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25 で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか
その時だった。
ドゴッ!
フォレストが間一髪のところで、向かってきた獣を鞘に入れたままの剣で振り払った。
「王都育ちの僕にはまだこの森で走り回るには修業が足りないな。とりあえず間に合ってよかったよ」
屋敷に近い場所で獣の血を流すわけにはいかないのだろう。誰も止めを指さないため、獣が引かない。
それでも“重い”と分かるその攻撃と更なる強者の出現に、敵わないと悟ったのか、獣は尾を垂らし『きゃうん』と情けない声で鳴きながら走り去って行った。
別の場所で戦っているレィディアンスと従者の男に集っていた獣もそれに続く。
それを見届けほっと息をついたフォレストが、厳しい視線をオリーブに向けた。
「──マルーン伯爵令嬢、君はクルール男爵令息を殺すつもりだったのか?」
「そんなっ!私はただ、恐ろしくて──」
オリーブはそこでやっとヴェルトから離れた。
フォレストの言葉を必死に否定するが、先ほどの醜態を見ればそう思われても仕方がない。
フォレストが来なければ、ヴェルトは大怪我をしていたのだ。
そこへ、離れたところで戦っていたレィディアンスがやって来て「とりあえず戻るぞ。こんな浅瀬にまで獣が現れるとは、明日にでも準備を整えて森に入る必要がある」と伝えた。
「立てるか?」
ヴェルトの差し出してくれた手を借り立ち上がるエボニーに、オリーブが不服そうな視線を向け、ヴェルトに駆け寄ろうとする。
しかし、フォレストがそれを許さなかった。
「マルーン嬢は彼と一緒に戻って」
フォレストに指名された従者の男がオリーブに手を出し、仕方なくオリーブは彼の手をとった。ここに来るまでは夢中で気にならなかったが、木々の根で、かなり道が悪いのだ。
「頑張ったな」
「・・・アリガトウゴザイマス」
ヴェルトに言われ、エボニーが答える。
「何で敬語?」
ヴェルトが首を捻るが、それはそうだろう。
今まで同じ平民だと思って気軽に接していた男が実は相愛な令嬢がいる貴族だったのだ。それも嫡男!
いくら義親子になるとはいえ、エボニーはまだ平民。これまでのように気安く話すことは出来ない。
未来の義母など優先せずに、未来の嫁を優先してよ。嫁姑関係がぁーーなどと思うが、そんなエボニーの心中など知らないヴェルトは何故かエボニーのそばから離れなかった。
辺境伯邸につくと、レィディアンスは多くは述べず、オリーブに伯爵家に戻るよう告げた。
オリーブは焦った。
今日を逃せばただの文家の令嬢が武家の跡取り息子に会うことは叶わなくなるだろう。
ただ、ここは辺境だ。王都と違い伴侶選びは本人の希望が通る。ヴェルトさえ望んでくれれば、彼の妻になることはまだ可能なのだとオリーブは考えていた。
オリーブはレィディアンスの言葉に聞こえないふりをし、ヴェルトに向き直り最後のチャンスにすべてを掛けた。
「ヴェルト様!ちゃんと、誰を伴侶に迎えたいのか、レィディアンス様の前ではっきり言葉にしてくださいませ!」
「え?」
オリーブの懇願にも似た突然の叫びに、レィディアンスとマルーン伯爵が下したオリーブへの宣告を知らぬヴェルトはただ、戸惑っていた。
「マルーン嬢・・・?」
「誤解が生じているのです!今言葉にしないと手遅れになってしまいます!」
このまま伯爵邸に戻れば、父はオリーブにヴェルトと会うことを禁ずるだろう。オリーブとヴェルトの未来が完全に失われてしまうのだ。
「誤解が・・・?」
その言葉にヴェルトはハッとして、オリーブを見た。
オリーブはうるんだ瞳でヴェルトを見返すと、大きくうなずいた。
ヴェルトはチラリとエボニーを見ると、何かを決心したようにレィディアンスに向き直った。
「ヴェルト」
しかし、レィディアンスはヴェルトが何かを口にする前に、静かにその名を呼んだ。
「はい!」
厳しい響きを含むレィディアンスのその声音に、こんな時に・・・いや、あんなことがあったばかりだからこそ、ヴェルトは仕事の話だと思った。
オリーブの言う『誤解』、『手遅れ』という言葉は引っ掛かるが、今は自身の伴侶のことより辺境の異変への対応のほうが急務だ。
名を呼ばれたヴェルトは、きっと明日行うと言っていた間引きに関する指示があるのだと思い、姿勢を正して返事をした。
まだ邸内には武家の当主が残っているはずだ。早急に話し合い、明日の準備を──
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「・・・はい?」
冷たく刺すその視線に全く心当たりがなく、ヴェルトは何を言われたのか理解が出来なかった。
ドゴッ!
