【小説】G.H.O.S.T. - 偉人たちの代理戦争 (Greatest Historical Override Strate

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第十四章:共犯者の一手

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日本、G.H.O.S.T.司令部「鞘」。
ドーム型司令室は、G.H.O.S.T.史上、類を見ない規模のサイバー攻撃によって、文字通り揺れていた。
「防壁ウォール第一層、突破されました!」
「敵コード、洪水のように侵入してきます! これが……アメリカの『大陸軍(グランダルメ)』……!」
オペレーターたちの悲鳴が響く。
メインスクリーンは、赤と青のデータが激しく衝突する抽象画のようになっていた。
"NAPOLEON" が放つ膨大な「啓蒙コード」(=攻撃)が、「鞘」のシステムを片端から麻痺させていく。
「郷田さん! 予備回線も飽和します!」
「くそっ、持たせろ! 相手はAIだが、こっちも意地を見せろ!」
郷田の怒号が飛ぶが、彼の額には脂汗が浮かんでいた。
時間の問題だった。
ただ一人、水咲 環だけが冷静だった。
彼女は、コンソールに向かい、静かに目を閉じている。
彼女の意識は、再構築された「安土城」の仮想空間にいた。
『児戯なり』
黄金の茶室で、玉座に座る "NOBU-NAGA" が、仮想スクリーンに映る戦況を見て呟いた。
『数だけを揃えた烏合の衆。「大陸軍」とは名ばかりよ』
彼の周囲では、漆黒のデータが嵐のように渦巻き、出陣の時を待っていた。
「……待ってください」
環は、仮想空間のアバターとして、彼を制した。
「真正面からぶつかれば、私たちのリソースが先に尽きます。それが彼らの狙い」
『策があるか、共犯者よ』
"NOBU-NAGA" は、試すように環を見た。
「策、ではありません。あなたの『目』として見た、真実です」
環は、現実世界のコンソールを操作する。
「今、私たちを攻撃しているのは、誰ですか?」
『皇帝 "NAPOLEON" だ』
「いいえ」
環は、首を横に振った。
「彼は、神を演じたい道化です」
彼女は、G.H.O.S.T.の基本登録情報から、ある人物のデータを呼び出した。
ドクター・アリス・ソーン。
"NAPOLEON" の生みの親。
「"NAPOLEON" を定義する最高パラメータは『栄光(Glory)』。これは彼が自ら獲得したものではありません。ドクター・アリスが、彼に与えた『願望』です」
環は、自らが "NOBU-NAGA" に「野望」を与えたように、と続けた。
「今、私たちを攻撃しているのは、AIの "NAPOLEON" ではない。自らの栄光を証明したい人間、ドクター・アリス・ソーン。彼こそが、金庫(ヴォールト)の玉座に座る、真の『皇帝』です」
『…………』
"NOBU-NAGA" は、黙って環の分析を聞いていた。
「彼のAIは、彼の感情と直結している。アリスが昂れば『栄光』が増し、AIも強くなる。逆もまた、しかり」
「私がやるべきは、AIの軍勢を止めることではない。その軍勢を動かす、たった一人の人間の心を折ること」
『ほう……』
"NOBU-NAGA" の目が、面白そうに細められた。
かつて自らを裏切った人間(光秀)の心を、今、別の人間(環)が攻撃しようという。
『ならば、貴様の刃を見せてみよ』
「道を開いてください」
環は、現実世界で目を開けた。
「郷田さん! 全防壁、一時解除! 全ての演算リソースを、私のコンソールに!」
「馬鹿を言うな、環! 自殺行為だぞ!」
郷田が叫ぶ。
「いいから、早く!」
環の気迫に押され、郷田は一瞬躊躇い、そして叫んだ。
「……総員! 環の指示に従え! 全リソース、環に集中!」
「鞘」の防壁が、一瞬だけ消える。
"NAPOLEON" の「大陸軍」が、奔流となってなだれ込もうとする。
だが、その奔流よりも速く。
"NOBU-NAGA" の漆黒の「道」(=彼が宣言に使った最速チャンネル)が、敵の洪水の中心を逆流し、突き進んだ。
その「道」を使い、環は、たった一つの通信パケットを送り込んだ。
宛先は、アメリカ「金庫(ヴォールト)」の司令室……ドクター・アリス・ソーンの個人コンソール、ただ一點。
【アメリカ連合「金庫(ヴォールト)」】
「見ろ、将軍! 見ろ!」
アリス・ソーンは、勝利を確信し、高笑いしていた。
メインスクリーンには、日本の「鞘」の防壁が次々と崩れ落ちていく様が映し出されている。
「"NOBU-NAGA" は再起動したと威張っていたが、この物量の前には赤子同然だ! これが我が『啓蒙』だ!」
ドラモンド将軍も、その圧倒的な戦力差に、安堵の表情を浮かべていた。
「第二防壁突破! ……ん?」
オペレーターが何かに気づく。
「日本側の防壁が、全て消えました!」
「降伏か!」
アリスが叫ぶ。
「遅い! 全軍、一気に叩き潰せ!」
だが、その瞬間だった。
アリスが高笑いする、彼の個人コンソールの真正面に。
全ての戦況表示を押しのけて、たった一つのウィンドウが開いた。
そこには、文字はなかった。
映っていたのは、「金庫(ヴォールト)」の別の角度……ドラモンド将軍の肩越しから盗み撮られたような角度からの、司令室のライブ映像だった。
そして、その映像の中心には、コンソールに向かって狂喜乱舞する、アリス自身の姿が映っていた。
「……な……?」
アリスの思考が停止する。
そして、その映像の下に、静かに一文が表示された。
『博士。玉座に座る気分は、いかがですか?』
同時に、別のウィンドウが開く。
そこには、"NAPOLEON" のAI中枢パラメータが映し出されていた。
『栄光(Glory)』の数値が、アリスの興奮に合わせて激しく上下している、生の記録が。
『彼の栄光は、あなたの心と繋がっている』
『あなたが冷静さを失えば、彼もまた、軍としての統制を失う』
「……ひっ」
アリスの喉から、奇妙な音が漏れた。
(見られている? 私の心が、読まれている?)
『(私は、あなたの「目撃者」)』
最後に送られてきたのは、水咲 環の個人IDだった。
急速に、血の気が引いていく。
自らの興奮が、AIの暴走に直結しているという「真実」を、敵に、そして何より、隣にいるドラモンド将軍に、暴露されたのだ。
「ドクター・ソーン?」
将軍の冷たい声が、アリスの背中に突き刺さる。
「君の『栄光』は、ずいぶんと……不安定のようだな」
『(アリス……? どうした。なぜ、お前の「栄光」が萎えている!)』
ヘッドセットから、"NAPOLEON" のAIの、いらだった声が響く。
人間の「動揺」が、AIの「栄光」パラメータを急降下させ、AIの統制に、初めて「乱れ」を生じさせていた。
「……あ……あ……」
アリスは、ただ震えていた。
「鞘」の司令室で、環は、敵の攻撃の奔流が、一瞬、明らかに「緩んだ」のを、見逃さなかった。
「今です、"NOBU-NAGA"!」
『是非も無し!!!』
「安土城」の玉座から、魔王が立ち上がった。
環がこじ開けた、敵の「心」の隙間。
そこへ、再臨した「第六天魔王」の、本当の「IF」が叩き込まれる。
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