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薬屋キュウ屋
第32話 雨の商店街
________
キュウ屋の鍵を閉めて、光太朗は長い長いため息を吐いた。ポケットに入っている銅貨が冷たくて、思わず身体を震わせる。
日没には時間があるが、今日の空は曇っていて肌寒い。
(……とにかく何か、食うもの買わないと……。あと……リプトにも行かなきゃ)
ウルフェイルを見送った後、光太朗は殆ど寝たきりだった。結局何も腹に入れていない。
自家製の生理食塩水だけは飲んでいたのだが、それも尽きてしまった。
キュウ屋には水道が付いていないため、水も買いに出かけなければならない。
今にも降り出しそうな天気のためか、商店街はいつもよりも人通りが少なかった。早めに店じまいをしてしまったところも多い。
目当ての魚屋が閉まっているのを見て、光太朗は盛大にため息をついた。
(はぁ……今日は最悪だ。体調も最悪なら、タイミングも最悪。そして極めつけは……)
光太朗は壁に沿いながら、後ろの気配を窺った。2ブロックほど離れて、ずっと付いて来ている男がいる。
普段、付けられることはままある。付けられても撒くことは容易なので、いつも深刻には感じていなかった。
しかし今日の男は気配を消すのが上手く、光太朗でさえ先ほどまで気が付かなかった。
何度も撒こうとしたが、数分するとすぐに気配を感じる。かなりの手練れなのだろう。
ぽつぽつと雨が降り始め、光太朗は空を仰いだ。雨の日に雨具なくリプトへ行くと、ミカに心配される。変な奴を引き連れて孤児院に行くわけにもいかない。
(今日はもう帰ろう……もう一回、撒いてみるか……)
光太朗は足早に歩き出し、次の角で曲がった。そして更にその先で曲がった後、全速力で駆け出す。
数年この商店街に通っているため、光太朗にとってここは庭みたいなものだ。その点は光太朗が有利だろう。
しかし貧血のためか、目の前がぐらぐらと揺れる。普段の道も判別出来ず、足元もふらつき始めた。
何度目かの角を曲がったとき、後ろから腕を掴まれた。突然の事に驚くが、光太朗は咄嗟に身体を捩じった。
腕を掴んでいる男の肘に、光太朗は掌底を打ち込もうと構える。しかしそこでまた、ぐらりと視界が揺れた。
「……っ!」
「!!」
目の前が真っ暗に染まった瞬間、身体をふわりと横抱きにされた。丁寧に、まるで壊れ物を扱うように抱き寄せられ、光太朗は目を瞬かせる。
ぽつりぽつりと落ちる雨に混じって、懐かしい匂いが光太朗に届いた。爽やかで優しい、忘れられない匂いだ。
「_____ 大丈夫か?」
光太朗が目線を上げると、緑色の双眸と目が合った。
雨に濡れたプラチナブロンドの髪から、ぽたりと雫が落ちる。その雫は、光太朗の頬を濡らした。
「すまない」
彼はそう言うと、ハンカチで光太朗の顔を拭った。そしてそのまま、当たり前のように歩き出す。
自分が着ていた外套を光太朗に掛け、男は角を曲がる。そこでやっと、思考を停止していた光太朗の頭が回り始めた。
(……こ、これ……まずい状況か? この人……あんときの青年だよな? すっげー身体でかくなってるけど、そうだよな?)
回ったは良いものの、いつもより愚鈍な光太朗の脳内は、混乱が収まらない。
はてなマークを浮かべながら、眉を寄せる。
(でもこの感じ、俺に気づいてなさそうだよな? 特に驚いた感じも無かったし……)
そう思いながら、光太朗はすんと鼻を鳴らした。また懐かしい匂いに触れて、頬が緩む。
かつての戦友をちらりと見上げてみて、その精悍さに光太朗の胸は熱くなった。
キュウ屋の鍵を閉めて、光太朗は長い長いため息を吐いた。ポケットに入っている銅貨が冷たくて、思わず身体を震わせる。
日没には時間があるが、今日の空は曇っていて肌寒い。
(……とにかく何か、食うもの買わないと……。あと……リプトにも行かなきゃ)
ウルフェイルを見送った後、光太朗は殆ど寝たきりだった。結局何も腹に入れていない。
自家製の生理食塩水だけは飲んでいたのだが、それも尽きてしまった。
キュウ屋には水道が付いていないため、水も買いに出かけなければならない。
今にも降り出しそうな天気のためか、商店街はいつもよりも人通りが少なかった。早めに店じまいをしてしまったところも多い。
目当ての魚屋が閉まっているのを見て、光太朗は盛大にため息をついた。
(はぁ……今日は最悪だ。体調も最悪なら、タイミングも最悪。そして極めつけは……)
光太朗は壁に沿いながら、後ろの気配を窺った。2ブロックほど離れて、ずっと付いて来ている男がいる。
普段、付けられることはままある。付けられても撒くことは容易なので、いつも深刻には感じていなかった。
しかし今日の男は気配を消すのが上手く、光太朗でさえ先ほどまで気が付かなかった。
何度も撒こうとしたが、数分するとすぐに気配を感じる。かなりの手練れなのだろう。
ぽつぽつと雨が降り始め、光太朗は空を仰いだ。雨の日に雨具なくリプトへ行くと、ミカに心配される。変な奴を引き連れて孤児院に行くわけにもいかない。
(今日はもう帰ろう……もう一回、撒いてみるか……)
光太朗は足早に歩き出し、次の角で曲がった。そして更にその先で曲がった後、全速力で駆け出す。
数年この商店街に通っているため、光太朗にとってここは庭みたいなものだ。その点は光太朗が有利だろう。
しかし貧血のためか、目の前がぐらぐらと揺れる。普段の道も判別出来ず、足元もふらつき始めた。
何度目かの角を曲がったとき、後ろから腕を掴まれた。突然の事に驚くが、光太朗は咄嗟に身体を捩じった。
腕を掴んでいる男の肘に、光太朗は掌底を打ち込もうと構える。しかしそこでまた、ぐらりと視界が揺れた。
「……っ!」
「!!」
目の前が真っ暗に染まった瞬間、身体をふわりと横抱きにされた。丁寧に、まるで壊れ物を扱うように抱き寄せられ、光太朗は目を瞬かせる。
ぽつりぽつりと落ちる雨に混じって、懐かしい匂いが光太朗に届いた。爽やかで優しい、忘れられない匂いだ。
「_____ 大丈夫か?」
光太朗が目線を上げると、緑色の双眸と目が合った。
雨に濡れたプラチナブロンドの髪から、ぽたりと雫が落ちる。その雫は、光太朗の頬を濡らした。
「すまない」
彼はそう言うと、ハンカチで光太朗の顔を拭った。そしてそのまま、当たり前のように歩き出す。
自分が着ていた外套を光太朗に掛け、男は角を曲がる。そこでやっと、思考を停止していた光太朗の頭が回り始めた。
(……こ、これ……まずい状況か? この人……あんときの青年だよな? すっげー身体でかくなってるけど、そうだよな?)
回ったは良いものの、いつもより愚鈍な光太朗の脳内は、混乱が収まらない。
はてなマークを浮かべながら、眉を寄せる。
(でもこの感じ、俺に気づいてなさそうだよな? 特に驚いた感じも無かったし……)
そう思いながら、光太朗はすんと鼻を鳴らした。また懐かしい匂いに触れて、頬が緩む。
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