなことを言っていたな。だがここは辺境伯邸だぞ。長年勤めているお前が知らぬ男など──そのような輩、多数の目があるこの邸の敷地内に簡単に入れるわけがないと分かりそうなものだろう」
そこで、執務室に隣接する応接室の扉がノックされ、返事も聞かずにその扉が開いた。
「お話し中、申し訳ない。まだ辺境伯領の問題に口出しできる立場ではないのだが、このままでは彼女は納得できず平行線を辿りそうだったのでね」
許可を得ることなく開いた扉から現れた人物は、オリーブの見覚えのある男たちだった。
「!」
そう、エボニーと逢引きをしていた男だ。
(なぜ?)
「 “なぜ?”と言うような顔をしているな。君の言う『過度な接触』に全く心当たりは全くないが、やはり僕たちがエボニー嬢と話しているのを見て言っていたのか」
この男は何を言っているのだろうか。あの時オリーブはこの男がエボニーの手を取っているのを見た。婚約者でもないのに女性の腕に触れるなど、過度な接触以外のなんだというのか。
「しかし、君は何故僕を知らないんだ?」
男の言葉を聞いて、レィディアンスは「あぁ、なるほど」と独り言ちた。
「オリーブ、彼はフォレスト・クレメンタイン。中央侯爵家の次男で私の婚約者だ。
オリーブが学園に入学した年に婚約をしたし、フォレストはヴェルトと同じ年だから学園もオリーブとはすれ違って入学した。だから顔を知らないのも無理はない──。
普段は王都で生活しているのだが彼は武具に詳しい為、一年ぶりに辺境を訪れたついでにエボニーの剣を見繕ってもらうよう、私が依頼したのだ。もちろんヴェルトも知っている」
なんということだ!
どうやらエボニーの不義はオリーブの勘違いだったらしい。
街に出るのに侯爵家や辺境伯家の馬車では目立つため、あの日は敢えて辻馬車を利用したのだという。
一歩引いてフォレストの後ろに立つ人物──エボニーを馬車に誘導していた男は、フォレストの護衛兼従者らしい。
そして訓練へは一度だけ様子を見に行ったらしく、オリーブが目撃した日がその日だった。
オリーブがヴェルトに“エボニーが男と出掛けた”と告げても何の反応もしなかったのは、知っていたからだったのだ。
「勘違いしたことは申し訳ありませんでした。
ですが、それだけでヴェルト様の妻には不適格だと言われても納得できませんわ!
もう何年も想いを育んできたのです。
なのに、横から奪われるなんて……。
ヴェルト様を想う気持ちも、貴族夫人としての知識やマナーも、何一つ私があの娘に劣っているとは思えないのです」
不適格だと言われても納得できなかった。
それに、ここで引けば、ヴェルトは完全にエボニーのものになってしまうのだ。
オリーブは必死だった。
「では何故、お前は剣の訓練の誘いを断ったのだ?」
「え?」
「私はエボニーだけを優遇したつもりはない。お前のことも誘ったはずだ」
確かに誘われたが──。
オリーブには全くレィディアンスの意図するところが分からなかった。
レィディアンスの言葉に立っていられず、膝をついてしまったオリーブに、父であるマルーン伯爵が言う。
「オリーブ・・・モーブ男爵はお前の考えなど最初から見抜いておられたよ。
中央貴族とのことまでは知り得ていなくとも、辺境伯邸で新しく迎えられた行儀見習いのことなど貴族家の当主であればとうの昔に把握している。貴族でなければ受け入れることのない辺境伯邸に、行儀見習いで入っている平民などそれなりの理由があるに決まっているではないか。
彼はお前の企みを知るために敢えてエボニー嬢と話をしたのだ。
彼女の口から王都の公爵家の名が出た時は肝が冷えたと言っていたよ。まさか既にレィディアンス様が関わっている縁談を阻止するために自分を利用するつもりだったとは思わなかったらしい。
婚約前に本性を見せてくれたお前に感謝しているそうだ。婚約解消は女性だけでなく男性にも瑕疵になるからな」
なんと、モーブ男爵はエボニーと二人きりにならぬよう、敢えて庭の東屋で話をしたのだ。
それに男爵が言っていた『感謝』──あれはそう意味だったのか・・・。
俯くオリーブに更にマルーン伯爵が告げる。
「お前は文家の娘の癖に文家の貴族を舐めているな。──お前には貴族夫人など無理だということがよくわかった。私は今後、お前に婚姻を勧めることはない。好きに生きるがいい。
だが、クルール男爵令息のことは諦めろ」
ヴェルトを諦める?
