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魔導騎士団の専属薬師
第44話 怒涛の一日 やっと夕方 ⑤
その部屋の中は光太朗が詰め込んだ物で溢れており、その先にはまた小さなドアがある。
「ここが厨房だった所。ご覧の通り、調理台も何もない。今は物置にしてる。あっちの扉は風呂と便所」
「……光太朗、では料理はどこでしているんだ?」
「俺、料理は出来ない。湯は暖炉で沸かせる」
リーリュイが目を見開いたのを見て、光太朗は片眉を吊り上げた。睫毛の根元が見えるほど開いた目を、まじまじと見る。
「綺麗な目だなぁ」と光太朗がふにゃりと笑うと、リーリュイに肩をがしりと掴まれた。
「君は! いつもどういう食生活をしているんだ! 今朝は何を食べた?」
「リュウが置いて行ってくれたレーションを食った」
「……っ! 昼は!?」
「朝、半分残しておいたレーションを……」
「!!」
更にリーリュイの目が開いたのを見て、光太朗は吹き出した。どこまで大きくなるのか、非常に興味がある。
「光太朗! 笑っている場合ではない。調理器具も調味料も、この家には無いのか?」
「鍋はあるよ。塩もある」
「……君はここで待っていなさい。直ぐに戻る」
リーリュイは華麗に回れ右をすると、足早にキュウ屋を出て行った。取り残された光太朗は、何もない厨房を見遣る。
前の世界でも、光太朗は料理をしたことがなかった。食を楽しむという概念が薄いのだ。
基本的に『口に入れば何でもいい』と光太朗は思ってしまう。
(……薬作りながら、待つか……)
光太朗はカウンターに入るとエプロンを付け、薬研を取り出した。目当ての薬草を取り出しながら、頭の中で調合の比率を計算していく。
しばらく考えていると、キュウ屋のドアが開いた。そこに立っているのはリーリュイで、また大量の荷物を抱えている。
彼はカウンターに立つ光太朗を見て、眉を下げた。妙に嬉しそうだ。
「ただいま。光太朗」
「リュウ、おかえり」
「光太朗は、そのまま仕事をしていて構わない」
「分かった」
光太朗は返事を返しながら、リーリュイをちらりと見遣る。
彼はまな板や包丁を鞄から出し、光太朗が見たことの無い調味料も取り出した。閉店間際の雑貨店に駆け込んだのだろう。
その姿を想像すると、くすくすと笑い出したくなる。
暖炉の前のテーブルに食材を並べ、リーリュイはジャガイモの皮を剥き始めた。その手際の良さに驚きながら、光太朗も調合に集中する。
(貧血薬は、まだまだ試さないと良く分からない。ただ、吐き気を軽減するために出来ることはまだあるはず……)
何とかフェブール達の症状が良くなれば良い。光太朗はそう思っていた。
このままフェンデの地位が向上すれば、フェブール用の薬も流通するようになるだろう。
フェブール達の為に考えた薬は、後にフェンデの役に立つかもしれないのだ。
しばらく調合を続けていると、前髪が邪魔になってきた。光太朗はいつものように、前髪を額の上で一つに纏める。
営業中には絶対にしないが、閉店後はこれで過ごすことが多い。
「光太朗」
「ん?」
「それは……営業中も……?」
「? あ、これ?」
光太朗は額の上の髪を指さすと、にっかりと笑った。すると何故か、リーリュイから視線を逸らされた。
「営業中はしないよ。俺の目つきが悪いから前髪伸ばしてるのに、結んじゃ意味がないだろ」
「そうか。それなら良い」
「だよな。睨んでるわけじゃないんだけど、怖がらせてしまうのは良くないからなぁ」
「……」
何か言いたげなリーリュイを見ながら、光太朗はすんすん鼻を動かした。暖炉から良い匂いが漂ってくる。小さく鳴った腹を押さえて、光太朗は口を開いた。
「美味そうな匂い~! リュウ、ご飯まだ?」
「直ぐだ。仕事は終わりそうか?」
「もう止める。腹減ったぁ」
