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「……俺もヒト族の皇子だったら良かったなぁ。そしたら、お前はすげぇやつなんだって、魔族の王様に進言できるのに。ウィンコットみたいなやつが王座に就けばさ、きっともっと世界は良くなる」
「……ウォーレン……」
「ん?」
気が付けば、ルキウスが肘を立てて上体を起こしていた。その瞳に宿る何かに、ロジェの胸がどきりと鳴る。
この間まで優しく穏やかな瞳だったのに、最近はどこか違う。まるで獲物を喰らおうとする獣の眼(まなこ)のようだ。
あっという間に視界がルキウスで埋まり、吐息が掛かるほどの距離になる。
「な、なぁ? まっ……ンッ」
戸惑う声を呑み込むように、唇がぶつかる。ルキウスは柔い唇でロジェの唇をするりと撫で、眉山を引き上げる。
「なに?」とでも言いたげな表情だが、やけに艶っぽくて直視できない。
ロジェは思わず顔を逸らすと、手の甲で口を覆い隠した。
「おま、おまえさ……いつも、これ……」
「……うん?」
「だからさ、これって、キ……」
「き?」
耳に掛かるルキウスの声は低く、ねっとりとした甘さを持っている。
胸の高まりと共に熱が顔に上ってきて、頭皮がちりちりと痛んだ。耳までもが熱を持っているのか、いつもは感じないその存在を主張してくる。
あの日。獣人とのトラブルを助けてもらったあの日から、この友人ルキウスは事あるごとに、ロジェの唇を奪う。
最初は戯れかと思っていた。
彼が甘い雰囲気を纏うのはほんの一瞬で、口づけが終わればまるで何もなかったかのように、元のお堅い友人へと戻るからだ。
ロジェも初めは戸惑ったものの、ルキウスからの口づけを何だかんだ受け入れてしまう。
彼のキスは、とても気持ちが良いのだ。
ルキウス曰く、魔族の唾液には癒しの効果があるらしい。
稽古終わりに口づけられれば、ロジェはとろりと蕩けてしまう。時には酩酊のような状態になり、眠ってしまうこともあった。
加えて最近は、ルキウスの雰囲気がどこか甘くなったような気がするのだ。甘いだけではなく、他の何かも混ざっているような気がしてならない。
それに彼独特のあの『匂い』。あれに包まれると、もうロジェは何もかもを放り出してしまいたくなるのだ。全てをルキウスに委ねたくなる。
(……まただ……この気持ちは……なんだろう……)
『友人』という澄んだ青いものに、何かがぽたりぽたりと垂らされている。その感覚が少し恐ろしい。
目の前の友人(ルキウス)が、きらきらと光る銀の髪を耳に掛ける。眉根に少しだけ皺を寄せ、ルキウスは拗ねているような表情を浮かべた。
「ウォーレン、ほら。いつものように、頭からっぽにして」
「っ、でも……っん……」
ルキウスの長い指がロジェの顎を捕らえ、今度は押し潰すように唇が重ねられる。舌が唇の合わせ目をなぞって「いれて」とロジェへせがむ。
喉元を指でくすぐられれば、ロジェの唇はいとも簡単にその扉を開けてしまう。こうなってしまったら、あとはもうぐずぐずと蕩かされるだけだ。
まともに思考は動かなくなり、脳みそは活動を停止する。
「……ふ、ぁ、あ………」
「ん、いいこだ」
落ちそうになる瞼を薄く開けば、そこには丸い緑の宝玉がこちらを見据えていた。ルキウスは口づけの間、目を閉じない。ずっとロジェを見つめ続けている。
ロジェはそれに気づいているものの、恥じる間もなくくらくらと彼に酔ってしまう。
(……こま、ったな……これ、これじゃ……)
目の前の友人は、疲れたロジェを癒すために口づけをしてくれているのだろう。彼からの口づけは、決まって稽古の後だからだ。
しかし困ったことに、自分の中にある感情は、あろうことか別の何かに変わろうとしていた。必死に元の形へ戻そうとしているが、一度自覚してしまえばもう、かっちりと固まってしまうだろう。
だからロジェは、その形を見ないようにしていた。目をつぶったまま形を元に戻して、ルキウスとの日々を送る。
そうすれば、自分の気持ちには気付かない。それで十分だ。
唇の隙間から、ルキウスの甘い叱咤が飛ぶ。
「こら、ウォーレン。俺に集中して」
「……ふ、ぁ? ……あぅ……」
「そう、上手だ」
ルキウスの声で甘く包まれて、ロジェは腹の底から歓喜を覚えた。彼の香りが鼻腔を通り抜け、ロジェの頭はルキウスで埋め尽くされる。
もう何も考えられない。
征服される側の悦びを、ロジェは知ってしまった。
それが苦難へ続く道への第一歩だとは知らずに。
「……ウォーレン……」
「ん?」
