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「お前の親友、第9皇子ルキウスだが……今や王座争いの筆頭候補だと知っていたか? 魔王の後釜争いは熾烈を極める。ルキウスを若いうちから潰しておこうという輩は、想像以上に多くてな。……まさかルキウスも、合同訓練中に手を出されるとは思ってもみなかったんだろう」
「……っまさか、標的はあいつなのか⁉ 魔獣もお前らが⁉」
「俺らは違う。……魔獣を使った襲撃と言う点では良く考えたと思うが……あんな事で、ルキウスは死なない」
「……俺ら? あいつら……? お前らは……」
「おっと、動くなよ。今度こそ喉元掻っ切るぞ」
振り向こうとしても、喉にある剣が邪魔をする。もう何度も切っ先が沈み、その度に鋭い痛みが襲う。しかしロジェは、痛みよりもルキウスの身が気になって仕方がなかった。
男の言い方だと、魔獣を仕向けている襲撃者と男は、別の組織だろう。しかし別々の組織が、偶然にも同日に行動を起こすとは考えにくい。
「この襲撃があると分かって……お前らは……」
「おお、正解。意外と賢いな。……あいつらはルキウスを襲撃しているが、恐らく返り討ちに遭うだろう。俺らはこの襲撃を利用して、上手を取る。そのために必要なのが、お前だよ」
「……俺? どうして?」
「どうしてって、無自覚なのか? お前、ルキウスの大事な大事な男なんだろう?」
どく、と心臓が跳ねる。唾をごくりと飲み込むと、剣先が喉の皮膚を引っ搔いた。
「王都に流れている噂があってな。……この国で一番優秀な皇子が、人間の男を魔族の軍に入れたいと、世迷いごとを言っているという話だ。信憑性の薄い噂だが、俺らはそれが事実だと突き止めた。……お前、ルキウス殿下の弱みになってるんだよ。自覚ある?」
「……っ⁉ そんな……」
「残念ながら本当なんだなぁ。……馬鹿な第9皇子は、厄介なものに執着しちまったようだな」
拘束する手が強まり、襲撃者の声が近くなる。耳元で囁かれる言葉は、まるで呪いのようにロジェを追い詰めた。
「大切なものが脆弱なほど、王座争いは苦労するぞぉ? ……魔族の公爵の娘とかにしときゃ、身内も盤石だし狙われづらかったのに、まさかまさか、人間とはなぁ。笑えるよ。……お前を掌握しとけば、ルキウス殿下は思いのままだ。ルキウスを殺すなんて惜しい惜しい。あんな優秀な人材を手元に置くことが出来れば、我が主の地位は更に盤石だ」
「……っ、ふざ、けんなッ! 俺はあいつに守ってもらわなくても………っ!」
「っはは、笑える。……お前みたいなヒト族、魔族にとっちゃ虫けらと同等だぞ? ……現にお前、俺から逃げられないし」
「……ッ」
心臓はばくばく音を立てているのに、地面についた手からは血の気が引いていく。
確かにロジェは、この纏わりつく手を振り解けないでいる。大きな体格でがっちりと抑えられれば、力の差は嫌でも思い知らされた。
(…………俺が……あいつの足枷になる? そんなの………)
ロジェは指に力を込め、痺れていた手を握り込んだ。
この数か月を一緒に過ごし、ルキウスの役に立ちたいという願いは日に日に強くなっていった。少しでも強くなって、彼を支えたい。どんな役割でもいいから、側にいて尽力したい。
そんな自分がルキウスの障害になるなど、ロジェに許せるわけがなかった。
「……ッ! ぅああぁッ!」
喉元の剣など気にもかけず、ロジェは男の頭に手を伸ばした。剣が鎖骨に突き刺さる痛みすら糧にして、男の髪を鷲掴みにする。
後方へと髪を引っ張れば、男の手が僅かに緩んだ。ロジェはその隙をついて男の脇腹に肘をめり込ませ、その身体から抜け出す。
男は痛みに呻いていたが、すぐに体勢を立て直してきた。立ち上がろうとしているロジェに男の手が伸びるが、地面を蹴って必死で逃れる。
ロジェが腰の剣を抜いて構えると、相手も攻撃の体勢を整えた。
初めて対面する男は背が高く、魔族らしい体格をしていた。
真っ黒な服に真っ黒な仮面をしており、髪も黒の布で隠している。一切の特徴を消した姿と威圧感に、神経がぴりっと危険信号を発した。
逃げろ、敵わない。そう本能が告げている。しかし逃げ切れる可能性も低いだろう。
捕まればルキウスの弱みとなり、一生囚われの生活を送ることになる。
そんなの、死んでもごめんだ。
渾身の力を込めて斬り掛かれば、男はそれを容易く躱した。しかしその瞳には、僅かに驚愕が見て取れる。ロジェの剣が存外に鋭かったのだろう。
ロジェは攻撃の手を緩めることなく、今度は横薙ぎに剣を払った。男は飛び退いて剣を避けるも、僅かに遅い。服と共に皮一枚が裂け、血が飛び散る。
