デレデレ副会長と放課後の星。(仮)

湊真冬

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02「副会長①」

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 まぶっちゃんから、生徒会長に任命されて一週間ほど経ち、俺は今極度の緊張に胃がキリキリ鳴っていた。

「おーおー、随分間抜けズラしてんなぁ」

 そう言って俺の隣から脇腹を小突いてくるのは、唯一の親友である松園莉央(まつぞの りお)だ。

「当たり前だ......こんな大勢の前に出るのこっちは初めてなんだよ......」
「へぇ......以外だな」

 軽くあしらわれたが、俺たちは今、生徒会役員の引き継ぎ会を行っている。
 そして、出番が来るまでステージの裏側で待機している訳だが、いかんせん気分も良くない......。

「ていうか、なんでお前がここにいるんだよ......」

 お腹をさすりながら、莉央に聞いてみる。
 すると、満更でもなさそうな顔をして言われた。

「いや、それはこっちのセリフな。なんで千夏みたいな社会不適合者がここにいるのか気になる......」
「もうちょいオブラートに包んでくれ......」

 たしかに不適合者なのは自負しているが、そんなにダイレクトに言わなくてもよくね......?
 というのも、入学してからの二ヶ月間。
 頑なに人の意見を聞かず拒絶し、ありとあらゆる生徒をなぎ払い続けた挙句、この学校で頼れる人はついに莉央とまぶっちゃんしかいなくなってしまったのだ。
 そんな人の扱い方も分からないヤツが生徒会長に就任するのだから、流石の莉央も首を傾げざるを得ない。

「なんかあったのか......?」

 不信感丸出しで莉央が俺に問い詰める。
 まぁ、長々と話すのも体に応えるので今は簡潔にーー。

「まぶっちゃんに頼まれた......」

 とでも言っておく。

「うわ、あの人も中々だからなぁー......」

 そんな感じで、莉央も特に疑う素振りもなく納得してくれた様子なのではぁとため息を吐いて安堵した。

 後々話してくれたが、莉央は出版委員会の委員長に選ばれたらしい。
 まぁ、俺とは違い、紫色のメッシュと切れ味のある目付きだけ見ればガラの悪いやつに見えてしまうが、それとは裏腹に誰にでも優しく、勉強もできる莉央なので、俺とは違い、別に委員長に選ばれただけで、今更驚きはしなかった。
 そこにバレー部のエースとくれば、最早文句の付け所がない......。

「......何してんだ?」

 隣から聞こえる歪な足音を鳴らしている事に気づいた莉央は、俺の方を向く。

「......いや、ホントにお腹痛くて......」
「大袈裟だなぁ......」

 そう言って俺の背中をバシバシ叩いてくるので、一瞬ミンチにしてやりたくなったが、そんな力はどこにもなく、代わりに変な言葉が出てしまった。

「お前は気にしないのかよ? 副委員長......」

 そう。たしかに人前に出ることもナイーブな俺にとっては修羅であるが、その一方で違う不安も襲いかかってきていた。
 
 ーー 一週間前に、まぶっちゃんに言ったあの一言。

『ーー副生徒会長は超絶美少女で頼む。なお、学年は問わない!』

 今更だが、そんな事を言ってしまったことを地味に後悔している。
 たしかに役員の相方ーー俺の場合、副生徒会長にあたる生徒だが、そんな人が美少女てだけで、舞い上がらない男子はいないだろう。
 ただ、いざそんな現実が待ち受けていると考えると、恥ずかしながら逃げ出したくなってしまう......。

「ん? 別に気にしてないというか、とっくに知ってるから......」
「マジで......? 男? 女?」

 早口になりながら思わず莉央に聞いてしまう。返答次第では状況の羨ましさから彼を羽交い締めすることになるがーー。

「というか、珠ちゃんだからーー。今更って話」

 そんな言葉を聞いてぼけぇとしてしまった。
 そうだ、コイツには仲円満なカノジョがいるんだった......。
 それも、溺愛だ。 
 青春に身を捧げる男子からすれば、喉から手が出るほど欲しがる理想のカップル形態。
 それが、松園莉央と中井珠喜(なかい たまき)だった。

 俺も中井とは、顔を合わせたことがある程度だったが、例えるなら子犬のような感じだ。

 ヤンキー風格である莉央に可愛がられる中井と言った感じだろうかーー。
 まぁ、とにかく彼らの縁を切れるものはこの世に存在しないだろう。

「じゃあ、よかったじゃん......全校の前でイチャイチャできて幸せだな......」
「いやぁ、指輪持ってこようかと思ったけど、壊れたら嫌だしやめといた......」

 デレデレの笑顔で冗談交えに莉央がそういう。

 ーーいや、褒めてないのだがこのノロケめ!