光太朗はエプロンを外し、リーリュイがいるソファへと歩み寄った。
「ここが厨房だった所。ご覧の通り、調理台も何もない。今は物置にしてる。あっちの扉は風呂と便所」
「……光太朗、では料理はどこでしているんだ?」
「俺、料理は出来ない。湯は暖炉で沸かせる」
リーリュイが目を見開いたのを見て、光太朗は片眉を吊り上げた。睫毛の根元が見えるほど開いた目を、まじまじと見る。
「綺麗な目だなぁ」と光太朗がふにゃりと笑うと、リーリュイに肩をがしりと掴まれた。
「君は! いつもどういう食生活をしているんだ! 今朝は何を食べた?」
「リュウが置いて行ってくれたレーションを食った」
「……っ! 昼は!?」
「朝、半分残しておいたレーションを……」
「!!」
更にリーリュイの目が開いたのを見て、光太朗は吹き出した。どこまで大きくなるのか、非常に興味がある。
「光太朗! 笑っている場合ではない。調理器具も調味料も、この家には無いのか?」
「鍋はあるよ。塩もある」
「……君はここで待っていなさい。直ぐに戻る」
リーリュイは華麗に回れ右をすると、足早にキュウ屋を出て行った。取り残された光太朗は、何もない厨房を見遣る。
前の世界でも、光太朗は料理をしたことがなかった。食を楽しむという概念が薄いのだ。
基本的に『口に入れば何でもいい』と光太朗は思ってしまう。
(……薬作りながら、待つか……)
光太朗はカウンターに入るとエプロンを付け、薬研を取り出した。目当ての薬草を取り出しながら、頭の中で調合の比率を計算していく。
しばらく考えていると、キュウ屋のドアが開いた。そこに立っているのはリーリュイで、また大量の荷物を抱えている。
彼はカウンターに立つ光太朗を見て、眉を下げた。妙に嬉しそうだ。
「ただいま。光太朗」
「リュウ、おかえり」
「光太朗は、そのまま仕事をしていて構わない」
「分かった」
光太朗は返事を返しながら、リーリュイをちらりと見遣る。
彼はまな板や包丁を鞄から出し、光太朗が見たことの無い調味料も取り出した。閉店間際の雑貨店に駆け込んだのだろう。
その姿を想像すると、くすくすと笑い出したくなる。
暖炉の前のテーブルに食材を並べ、リーリュイはジャガイモの皮を剥き始めた。その手際の良さに驚きながら、光太朗も調合に集中する。
(貧血薬は、まだまだ試さないと良く分からない。ただ、吐き気を軽減するために出来ることはまだあるはず……)
何とかフェブール達の症状が良くなれば良い。光太朗はそう思っていた。
このままフェンデの地位が向上すれば、フェブール用の薬も流通するようになるだろう。
フェブール達の為に考えた薬は、後にフェンデの役に立つかもしれないのだ。
しばらく調合を続けていると、前髪が邪魔になってきた。光太朗はいつものように、前髪を額の上で一つに纏める。
営業中には絶対にしないが、閉店後はこれで過ごすことが多い。
「光太朗」
「ん?」
「それは……営業中も……?」
「? あ、これ?」
光太朗は額の上の髪を指さすと、にっかりと笑った。すると何故か、リーリュイから視線を逸らされた。
「営業中はしないよ。俺の目つきが悪いから前髪伸ばしてるのに、結んじゃ意味がないだろ」
「そうか。それなら良い」
「だよな。睨んでるわけじゃないんだけど、怖がらせてしまうのは良くないからなぁ」
「……」
何か言いたげなリーリュイを見ながら、光太朗はすんすん鼻を動かした。暖炉から良い匂いが漂ってくる。小さく鳴った腹を押さえて、光太朗は口を開いた。
「美味そうな匂い~! リュウ、ご飯まだ?」
「直ぐだ。仕事は終わりそうか?」
「もう止める。腹減ったぁ」
光太朗はエプロンを外し、リーリュイがいるソファへと歩み寄った。
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