選択の剣士

限界大学生

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1章-始まりは突然訪れる-

卑屈

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時と場合により、それは正しくなったり正しくなかったりする。嘘は方便と言われるように、言葉の綾というように、時に嘘は人を救うのだ。それをもっと前から知れていたならもっと楽だったのにな。

「なんでそういうこと言っちゃうんだよ!」
同級生のクラス委員が俺をわざわざ教室に残して怒鳴ってきた。
「でも事実だろ、なんで本当のこと言っちゃいけないんだよ」
「和人の気持ちを考えろよ!」
考えろ?何を考えろってんだ。
「分からないままで放っておく方が悪いだろ」
実際あのままいったらもっと最悪な事態になってたかもしれない…それなのに
「それは人によるだろ、自分で気づいた方がいいこともあるだろーが!」
こいつに言っても聞かなそうだな…俺が折れるしか…
「そうかよ、悪かったよ…」
麦の言葉を遮る。
「悪かったよじゃねぇよ!なんもわかってないお前は!」
「じゃあどうすれば良かったんだよ!何が正解かなんてお前にわかんのかよ!」
頭に血が上った俺は授業が6時間あった日の重いリュックを腕で勢いよく持ち、遠心力で肩にかけて背負い、近くの机を蹴り飛ばして教室を出た。今日の3時間目の体育でクラスメイトの和人が異様にペコペコしていた。その相手は学校でも有名なバスケ部の霧島。俺の学校は男女共にバスケットボールの全国大会常連チームで海外に遠征に行くほど強かった。そして現在3年生になった今、そのバスケ部を牽引しているのがこの霧島だ。たしかにバスケの腕はピカイチで先生にも一目置かれているが、性格はくそだ。それに対して和人は万年硬式野球地区大会最下位のチームに所属しており、ポジションも特に決まっている訳ではなく、ベンチにいるだけのモブのような存在と聞く。こんな対象的な2人が体育の授業で同じチームになったのだ、和人は意外と野球以外のスポーツはそつなくこなすタイプで特段運動が下手というわけではなかった。しかしこの日は初夏の暑さもあり和人は2時間目の数学で少しダウンしていたのだ。当然身体が上手く動くはずもなく、傍から見て和人は足でまといのようになっていた。すると桐島が
「おい、そこ邪魔。マジで使えないから適当に突っ立ってろザコ」
小さい声で和人に睨みを効かせて言っていた。すると和人は
「あ…う、うん!ほ、ほんとにごめんね!僕邪魔だよね…。な、なるべく霧島くんの邪魔にならないようにするから…その…」
和人はにっこり笑って続けた。
「が、頑張ってね!霧島くん!」
虫唾が走った。その後、俺は気づくと試合が終わった和人の前に立っていた、そしてこう言っていた。
「お前はそれでいいんだな、だから舐められんだよ、だからいつまでも金魚のフンみたいに人の後ろにいることしか出来ないんだろうが。お前のそういう、酷いことされてんのにあたかも自分はそういう人間ですよって慣れてるみたいにヘラヘラしてるところ見ると、虫唾が走るんだよ…気持ち悪い」
ふと我に返ると和人は目に涙を浮かべて下唇と噛み締めながら下を向いていた。
「僕だって…誰かから認められたい。野球でもエース張って、地区大会突破して県大会に行きたい…でも無理なんだよ…僕にはそんな才能…」
俺は言葉を遮るように言った。
「才能がなければお前は頑張らないのか、環境が!仲間が!力が!…お前はなければ頑張れないのか。つまんねぇな…」
そしてこう続けた。
「お前野球向いてねぇよ、やめちまえそんな才能のない野球なんて」
すると和人はすごい力で俺の胸ぐらを掴んで今にも殴りかかってきそうな目でこちらを見ていた。
「…」
一言も発さず、和人は着ていたビブスを体育館の横のカゴにいれ、去っていった。
そして現在に至る。その後和人は熱中症ということで4時間目の途中で早退した。ダウンしてからの体育で身体が限界に達したのだろう。気づくと俺は玄関の上履き入れの場所にいた。自分のロッカーを開けて靴を履き替え、いつものように家に帰っていた。その時だった…。
「キキィイイイイイイ!!!!!」
暴走するバイクが歩道の俺の方まで突っ込んできたのだ。俺は慌てて近くの電信柱の方に走ったが間に合うはずもなく俺の身体はゴム塊のように中に弾けるように飛んだ。そこから俺の記憶はない。

「МЁЁЖЛПНЖРЙИДЛСЖЖМЕОЙРР?」
外国語…でも聞いたことない言語だな…。
「МЁЁ!МЁЁ!」
身体を左右に揺らされて、自分に言っているということがわかった。そこで俺の意識は途切れた。

鳥のさえずりが聞こえて眼が少し陽の光で赤くなっていることに気づき、目を覚ますと少し固めのベットに横たわっていた。身体を起こして当たりを見渡すと小さな木のテーブルの上に桶のようなものがあり、水が張ってあった。起き上がった反動で布切れが膝元に落ちた。明らかに自分の家でもなく、学校でもでもなく、病院でもない…ここはどこだ。

「あ!気が付きました!デジーノさん!旅のお方が目を覚ましました!」ドアから覗いていた女性?うさ耳にしっぽ?へんてこりんな娘がドアを「ドンッ」と閉めて走っていった。
「痛たたた、音が頭に響く。」
すると動かした右手が見慣れていたものではなかった。前腕がいつもより痩せていて、指がすらっと長い。すると前髪が落ちてきて、明らかに黒色ではないことがわかった。これはどういうことだ。

「旅のお方…よかった…生きていらっしゃった…。」ドアから勢いよく入ってきた老人が、顔が牛のような鼻と口で目は人間のような異型な動物が半泣きで俺の右手を掴んできた。
「痛ててて、ドアは静かに閉めろ、そして声を荒らげるな…頭に響く」そう言うとキョトンとして手を離し1歩後ろに下がった。
「あ、大変失礼しました…。1週間も眠っていらしたので心配しておりました。」
1週間?そんな寝てたのか俺、
「デジーノさん、いつもあなたの部屋に来て私がいない間は、あなたの看病をしてくださっていたんですよ。助けてくれたお礼をしたいと言って」
看病?助けた?なんの事だ?
「本当にあの時は助けていただいてありがとうございます。無事ジェボム村に帰ってくることが出来ました。感謝申し上げます。」
全くもって記憶にないが、まあ良いとしよう。


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