気が付けば、ルキウスが肘を立てて上体を起こしていた。その瞳に宿る何かに、ロジェの胸がどきりと鳴る。
この間まで優しく穏やかな瞳だったのに、最近はどこか違う。まるで獲物を喰らおうとする獣の眼(まなこ)のようだ。
あっという間に視界がルキウスで埋まり、吐息が掛かるほどの距離になる。
「な、なぁ? まっ……ンッ」
戸惑う声を呑み込むように、唇がぶつかる。ルキウスは柔い唇でロジェの唇をするりと撫で、眉山を引き上げる。
「なに?」とでも言いたげな表情だが、やけに艶っぽくて直視できない。
ロジェは思わず顔を逸らすと、手の甲で口を覆い隠した。
「おま、おまえさ……いつも、これ……」
「……うん?」
「だからさ、これって、キ……」
「き?」
耳に掛かるルキウスの声は低く、ねっとりとした甘さを持っている。
胸の高まりと共に熱が顔に上ってきて、頭皮がちりちりと痛んだ。耳までもが熱を持っているのか、いつもは感じないその存在を主張してくる。
あの日。獣人とのトラブルを助けてもらったあの日から、この友人ルキウスは事あるごとに、ロジェの唇を奪う。
最初は戯れかと思っていた。
彼が甘い雰囲気を纏うのはほんの一瞬で、口づけが終わればまるで何もなかったかのように、元のお堅い友人へと戻るからだ。
ロジェも初めは戸惑ったものの、ルキウスからの口づけを何だかんだ受け入れてしまう。
彼のキスは、とても気持ちが良いのだ。
ルキウス曰く、魔族の唾液には癒しの効果があるらしい。
稽古終わりに口づけられれば、ロジェはとろりと蕩けてしまう。時には酩酊のような状態になり、眠ってしまうこともあった。
加えて最近は、ルキウスの雰囲気がどこか甘くなったような気がするのだ。甘いだけではなく、他の何かも混ざっているような気がしてならない。
それに彼独特のあの『匂い』。あれに包まれると、もうロジェは何もかもを放り出してしまいたくなるのだ。全てをルキウスに委ねたくなる。
(……まただ……この気持ちは……なんだろう……)
『友人』という澄んだ青いものに、何かがぽたりぽたりと垂らされている。その感覚が少し恐ろしい。
目の前の友人(ルキウス)が、きらきらと光る銀の髪を耳に掛ける。眉根に少しだけ皺を寄せ、ルキウスは拗ねているような表情を浮かべた。
「ウォーレン、ほら。いつものように、頭からっぽにして」
「っ、でも……っん……」
ルキウスの長い指がロジェの顎を捕らえ、今度は押し潰すように唇が重ねられる。舌が唇の合わせ目をなぞって「いれて」とロジェへせがむ。
喉元を指でくすぐられれば、ロジェの唇はいとも簡単にその扉を開けてしまう。こうなってしまったら、あとはもうぐずぐずと蕩かされるだけだ。
まともに思考は動かなくなり、脳みそは活動を停止する。
「……ふ、ぁ、あ………」
「ん、いいこだ」
落ちそうになる瞼を薄く開けば、そこには丸い緑の宝玉がこちらを見据えていた。ルキウスは口づけの間、目を閉じない。ずっとロジェを見つめ続けている。
ロジェはそれに気づいているものの、恥じる間もなくくらくらと彼に酔ってしまう。
(……こま、ったな……これ、これじゃ……)
目の前の友人は、疲れたロジェを癒すために口づけをしてくれているのだろう。彼からの口づけは、決まって稽古の後だからだ。
しかし困ったことに、自分の中にある感情は、あろうことか別の何かに変わろうとしていた。必死に元の形へ戻そうとしているが、一度自覚してしまえばもう、かっちりと固まってしまうだろう。
だからロジェは、その形を見ないようにしていた。目をつぶったまま形を元に戻して、ルキウスとの日々を送る。
そうすれば、自分の気持ちには気付かない。それで十分だ。
唇の隙間から、ルキウスの甘い叱咤が飛ぶ。
「こら、ウォーレン。俺に集中して」
「……ふ、ぁ? ……あぅ……」
「そう、上手だ」
ルキウスの声で甘く包まれて、ロジェは腹の底から歓喜を覚えた。彼の香りが鼻腔を通り抜け、ロジェの頭はルキウスで埋め尽くされる。
もう何も考えられない。
征服される側の悦びを、ロジェは知ってしまった。
それが苦難へ続く道への第一歩だとは知らずに。
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追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!!
完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。
詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!