【本編完結】番に忘れられたけど、推しとして支える事にした ~16年越しの巣作りを~

墨尽(ぼくじん)

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 ロジェは夢を見ていた。記憶を辿るだけのその夢は、いつもロジェの心を抉る。
 しかし忘れてはいけない、自戒のような夢だ。


 16年前。

 数か月に渡った合同訓練も、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。訓練の最後に待っているのは魔獣討伐訓練だ。
 全員で森に入り、狩った魔獣の数や質を競う。シンプルな訓練だが、実戦と同じようなもので、毎回のように死傷者が出ているのだという。

 その日は朝から雨が降っていたが、当然のように訓練は決行された。

 灰色の空を見上げて、ロジェは熱のこもった息を吐く。
 ここ最近、身体が妙に熱を持つのだ。怠さもあり、風邪の引き始めかとも思ったが、咳や鼻水などの症状はない。
 ただ怠いだけだったので身体は動かせたが、最終局面でのこの状況に気持ちは滅入ってしまう。

「ウォーレン、大丈夫か?」
「ん? ああ、大丈夫」
 
 心配そうに聞いてくる親友ルキウスも、今日は雨衣を身に着けているため顔が見えにくい。
 せめて彼の瞳さえ拝めれば、この気持ちも晴れるかもしれないのに、とロジェは重くため息を吐いた。
 背中に、ルキウスの大きな手の感触が伝わる。

「具合が悪いなら、狩り小屋で休んでいるといい。俺がウォーレンの分も狩るから」
「そんなこと出来るわけないだろ。大丈夫だって」

 怠さを引きずりながら、ロジェとルキウスは魔獣の姿を探した。
 しかし降り続く雨は、まるでロジェを嘲笑うかのように激しさを増す。森の地面はぬかるみ、革のブーツはすぐに水の侵入を許した。

 視界が悪いこともあり、狩るべき魔獣はなかなか見当たらない。森の中で同期とかち合う事もあったが、彼らも魔獣に遭遇していないという。

「ここまで魔獣が出ないなんて、さすがにおかしいな。……奴らに雨は関係ないはずなのに……」
「……確かにそうだ。大型どころか、小物さえいない……」

 普段どこにでもいる、兎や鳥の魔獣さえ姿が見えない。まるで森全体から魔獣を消し去ったかのようだ。

 ロジェは木の幹に寄りかかり、気怠げに息を吐き出した。こんなに冷たい雨が降っているのに、吐息は先ほどより熱っぽい。
 先を進んでいたルキウスが振り返り、ロジェの様子に眉を顰める。
 次の瞬間、その背後から轟音と共に火柱が上がった。

「っ⁉」

 熱風が吹き荒れて、ルキウスとロジェの身体は木偶のように弾き飛ばされた。ロジェは成す術もなく地面に叩きつけられ、激しい痛みに息が一瞬止まる。
 遠くから、ルキウスの声が途切れ途切れに聞こえてきた。
 
「___……レン……! ……!」
「ウィンコット! ここだ!」

 声を上げるも、また近くで火柱が上がった。大雨だというのに火の勢いは衰えず、周囲の森を燃やし尽くしていく。
 雨水で消えないとなれば、魔法攻撃の可能性が高い。しかし無差別に繰り広げられるこの攻撃が一体何の目的を持っているのか、今の状況では何も分からなかった。

 更に熱くなった周囲の空気は、湿気と共に身体に纏わりつく。雨と煙が視界を覆い、ルキウスがどの方向にいるのかさえ掴めない。

「……っ! な、なにが起きて…………んぐっ⁉」

 突然羽交い絞めにされたと思えば、口元に何かが押し当てられる。ロジェは咄嗟に口を開け、押し当てられた手の平に歯を立てた。
 くぐもった声が後ろから響き、口は解放される。しかし羽交い絞めにされている腕は、まだ巻き付いたままだ。

 後ろへと引き倒され、今度は喉元に短剣を突きつけられた。後ろから拘束されたままずるずると引き摺られ、茂みの中へと引き込まれる。

「……はな、せ……ッ! 誰だ!」
「しー……静かに。って言っても、この雨と爆音じゃ、何も聞こえないよな。……耳を澄ませてみろよ」
「……っ⁉」

 ロジェは呼吸を一度止めて、耳を聳てた。
 激しい雨音と爆音、何かの破壊音。それに混じって、悲鳴のようなものが聞こえる。そして怒り狂った魔獣の咆哮も。

 あれほど探してもいなかった魔獣の声だ。それが今になって、堰を切ったかのようにあちこちから聞こえてくる。
 悲鳴を上げているのは、恐らくこの訓練に参加した同期たちだ。隠れて訓練を見守っていた教官らも例外ではないだろう。

 焦燥感に駆り立てられ、ロジェの肌が痛いほどに粟立つ。
 もしもルキウスに危機が迫っていると思うと、自分のことのように恐ろしくてならない。今すぐ駆けつけて、その背を守りたかった。
 しかし後ろの男は、逃さんとばかりに拘束する力を強める。

「可哀想になぁ。巻き添えを喰って」
「……巻き添え? どういう……」
「お前だよ、ロジェ・ウォーレン」
「……俺が⁉ ……っいッ!」

 喉元の剣がぐっと寄せられ、喉に鋭い痛みが走った。
 皮膚を浅く貫き、まるでロジェの抵抗を奪うかのように、ちくりちくりと血の跡を増やしていく。
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