 そんな莉央から若干距離をとると、壁一枚挟んだ向こう側から、アナウンスが聞こえ始める。

『それでは、引継ぎ会に移ります。新委員長、副委員長に選ばれた生徒はステージに登壇して下さい』

 女性の落ち着いた指令が体育館に響き渡り、前方の扉が開く。
 差し込んできた光に思わず目を細めたが、そんな事をしてる間に、俺も歩き出す羽目になった。

 順序的には、委員長、副委員長の順でステージに登るので、後ろを振り返ってみるも、まだ相方の姿は視認できなかった。
 その上、次期生徒会長である俺は列の先頭に立たなければならなかったので、叫びをあげていた胃が、ついに凍結してしまった気分だ。
 他人には威張ってるくせに、こんな内心を誰かに見られたりでもしたら恐らく大スクープにでもなってしまうだろう。

「そんなに気になるのか?」

 コソコソと目立たないように莉央が舌打ちしてくる。

「何がだよ......」
「お前のパートナーだよ......まぁ、皮肉れたヤツが役員になる筈ないから安心して良いと思うけどな......」
「それ、俺に言うセリフじゃないと思う......」
「おっと......」

 少なくともここに皮肉れた次期生徒会長がいるのだから、彼にとっては慰めたつもりなのだろうが、むしろ俺の心拍数を底上げするだけだった。

 それに壁側によたれかかって、この様子を見守っている教師陣を見る限り、今年の生徒会顧問はまぶっちゃんぽかったので、適当に人選してる可能性だって大いにある。
 なんせ俺を生徒会長にするくらいだからな......。

 それでも、親友である莉央が役割は違えど同じ組織内にいるということに少し足元を救われた。

 そんな俺の心情も知らず、役員全員ステージに立つと、さっきよりも座ってこちらを見ているガヤ達の声が騒がしくなった。まぁ、当然ちゃ当然か......

『では向かって左側から紹介していきます。まず、次期生徒会長一年二組、月城千夏』

 名前を呼ばれて会釈しなかったのは、事前にそうしろと言われたからだ。俺の態度が悪いとかではないのでご心配なく......。

 それでも注目から逃れることはできず、聴衆のざわつきは一層激しくなった。
 まぶっちゃん以外の教師は頭を抱えているようにも見える。
 誰が考えても選出ミスだろうな......。

『続いて、出版委員会委員長一年二組、松園莉央』

 この様子でいくと、副委員長は最後に呼ばれるらしい。心臓とお腹が痛いので、早急にこの緊張から抜け出したいのだがーー。
 それに比べ莉央は平然とした顔で前を向いたままだ。
 相方がカノジョなんて、莉央からすれば、さぞ気が楽なんだろうな......。

「おい、千夏......」
「なんだ......?」

 突然莉央から呼ばれたので、耳だけ傾けると。

「ーー俺、珠ちゃんにカッコいいところ見せれるかな......」
「はっ? お前何言って、うわっ!!」

 今にも消えて無くなりそうな声のする方に顔を向ければ、頭から変な汗を吹き出して、顔色を悪くする莉央が直立していた。
 急な容態の変化に思わず俺も張った声を出してしまう。

「今更何言ってるんだ......!」
「いやさ、俺がドジな事やらかして、珠ちゃんに嫌われたりなんかしたら、この先生きていける自身ないかも......」
「わ、わかったから落ち着け!」

 さっきまでやる気に満ち溢れた彼をみて、少し羨ましくなった俺が馬鹿みたいだ。
 急激な体調の変化に気づいたのか、目の前に座る生徒達が莉央を指差してクスクス笑っている。

 取り敢えず、俺は莉央のつま先を踏んで、彼の意識を目の前に聳え立つ状況に連れ帰って来させようとしたがーー痛がる素振りを見せただけで、仕返しもして来なければ、決して顔色を良くさせる事もなかった。

 たくっ! これだから溺愛バカップルは困るんだよ......!
 
『ーーそれでは、副委員長は委員長の後ろについて下さい』

 と、莉央とくだらないやりとりをしている間にアナウンスはすっかり役員全員の名前を読み終え、次の段階に移ってしまっていた。
 やってしまった。結局、名前も分からず対面するなんて、心臓に悪すぎる......。

「悪霊退散悪霊退散南無阿弥陀仏......」

 速る心臓を宥めるように、手を合わせながら必死に祈る。

 こうしないと倒れてしまいそうだから。

 隣で唖然として立ち尽くしている莉央にも負けないくらいの変な汗を書き始め、今にもぶっ倒れそうだ。
 いっそ、莉央でもまぶっちゃんでも、誰でもいいからいっそ俺を殺してくれないかなーー。

 なんてステージの上で、大衆に見られながら煩悩に埋まっていると......。

「月城君......?」

 と、俺の気持ちなんてさぞ知らず、気の抜けた女性の声が背後から聞こえてきた。
 無視するわけにもいかないので、ゆっくり後ろを向いて見ればそこには、俺より頭ひとつ小さい美少女が立っていた。

「......え、えーと......」
「七瀬です。七瀬季咲(ななせ きさき)です」

 この修羅場に耐え兼ねていた俺とは違い、彼女は余裕溢れる満面の笑顔で呆れる事なくそう言ってきた。
 
 「ーー 一年間よろしくね! 月城君......!」
「お、おう、よ、よろしく......」

 頭の上には艶やかな鼠色のセミロングで、器用に作られた天使の輪をゆさゆさ揺らしている彼女の笑顔は、パニクっている俺相手でも一切崩れない。

 そして、俺が彼女のこの笑顔に助けられたなんて、この時はまだ気付くことはなかった。

 この時はまだーー。
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