番に忘れられたけど、推しとして支える事にした ~16年越しの巣作りを~

墨尽(ぼくじん)

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 ロジェが難色を示していると、ザザドが指を顎に当て、う~んと唸った。
 
「しかし困りましたねぇ。アースターさんがいないと、殿下に女性らが群がってしまいます。さぞかし面倒でしょうねぇ、殿下?」
「ああ。面倒過ぎて頭が痛い」
「頭? また頭痛ですか?」

 ルキウスが額に手を当て、更に椅子を軋ませながら仰け反る。そのまま倒れてしまいそうで、ロジェは慌てて駆け寄った。
 ルキウスは頭痛持ちで、特に苛々した時に痛みを訴える。痛みが不快感を呼び、更に悪循環を招いてしまうのだ。

 ロジェはルキウスの後頭部に手を添え、顔を覗き込む。顔色は悪くないが、表情は痛みに歪んでいた。

「大丈夫ですか? 少し寝ます?」
「ああ、寝る。膝を貸せ。それと晩餐会に参加しろ。いいな?」
「……こらこら、さらっと進めない。膝は貸せますが、晩餐会には……」

 額に乗せられた手の隙間から、ルキウスの緑色の目がじっとロジェを見つめる。

「甘やかしてくれるんじゃなかったのか」
「……晩餐会に参加することが、甘やかすことになるのですか?」
「なる」
「……分かりました。ほら、寝ますよ」

 促すと、ルキウスは颯爽と立ち上がった。そしてロジェの腰を引き寄せると、半ば引きずるようにしてソファまで歩を進める。
 本当に頭痛に襲われているのか疑わしいほどの動きだ。

 ロジェがソファへ座ると、間髪容れずにルキウスは横になり、ロジェの膝を枕にする。
 ザザドはルキウスとロジェの方に向き直り、何事も無かったかのように先ほどの続きを始めた。

「では、参加という事で良いですね。今日中に衣装係がアースターさんの寸法を測りに来ますので、そのつもりで」
「え? 話が早すぎません?」
「いいえ、早すぎませんよ。なるべく早めに来させますので、暫くはここにいて下さいね」

 ザザドがブランケットを棚から出し、ルキウスの身体へと掛ける。ロジェはそれを直しつつ、溜息を押し殺した。

 晩餐会には、出来る事なら参加したくない。ルキウスの側にいれば、その素性を探ろうとするものが出るかもしれない。
 寵愛を受ける役回りを引き受けたものの、まさか公の行事にも参加することになるとは思ってもみなかった。

「華奢猫、頭」
「ああ、はい」

 急かされたロジェは、膝の上のルキウスの髪を撫でた。すると彼は心地よさそうにゆっくりと瞼を閉じる。
 ルキウスの細くて滑らかな髪を、ロジェは指に絡ませる。銀の房を指で辿ると、懐かしさと切なさでぐっと心が詰まった。

 自身の立場の危うさは、ロジェが一番良く分かっている。しかしルキウスから離れたくはない。
 もう少ししたら、ロジェはアカツキ領に戻らなくてはならない。それまでならと思っていたが、それ以降の事を考えていなかった。

(身の振り方を考えなきゃなぁ……)

 ルキウスの額に唇を落としたいのを我慢して、ロジェは誰にも知られない溜息を吐いた。




 多忙な日々は続き、晩餐会の日はあっという間にやって来た。

 馬車から降りたロジェは、慣れない正装をぱたぱたと叩く。
 白を基調としたコートには青の刺繍が施され、袖やシャツには控えめなフリルがあしらわれている。
 首元のクラバットは、項の傷痕を上手く隠してくれていた。衣装の担当者の気遣いが身に染みる。
 
「行くぞ、華奢猫」
「はい」

 ルキウスに返事するものの、ロジェは咄嗟に俯いてしまう。

 何を隠そう、本日のルキウスは恐ろしく格好が良いのだ。
 黒を基調としたテールコートには青と金の刺繍が施され、装飾品も王族らしく気品漂うものだ。
 かなり高価なものなのだろうが、それらもルキウスの引き立て役にしかならない。
 結果、ロジェが直視できないほどの事態となってしまっている。
 
「俯くな、顔を上げろ」
「はい」

 ロジェは言われるがまま顔を上げ、ルキウスではなく会場となる公爵邸を見上げた。
 豪華な屋敷は職場で見飽きていたとは思っていたが、ここの屋敷はまた違った印象だ。

 第一司令部は荘厳さがあるが、公爵邸は華美な雰囲気を大事にしているようだ。前当主が女性だったからでもあるだろう。

 かつて最強と言われたフィオナ王女。没してから15年が経つが、生前の優秀さと人望から、未だに彼女を崇拝する者は多い。
 今はガイナスが当主を務めているが、その高い地位はフィオナが現役だった時代から保たれたままであるという。
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