フォレストが間一髪のところで、向かってきた獣を鞘に入れたままの剣で振り払った。
「王都育ちの僕にはまだこの森で走り回るには修業が足りないな。とりあえず間に合ってよかったよ」
屋敷に近い場所で獣の血を流すわけにはいかないのだろう。誰も止めを指さないため、獣が引かない。
それでも“重い”と分かるその攻撃と更なる強者の出現に、敵わないと悟ったのか、獣は尾を垂らし『きゃうん』と情けない声で鳴きながら走り去って行った。
別の場所で戦っているレィディアンスと従者の男に集っていた獣もそれに続く。
それを見届けほっと息をついたフォレストが、厳しい視線をオリーブに向けた。
「──マルーン伯爵令嬢、君はクルール男爵令息を殺すつもりだったのか?」
「そんなっ!私はただ、恐ろしくて──」
オリーブはそこでやっとヴェルトから離れた。
フォレストの言葉を必死に否定するが、先ほどの醜態を見ればそう思われても仕方がない。
フォレストが来なければ、ヴェルトは大怪我をしていたのだ。
そこへ、離れたところで戦っていたレィディアンスがやって来て「とりあえず戻るぞ。こんな浅瀬にまで獣が現れるとは、明日にでも準備を整えて森に入る必要がある」と伝えた。
「立てるか?」
ヴェルトの差し出してくれた手を借り立ち上がるエボニーに、オリーブが不服そうな視線を向け、ヴェルトに駆け寄ろうとする。
しかし、フォレストがそれを許さなかった。
「マルーン嬢は彼と一緒に戻って」
フォレストに指名された従者の男がオリーブに手を出し、仕方なくオリーブは彼の手をとった。ここに来るまでは夢中で気にならなかったが、木々の根で、かなり道が悪いのだ。
「頑張ったな」
「・・・アリガトウゴザイマス」
ヴェルトに言われ、エボニーが答える。
「何で敬語?」
ヴェルトが首を捻るが、それはそうだろう。
今まで同じ平民だと思って気軽に接していた男が実は相愛な令嬢がいる貴族だったのだ。それも嫡男!
いくら義親子になるとはいえ、エボニーはまだ平民。これまでのように気安く話すことは出来ない。
未来の義母など優先せずに、未来の嫁を優先してよ。嫁姑関係がぁーーなどと思うが、そんなエボニーの心中など知らないヴェルトは何故かエボニーのそばから離れなかった。
辺境伯邸につくと、レィディアンスは多くは述べず、オリーブに伯爵家に戻るよう告げた。
オリーブは焦った。
今日を逃せばただの文家の令嬢が武家の跡取り息子に会うことは叶わなくなるだろう。
ただ、ここは辺境だ。王都と違い伴侶選びは本人の希望が通る。ヴェルトさえ望んでくれれば、彼の妻になることはまだ可能なのだとオリーブは考えていた。
オリーブはレィディアンスの言葉に聞こえないふりをし、ヴェルトに向き直り最後のチャンスにすべてを掛けた。
「ヴェルト様!ちゃんと、誰を伴侶に迎えたいのか、レィディアンス様の前ではっきり言葉にしてくださいませ!」
「え?」
オリーブの懇願にも似た突然の叫びに、レィディアンスとマルーン伯爵が下したオリーブへの宣告を知らぬヴェルトはただ、戸惑っていた。
「マルーン嬢・・・?」
「誤解が生じているのです!今言葉にしないと手遅れになってしまいます!」
このまま伯爵邸に戻れば、父はオリーブにヴェルトと会うことを禁ずるだろう。オリーブとヴェルトの未来が完全に失われてしまうのだ。
「誤解が・・・?」
その言葉にヴェルトはハッとして、オリーブを見た。
オリーブはうるんだ瞳でヴェルトを見返すと、大きくうなずいた。
ヴェルトはチラリとエボニーを見ると、何かを決心したようにレィディアンスに向き直った。
「ヴェルト」
しかし、レィディアンスはヴェルトが何かを口にする前に、静かにその名を呼んだ。
「はい!」
厳しい響きを含むレィディアンスのその声音に、こんな時に・・・いや、あんなことがあったばかりだからこそ、ヴェルトは仕事の話だと思った。
オリーブの言う『誤解』、『手遅れ』という言葉は引っ掛かるが、今は自身の伴侶のことより辺境の異変への対応のほうが急務だ。
名を呼ばれたヴェルトは、きっと明日行うと言っていた間引きに関する指示があるのだと思い、姿勢を正して返事をした。
まだ邸内には武家の当主が残っているはずだ。早急に話し合い、明日の準備を──
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「・・・はい?」
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