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戦いに向けて
第128話 死期は誰にも分らない
________
喜ぶ光太朗を見て、リーリュイは複雑な気持ちを隠せない。
(……私と泊りで出かけるという意味が、やっぱり分かってないな……)
顔を赤らめるぐらいの反応が見られるかと思いきや、目の前の光太朗はただただ『旅行』に浮かれている。
嬉しそうな顔は文句なしに可愛いが、もう少し自覚を持って欲しい。現に首に巻きついている光太朗の腕のせいで、リーリュイの心中は穏やかでは無いのだ。
嬉しそうな光太朗は、綺麗な瞳をきらきらと輝かせている。そして無邪気な顔で、彼は言い放つ。
「なぁ、騎士団全員で行けないのかな? 慰安旅行みたいな感じで」
「……却下だ。光太朗」
「……あ、そっか。国境を守る騎士だもんな」
「それもあるが、取り敢えず却下だ」
(2人きりが良いに決まってるだろ……まったく。私は、護衛すらも不要だと思っているのに……)
リーリュイが不機嫌顔になっている事も、光太朗は気付きもしない。
護衛なしで行くという提案は、ウルフェイルとキースから即却下された。護衛はロブとカーターだが、彼らはこちらと接触することなく2人を守ることになってる。
(……とはいえ……予想以上の喜びようだな……)
リーリュイの首に巻きついたまま、光太朗は喜びを爆発させている。
「海は綺麗なんだろうな」「砂浜あるかな」「鍛冶屋は初めてだ」などど捲し立てながら、彼は笑う。
光太朗はこの世界に来てから、娯楽というものを味わっていないのだろう。もしかしたら、前世からそうなのかもしれない。
光太朗は、日常の中だけで楽しみを見出している。まるでそれが当たり前のように。
「……光太朗、旅は初めてか?」
「うん。任務以外では初めてだ!」
「そうか……」
「しかもリュウと行けるなんて、最高だな!! 明日が楽しみで、眠れる気がしない!」
そこまで言うと、光太朗はやっと巻きついていた腕を離した。そして目の前の食事にもう一度手を合わせて、ぱくぱくと食べ始める。
自分の言動が相手の心を狂わせているなんて、光太朗は思ってもいないだろう。
(しかし……彼の初めてを共有出来るのは、とてつもなく幸せなことじゃないか?)
先ほどまでのもやもやが吹き飛んでしまい、リーリュイは小さくため息を吐いた。
光太朗には何もかも敵わない。
頬一杯に詰め込んでいたものを飲み込むと、光太朗は思い出したかのように口を開いた。
「そうだ、今日は明日に備えて2階で寝よう」
「……そういえば2階は寝室だったな。普段は1階で寝ているのか?」
「2階に上がるのが面倒な時は1階で。体調が悪い時やしっかり寝たいときは2階で寝る。2階は俺にとって、安心して身体を休められる場所なんだ」
「……」
黙ってしまったリーリュイを見て、光太朗はどこか恥ずかしそうに笑った。
「昔の習慣がまだまだ抜けなくて。……そうだ、2階を見せようか?」
「いいのか? 君のプライベートな場所ではないのか?」
「リュウなら良いよ。……それに……」
呟くと、光太朗は立ち上がった。リーリュイも立ち上がり、光太朗を追う。
2階に続く扉はカウンターの横にある。そこの前に立ち、光太朗はリーリュイへ笑いかけた。
「それに、俺になんかあった時の為に、誰かに2階を見せておきたかったんだ……。リュウが見てくれると、助かる」
「……っ、縁起でもない」
「でも事実だろ? 人間はいつ死ぬか分かんないんだから」
さらりと言って、光太朗は扉に手を掛けた。リーリュイは息を詰まらせながら、彼の背中を見る。
華奢で、抱きしめたら折れてしまいそうな肩。その肩に、いったいどれだけの物を背負っているのか、リーリュイには想像もつかない。
『人はいつ死ぬか分からない』という言葉に、どれだけの意味が籠められているのかも。
しかし目の前の光太朗は、淀みの無い笑顔をリーリュイへと向ける。
「さぁ、ちゃんと覚えてくれよ。リュウ」
「……覚える?」
「この扉を開けても、何にも起きない。安心して開けてくれ」
「?」
光太朗が扉を開けると、すぐに階段が見えた。上り口は左側で、何の変哲もない階段が上へ伸びている。
光太朗は振り返ると、人差し指を立てた。
「俺の前世は、家に上がる時靴を脱ぐ。ここで必ず靴を脱ぐこと!」
「ああ。分かった」
階段の上り口には、人一人入れるほどのスペースがある。
光太朗はブーツを脱ぎ、隅の方へ綺麗に揃えた。リーリュイも靴ひもを解いていると、光太朗が目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「この階段の板は、音が響きやすい材質に変えてある。ブーツで上ると、結構派手な音が鳴るんだ」
「なるほど。……誰か上ってきたら、上階にいる君が気付くというわけだ」
「そうそう、でもそれだけじゃない」
光太朗はリーリュイを上り口に立たせ、階段を指さした。
「階段は全部で12段。まずは1段目に足を掛けて、3段目に次の足を掛ける。2段目に足を掛けると、仕掛けが発動して上から矢じりが飛んでくる」
「……」
リーリュイが階段の上を見ると、光太朗が「違う違う」と真上を指さした。
