3 / 4
03「賄賂」
七瀬季咲ーー。
艶やかな鼠色のストレートを肩まで綺麗に垂らして、なおかつ小動物じみたその端麗な小顔は、男子の描く理想女性といっても過言ではない......。事実、そんな彼女は、頑固で冷酷な俺とは違い、温かい人柄で、他人を拒むことなんて万にひとつない。
そして今日、そんな女神のような彼女が全校生徒の前で、副生徒会長になったということを問答無用で暴露されたのだ。
まぁ、別に隠すも何も、俺さえ知らなかったのだが......。
○
「ーーで、どういうことだ?」
その日の深夜、俺は再び、まぶっちゃんに電話していた。
こんな深夜に話しかけてくる俺も悪いが、今回の件はそんなものに比べれば陳腐なものだ。
「なにが......?」
浮いたような口調で聞き返されたので、余計に腹が立ってくる。
カシュッと威勢の良い音が、電話越しに聞こえたので恐らくこれから一人で一杯やるのだろう。
二十六歳独身、馬淵純也(まぶち じゅんや)。我が高校である能田須(のだま)高の数学教師兼ーー恐らく今年の生徒会顧問でもあり......何より俺の恩人でもある。
「何がじゃねーよ、副生徒会長の事だ。なんでよりによって、七瀬なんだ?」
「いや、お前この間『副生徒会長は美少女で頼む』みたいな事言ってたじゃん。俺はお前の希望通りにしただけで、なんで怒られる必要がある?」
「いや、せめてもうちょっと目立たないやつにしろよ......」
「目立たないねぇ......」
困ったような声をあげて、グビッと液体を喉に通す音が聞こえた。
「ぶはぁ! まぁ、そんなこと言わずに。今年のお仕事はお前らにしかできないんだからさ」
ーー今年の仕事?
やけに含みのありそうな台詞がまぶっちゃんから解き放たれたが、特段大した事ではないだろうと、敢えてスルーする。
「今から副生徒会長変えるとかできないのか?」
「無理だな......決定事項だ」
キッパリ言われた。
教師であり、恩人に向かって烏滸がましいことを言っているのは承知しているが、それでも、七瀬季咲というのは俺の想像を遥かに上回ってきた美少女であった。
自負している俺のスケベ心が、ちゃっかり生徒会長やりながら異性の相方とイチャイチャしてやったやりとかーーなんて、我ながらクソみたいな事を考えていたが、さすがにこれは相手が悪すぎた。
近所の遊具で遊ぼうとしたら、ディズニーランド連れてこられたーーそんな気分だ。
「それじゃあ、早速だけど、ひとつ君に学校代表としてやって欲しいことがあるんだ」
そんな事を言ってガサガサと何かが動く音が聞こえると、一呼吸置いてまぶっちゃんが真剣な声で話し始める。
思わず俺も身構えてしまった。
「なんだ? 神庭祭(かんばさい)の準備か......?」
......俺がそう言ったのにも訳がある。
能田須高校は七月の序盤、夏休みに突入する前に、最早高校生活の一大イベントと言っても過言ではない行事がある。
ーーそれこそ、神庭祭。即ち俺らの高校で行われる文化祭のことである。
内容としては、前夜祭、一日目と二日目にクラス展示、三日目に運動会含め後夜祭とまぁ、オーソドックスな日程だった。
「いや、まぁ、それも勿論君達に運営してもらうつもりだよ。でも、本命はそんなんじゃない......」
なにやらシリアスムードが漂う。まぶっちゃんも酒入れてるくせにいつもより若干怪訝そうな声音を出してくるので、俺も眉間に皺を寄せるしかなかった。
「いいからさっさと言え、アンタの家にビールぶちまけるぞ!」
「じゃあ、言わない」
「はぁ......わかったから早よ......」
痺れを切らした俺はビールネタで対抗したが、どうやら彼にとっては逆効果だったらしい。思わず特大のため息をついてしまった。
それと同時に、電話の向こうから二回目のカシュッが聞こえた。
すごいスピードで酒入れてるけど大丈夫か......なんて、単純に心配が過ぎる。
「その前に、事前に言っておく......」
