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今日の議題は追加キャラ

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「追加キャラが!必要だ!」

バン!と机をたたいて勢い良く立ち上がったアホ教授の大声が第十三研究室中に響き渡る。
そちらの方を振り向こうともせずエリザベスは英美里から受け取った紅茶を一口。

「今日はロシア紅茶ね。んー…味は何かベリーね…。」

「ねえちょっと!せめて反応してくれよ罵倒でもいいから!
何ガン無視で紅茶飲んでるの!?」

「静かにしててくれないですか教授?
私は今見ての通りエミリーの用意してくれた紅茶の工夫当てをしているんです。
十連勝のかかった今日は大事な一戦なんです。」

「お前の声と息で紅茶が腐ったらどうしてくれるんですか?
ただでさえお前の魂の腐臭を必死にこらえてるこっちの身にもなってください。」

「身分の違いってやつを教えてやろうか平民風情が。
仮にも男爵家の跡取り、しかも35歳のナイスガイがむせび泣いて土下座する絵面のえぐさ半端ねえぞ?」

「そこでそれを引き合いに出すとか男爵としてのプライド無いのどっちよ。」

すかさず突っ込んだエリザベスははぁーっとデカい溜息をついてアホの方に向き直る。

「それで?魔砲のバリエーションが増えたわけでもないのに私以外の魔砲少女が必要なんですか?」

「必要だとも!」

机を飛び越え、某蜘蛛男のようなポーズで着地し、眼鏡のブリッジを押し上げ、回転しながら立ち上がり


「たしかに魔ほぉう!少女はまだ始まってすらいない企画だ…。
だがプロットは入念に組んでおくに越したことはないだろう?
取り合えずやりたいこと挙げるだけ挙げといてそこからアイデアを取捨選択して残った物を組み合わせ一本のストーリーに組んでいく!
小説なんかでもやるだろ?
取り合えず現代のスクールカーストでは良くてワナビー止まりのオタク男子を取り合えず転生先の異世界人にモテモテにさせとけばいいとか思ってる奴が書いてる作品は知らんが。」

「後半は兎も角言いたい事は分かりました。
ようはもう魔砲PRより魔砲少女プロデュースを優先してるという事でよろしいですね?」

「それで僕のやりたい事とはね!」

「おい人に無視するなと言っておいて自分は都合が悪くなればスルーですか?
本当に腐臭がする根性してますね阿保教授!?」

アホはそのツッコミも無視して話を続けた。

「最初は三人から五人のカラフルな連中しかり、仮面付けてバイクに乗ってる人達しかり、それらを混ぜて女児向けにしたアニメ作品しかり、追加戦士、新メンバーというのは分かりやすく物語を盛り上げる要素だ。
新しいキャラをただ出しただけにせず、しっかりと個性を立てて、尚且つ連鎖的に今までいた面子の味を引き出さねばならないという描写の難易度は上がるが、成功すれば人気すうじでしっかり返って来る!」

「はぁ…まあ、分からなくはありませんが。」

「そんな追加メンバーで、僕がどうしても使いたいのが…そう!ライバルキャラだ!」

「してそのライバルキャラとは?」

「うーんそうだな…まず、荒野で現代兵器に身を包んだ外来人と戦うプリチーリジ―を想像しよう。」

オレンジ色の火を纏った銃弾が飛び交う中、プリチーリジ―は中折れ式の魔砲に専用弾を込め、発射する。
敵の一帯に命中し、何人かの兵士が吹っ飛び、一瞬攻撃が止んだが、すぐさま弾幕が再び張られる。

「くっ……このままじゃ……。」

悔しそうに歯噛みするプリチーリジ―の耳に銃声に交じってマカロニウェスタン風の口笛が耳に届く。

「良い様だなプリチーリジ―。」

そう冷たくつぶやいた黒づくめの少女はリジ―のとは色違いの魔砲を放ち、彼女とは比べ物にならない威力を見せつける!

「この程度で驚いてくれるなよ?今のはただの名刺交換の挨拶代わり…。」

「そこでカッコよく渋く名乗りを上げてさらにこう言うのさ!
『お前を倒すのは俺なのだからこんなところでくたばってくれるなよ!』って!」

「エミリー、魔砲。」

「こちらに。」

エミリーに手渡された魔砲、もう既に属性の付与されていない純粋な魔力弾が込められたものを、容赦なくアホに向けて撃った。
派手な音を立てて『く』の字に曲がったアホは盛大に窓を突き破り地面に向けて自由落下した。

「ーーーーッ!系統、土!範囲、地面!威力、大!『物質編成・軟化』!」

なんとか地面を軟化させてぺしゃんこは免れるアホ。
別に死んでくれた方が魔法界の為にも外の世界の為にもなったと思うのは私だけだろうか?

「なんでだよ!なんで僕に魔 ほぉう!使ったの!?
僕ただアイデア出しただけじゃん!」

「頭にパクリと付けるのを忘れてるでしょ!
黒づくめにマカロニウェスタン風の口笛って!
あの脳入ってるアンドロイドしかいないでしょ!」

「全部パクるなんて言ってないだろ!?
ちゃんと赤い宝石みたいな刃の剣とか金色の虫のペンダントとか付けるよ!」

「いやそれも全部パクリ!しかも三つとも見事綺麗に制作会社いっしょ!
ただでさえ最近アンタの大嫌いなタイプの一次創作があんまりにもあんまりなパクリばっかするからパロディにさえ風当り強いのにそんなことしてみればアンタの墓標が黒い十字架になるわ!」

「そうです!お嬢様にこんなJASRACギリギリなツッコミをさせてるとか何を考えている!」

「いやエミリー!そこもだけど主題ではないから!」

そう言い終わらないうちにエミリーをスカートを抑えながら飛び降りアホの前に着地すると

「大体、お前は何も分かっていないのです。
お嬢様の引き立て役、お嬢様の影に徹する役…それはこの、エミリー以外どこにもいないという事に!」

「エミリー!貴女自分が何言ってるか分かってるの!?
その阿保のアホによる阿保企画に参加するってことよ!?」

「ーーーーーッッッ!!!!」

「アンタもそれを見落としていたとは不覚ッ!みたいな顔してんじゃないわよ!」

「いやだって!確かに僕は…こんな逸材がこんな位置覚に居たのになんて無駄な議論を…」

「今までこの議論が無駄じゃ無かった事なんて一回だってあった?
この議論が有効だなんてことこの先一回だってあると思う?
まだ二話しか経ってないけど私は無駄だと自信持って言えるわよ?」

「いや、この事実に気付けただけでも収穫だった!
行こうエミリー君!いや、第二の魔ほぉう!少女、ビューティーエミリー!」

「ええ。当然、お嬢様より派手な衣装は許しませんよ?」

そう言うと二人は意気揚々と被服部部室…家庭科室のある校舎に駆け出していった。

「はぁ……行っちゃったよあの阿保2人。
……今日の答えはラズベリーだって伝え忘れちゃったわ。」

そしてリジ―は被服部を前にはしゃぎ倒して騒ぎまくるアホと英美里にそれぞれ『超自然発火』と『加熱爆弾』で制裁オシオキし、回収するとアホを研究室に放り込んで無事、帰りましたとさ。
めでたしめでたし。
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