真上を見ると、何か光るものが確認できる。どういう構造か分からないが、矢じりが降って来れば痛いでは済まないだろう。
喜ぶ光太朗を見て、リーリュイは複雑な気持ちを隠せない。
(……私と泊りで出かけるという意味が、やっぱり分かってないな……)
顔を赤らめるぐらいの反応が見られるかと思いきや、目の前の光太朗はただただ『旅行』に浮かれている。
嬉しそうな顔は文句なしに可愛いが、もう少し自覚を持って欲しい。現に首に巻きついている光太朗の腕のせいで、リーリュイの心中は穏やかでは無いのだ。
嬉しそうな光太朗は、綺麗な瞳をきらきらと輝かせている。そして無邪気な顔で、彼は言い放つ。
「なぁ、騎士団全員で行けないのかな? 慰安旅行みたいな感じで」
「……却下だ。光太朗」
「……あ、そっか。国境を守る騎士だもんな」
「それもあるが、取り敢えず却下だ」
(2人きりが良いに決まってるだろ……まったく。私は、護衛すらも不要だと思っているのに……)
リーリュイが不機嫌顔になっている事も、光太朗は気付きもしない。
護衛なしで行くという提案は、ウルフェイルとキースから即却下された。護衛はロブとカーターだが、彼らはこちらと接触することなく2人を守ることになってる。
(……とはいえ……予想以上の喜びようだな……)
リーリュイの首に巻きついたまま、光太朗は喜びを爆発させている。
「海は綺麗なんだろうな」「砂浜あるかな」「鍛冶屋は初めてだ」などど捲し立てながら、彼は笑う。
光太朗はこの世界に来てから、娯楽というものを味わっていないのだろう。もしかしたら、前世からそうなのかもしれない。
光太朗は、日常の中だけで楽しみを見出している。まるでそれが当たり前のように。
「……光太朗、旅は初めてか?」
「うん。任務以外では初めてだ!」
「そうか……」
「しかもリュウと行けるなんて、最高だな!! 明日が楽しみで、眠れる気がしない!」
そこまで言うと、光太朗はやっと巻きついていた腕を離した。そして目の前の食事にもう一度手を合わせて、ぱくぱくと食べ始める。
自分の言動が相手の心を狂わせているなんて、光太朗は思ってもいないだろう。
(しかし……彼の初めてを共有出来るのは、とてつもなく幸せなことじゃないか?)
先ほどまでのもやもやが吹き飛んでしまい、リーリュイは小さくため息を吐いた。
光太朗には何もかも敵わない。
頬一杯に詰め込んでいたものを飲み込むと、光太朗は思い出したかのように口を開いた。
「そうだ、今日は明日に備えて2階で寝よう」
「……そういえば2階は寝室だったな。普段は1階で寝ているのか?」
「2階に上がるのが面倒な時は1階で。体調が悪い時やしっかり寝たいときは2階で寝る。2階は俺にとって、安心して身体を休められる場所なんだ」
「……」
黙ってしまったリーリュイを見て、光太朗はどこか恥ずかしそうに笑った。
「昔の習慣がまだまだ抜けなくて。……そうだ、2階を見せようか?」
「いいのか? 君のプライベートな場所ではないのか?」
「リュウなら良いよ。……それに……」
呟くと、光太朗は立ち上がった。リーリュイも立ち上がり、光太朗を追う。
2階に続く扉はカウンターの横にある。そこの前に立ち、光太朗はリーリュイへ笑いかけた。
「それに、俺になんかあった時の為に、誰かに2階を見せておきたかったんだ……。リュウが見てくれると、助かる」
「……っ、縁起でもない」
「でも事実だろ? 人間はいつ死ぬか分かんないんだから」
さらりと言って、光太朗は扉に手を掛けた。リーリュイは息を詰まらせながら、彼の背中を見る。
華奢で、抱きしめたら折れてしまいそうな肩。その肩に、いったいどれだけの物を背負っているのか、リーリュイには想像もつかない。
『人はいつ死ぬか分からない』という言葉に、どれだけの意味が籠められているのかも。
しかし目の前の光太朗は、淀みの無い笑顔をリーリュイへと向ける。
「さぁ、ちゃんと覚えてくれよ。リュウ」
「……覚える?」
「この扉を開けても、何にも起きない。安心して開けてくれ」
「?」
光太朗が扉を開けると、すぐに階段が見えた。上り口は左側で、何の変哲もない階段が上へ伸びている。
光太朗は振り返ると、人差し指を立てた。
「俺の前世は、家に上がる時靴を脱ぐ。ここで必ず靴を脱ぐこと!」
「ああ。分かった」
階段の上り口には、人一人入れるほどのスペースがある。
光太朗はブーツを脱ぎ、隅の方へ綺麗に揃えた。リーリュイも靴ひもを解いていると、光太朗が目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「この階段の板は、音が響きやすい材質に変えてある。ブーツで上ると、結構派手な音が鳴るんだ」
「なるほど。……誰か上ってきたら、上階にいる君が気付くというわけだ」
「そうそう、でもそれだけじゃない」
光太朗はリーリュイを上り口に立たせ、階段を指さした。
「階段は全部で12段。まずは1段目に足を掛けて、3段目に次の足を掛ける。2段目に足を掛けると、仕掛けが発動して上から矢じりが飛んでくる」
「……」
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