「な、なんだよ......」
「俺は月城の意見を尊重しているし、信頼している」
「......だからなんだよ」
「勘違いするなよ、にーちゃん。俺はアンタの奴隷でも下僕でもねぇて事だ......」
「......」
「確かに俺は"あの日"お前を助けてやった記憶はある。だからって全てにおいて親しくしていいてもんじゃないぜ。なんなら、恩の一つや二つ返したところで罰はあたりやしないと思うんだが?」
「つまり......?」
俺は知らぬ間に溜まっていた唾を一気に飲み込む。
「俺の命令に従え。 欲しけりゃ成績なんていくらでもくれてやる。『どうせ賄賂するなら派手にやりたいですよね』て、誰かさんが言ってた記憶があるなぁ......」
「ふん、もし断れば?」
「そうだなぁ、退学ていうのはどうだ?」
随分と現実離れした事を言ってきたので俺も寝転がりながら半分受け流していた。
「従えば......?」
「成績と進路を保証してやる」
なるほど、ファンタジー物でよくみる契約てやつか。
別に断る理由も無ければ、彼の言う通り恩を返すのは人としての礼儀でもあると月城も思っているので、頼み事があるなら聞くのだが、なぜそんな前置きが必要なのか分からない......。
「いいよ、乗ってやる!」
「さすが、スケベ野郎だな......」
「急所焦がすぞ......」
そんな冗談を交えて、まぶっちゃんはワンテンポ置いて閑話休題。
「それじゃあ、生徒会長月城千夏君。君に早速、頼みごとがあるーー」
そして、ベッドの上でごろごろしていた俺は、まぶっちゃんの言葉を聞いて、ピタッと停止していた。
一週間前みたいに、俺の部屋は静寂に飲み込まれている......が、雰囲気だけは全く別物だった。
ーーそう、彼が発した一言によって別物になったのだ......。
「ーーーー」
本当に時が止まったような感じがした。
頭も体も、胃に反して全く動いてくれそうにない。
だがなんとか、口だけは次の言葉を紡ぐようにゆっくり動いてくれた。
「そ、それはどういう......」
「言った通りだ......」
「断ったら?」
「退学だな......」
"月城千夏、君は負けたんだーー"
クソ教師の一言に反して、今日も夜空は相変わらず無数の輝きを放っていたーー。
艶やかな鼠色のストレートを肩まで綺麗に垂らして、なおかつ小動物じみたその端麗な小顔は、男子の描く理想女性といっても過言ではない......。事実、そんな彼女は、頑固で冷酷な俺とは違い、温かい人柄で、他人を拒むことなんて万にひとつない。
そして今日、そんな女神のような彼女が全校生徒の前で、副生徒会長になったということを問答無用で暴露されたのだ。
まぁ、別に隠すも何も、俺さえ知らなかったのだが......。
○
「ーーで、どういうことだ?」
その日の深夜、俺は再び、まぶっちゃんに電話していた。
こんな深夜に話しかけてくる俺も悪いが、今回の件はそんなものに比べれば陳腐なものだ。
「なにが......?」
浮いたような口調で聞き返されたので、余計に腹が立ってくる。
カシュッと威勢の良い音が、電話越しに聞こえたので恐らくこれから一人で一杯やるのだろう。
二十六歳独身、馬淵純也(まぶち じゅんや)。我が高校である能田須(のだま)高の数学教師兼ーー恐らく今年の生徒会顧問でもあり......何より俺の恩人でもある。
「何がじゃねーよ、副生徒会長の事だ。なんでよりによって、七瀬なんだ?」
「いや、お前この間『副生徒会長は美少女で頼む』みたいな事言ってたじゃん。俺はお前の希望通りにしただけで、なんで怒られる必要がある?」
「いや、せめてもうちょっと目立たないやつにしろよ......」
「目立たないねぇ......」
困ったような声をあげて、グビッと液体を喉に通す音が聞こえた。
「ぶはぁ! まぁ、そんなこと言わずに。今年のお仕事はお前らにしかできないんだからさ」
ーー今年の仕事?