例え相手が公爵令息であろうとも、ヴェルトとオリーブの間に横やりを入れてきたのはあちらではないか。
コネを利用し早い段階でレィディアンスの耳に話を入れ、ヴェルトとオリーブを引き離す。──高位貴族であれば、友人であれば、辺境に住む貴族の”伴侶を選ぶ自由”を踏みにじっても良いというのだろうか。
オリーブは伏せていた顔を上げた。
「待ってくださいっ!!私はあの娘が裏庭で見知らぬ男性と二人きりで過ごしているところを何度か見ています!裏庭や剣の訓練場で過度な触れ合いもしておりました。──そうです、一度は朝から馬車で出掛け、夕方に戻ってきたこともありましたわっ。これこそ立派な不義の行為ではないですかっ!あの娘こそ、不適格です!」
オリーブの訴えに、レィディアンスは呆れたように答えた。
「そう言えば前にもそんなことを言っていたな。だがここは辺境伯邸だぞ。長年勤めているお前が知らぬ男など──そのような輩、多数の目があるこの邸の敷地内に簡単に入れるわけがないと分かりそうなものだろう」
そこで、執務室に隣接する応接室の扉がノックされ、返事も聞かずにその扉が開いた。
「お話し中、申し訳ない。まだ辺境伯領の問題に口出しできる立場ではないのだが、このままでは彼女は納得できず平行線を辿りそうだったのでね」
許可を得ることなく開いた扉から現れた人物は、オリーブの見覚えのある男たちだった。
「!」
そう、エボニーと逢引きをしていた男だ。
(なぜ?)
「 “なぜ?”と言うような顔をしているな。君の言う『過度な接触』に全く心当たりは全くないが、やはり僕たちがエボニー嬢と話しているのを見て言っていたのか」
この男は何を言っているのだろうか。あの時オリーブはこの男がエボニーの手を取っているのを見た。婚約者でもないのに女性の腕に触れるなど、過度な接触以外のなんだというのか。
「しかし、君は何故僕を知らないんだ?」
男の言葉を聞いて、レィディアンスは「あぁ、なるほど」と独り言ちた。
「オリーブ、彼はフォレスト・クレメンタイン。中央侯爵家の次男で私の婚約者だ。
オリーブが学園に入学した年に婚約をしたし、フォレストはヴェルトと同じ年だから学園もオリーブとはすれ違って入学した。だから顔を知らないのも無理はない──。
普段は王都で生活しているのだが彼は武具に詳しい為、一年ぶりに辺境を訪れたついでにエボニーの剣を見繕ってもらうよう、私が依頼したのだ。もちろんヴェルトも知っている」
なんということだ!
どうやらエボニーの不義はオリーブの勘違いだったらしい。
街に出るのに侯爵家や辺境伯家の馬車では目立つため、あの日は敢えて辻馬車を利用したのだという。
一歩引いてフォレストの後ろに立つ人物──エボニーを馬車に誘導していた男は、フォレストの護衛兼従者らしい。
そして訓練へは一度だけ様子を見に行ったらしく、オリーブが目撃した日がその日だった。
オリーブがヴェルトに“エボニーが男と出掛けた”と告げても何の反応もしなかったのは、知っていたからだったのだ。
「勘違いしたことは申し訳ありませんでした。
ですが、それだけでヴェルト様の妻には不適格だと言われても納得できませんわ!
もう何年も想いを育んできたのです。
なのに、横から奪われるなんて……。
ヴェルト様を想う気持ちも、貴族夫人としての知識やマナーも、何一つ私があの娘に劣っているとは思えないのです」
不適格だと言われても納得できなかった。
それに、ここで引けば、ヴェルトは完全にエボニーのものになってしまうのだ。
オリーブは必死だった。
「では何故、お前は剣の訓練の誘いを断ったのだ?」
「え?」
「私はエボニーだけを優遇したつもりはない。お前のことも誘ったはずだ」
確かに誘われたが──。
オリーブには全くレィディアンスの意図するところが分からなかった。
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