「……っまさか、標的はあいつなのか⁉ 魔獣もお前らが⁉」
「俺らは違う。……魔獣を使った襲撃と言う点では良く考えたと思うが……あんな事で、ルキウスは死なない」
「……俺ら? あいつら……? お前らは……」
「おっと、動くなよ。今度こそ喉元掻っ切るぞ」
振り向こうとしても、喉にある剣が邪魔をする。もう何度も切っ先が沈み、その度に鋭い痛みが襲う。しかしロジェは、痛みよりもルキウスの身が気になって仕方がなかった。
男の言い方だと、魔獣を仕向けている襲撃者と男は、別の組織だろう。しかし別々の組織が、偶然にも同日に行動を起こすとは考えにくい。
「この襲撃があると分かって……お前らは……」
「おお、正解。意外と賢いな。……あいつらはルキウスを襲撃しているが、恐らく返り討ちに遭うだろう。俺らはこの襲撃を利用して、上手を取る。そのために必要なのが、お前だよ」
「……俺? どうして?」
「どうしてって、無自覚なのか? お前、ルキウスの大事な大事な男なんだろう?」
どく、と心臓が跳ねる。唾をごくりと飲み込むと、剣先が喉の皮膚を引っ搔いた。
「王都に流れている噂があってな。……この国で一番優秀な皇子が、人間の男を魔族の軍に入れたいと、世迷いごとを言っているという話だ。信憑性の薄い噂だが、俺らはそれが事実だと突き止めた。……お前、ルキウス殿下の弱みになってるんだよ。自覚ある?」
「……っ⁉ そんな……」
「残念ながら本当なんだなぁ。……馬鹿な第9皇子は、厄介なものに執着しちまったようだな」
拘束する手が強まり、襲撃者の声が近くなる。耳元で囁かれる言葉は、まるで呪いのようにロジェを追い詰めた。
「大切なものが脆弱なほど、王座争いは苦労するぞぉ? ……魔族の公爵の娘とかにしときゃ、身内も盤石だし狙われづらかったのに、まさかまさか、人間とはなぁ。笑えるよ。……お前を掌握しとけば、ルキウス殿下は思いのままだ。ルキウスを殺すなんて惜しい惜しい。あんな優秀な人材を手元に置くことが出来れば、我が主の地位は更に盤石だ」
「……っ、ふざ、けんなッ! 俺はあいつに守ってもらわなくても………っ!」
「っはは、笑える。……お前みたいなヒト族、魔族にとっちゃ虫けらと同等だぞ? ……現にお前、俺から逃げられないし」
「……ッ」
心臓はばくばく音を立てているのに、地面についた手からは血の気が引いていく。
確かにロジェは、この纏わりつく手を振り解けないでいる。大きな体格でがっちりと抑えられれば、力の差は嫌でも思い知らされた。
(…………俺が……あいつの足枷になる? そんなの………)
ロジェは指に力を込め、痺れていた手を握り込んだ。
この数か月を一緒に過ごし、ルキウスの役に立ちたいという願いは日に日に強くなっていった。少しでも強くなって、彼を支えたい。どんな役割でもいいから、側にいて尽力したい。
そんな自分がルキウスの障害になるなど、ロジェに許せるわけがなかった。
「……ッ! ぅああぁッ!」
喉元の剣など気にもかけず、ロジェは男の頭に手を伸ばした。剣が鎖骨に突き刺さる痛みすら糧にして、男の髪を鷲掴みにする。
後方へと髪を引っ張れば、男の手が僅かに緩んだ。ロジェはその隙をついて男の脇腹に肘をめり込ませ、その身体から抜け出す。
男は痛みに呻いていたが、すぐに体勢を立て直してきた。立ち上がろうとしているロジェに男の手が伸びるが、地面を蹴って必死で逃れる。
ロジェが腰の剣を抜いて構えると、相手も攻撃の体勢を整えた。
初めて対面する男は背が高く、魔族らしい体格をしていた。
真っ黒な服に真っ黒な仮面をしており、髪も黒の布で隠している。一切の特徴を消した姿と威圧感に、神経がぴりっと危険信号を発した。
逃げろ、敵わない。そう本能が告げている。しかし逃げ切れる可能性も低いだろう。
捕まればルキウスの弱みとなり、一生囚われの生活を送ることになる。
そんなの、死んでもごめんだ。
渾身の力を込めて斬り掛かれば、男はそれを容易く躱した。しかしその瞳には、僅かに驚愕が見て取れる。ロジェの剣が存外に鋭かったのだろう。
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----------
追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!!
完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。
詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!