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戦いに向けて
第125話 新たな動き
しおりを挟む夜空の星に混じって、黄金の光が一筋光る。ウィリアムはそれを眺め、ため息と共に紫煙をを吐き出した。
真夜中の聖堂の裏は、ウィリアムだけの場所だ。最近煙草が増えたと小言を言われる事もない。
(晄露が現れたな……。だけど今回も、フェンデだろう……)
夜空を漂っていた晄露は、薄くて今にも消えそうだ。
ウィリアムは立ち上がり、聖堂へと移動する。あの晄露が消えないうちに『降ろさなければ』ならない。
(……コータローの時の晄露は、すごかった。アキネ様の時よりも輝いていた)
フェンデとフェブール、どちらが来るときも晄露は空に現れる。しかし晄露の多さがフェンデとフェブールでは大違いなのだ。
光太朗の時の晄露は、今まで見たことの無い規模だった。
夜明け前の薄暗い空を、太陽かと思うほどの晄露が覆いつくしたのだ。こちらから『降ろす』必要もなく、彼は降りてきた。
思えばその時点で、フェブールだと断定するには十分だったのかもしれない。しかしギフトがないフェブールなど、前例が無かったのだ。
しかしフェンデと誤認しなければ、ウィリアムと光太朗の運命は絡まなかっただろう。
(だけどやっぱり、さすが堅物皇子だよね。まさか正面から立ち向かうとは……。正道にも程があるでしょ)
都では、ついに第4皇子が決意したと水面下で大騒ぎしている。当然他の皇子の耳にも入り、彼らは憤慨しながらも慌てふためいていた。
今はリーリュイの手の中にある光太朗だが、彼の特殊性が露見すれば皇子らからも手が伸びるだろう。そして彼は、次の競技会で王都にやって来る予定だ。
聖堂の扉を開けて、ウィリアムは薄っすらと笑みを浮かべる。また光太朗と会えると思うと、頬が緩むのを抑えられない。
(さて、どうやって奪おうかな……。聖人の聖魔導士の皮も、もう脱いで良い頃合いかも)
衛兵の一人に王宮への連絡を任せ、ウィリアムは祭壇へと向かった。
◇
キュウ屋の入口に立ち、光太朗は肺一杯に朝の空気を吸い込んだ。
冷たい空気に、身体中の細胞が目覚めていく。ランパルの冬は厳しいが、澄んだ寒さが心地良い。
(さあ、出発だ。早くしないと、陽が昇ってしまう)
まだ薄暗い道を、光太朗は駆け出した。もう何度も通った道なので、躊躇いなくスピードを上げる。
武器庫の事件から、早いもので2週間が経った。あの後、光太朗はリーリュイの屋敷には留まらなかった。
翌日にはキュウ屋に戻り、今も変わらずキュウ屋から兵舎に通って訓練を続けている。
屋敷から去る時、カザンほか使用人から引き留められた。リーリュイからもだ。
しかし光太朗はそれを拒んだ。居心地の良すぎる環境にいると、成長が止まってしまう気がしたのだ。そう言い訳をしているが、単にリーリュイにドキドキして死にそうになるからだとは言えない。
騎士たちはというと、あの件以来かなり過保護になった。しかし光太朗はそれに構わず訓練を続け、今ではキースと同等に手合わせが出来る程になっている。
今日は、騎士の仕事が休みの日である。目当ての薬草がある国境へ向けて、光太朗は走っていた。
(寒いなぁ。薬草が採れるのも今日までかもしれない。……多めに採って、冬に備えないと……)
不眠気味のリーリュイの為に、光太朗は薬草でお香を作った。彼は驚くほど喜んでくれ、毎晩それを焚いているのだという。
リーリュイの為にも今日は、冬を越せるくらいの薬草を採らなければならない。
走り始めると、身体が温まってくる。息を弾ませながら走っていると、国境を守る兵士が見え始めた。
馴染みの彼らは光太朗に笑顔を向け、光太朗も挨拶を投げる。そのまま駆け抜けても、咎められることはない。
国境の門は石造りで見上げるほど大きく、近くには詰所もある。鉄製の柵が降りる仕様らしいが、それが降ろされるのは有事の時だけらしい。
目当ての場所まで走っていると、ふと鼻が甘い匂いを捉えた。速度を緩めて、光太朗はくんくんと鼻を動かす。
(あ……これ、晄露の匂いだ。近くに晄泉があるのかな?)
晄泉は晄露が湧き出す場所の事で、かなり希少だ。そして騎士らには晄泉を探す任務もある。
場所を書き記そうと、光太朗はバックパックから地図を取り出した。
脇の茂みに入ると、より甘い匂いが増す。しかし晄泉特有の、ぽこぽこと沸き上がる音がしない。
光太朗は首を捻りながら匂いの出所を探し、そして突き当てた。
茂みの中に、黒い何かが蹲っている。魔獣かと思い目を凝らしたが、今まで見たことの無い生き物だった。
全身が真っ黒で、トカゲのような尻尾の先は美しい藍色だ。全身が鱗に覆われ、背中には羽のようなものが折りたたまれている。
大きさは光太朗の両手に載せられる程だ。まだ子供なのだろう。
(魔獣には違いないと思うが、綺麗だなぁ……。ドラゴンっぽいけど、ドラゴンには全身に鱗が生えてないし……)
光太朗は音を立てないようにしゃがみ込み、少し近くから様子を窺った。
晄露の匂いはどんどん強くなる。光太朗が顔を近づけると、それを察知したように生き物が瞳を開いた。
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