やけに含みのありそうな台詞がまぶっちゃんから解き放たれたが、特段大した事ではないだろうと、敢えてスルーする。
「今から副生徒会長変えるとかできないのか?」
「無理だな......決定事項だ」
キッパリ言われた。
教師であり、恩人に向かって烏滸がましいことを言っているのは承知しているが、それでも、七瀬季咲というのは俺の想像を遥かに上回ってきた美少女であった。
自負している俺のスケベ心が、ちゃっかり生徒会長やりながら異性の相方とイチャイチャしてやったやりとかーーなんて、我ながらクソみたいな事を考えていたが、さすがにこれは相手が悪すぎた。
近所の遊具で遊ぼうとしたら、ディズニーランド連れてこられたーーそんな気分だ。
「それじゃあ、早速だけど、ひとつ君に学校代表としてやって欲しいことがあるんだ」
そんな事を言ってガサガサと何かが動く音が聞こえると、一呼吸置いてまぶっちゃんが真剣な声で話し始める。
思わず俺も身構えてしまった。
「なんだ? 神庭祭(かんばさい)の準備か......?」
......俺がそう言ったのにも訳がある。
能田須高校は七月の序盤、夏休みに突入する前に、最早高校生活の一大イベントと言っても過言ではない行事がある。
ーーそれこそ、神庭祭。即ち俺らの高校で行われる文化祭のことである。
内容としては、前夜祭、一日目と二日目にクラス展示、三日目に運動会含め後夜祭とまぁ、オーソドックスな日程だった。
「いや、まぁ、それも勿論君達に運営してもらうつもりだよ。でも、本命はそんなんじゃない......」
なにやらシリアスムードが漂う。まぶっちゃんも酒入れてるくせにいつもより若干怪訝そうな声音を出してくるので、俺も眉間に皺を寄せるしかなかった。
「いいからさっさと言え、アンタの家にビールぶちまけるぞ!」
「じゃあ、言わない」
「はぁ......わかったから早よ......」
痺れを切らした俺はビールネタで対抗したが、どうやら彼にとっては逆効果だったらしい。思わず特大のため息をついてしまった。
それと同時に、電話の向こうから二回目のカシュッが聞こえた。
すごいスピードで酒入れてるけど大丈夫か......なんて、単純に心配が過ぎる。
「その前に、事前に言っておく......」
「な、なんだよ......」
「俺は月城の意見を尊重しているし、信頼している」
「......だからなんだよ」
「勘違いするなよ、にーちゃん。俺はアンタの奴隷でも下僕でもねぇて事だ......」
「......」
「確かに俺は"あの日"お前を助けてやった記憶はある。だからって全てにおいて親しくしていいてもんじゃないぜ。なんなら、恩の一つや二つ返したところで罰はあたりやしないと思うんだが?」
「つまり......?」
俺は知らぬ間に溜まっていた唾を一気に飲み込む。
「俺の命令に従え。 欲しけりゃ成績なんていくらでもくれてやる。『どうせ賄賂するなら派手にやりたいですよね』て、誰かさんが言ってた記憶があるなぁ......」
「ふん、もし断れば?」
「そうだなぁ、退学ていうのはどうだ?」
随分と現実離れした事を言ってきたので俺も寝転がりながら半分受け流していた。
「従えば......?」
「成績と進路を保証してやる」
なるほど、ファンタジー物でよくみる契約てやつか。
別に断る理由も無ければ、彼の言う通り恩を返すのは人としての礼儀でもあると月城も思っているので、頼み事があるなら聞くのだが、なぜそんな前置きが必要なのか分からない......。
「いいよ、乗ってやる!」
「さすが、スケベ野郎だな......」
「急所焦がすぞ......」
そんな冗談を交えて、まぶっちゃんはワンテンポ置いて閑話休題。
「それじゃあ、生徒会長月城千夏君。君に早速、頼みごとがあるーー」
そして、ベッドの上でごろごろしていた俺は、まぶっちゃんの言葉を聞いて、ピタッと停止していた。
一週間前みたいに、俺の部屋は静寂に飲み込まれている......が、雰囲気だけは全く別物だった。
ーーそう、彼が発した一言によって別物になったのだ......。
「ーーーー」
本当に時が止まったような感じがした。
頭も体も、胃に反して全く動いてくれそうにない。
だがなんとか、口だけは次の言葉を紡ぐようにゆっくり動いてくれた。
「そ、それはどういう......」
「言った通りだ......」
「断ったら?」
「退学だな......」
"月城千夏、君は負けたんだーー"
クソ教師の一言に反して、今日も夜空は相変わらず無数の輝きを放っていたーー。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)