デレデレ副会長と放課後の星。(仮)

湊真冬

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03「賄賂」

七瀬季咲ーー。

 艶やかな鼠色のストレートを肩まで綺麗に垂らして、なおかつ小動物じみたその端麗な小顔は、男子の描く理想女性といっても過言ではない......。事実、そんな彼女は、頑固で冷酷な俺とは違い、温かい人柄で、他人を拒むことなんて万にひとつない。

 そして今日、そんな女神のような彼女が全校生徒の前で、副生徒会長になったということを問答無用で暴露されたのだ。
 まぁ、別に隠すも何も、俺さえ知らなかったのだが......。







「ーーで、どういうことだ?」

 その日の深夜、俺は再び、まぶっちゃんに電話していた。
 こんな深夜に話しかけてくる俺も悪いが、今回の件はそんなものに比べれば陳腐なものだ。

「なにが......?」

 浮いたような口調で聞き返されたので、余計に腹が立ってくる。
 カシュッと威勢の良い音が、電話越しに聞こえたので恐らくこれから一人で一杯やるのだろう。
 二十六歳独身、馬淵純也(まぶち じゅんや)。我が高校である能田須(のだま)高の数学教師兼ーー恐らく今年の生徒会顧問でもあり......何より俺の恩人でもある。

「何がじゃねーよ、副生徒会長の事だ。なんでよりによって、七瀬なんだ?」
「いや、お前この間『副生徒会長は美少女で頼む』みたいな事言ってたじゃん。俺はお前の希望通りにしただけで、なんで怒られる必要がある?」
「いや、せめてもうちょっと目立たないやつにしろよ......」
「目立たないねぇ......」

 困ったような声をあげて、グビッと液体を喉に通す音が聞こえた。

「ぶはぁ! まぁ、そんなこと言わずに。今年のお仕事はお前らにしかできないんだからさ」

 ーー今年の仕事?

 やけに含みのありそうな台詞がまぶっちゃんから解き放たれたが、特段大した事ではないだろうと、敢えてスルーする。

「今から副生徒会長変えるとかできないのか?」
「無理だな......決定事項だ」

 キッパリ言われた。
 教師であり、恩人に向かって烏滸がましいことを言っているのは承知しているが、それでも、七瀬季咲というのは俺の想像を遥かに上回ってきた美少女であった。

 自負している俺のスケベ心が、ちゃっかり生徒会長やりながら異性の相方とイチャイチャしてやったやりとかーーなんて、我ながらクソみたいな事を考えていたが、さすがにこれは相手が悪すぎた。

 近所の遊具で遊ぼうとしたら、ディズニーランド連れてこられたーーそんな気分だ。

「それじゃあ、早速だけど、ひとつ君に学校代表としてやって欲しいことがあるんだ」

 そんな事を言ってガサガサと何かが動く音が聞こえると、一呼吸置いてまぶっちゃんが真剣な声で話し始める。
 思わず俺も身構えてしまった。

「なんだ? 神庭祭(かんばさい)の準備か......?」

 ......俺がそう言ったのにも訳がある。

 能田須高校は七月の序盤、夏休みに突入する前に、最早高校生活の一大イベントと言っても過言ではない行事がある。
 
 ーーそれこそ、神庭祭。即ち俺らの高校で行われる文化祭のことである。
 内容としては、前夜祭、一日目と二日目にクラス展示、三日目に運動会含め後夜祭とまぁ、オーソドックスな日程だった。

「いや、まぁ、それも勿論君達に運営してもらうつもりだよ。でも、本命はそんなんじゃない......」

 なにやらシリアスムードが漂う。まぶっちゃんも酒入れてるくせにいつもより若干怪訝そうな声音を出してくるので、俺も眉間に皺を寄せるしかなかった。

「いいからさっさと言え、アンタの家にビールぶちまけるぞ!」
「じゃあ、言わない」
「はぁ......わかったから早よ......」

 痺れを切らした俺はビールネタで対抗したが、どうやら彼にとっては逆効果だったらしい。思わず特大のため息をついてしまった。
 それと同時に、電話の向こうから二回目のカシュッが聞こえた。
 すごいスピードで酒入れてるけど大丈夫か......なんて、単純に心配が過ぎる。

「その前に、事前に言っておく......」
「な、なんだよ......」
「俺は月城の意見を尊重しているし、信頼している」
「......だからなんだよ」
「勘違いするなよ、にーちゃん。俺はアンタの奴隷でも下僕でもねぇて事だ......」
「......」
「確かに俺は"あの日"お前を助けてやった記憶はある。だからって全てにおいて親しくしていいてもんじゃないぜ。なんなら、恩の一つや二つ返したところで罰はあたりやしないと思うんだが?」
「つまり......?」
 
 俺は知らぬ間に溜まっていた唾を一気に飲み込む。

「俺の命令に従え。 欲しけりゃ成績なんていくらでもくれてやる。『どうせ賄賂するなら派手にやりたいですよね』て、誰かさんが言ってた記憶があるなぁ......」
「ふん、もし断れば?」
「そうだなぁ、退学ていうのはどうだ?」

 随分と現実離れした事を言ってきたので俺も寝転がりながら半分受け流していた。

「従えば......?」
「成績と進路を保証してやる」

 なるほど、ファンタジー物でよくみる契約てやつか。
 別に断る理由も無ければ、彼の言う通り恩を返すのは人としての礼儀でもあると月城も思っているので、頼み事があるなら聞くのだが、なぜそんな前置きが必要なのか分からない......。

「いいよ、乗ってやる!」
「さすが、スケベ野郎だな......」
「急所焦がすぞ......」

 そんな冗談を交えて、まぶっちゃんはワンテンポ置いて閑話休題。

「それじゃあ、生徒会長月城千夏君。君に早速、頼みごとがあるーー」

 そして、ベッドの上でごろごろしていた俺は、まぶっちゃんの言葉を聞いて、ピタッと停止していた。
 一週間前みたいに、俺の部屋は静寂に飲み込まれている......が、雰囲気だけは全く別物だった。
 ーーそう、彼が発した一言によって別物になったのだ......。

「ーーーー」

 本当に時が止まったような感じがした。
 頭も体も、胃に反して全く動いてくれそうにない。
 だがなんとか、口だけは次の言葉を紡ぐようにゆっくり動いてくれた。

「そ、それはどういう......」
「言った通りだ......」
「断ったら?」
「退学だな......」

 "月城千夏、君は負けたんだーー"

 クソ教師の一言に反して、今日も夜空は相変わらず無数の輝きを放っていたーー。 
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